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南都脱出作戦2

 草木も眠る丑三つ時。

 生暖かい南都の空気に紛れるようにして、夜のホウチンを進む影があった。

 数はたったの三人。内訳はミリアとカノン、そしてカイエンである。

 宿を出たところで合流した彼等は、灯りを提げているカノンを先頭として静まり返った街並みの中を歩いていくと、やがてホウチン最大の商会が居を構える一画に辿り着いた。


 カノンが確かめるように振り向けば、ミリアも唇を真一文字に結び、頷く。

 主の意を汲み取ったカノンは、最後に深呼吸をして覚悟を固めると、意を決して足を踏み出した。


 まさにその瞬間、あちらこちらの物陰から染みが浮き上がるようにして無数の人影が湧き出してくる。人影は秩序だった動きでミリア達の前後を隙間なく固めると、月光を反射せぬよう黒で塗り潰された得物を次々と抜き放った。

 無音の殺気が一帯に立ち込め、殺意で象られた刃がミリア達へと突きつけられる。


 ホウチン最大の犯罪組織、ハンモンカイ。その実行部隊の面々である。

 そもそもハンモンカイとは、源流を遡ればある一人の凄腕の殺し屋へと行き着くこととなる。冷酷無比で狙った獲物を決して逃すことはないその腕前に魅せられ、多くの脛に傷持つ者達が合従連衡を繰り返した果てに誕生したのが、南都の闇を支配すると謳われる巨大組織の原型であった。


 そういった経緯から、ハンモンカイの中でも特に実行部隊と呼ばれ畏れられる者達は、頭目の座に収まった稀代の殺し屋からありとあらゆる技術を叩き込まれており、その練度はそんじょそこらの犯罪組織では逆立ちしても太刀打ちすることは出来ない。

 そして今、ミリア達を包囲している者達こそ、ハンモンカイの実行部隊に他ならなかった。


 いや、正確には一人だけ、ハンモンカイに属さぬ者が混じっていた。

 彼はまるで気負った様子も見せず、包囲されて警戒した表情を見せるミリア達の前に姿を現すと、気安い雰囲気で挨拶を放って寄越す。


「やあ、カイエン君。良い夜じゃないか」

「ソウエイか。やっぱそっち側に付いたってわけか」


 さして驚くでもないカイエンの言葉に、逆にソウエイが意表を突かれたように目を丸くする。


「あまり動揺しないんだね。もしかして予想済みってところかな?」

「そういうことだ。もっとも、予想したのは俺じゃないけどな……あー、でも念のため聞かせてくれよ。あんたがハンモンカイに付いたのは、俺と戦うためって事で合ってるんだよな?」


 何を分かりきった事をとでも言いたげに、ソウエイはゆったりと首肯した。


「その通りさ。可能ならば君との戦いは、観客に気を使わなければならないような見世物の試合ではなく、互いの命を懸けた真剣勝負をしたかった。そんな時に本気の君と戦えるなんて餌がぶら下げられたら、たとえ毒餌だと分かっていても、食い付かざるを得ないじゃないか」


 澱みなく言いきると不敵に笑う。その思考回路は正しく戦闘狂のそれだ。

 戦いそのものに快楽を見出す者達は、多かれ少なかれ似たような気質を持っている。だが、大抵は理性で折り合いをつけ、大なり小なり己の内へと封じ込めてしまう。であれば、その気質を隠すことも憚ることもなく肯定し、他の一切よりも優先する者こそ、戦闘狂の鑑と呼んで差し支えあるまい。

 その意味に於いて、ソウエイはいっそ模範的ですらあった。


 一方、戦闘に快楽を見出しうるという点では同類であるが、カイエンはさっぱり分からないとでも言いたげに首を横に振った。


「毒餌なんて食わない方が良いに決まってるだろ。あんたの大好きな実戦ってやつは、要するに生きるための戦いって意味なんだろ? 生きるためにわざわざ毒を食らうなんて、本末が転倒してるぜ」

「なるほど、君はそう考える、と。ちょっとした見解の相違というやつだね。だけど、だからといってこの状況が変わるわけでもないんじゃないかな?」


 ソウエイが指し示す通り、前後を完全に挟まれた今の状況では、蟻一匹の這い出る隙間も無い。

 ソウエイがいなければ、カイエンという突出した戦力を暴れさせての強行突破という手段も考えられるのだが、相手側に同格の駒がいる現状ではそれもままならない。

 そんな進退窮まった状況にあるミリア達に対し、救いの手を差し伸べたのは対峙しているはずのソウエイであった。


「現状把握をしてもらったところで一つ提案があるんだ。まずは僕にカイエン君と一対一で決闘をさせて欲しい。その間は、他の人間に手は出させないと約束しよう」

「随分と虫の良い提案もあったものじゃな」


 思わずミリアが下した寸評に、ソウエイははにかむように微笑む。こんな場面でなければ目を奪われかねない程に、その笑みは人懐っこく輝いている。


「でも、悪い話じゃないだろう? 僕はカイエン君と戦えれば満足。君達はハンモンカイと僕を同時に相手取らなくて済むから、僅かだけど生き延びる確率が上がる。ハンモンカイの人達にしても、乱戦でカイエン君に余計な邪魔をされなくて済む。全員に利がある提案だと思うけど?」


 臆面も無く言い切る。

 その面の皮の厚さには驚嘆すべきものがあるが、言っている事自体は間違いではない。

 ハンモンカイの数に押されれば、カイエン一人ではミリア達を守りきるのが難しいのは明白だ。ハンモンカイからしても、ソウエイが勝てばそれで良し、よしんばカイエンが勝ったとしても、ソウエイとの戦いで消耗していればその分だけ対処が容易となる。

 どっちに転んでもソウエイだけが望み通りの結果を得るというのは少々面白くないが、それでもこの提案が好機であることは間違いなかった。


「利とかよく分からんが、あんたは片手間じゃ相手をできそうにないってのは確かだな」

「じゃが、一対一の間、本当に妾達には手出ししないとどうして保証できるのじゃ。 まさか口約束を鵜呑みにしろとは言うまいな?」


 まとまりかけた展開に水を差すミリア。こちらは命がかかっているのだから、相応に注意深くなるのも無理はない。

 而して、その答えは新たな登場人物という形でやって来た。


「あー、じゃあその保証はおじさんがしてあげようか」


 節くれだった杖を片手に、中年オヤジがどこからともなく飄々と割り込んでくる。

 無論、ただの中年オヤジではない。南都追捕使隊長であるサンチュウだ。そしてサンチュウがここにいるということは――


「捕らえろっー!!」


 夜の静寂を引き裂いて、追捕使達の捕物の声が四方八方から同時に上がる。

 ミリア達を包囲したハンモンカイを、更に追捕使が包囲していたのだ。サンチュウが姿を現したことがイコールで包囲網の完成を意味しており、それを契機として一気に取り押さえにかかったというわけである。


 先程まで固唾を飲んでソウエイの提案の行方を見守っていたハンモンカイの実行部隊が、想定外の事態に浮足立つ。

 獲物を囲んで圧倒的に有利にいた筈なのに、一瞬にして立場が逆転し、今は追捕使の猛攻を受ける獲物となってしまったのだ。精鋭揃いの実行部隊とて人の子、完全に裏をかかれて奇襲までされれば混乱して当たり前である。


 一方、混沌に染まりつつある事態の中、ソウエイだけは落ち着き払っていた。


「やってくれるね、カイエン君。見事な手際だよ」

「まあ、こいつも俺の作戦じゃないんだけどな。それはともかく、そっちの目論見は崩れたぜ。どうするつもりだ?」

「それならおじさんから名案があるんだけど、聞いてもらえるかな」


 睨み合う両者にサンチュウが再度割って入る。

 双方から肯定の気配が返ったのを確認すると、サンチュウは気安い頼み事でもするような口振りで、


「一対一が望みならば好きにやればいいと思うよ。ただし、場所を変えてくれないかな。君達が本気で戦ったりしたら周りもただじゃ済まないだろうし、巻き込まれて大怪我なんて真っ平ご免だから、どこか適当な場所に行って暴れてくるといいよ。その間、カイエン君の連れはこっちで面倒を見ておくからさ」


 清々しい程に自分勝手な意見である。

 だが、ソウエイにとってもカイエンにとっても、その提案は渡りに船だった。


「分かった。後は任せるぜ、おっちゃん」


 言うやいなや、霊紋の輝きによる淡い光の尾を引きながらカイエンが跳躍する。

 ただの一跳びで屋根の上まで到達すると、更なる跳躍を次いでその姿はあっという間に見えなくなってしまった。

 口元に笑みを浮かべたソウエイも、カイエンの後を追って姿を消す。

 どうにか口先八丁で不確定要素二つを追い払うことに成功し、サンチュウは安堵の溜息を吐いたのだった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 大捕物は追捕使の優位で推移していた。

 さすがはハンモンカイ、南都最大の犯罪組織の実行部隊だけあり、その練度には目を見張るものがある。

 とはいえ、それは追捕使側も同じこと。常日頃厳しい訓練に耐えてきた彼等には、南都の治安を守っているのは自分達だという自負がある。加えて南都中の追捕使を動員しただけあって人数差は圧倒的だ。駄目押しとばかりに初手での奇襲が完璧にはまった以上、追捕使側に趨勢が傾くのは当然の帰結であった。


 そんな認識を油断と嘲笑うように、追捕使達によって十重二十重に守られているミリア達に向けて、何かが高速で飛来する。

 夜の闇に溶け込むような黒塗りであるが、追捕使達が掲げる松明によって昼間のように明るいこの場においては、その飛翔物は逆に禍々しさが異様に目を引いた。


 深めの編み笠か帽子のような形状。その外側には薄く整えられた鋼が、寄らば斬ると言わんばかりの剣呑な見た目でもって鎮座している。

 明らかに装飾ではなく殺傷を目的とした外見は、追捕使の警戒心を刺激するには十分だ。最初に気付いた一人が声を上げ、防御を固めるように告げるとともに、それを打ち落とさんと斬りかかる。


 しかし、それはかなわなかった。飛翔物は追捕使の剣を避けるかのように巧みに軌道を変えると、己に迫る刃を躱さんと咄嗟に身を沈めた追捕使の頭部へすっぽりと覆いかぶさったのである。


「なんだ!? これ――」


 ジャキン、という不吉な音が鳴り響いたかと思うと、彼が発しようとしていた言葉が途切れる。

 次の瞬間、追捕使の身体が糸の切れた操り人形のように崩れ落ちる。

 理由は一目瞭然。数秒前まで頭が乗っていたはずの場所から、命を司る赤い液体を噴水の如く撒き散らしていたからだ。議論も異論も挟む余地なく、首をもぎ取られて事切れている。


 それを成したのは、どこからともなく飛来した奇妙な形状の武器だ。

 刈り取った首ごと闇の奥にするすると引っ込んでいったその武器は、無惨な光景に動揺する追捕使達の前に、今度は使い手を伴って出現した。


 色素が完全に抜け落ちた白い髯は胸元に掛からんとするほどに伸び、同じく伸び放題となっている白毛の眉に隠された双眸は細められ、宿した色を見出すことは出来ない。

 身長は百七十セテルといったところか。全身をすっぽりと包み込むような、ゆったりとした服を羽織っている。腰の曲がり具合からいって明らかに老境も半ばを過ぎているはずなのだが、身に纏う気配は察知するのが困難なほどに薄く平らに伸ばされ、老いによる揺らぎを全く感じさせない。

 それもそのはず、この老人こそ――


「ハンモンカイが頭目、カンク老とお見受けしますが如何か?」

「然り。儂もそなたの名は聞き及んでおるわい。昼行灯のサンチュウ」


 南都の表と裏、双方の武の頂点に立つ者同士が視線と言葉を交わす。

 サンチュウはカンクの片手に提げられた武器に目をやると、呆れと感心がない交ぜになった口振りでその名を告げた。


「いやはや血滴子とは。随分とイロモノをお使いになるようで」


 血滴子、人呼んでフライングギロチン。外周に付いた刃による斬撃の他、内側に取り付けられた刃によって、かぶせた相手の首を斬り落とす事をも目的とした、極めて残虐な武器である。

 扱いも相応に難しく、名前を知っているだけでも感心されるほどのその武器を、カンクはまるで手足の如く使いこなしていた。


「それにしてもようやってくれたものじゃわい。こうも見事に罠に掛けられたとあっては、組織の弱体化もやむを得んところじゃのう」

「弱体化どころか、うちとしては完全に潰すつもりでおりますですよ」

「……使い慣れぬなら無理して敬語を使わんでええわい。ともかく、貴様等の目論見などかなわぬ相談と知るがよい」


 ゆっくりと血滴子を振りかぶり、細めていた眼を爛々と見開いて、呵々とばかりにカンクは謳う。


「儂が生きておる限り、ハンモンカイは不滅よ。加えて、ここで死ぬのは貴様の方じゃ!」


 裂帛の気合を込め、全身を淡く輝かせたカンクが血滴子を投擲する。

 霊紋持ちの肉体は多少の老いなど容易く克服する。老人の細腕から放たれたとは信じられない速度と回転で、危険極まりない殺人兵器がサンチュウへと迫った。


 殺意の具現のような攻撃に対し、サンチュウの応手は、慌てず騒がず舗装された地面を杖で突くことだった。

 その途端、無数の蔓が地面を割って生えてきたかと思うと、サンチュウの前に立ちはだかって植物の壁を形成する。

 血滴子は一本、二本と蔓を切断した後、三本目に食い込んだところでその威力を殺しきられ停止した。

 眉一つ動かさぬままカンクが血滴子へと繋がっている鎖を引けば、血滴子はするすると主の元へと帰還する。その様は従順な犬を彷彿とさせた。


「さすがに一筋縄ではいかんようじゃな」

「そこについてはお互いさまって事で手を打ちましょうよ。正直、お年寄りを攻撃するってのは、少なからず罪悪感がありまして」

「ふん、甘い事を言いおる行灯じゃ。ならばその首、貰い受けるまでのことよ」


 サンチュウの言葉を鼻で笑い飛ばし、カンクが取った戦術は後退だった。

 てっきり苛烈な攻めが来ると予想していたのか、サンチュウは追撃をかけることなくそれを見送ってしまう。

 しかし、完全に撤退したわけではあるまい。首筋にチリチリと訴えかけてくる殺気が、いまだにカンクの殺傷圏内にいると告げているからだ。おそらく、身を隠してこちらの隙を伺う算段なのだろう。


 それを証明するかのように、暗がりから血滴子が飛来する。

 狙いは無論、サンチュウ……ではない。

 サンチュウの背後に居並ぶ追捕使達、正確にはその奥に匿っている少女達目掛け、フライングギロチンが襲い掛かったのである。


 サンチュウは素早く蔓を生やすと、息つく暇も無く連続で投げ込まれてくる血滴子を、弾いて弾いて弾き続けた。

 その全てが、サンチュウ本人ではなく背後に匿っているミリア達を狙っている。

 嫌がらせの見本のようなやり口であるが、サンチュウが追捕使である以上は、一度保護すると宣言した一般人への攻撃を見過ごすわけにもいかない。

 結果として、十や二十ではきかない回数、サンチュウは姿なき暗殺をしのぎ続けた。


 その猛攻にもやがて終わりは訪れる。

 半ば無心で血滴子を弾き続けていたサンチュウだったが、ふと気付くと攻撃の手はピタリと止まっていたのである。


「大人しく諦めた……なんて訳がないんだろうなぁ」

「無論じゃ」


 一縷の希望を込めた独り言に、無情な返答が投げつけられる。

 いい加減うんざりとした表情で声をのした方を見やってみれば、全身が刃物で構成された人型の霊像を背負い、血滴子を片手に構えたカンクが再び姿を見せたではないか。


「おや、正面からやり合う方針に鞍替えで?」

「たわけが、すでに決着はついておるわ」


 飄々としたサンチュウの問いに、カンクは嘲笑を添えて応じる。

 その瞬間、ずしりという重さがサンチュウの頭にのしかかったかと思うと、その視界が突如閉ざされた。

 まるで瞬間移動でもしたかのように、第二の血滴子がサンチュウの頭にかぶさっていたのである。それはすなわち、カンクの必殺を意味している。


「かかりおったな! 儂は刃を持つ武器をわずかな間だけ他者の知覚から逸らす事ができるのじゃ。姿を見せたのは、その素っ首を貰い受ける準備が整ったからに過ぎん。昼行灯のまま、殉職して果てるがいい!」


 勝利を確信し、哄笑と共にカンクが力一杯に鎖を引く。

 先程の追捕使と同様、血滴子の内側に備え付けられた刃が翻り、獲物の首を刈り取らんとして――半分近く食い込んだものの首が落ちる様子は無く、逆に刃の侵攻はそこで押し止められた。


「なんじゃと!?」


 手応えはあった。間違いなく、血滴子の刃は獲物に突き立っていたはずだ。

 では一体何故、首を刈り取ることができないのか?

 初めての体験にカンクから動揺の気配が零れる。その瞬間、隙を突いて足元から無数の蔓が噴き出すと、カンクの全身に絡みついて動きを封じてしまったではないか。


「ぐ、むぅ」


 悪態を吐きたくともそれすらかなわず、カンクは蔓で雁字搦めとなってその場に横倒しとなる。

 それでも彼が求めた種明かしは、見上げた視界の先でサンチュウが血滴子を外したことで知ることができた。

 血滴子の刃で切り裂かれた制服の下、首と胸元を覆うように頑丈そうな植物の蔓が絡みついていたのである。

 鋭い切れ込みの痕跡が垣間見え、これで血滴子の刃を防御してのけたのだとすぐ察しが付く。


「いやはや、見えない刃とは恐れ入ったことで。事前のタレコミが無ければ、やられていたのはこっちだったかも」


 脱いだ血滴子を足元に放り捨てながら、ぶるりと背筋を痙攣させるサンチュウ。今更ながらに命の危険を感じて震えが来たらしい。

 剛胆というよりも鈍感といった方がしっくり来る有り様であったが、カンクはそれよりもサンチュウの告白の方に気を取られていた。


「タレコミ、じゃと?」

「ええ、その通り。実を言えば、ハンモンカイが今日動くというのも同じ人物からのタレコミなんですわ。いやあ、信用してみて良かった良かった」


 カンクの神経を逆撫でするようにサンチュウはおっさん臭くタハハと笑う。

 サンチュウの言うタレコミの主は無論リンカだ。

 ハンモンカイに対して追捕使をぶつけるという青写真を描いた後、リンカは気を抜くことなく更に情報収集に邁進していた。

 その結果、ハンモンカイを統べる驚異の暗殺者であるカンク老の能力を知るに至り、相対するであろうサンチュウに手紙で対抗策を伝えていたのである。


「そのゆったりとした衣服が二つ目の血滴子を隠すためだということも、一つ目の血滴子に相手が慣れる頃合いを見計らって不可知の二つ目で仕留める戦術だということも、タレコミの主が教えてくれたのでね。後は対応策を仕込んでおくだけ、という具合でして」


 死ぬ瞬間まで自らが断頭台に首を預けていると気付かせぬ初見殺しの能力。しかし、サンチュウの操る蔦であれば、制服の下に仕込んでおくことで防御が可能となる。

 人知れず情報戦を制していたリンカの活躍により、南都最大の闇を統べる殺し屋は秘匿していたはずの切り札を封じ込まれ、昼行灯の手でお縄となったのだった。

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