Luck
「ちょっと、降りて、くれないか?」
「やだにぃ、ずっと探してたにぃ!」
「多分、人違い、だ。」
「ん?」
そこでようやく猫?は、顔を上げる。
「違う?違うにか?」
「私はラキュオス。今まで猫どころか、生き物を飼った事はない。」
「違うにかぁ……」
途端に猫?の表情が暗くなる。ラキュオスもいたたまれなくなり、話を聞くことにした。
「お前、どこから来た?猫なのか?主人の名は?」
「んーんー……たっちゃんち!」
「タッチャンチ……知らぬ街だな……」
「街じゃないにぃ!ご主人様だにぃ!」
「タッチャンチという人物か……」
「タッチャンチじゃないにぃ!たっちゃんだにぃ!」
「あぁ、わかったわかった。」
「ウチは猫だにぃ。ご主人様にすきすきーって甘えたくて、ヒトになりたい!って思ったにぃ。そしたらヒトになったにぃ!」
「ヒト、というよりは、獣人だな……たぶん。耳は猫耳だし、しっぽあるし……お前、名前は?」
「らっく!らっくにぃ。」
(はぁ、よりによって私の子供時代の愛称と同じか……)
「どしたにぃ?」
「いや、何でもない。獣人と言えば、王国で研究していると聞いた事がある。変幻能力がある獣人など、聞いたことはないが、王国に行けば何かわかるか……」
「おーこく?行けばご主人様に会えるかにぃ?」
「たぶんな。」
「いくー!行くにぃ!連れてって欲しいにぃ!」
「まぁ、王国には行くつもりだから、来たければ着いてきて構わない。」
「やったにぃ!早く行くにぃ!」
「待て待て、今は夜だ。明日、メシ食ってから出発だ。と、その前に……一応聞くが、お前はオス?メス?」
「にゅ?おなのこだにぃ。」
「(やっぱりか……)服は、その、無いのか?」
「猫は服いらないにぃ!」
「いや、お前、ヒトになったんだろ。服いるだろ。」
「そうかにぃ?」
「頼むから着てくれ。お前を裸のまま連れていたら、私が何を言われるかわからん!」
「仕方ないにぃ。」
「少し、ここで待ってろ。いいな、出歩くなよ!」
ラキュオスは食堂や受付を覗く。そこに通りかかった女性に尋ねた。
「すまない。相談があるんだが。」
「なんだい?あたしを買おうってのかい?」
「そうではない!実は連れと合流したのだが、森で魔獣に出会して、服が破れてしまったのだ。十二歳くらいの女物の服、街に無いだろうか?」
「ここは冒険者の街だよ。そんな子供がウロウロするような街じゃない。ってことは、そんな服も無いってこと。わかるでしょ?ここは大人の街なのよ。フフっ……」
「そうか……困ったなぁ……」
「なんならあたしの服、あげようか?今ここで脱いでもいいわよ?」
「あ、いや、それは、そんな……」
「冗談よ。生真面目な男ねぇ……いいわ。子供でも着れそうな服、見繕ってあげるわよ。そうねぇ、銀貨五枚でとう?」
「わかった。それで頼む。」
「ここで待ってて。取ってくるから。」
それからしばらく、ラキュオスはロビーで待った。すると女性が戻って来る。
「一応持ってきたけど、貴方、女の子に服着せれるの?脱がせることも出来なそうだけど?」
「な、なんとかする。」
「いいわ。私が行って着せてあげる。貴方じゃ前も後ろもわかんないでしょ?それとも、知らない女を部屋に入れるのが、嫌なのかしら?」
「……すまない。お願いする。」
「フフっ、素直が一番よ。」
ラキュオスは、女を連れて部屋に戻った。




