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もう何本、剣を壊しただろう。
私のマナに耐えうる剣など、この世に存在しないのではなかろうか……
西国の旅を終え、ホームのギルドに帰って来た。
「ただいま。ガイア。」
カウンターには、表情の読めない女性。正直苦手だ。
私はそのまま、マスターの執務室へ向かう。階段の手前で、ドカドカと走り寄る大男、オーガの血を引くギルドの柱、ガンツだ。
「おぉ!戻ったのか!」
ガサツだが、気の合うヤツだ。バナナのような手で、バシバシと背中を叩く。コイツ、手加減がないな……
執務室の隣りの部屋の扉が開いている。中を覗くと、ベッドや文机が設えてあり、花のようないい香りがした。
(物置きじゃなかったか?ここ。誰か住み込んでいるのか?)
「どうしたんだね?ラキュオス。甘い香りに釣られたのかな?」
気配を気付かせず、私の背後に立つ男。いつもこの男は、心臓に悪い。
「ガルシア、長いこと留守にしてすまなかった。」
「構いませんよ。それで、剣は見つかりましたか?」
「いや、評判の鍛冶師に打ってもらった剣も、マナに耐えきれず砕けてしまった。無いのかもな。決して折れぬ剣など……」
「それでも高みを目指すのでしょ?ランクAを そしてその先を。」
「あぁ。私のやらねばならぬ事が、その先にあるからな。」
「しかし……亡国の騎士が冒険者になってまで……あ、いや、これは聞かない約束でしたね。」
「身の置き場を作ってもらって、こちらの事情を話さないのは、心苦しくもあるんだが……すまない。」
「構いませんよ。冒険者とは、おしなべて、そういう者の集まりですから。」
「それはそうと、私の居ない間に、誰か住み込みで仕事してるのか?」
「えぇ。正確には、していた。ですけどね。貴方によく似た雰囲気の人でしたよ。女性ですがね。」
「私に似た女性?身内に、そのような者は居ないが……」
「いえいえ、見た目ではありませんよ。佇まい……とでも言いますか、それ以外にも……」
「それ以外にも?」
「強さ。ですね。貴方の魔剣士と双璧を成す、魔闘士ですから。」
「女性の魔闘士?その方は、オーガの血筋か何かか?」
「いいえ。人間の、しかも美少女ですよ。多分十六か十七くらいでしょうか。貴方のように、異国から来られて、ウチで冒険者登録をされました。もし貴方が、これからも旅を続けるのでしたら、どこかで会えるかもしれませんね。」
「その若さで、なれるものなのか?」
「貴方が魔剣士になったのも、同じ年頃ではありませんか。彼女もまた、何かを背負ってこの国に来たのかもしれませんね。」
正直に言うと、この時私は、言いえぬ敗北感を味わっていた。双璧と言われるが、魔闘士と言えば剣に頼らず、己の肉体のみで魔剣士と互角の力を持つ者、より強い剣を探し求める自分は、剣に頼らなければ戦えぬのだ。
「強い……のか?」
「ガンツが一緒に依頼をこなしています。他の冒険者達も一緒にね。皆に聞いてみてはいかがでしょう。」
私は半信半疑で執務室を後にした。美少女とは何の冗談だ?格闘系の冒険者であれば、肥大化した筋肉の鎧をまとい、拳を鍛え上げているはず。
ガルシアは、そっち系が好みなのか?まぁ、そんなことはどうでもいい。強き者ならば、旅の途中で魔剣を持つ者に出会っているかもしれない。とにかく今は情報が欲しい。私は話を聞くために、ロビーへ降りた。