羽根の紋章
半剃りの男がナイフをぺろりと舐め、肉ダルマがトゲ付きのサックを指にはめた。それを見てラキュオスは、腰に下げた棒を抜いた。
「ガキの剣士様ごっこか?そんな棒っ切れ、お前の骨ごと叩き折ってやる!」
二人はラキュオスを挟み、回りながら間合いを詰める。飛びかかれる間合いになった途端、一気に左右から距離を詰めた!
「だんっ、ドスッ!」
ほぼ同時に二つの音がする。半剃りの手首は、関節じゃない所から曲がり、肉ダルマの首は、手で支えていないと、真っ直ぐな状態を保てないでいる。
「いでぇっ、チクショー!」
「兄者!兄者!首がぁ……」
「もう、行っていいか?」
「ま、待ちやがれ!」
半剃りが折れてない方の手でラキュオスの外套を掴む。その拍子に、革鎧の肩が露わになった。肩当てに並ぶ、二枚の鷹の羽根。
「ま、まさか、その紋章は!」
「辺境のギルド、ツインホークス。そこにはランクBの冒険者が二人いる。」
「あ!隊長!」
野次馬をかき分け、武骨な男が近付いて来る。
「ギルドの二枚看板ってやつだな。一人はこの街をスタンピードから守った英雄、名はまどか。もう一人は帝国唯一の魔剣士。あんた、ラキュオスさんだね。」
「知っているのか?私を?」
「まどか様の一件で、ちとギルドに問い合わせたんだ。その時ガルさんから聞いてる。旅ばっかりしてる、変わりモンのエースがいるってな。」
「貴方がここの……」
「仮だがな。ギルドを取り仕切ってる。ルドルフだ。」
二人は、ガシッと手を握った。
「おい、そこの追い剥ぎ野郎、相手の力量もわからねぇようじゃ、命が幾つあっても足りねぇぞ。街から放り出してぇ所だが、その身体じゃすぐに魔獣の餌だろ。治療だけはしてやる。治ったら出て行け。」
「「は、はひぃ……」」
「まぁ、街に残るってんなら覚悟しろよ。まどか様の同朋に因縁つけたんだ。街の連中は、黙っちゃいねぇぞ。」
ただの見物人だと思っていた野次馬が、一斉に睨み付ける。森の魔獣を相手にした方がマシだろう。
丁重にギルドに連れ戻され、治療を受ける二人組。悲鳴が聞こえるのは、気のせいだろう。ラキュオスとルドルフは気にもとめず、その足で元領主の屋敷に向かった。
-元領主の屋敷。その一室にラキュオスは通された。
「無駄にでけぇ屋敷だろ。部屋数はあるんでな、冒険者の寝泊まりに使ってんのさ。この部屋使ってくれ。」
「あ、ありがとう。」
「で?ここへは何をしに?」
「あぁ、旅の途中に立ち寄っただけだが、まさかここでもまどかという名を聞くとは……
正直に言うと、私はその、まどかという人には、会ったことが無いんだ。私が旅に出ている時に現れ、私が戻った時には旅立っていた。」
「へぇ、そんな事もあるんだな。まぁ俺もチラッと会っただけなんで、詳しく知らねぇんだ。まどか様のことが知りたいなら、詳しいヤツを呼ぼうか?」
「そうして貰えると助かる。」
ルドルフは使いを出し、人を呼んでくれた。奴隷として鉱山労働を強いられ、まどかに助けられた者達、今は冒険者見習いや、屋敷の食堂で働いている。その中から数名が部屋に入ってきた。
「お呼びですか?隊長。」
「あぁ、この人がまどか様のことを聞きたいと言われてな。お前達なら、一番近くで見ていただろう。ひとつ、この人に語ってやってはくれんか。」
「左様でございますか。ならば、我々が見たまま、語らせて頂きましょう。」




