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(幕間)巨蟲覚醒

これまで名前だけ出ていた登場人物にフォーカスを当てみようのコーナー。

 霊獣・島蠍。

 その名を知る者は、大砂海の外には片手の指で数えられるほどしかいない。

 その一方で大砂海に生きる者達には、絶対的な力の象徴として、その暴威と共に深く静かに語り継がれていた。


 その名の通り島と見紛う程の巨体は、ただそれだけで一個の凶器に他ならない。

 蠍本来の武器である鋏や尻尾を振るうまでもなく、ほんの少し身じろぎしただけであっても、その質量は人間程度を挽肉に変えるなど造作も無い。


 そんな島蠍が霊獣として精霊から享受している恩恵は、その全てが巨体を支えるために費やされているといっても過言ではない。

 加えて桁外れに規格外な巨体のため、島蠍は極めて特殊な生態も持ち合わせていた。


 ざわり、という感覚が島蠍の梯子状神経を駆け抜けて行く。

 人間であれば不快感と断ずるのであろう騒がしさだが、島蠍にとっては食欲を刺激される快感に分類される。

 それは同時に、不活性状態にあった全身に喝を入れるシグナルでもあった。


 少し考えれば分かることだが、埒外としか言いようのない島蠍の巨体を維持するためには、それに見合うだけの食料を必要とする。そのために島蠍が主食としているものこそ、人間達に砂鮫と呼ばれている蜥蜴達であった。


 悪食で繁殖力が強く、更には獰猛。

 一歩間違えれば周囲の生態系を根こそぎ荒らし尽くしてしまう可能性すらある危険種だが、それを捕食できる島蠍からしてみれば、大砂海の生物の中でも飛びぬけて多くの可食部を持つ上に、放っておいても勝手に増えてくれる都合の良い餌でしかない。


 とはいえ、いかに繁殖力の強い砂鮫といえども、島蠍に一日三食召し上がられてしまえば早晩の絶滅は必至。そしてそれは、島蠍としても非常に都合が悪い。

 無論、島蠍自身が筋道立ててそんな検討をしたわけではないが、霊獣の本能はそれに対する簡単な回答を提示してくれていた。


 すなわち休眠である。

 大食漢である熊が食物の少ない季節を冬眠して耐え抜くように、島蠍もまた全身の代謝を最低限まで落とすことで、生き残った砂鮫が再び生息数を増やすまでじっと待ち続けようというのだ。


 そして休眠状態の島蠍を目覚めさせる条件もまた、砂鮫に依存している。

 数が増えすぎ、過密状態が行き詰るところまで行くと、砂鮫達は同族同士で互いに互いを敵とみなし、適正な数に減るまで相争おうとする習性がある。

 その際に発せられる威嚇フェロモンは、砂鮫同士ならば闘争本能を刺激し、文字通り骨肉の争いを演出する一助となっている。


 ところが島蠍にとってそれは、己が腹一杯になるまで食べて、食べて、食べまくっても構わない程に、砂鮫の個体数が回復したことを示すサインに他ならないのだ。


 そして今、大砂海の奥底深くに眠る島蠍の感覚器が、砂鮫の撒き散らす威嚇フェロモンを検知する。

 どうにもまだ眠りが足りないような違和感はあるが、餌の数が十分だというならば是非も無い。

 普段よりも微妙に倦怠感がつきまとう全身を強引に叩き起こすと、島蠍は何十年あるいは百何十年振りの食事にありつくため、ゆっくりとその身をもたげるのだった。

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