五番街のマリー
「あら、驚いたわね。獣人なの?」
「そうなんだ。」
「ん?誰だにぃ?」
「らっく、お前の服を持って来てくれた人だ。」
「ふーん。」
「へぇ、らっくちゃんっていうの?ちょっと立ってくれる?」
「ん?何するにぃ?ちょっと苦しいにぃ……しっぽ、しっぽ折れちゃうにぃ!」
「そうねぇ、この紐を緩めて、こっちをもう少し引っ張って……ここに穴を開ける方がいいわね……」
「あ、楽になったにぃ!」
「あとはここをピンで止めて……こんなもんかしら。」
「どうだ?らっく?」
「うん。これなら動きやすいにぃ!」
「ありがとう。よかったら、名前を教えてくれないか?」
「私はマリー。王都の五番街で、冒険者用の装備を売ってるわ。他にも色々、売ってるけどね。」
「そ、そうか。マリーさん、王都に行ったら、寄らせて貰うよ。私はラキュオスという。」
「覚えておくわ。まぁ、こんな可愛い猫ちゃん連れてたら、嫌でも目立っちゃうわね。」
「にぃ?」
「フフっ、じゃあね。」
マリーは部屋を出ていった。
ラキュオスは、マリーが苦手なタイプらしい。彼女が部屋を出ていった途端、力なくベッドに座り込んだ。
「あの人、危険だにぃ。血の匂いがしたにぃ。」
ラキュオスは、背筋に冷たいものを感じた。
-翌朝。ラキュオス達は食堂で朝食を摂る。
「にゃむにゃむにゃむにゃむガツガツにゃむにゃむ……」
「おい、らっく、せっかく人間の手があるんだ。手を使って食べてくれないか?」
「にゅ?」
「ほら、こう、手で持って……」
「ほうほう。んにゃむにゃむにゃむガツガツ……」
「いや、手づかみじゃなくてな……まぁいいか……」
「れろんれろん……食べたにぃ!」
「皿を舐めるな。はぁ……一から教えなければならないのか……躾というものは、なんとめんどくさい……」
「あは!ご主人様と一緒だにぃ!」
「はぁ?」
「ご主人様も、いつも、めんどくせぇ!っていうにぃ!」
「まぁ、気持ちはわかるよ。」
「早く行くんだにぃ!ご主人様探すにぃ!」
「王国は逃げやしないよ。」
バタバタと慌ただしく、食堂を出る二人。そこにルドルフが現れる。
「手ぇ空いてるヤツは手伝ってくれ!街道に魔獣が出た!」
「隊長!獲物は何です?」
「ゴブイーターだ。」
「「「っ!!!」」」
ゴブイーターという種族は無い。本来水辺に住み、魚などを餌とするヒュドラが、ゴブリンの味を覚え、好んで捕食するようになったものだ。この街ではそれをゴブイーターと呼んでいる。
「おそらくダンジョンを狙ってやがるんだろう。ヤツが人の味を覚えたら、街が壊滅する!早ぇうちに仕留めるぞ!」
「「おう!!」」
「下っ端は街の連中を屋敷に避難させろ!ラキュオスさん、悪ぃが手伝ってくれ!」
「街道じゃ仕方がない。私達もその道を行くつもりだったからな。らっく、お前も避難しろ。」
「嫌だにぃ!ついていくにぃ!」
「食われても知らんぞ!」
「おい、旦那、そいつは?」
「あ?あぁ、昨夜合流した連れだ。気にしないでくれ。」
「そ、そうか。まぁ獣人だしな。簡単に殺られるこたぁねぇだろう。とにかく、街道に向かってくれ。ウチの連中が足止めしちゃあいるが、長くはもたん!」
「承った。」
ラキュオスは一気に駆ける。らっくも置いて行かれないよう、必死に走っている。
「にゅー、二本足は慣れないにぃ……やっぱりこうだにぃ!」
四足走行に切り替え、らっくは疾風のように駆けた。




