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(幕間)霊獣

量が少ないのでここだけ投稿します。

次回はいつも通り、水曜(7/3)の19:00頃です。

 精霊獣、略して霊獣。そう呼ばれる獣達がいる。

 彼等が通常の獣と異なるのは、何よりも精霊を宿しているという一点に尽きる。人間でいうところの霊紋持ちに当たるだろう。


 彼等が人間と異なるのは、種として精霊と共生する霊獣がいるという点だ。

 人間が霊紋持ちとなる場合、大抵は辛く厳しい修行を経て精霊を宿し、霊紋持ちとなる。稀に、生まれつき精霊を宿しているような特殊ケースもあるが、例外は主流ではないからこそ例外なのであって、基本的には自らの意志で霊紋持ちとなる。


 だが、動物の場合にはその例外が例外ではなくなる。

 人間同様、生死のかかった修羅場を数多潜り抜けた歴戦の獣が、精霊を宿すようになった事例はもちろんある。

 しかし、それ以外にも生まれつき精霊を宿す――言わば先天性の霊獣が存在するのだ。


 彼等は基本的に、人間では容易く到達できない奥地・秘境に生息している。

 霊紋持ち同様、他の獣を圧倒する能力を持った霊獣達は、多くの場合その地の主として君臨しており、人里へ姿を現すことは滅多にない。

 とはいえ、皆無かと問われれば答えはNoだ。


 他の霊獣との縄張り争いに負けて住処を追われた者、巣立ちして新天地を探す途中で迷い出てくる者、そして敵か獲物かあるいはそれ以外の何かを求め追跡している者。

 数こそ少ないが、それらの霊獣が人間の生活圏まで姿を現した場合、大抵は人間と霊獣の間に衝突が発生する。追捕使の任務の一つに霊獣対策が挙げられているのは、そういった事情に起因する。


 そして今、その獣は微かな匂いを追跡して東都へ辿り着いた。

 獣が最初にその匂いを嗅ぎつけたのは、東都から人の足で半日ほどの距離にある森の中の廃村であった。

 かつてその獣がまだ若かった頃にも訪れた記憶のあるその場所で、獣は探し求めていた匂いにようやく巡り合うことができたのだ。


 獣は歓喜した。

 獣が住処を出立してから、すでに幾日もの時が過ぎ去っていたからだ。もう見つからないかもしれない、そんな弱気な感情が芽生えかけていた。


 そんな時にようやく嗅ぎ当てた手掛かりだ。

 くん、と嗅いでみればその匂いは薄れかけており、匂いの持ち主が廃村を訪れたのは昨日今日ではないことがわかる。

 しかし、薄まってこそいるものの、懐かしいその匂いは道なりに点々と残っており、それを辿れば居所に辿り着けると確信できる。


 ならば追うのみ!

 精神が肉体を賦活する。宿した精霊の力を四肢に込めると、獣は地を蹴って駆け出した。

 すでに夕日は地平線へと沈んでいる。いつもならばそろそろ今夜の寝床を見繕わなければならない頃合いなのだが、そんな思考はとうに頭の中から消え去っていた。


 獣を突き動かすのは、たった一つのシンプルで強固な衝動だ。

 霊獣特有の強靭な足腰でもって街道を駆け抜ける。

 前に進むほどに求める匂いが強くなり、それが更に獣を駆り立てる。


 陽が落ちていることもあり、街道という人間の領域でありながら人間と遭遇しなかったことも大きいだろう。駆け続けた結果、夜が明けるよりも早く、獣の眼前には見上げるほど巨大な壁で覆われた人間の巣が見えてきた。


 あれをよじ登るのはさすがの霊獣とて手を焼くだろうが……壁に突撃するより早く、新たな匂いが獣の嗅覚に釣り針を引っ掛ける。

 獣は即座に街道を外れると、壁を迂回して回り込むように移動する。


 獣が足を止めた時、目の前には大きな河が流れ、対岸には木を組み上げて作ったと思しき足場が幾つも河に浮いていた。

 獣を引き寄せた匂いは、その足場の一つから漂って来ていた。


 足場の向こう側では二つの強大な精霊の気配がぶつかり合っていたが、高揚する獣は気にも留めず、水中へと身を躍らせる。

 その巨体からは想像できない程静かに入水すると、手足を器用に動かして水を掻く。

 ぐんぐんと足場に近づいた獣は、最後に力強く水をひと掻きすると、勢いをつけてその足場の上に飛び乗った。


 ようやくここまで来た。そんな感慨に突き動かされ、獣は心の底から湧き上がる衝動を乗せ、遠吠えを放つのだった。

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