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リンカ護衛依頼3

本日3連投のラスト1本です。

 廃村での戦いの翌日、カイエンとリンカは東都イタミの大門を潜り抜けていた。

 図太いことに、紅巾党との戦いに巻き込まれたにも関わらず、リンカは廃村で一泊した上で予定意通りに調査まで済ませていた。


 本人曰く「すでに危険は排除されたのだから、折角ここまで来た以上は調査をやり遂げたい」とのこと。それでもよほどの胆力が無ければ、無力化して縛り転がしてあるとはいえ、自分達を襲おうとしていた者達の近くで熟睡するなどできはすまい。

 カイエンも思わず感心してしまったものだが、当のリンカは「それなりに修羅場は潜り抜けてきたから」と、たいしたことではないかのように言ってのけたものである。


 ともあれ、予定通りの調査行をこなしたリンカは、ほくほくと笑顔でイタミヘの帰路へ着いていた。


 その際、カイエンが捕まえた紅巾党員達は、全員その場に放置している。

 何十人もの拘束した人間を連れ歩いていては移動速度が落ち、陽が落ちるまでにイタミに辿りつけないためである。

 同志将軍あたりでも馬車で連れ帰って追捕使に突き出せば、ちょっとした報奨金程度は貰えるのであろうが、依頼人であるリンカが余計なリスクを背負うことを嫌ったためか、提案すらされなかった。


 当然だがカイエンにそんな選択肢を提示する知識は無く、また積極的に紅巾党員達を国家権力に突き出すという発想も無いため、四十人を超える男達はそのまま廃村に放置されることと相成ったわけである。


「しかし、あいつらは何だったんだ?」


 相変わらずの人込みの中、レンタルしていた調査機材や野営道具の返却を済ませ、最後に馬車を返しに行くというリンカにつきあって御者席に座り込んだカイエンは、退屈そうな様子で欠伸をしながら呟いた。


「あいつら……って、紅巾党のこと?」

「そうそう、それ。その奴等ら」


 リンカが確認すると、カイエンは適当な相槌を打つ。その適当ぶりから察するに、どうやら紅巾党という名前は忘却していたらしい。

 人が多く、馬車の進行速度が遅いため、何となく暇を持て余していたリンカは、少し考えた後でカイエンに確認した。


「カイエン君、この国の名前は知っている?」

「おう、爺に聞いてる。ロザン皇国ってんだろ」

「簡単に言っちゃえば、ロザン皇国の政治体制を変えろって主張している人達、かな」

「?」


 当然だが伝わらなかったらしく、両目を?にしているカイエンに苦笑すると、リンカは落ち着いた口調で語り出した。


「国というのは多くの人達の集まりなんだけど、ただ集まっただけでは皆が好き勝手なことをやって結局バラバラになっちゃうから、指示を出して纏める人が必要なのよ。国の形態によってまとめ役の名前や役割、人数が違うから一概にはくくれないのだけど、この国では皇族と呼ばれる一族がそれを担っているの。だから皇国と呼ぶわけね」

「へえー。群れのボスみたいなもんか」

「カイエン君の理解ならそれで十分よ。そして紅巾党の主張は、皇族による支配は無駄が多くて人々のためにならないから別の纏め方にしよう、といったところね」

「ん? もっと良いやり方があるなら、そっちにすれば良いんじゃないのか」


 純粋に疑問の瞳で首をかしげるカイエン。皆がここまで単純であれば、世の中はもう少し生きやすいのだろうが、残念なことにそうは問屋が卸さなかった。


「良いやり方、と言っても彼等が勝手にそう主張しているだけだから、実際に良いかどうかは試してみないとわからないわね。理屈の上では上手くいっても、現実では全然ダメっていうのもよく聞く話だし」

「おおう、なるほど。難しいな」

「だからこそ色んな人の思惑が絡まり合って、ちょっとやそっとじゃほどけなくなっているのよ。仮に、彼らの方法が全体的には良いアイディアだったとしても、今の仕組みを変えるとなれば大仕事だし、現状の仕組みで利益を得ている人達は絶対に反対するでしょうしね。基本的には、今の体制で利益を得ている人ほど、声が大きく影響力もあるものよ」

「そーか。確かに、ボスの交代はいつでも大事になるからな。そりゃお互いに命懸けにもなるってもんか」


 壮大な話を獣の群れレベルに落とす事で納得する。リンカとしては非常にツッコミ甲斐がある状況なのだが、ただでさえ面倒な話が更にこんがらがることが目に見えているため、あえて突っ込まず流すことにしていた。


「彼等の思想自体は外国由来らしいんだけど、今じゃすっかり根付いちゃっているみたいね。最近ではこの東都で何かしら活動しているらしくて、どうにか尻尾を掴もうと追捕使が頑張っているみたいなのだけれど、芳しい成果は上がっていないのが現状よ」

「追捕使……ああ、確かガクシンって奴が、自分のことを追捕使だって言ってたな」


 記憶に引っ掛かった名前をぽつりと零すと、リンカは驚いた様子でカイエンの顔を覗き込んだ。


「ガクシン……って、確かイタミの追捕使の隊長じゃないの! その口振りからすると、もしかして会ったことが――」

「ああ、あるぞ。お金をくれて、宿も紹介してくれた。めっちゃ良い奴だったな」

「そこだけ切り取ると、ヒモ男に貢ぐ可哀想な人に聞こえるんだけど……事情を聞いても良いのかしら?」


 かくかくしかじか。

 別段隠す話でもないため、イタミ初日に遭った詐欺紛い。そしてナキョウの宿を紹介された経緯を開陳する。それに対して、リンカは開いた口がふさがらなかった。

 不正がばれた門番はともかく、場を治めたはずのガクシンにとっても、カイエンの世話が手に余り、ナキョウに丸投げしたことが手に取るように伝わって来たからだ。

 とはいえ今は関係ない。気を取り直すと、リンカは話を続ける。


「紅巾党の思想は、皇族にとっては死ねと言っているのと同じよ。だから今、皇国は紅巾党の撲滅に力を入れ始めている。その証拠に、皇族直属の特殊部隊が、イタミにまで出張って来ているという情報もあるわね」

「特殊部隊? なんか分からんが、強そうな響きだな!」


 目を輝かせて頭の悪いことを口走る。

 それに対してリンカは、呆れたようにやれやれと肩をすくめてみせた。


「カイエン君、あなたはもう出会っているはずよ。その特殊部隊に」

「え、嘘だろ? いつ出会ったんだ、ってか、なんであんたがそれを知っているんだ!?」

「あれだけ大立ち回りをやらかしておいて、何故もないでしょう。その特殊部隊の名称は御庭番衆というのだけれど……君には心当たりがあるんじゃない?」


 問われたカイエンは、必死に記憶をほじくり返しにかかる。イタミを訪れてから出会った人達の顔を一つ一つ並べていき、彼はようやく思い至った。


「もしかして、あの焼肉屋台のおっさんが御庭番衆だってのか!?」

「そんなわけないでしょ! というか、誰よ、それは!」


 遂に抑えきれず、リンカのツッコミが炸裂する。往来を歩いていた人達があまりの気迫に振り返ってしまう程だったが、ツッコミに全力を使い果たしたリンカはぜえぜえと息を切らしており、幸運にも――あるいは不幸にも、その事実には気付かなかった。


「あのねえ、もっと先に思い出すべき相手がいるでしょうが。カイエン君、水を操る霊紋持ちと戦ったんでしょう? その相手が御庭番衆よっ」


 カイエンが、おおそう言えばという顔をする。その様子を横目で見やりながら、リンカは精神的にとても疲労した溜息を吐き出した。


「彼女の名前はセイゲツ。カイエン君も知っての通り、水を自在に操ることのできる霊紋持ちよ。いたる所に運河の支流が流れているこの街は、彼女のような水関連の霊紋持ちにとってはホームグラウンド同然。だから、多少性格に難があっても、今回のイタミへの派遣要員に選ばれたと聞いているわ」

「性格に難ってのは、どういう意味だ?」

「うーん……私が聞いた話だと、いざという時はともかく、普段は気が弱くて頼りない、って噂ね。そんな性格でありながら御庭番衆を務めているということは、それだけ腕が良いという証明だと思うけど」

「そう言われてみりゃ、確かにかなり強かったな。正直、紅巾党の連中とは比べ物にならないくらいだった。突破して逃げるのが精一杯だったからなあ」


 カイエンの感想を聞き、リンカは顔には出さなかったが心底驚愕していた。カイエンが相手のことを憶えていたから――ではない。さすがのカイエンも、第二階梯に至った霊紋持ちとの戦いのことを、そう簡単に忘れることは無いはずだ。


 それよりもリンカが驚いたのは、逃げるので精一杯だったというカイエンの発言だ。リンカの知る限り、武術家や拳法家といった人種は、己の強さについて不必要なほどの大きさの自負心を持っており、相手の方が上だと認めることはまずないからである。


 ところが、カイエンははっきりと相手の強さを認める発言をした。

 これは別に卑屈になっているわけではない。相手の実力を正しく理解し、認めるだけの余裕と度量があることを意味している。


「そうね、間違いなく実力は一級品……なんだけど、今回の件ではまだ決定的な功績を挙げられていないとも聞いたわね」

「ふーん。まあ、霊紋持ちだから、何でもかんでもできるって訳じゃあないしな」


 自らの事を棚に上げて分かった風な事を言うカイエンであったが、リンカはそれをばっさりと否定する。


「それはその通りだけど、仮にも御庭番衆は皇族直属の特殊部隊よ。ただ暴れるしかできない人間に務まる役職じゃないわ。セイゲツにしても、都市に潜伏する標的を探し出すノウハウの一つや二つ、必ず持っているはず」

「でも、まだ紅巾党の連中を捕まえられてないんだろ? 一昨日だって、結局間に合わなかった訳だし」


 カイエンが訊くと、リンカはその通りと大きく頷き、びしりと指を突きつけた。


「そう、その結果こそが不自然なのよ。話に聞く限りじゃ、一昨日カイエン君と戦った紅巾党は堂々と人前に姿を晒していたし、撤退の仕方だってお粗末の一言に尽きるわ。昨日襲ってきた連中にしてもそう。自分達の痕跡を消して追跡を防ごうって配慮が、全然、欠片も、これっぽっちも見られないのよ」

「あー、そう言われりゃそうだな。あんなんじゃ、花粉症の灰耳狐だって撒けなさそうだ」

「それなのに現実は、御庭番衆ともあろう者がいまだに紅巾党を捉えきれていない。それどころか、捕物に伴ってあちこちを水浸しにしたり壊したりして、東都の住人達からの反発が少しずつ積み重なっているわ」


 これはカイエンも初耳である。だが、思い返してみれば一昨日、不意打ちで降って来た大量の水は、カイエン以外の人や屋台も押し流していた。その後の戦いの際にも、カイエンが躱した後の水の刃や槍といった流れ弾は、周囲に少なくない被害をもたらしていたはずである。

 いきなりそんな目に遭えば、普通であれば文句の一つでも言いたくなるというものだろう。ましてやそれだけ暴れておいて、いまだに成果無しとなれば尚更だ。


「初めの一回くらいならともかく、二度三度を繰り返せばそれは間違いなく異常事態よ。そして異常事態には、必ずそれを引き起こしている元凶があるわ」

「ふーん。で、その元凶って何なんだ?」

「さあ?」


 持ち上げておいて一気に落とす。可愛らしく小首をかしげてみせるリンカであったが、カイエンにはそのアプローチは通用しなかったらしく、きょとんとした表情で見つめ返されると、咳払いして方向修正を試みた。


「ま、まあ、確証は無いけど、私の推理じゃ内部犯ね」


 羞恥で赤く染まった頬を見られぬように顔を背けながら、リンカは己の仮説を披露する。


「いくら御庭番衆が優秀でも、所詮は一人。情報収集に関しては、地元の組織である追捕使と連携しているはず。多分、紅巾党の息のかかった人が追捕使の中に混ざっていて、事前に情報を漏洩したり、わざと御庭番衆の足を引っ張るような真似をしているんじゃないかしら」

「おおっ、なるほど! さすが、頭良いな!」


 手垢に塗れていそうな陰謀論であったが、その手の事に疎いカイエンには新鮮だったらしく、尊敬の眼差しでリンカを褒め称える。

 あまりのチョロさに思わず口元を緩めてしまったところで、リンカは目的の貸し馬車屋の目の前までやって来たことに気付き、手綱を引いて馬車を停めた。


 御者席からひょいと跳び下りると、気付いて出てきた店員に返却の旨を告げ、受取証らしき紙にさらさらとサインする。

 無事に手続きを済ませると、同じく馬車から降り、凝り固まった全身をほぐしていたカイエンに、とびきりの笑顔を向けて告げた。


「ご苦労様。これで護衛依頼は達成ね。はいこれ、依頼料」

「依頼料……そうだった、そうだった。そういえば仕事ってやつだったんだよな」


 渡された袋の中身を覗き込み、貨幣が入っているのを確認してようやくその事実を思い出したらしいカイエンの口振りに、リンカはくすりと笑みを零すと勧誘の言葉を投げる。


「今回の護衛で、カイエン君の実力と性格に申し分が無いことを確認できたわ。もし君が良ければ、長期の護衛依頼を請けてみる気は無い?」

「長期の護衛?」

「要するに、もうしばらく私と旅をしてみないっていう提案よ」


 一つの仕事を完遂させた直後のタイミングでの長期の依頼。相手の心理的なガードが緩んだ機を狙い、リンカはそうと悟らせないアプローチを仕掛ける。


 護衛の話も嘘ではないが、リンカの本当の狙いは、この機会にカイエンとの繋がりを出来るだけ強化しておくことにあった。目的は無論、『天の角、地の翼』に通ずると目される、カイエンの師匠への顔つなぎのためだ。

 そんなリンカの思惑を知ってか知らずか、カイエンはあっさりと首を横に振った。


「やめとくよ。金ならしばらくは問題なさそうだし、旅は俺のペースで行きたいからな」

「……そう、それは残念ね。でも、もし気が変わったらいつでも言ってね。歓迎するわ」


 無理に迫るとかえって不自然になる。ゆえに胸中で落胆しながら、それでもなんとか将来の可能性のために、布石だけは打っておくことを決意するリンカだった。

明日も連投します。


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