NEXT STAGE
試験の日から一月、ラキュオスは街の周辺で修行を続けた。ギルバートから、
「いつまで居座ってんだ、そろそろ出てけ!」
と言われ、半強制的に旅の準備を始めた。
「ったく、師匠もめんどくさいことさせるよな。あ、それと、これはあたしからの餞別だ。」
ラキュオスは、レミからナイフを受け取る。
「そいつは解体用だ。自分で捌けば、手間賃も取られねぇ、食費も浮くだろ。ちゃんとメシ食えよ!変な女に引っかかんなよ!ポーションは多めに持っていけよ!それから……」
「フフっ……母さん。」
「せめて姉さんだって言ったろ!まぁ、その、なんだ……行ってらっしゃい。」
「行ってきます。」
ラキュオスは、街を出た。新たな決意を胸に。
(魔剣探しの旅は、ひとまずお預けだな。私は、魔剣を振るうに価する剣士になろう!)
今までの旅が、無駄とは言わない。だがラキュオスにとって、本当の意味での旅立ちを迎え、腰に木の棒を下げた剣士は、次の街へと歩を進めるのだった。
-森を抜け、山の麓の街に出た。街の名はホーチックシティ。嘗て帝都直轄の鉱山の街であったが、鉱山がダンジョンであるとわかり、冒険者の集う街へと、その姿を変えつつあった。
出来たばかりのギルドには、マスター代理の冒険者がいた。元は近くの街の冒険者だったが、ダンジョンがスタンピードを起こした時、討伐の指揮を採った者らしい。
名をルドルフ。奴隷の街であったこの地を解放し、横暴な領主は姿を消した。今は実質、ギルドが街の運営をしている。
街の中央には石碑があり、
『旅の冒険者まどか様、我らが太陽』
と刻まれていた。
「すいません、この、まどかという方は……」
「んぁ?あんた、旅の人かい?俺も詳しく知らねぇんだ。ギルドで聞いてみな。」
「そ、そうか。」
ラキュオスは早速ギルドに向かった。と言っても、元大衆食堂兼宿屋だったものを 仮設のギルドとして使っているらしい。古い建物に、ギルドの看板だけが新しかった。
「すいません、あの……」
「おう。冒険者か?買い取りか?潜るか?」
「では、まず買い取りをお願いします。」
「じゃあ、こっちだ。ここに出してくれ。」
ラキュオスは、旅の途中に仕留めた魔獣の素材を出した。
「ほう、解体済か。なかなか丁寧な仕事だ。状態も悪くない。合わせて……金貨十五枚と銀貨八枚ってとこだな。いいか?」
「それで構わない。ところで……マスターにご挨拶がしたい。取り次いで頂けるか?」
「あぁ、ルドルフ隊長か。隊長なら今頃は、ダンジョンの入口だと思うぜ。案内板が出てるから、それに沿って山を登りな。」
ラキュオスは代金を受け取り、ダンジョンへ向かおうとする。すると、出口で立ち塞がる者がいた。
「兄さん、ちょいと待ちな!見たところ剣士の装備だが、剣を持ってねぇ。お前さては盗賊だな?いや、そうに違いねぇ!
解体済の素材に、剣も持たずに剣士の装備。それ全部、盗んで来たんだろ!冒険者ってぇのは、魔獣だけじゃねぇ、盗賊を懲らしめるのも仕事なんだよ。痛い目見たく無かったら、身ぐるみ全部置いて行け!」
この状況を見た者は、十中八九、立ち塞がる者達の方が、盗賊だと判断するだろう。寄せ集めの装備に、スパイク付きのナイフ。髪を半分剃り落とし、残り半分は逆立てている。連れの男は、一見温厚そうな肥満体、血を見て豹変しそうな贅肉ダルマだ。
「私は紛れもない冒険者。一応剣士だが、師匠の教えで剣を持たずに旅をしている。道を空けてくれないか?」
「お前は馬鹿か?盗賊が、はい。私は盗賊です。なんて言うわけねぇだろ!そんな言い逃れが通用するかよ!ちぃと痛い目見なきゃ分からねぇらしいな。表ぇ出ろ!」
ラキュオスは二人と共に外へ出た。野次馬に取り囲まれ、どうやら素通りは出来なさそうである。
(やれやれ……これも修行なのかね……)




