月と太陽
「まず目を惹かれましたのは、そのお姿。
アーマードレスなのでしょうか、防御力よりも動きやすさに重きを置かれた装備。可憐な少女の美しさが際立つお召し物で、長く艶のある黒髪は、風に靡き輝いておりました。」
(うーん……やはり可憐な少女と言われるか……)
「多分、この土地の方では無いのでしょうな。あのような美しい方は、帝都でも見た事はありません。」
「(異国から来たのか……それにしても)すまない。容姿以外の事を教えてくれまいか。」
「そうですか。我々は、鉱山の洞窟に囚われておりました。あのお方は、その格子を 拳の一撃で壊されたのです。迫り来るゴブリンの軍勢を壁で防ぎ、我々を逃がしてくださいました。」
「(なるほどな。拳技に土魔術か。)それで?」
「まどか様は我々のために、隠れ家と食事を出してくださいました。執事の方が我々の世話をしてくださる間に……」
「待て、執事がいるのか?(何処ぞの名家の娘か?)」
「はい。それにもう一人、まどか様と同じ歳頃の、メグミ様とおっしゃる弓使いの少女が。」
「いや、あの子はエルフの血を引いている。おそらく見た目以上の歳だろう。」
「三人か……」
「いや、四人だな。」
ルドルフが割って入る。
「ウチのギルドに、ハンスっていう斥候が居るんだが、まどか様に惚れ込んで、着いて行きやがった。」
それから話は脱線し、なかなか聞きたいことが聞けない。ラキュオスは彼女の戦闘の話を聞きたかったが、それ以上は無理であった。
「では、最後に尋ねよう。この街の人々は、なぜそこまでその少女を慕うのだ?」
「そうですねぇ、命を救われた恩もございますが、それ以上に、あの方のお人柄ですかね。」
「そうだな。気さくで男勝りで、強くて優しくて、そして美しい。」
「なぁラキュオスさん、参考になるかわかんねぇが、俺達がいた街のギルマスがな、あの子は命の重さを知っている。って言ってたぞ。」
「命の、重さ?」
「あぁ。どういう意味かは……自分で考えるんだな。」
「私は、少しわかる気がします。まどか様は、我々の命も、ご自分の命のように気にかけて下さいます。慈愛というものですかね。」
話はそこで終わった。正直、聞けば聞くほど分からなくなる。街の皆に、太陽とまで言われるまどかという少女。
自分は今まで、誰かを照らすことがあっただろうか?ラキュオスは、自分と正反対のまどかという少女が、何者なのか気になっていた。
(あぁーもうわからん!比べても詮無いことだ。私は私の旅を続けよう。)
-その夜、ラキュオスは気配を感じ目を覚ます。
「ん?」
クローゼットでカリカリと音がする。ラキュオスは棒を掴むと、クローゼットの扉を開ける。
「猫?」
白地にオレンジ色の縞模様がある。この辺りにいる種類では無いが、猫だとは認識出来る。そいつはラキュオスの革鎧で爪を研いでいた。
「頼むから、それで爪を研がないでくれないか?」
言葉が通じるとは思えないが、ラキュオスは猫にそう言った。猫はチラッとラキュオスを見ると、顔に向かって飛びかかる。
「ニィ!」
その場で仰向けになるラキュオス。猫の脇を両手で掴むと、顔の前に持ち上げた。すると、猫は突然マナを込める!
みるみる身体が膨れ上がり、人間の子供程の大きさになる。というか、ほぼ人間の姿だ。猫はそのままラキュオスに覆いかぶさり、
「ご主人様の匂いだにぃ!」
スンスンと鼻を鳴らし、顔を舐めた。




