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旅路

「さて、準備は出来たか?」


「なぁ、ホントに良いのか?先生まで…」

「私の事は、トーマスに代わりを頼んである。それに、私もカナも、お前を支えなければならない責任があるからな。陛下に話をしたらすぐに許可は下りた」


ヴァリアスも随分と簡単に決断を下す奴だ。安直な決断で無ければ良いのだが…などと、リュースはついつい心配になってしまう。


「ここからは、四人で行くことになるということね」


「はぁ、何もお前まで来なくたって…」

「何?私がいたらまずいの?さっき教官も仰ったでしょ?私にはあなたを守る義務があるの」


カナもなかなか一度言い出したら聞かない奴らしい。騎士団に所属している人間は皆そうなのかとさえ思えてくる。


「分かったよ…とりあえず、これからよろしく頼む」


アーネス村を襲った謎の男への復讐心を胸に秘め、リュースは三人の協力者と共に城を出ようと中庭へと足を踏み入れた。


「リュース」


中庭の入り口方面で誰かの呼ぶ声がした。ヴァリアスだった。隣にはトーマスとアイルの二人が両脇に控えていた。


「体調はもう大丈夫なのか?」

「あぁ、ところで、何でお前がこんなところに…?」


リュースの問いにヴァリアスは呆れかえったような表情を浮かべて彼の額を小突いた。


「あのな、お前と友だと思っているのは私だけか?友の見送りをするのは当たり前だと思ったのだが、な!」

「いてっ!何すんだよ…ってか、俺だってヴァリアスの事は大事な友だちだと思ってるよ。お前が皇帝である以上に」


ヴァリアスからの強烈なデコピンに仄かに赤く染まる額を摩りながらリュースは正直な気持ちを話した。その言葉を受けて漸くヴァリアスも機嫌を直したのか、満足気な表情で大きく頷いて見せた。


「うむ。それで良いのだ。色々辛い事もあるだろうが、いつでもここに来るといい。門番には私から念を押しておくからな」


「はは、ありがとう。その言葉だけで俺は十分だよ。お前も、ちゃんとトーマスさんたちの言うこと聞いて大人しくしてろよ」

「ふん、年下の分際で烏滸がましいことを言ってくれるな。…………リュース」


先程まで冗談めかしく話していたヴァリアスの表情が唐突に真剣なものに変わる。あまりに突然のことだったので思わずリュースも顔が自然と引き締まり、息を呑んだ。


「アーネス村の事は、私に任せておけ。お前がいつでも帰って来られるよう、全力で復興させてやるからな」

「ヴァリアス………あぁ、ありがとう」


涙が出そうになるのを堪えながら、彼は一言一言に重みを乗せて今出来る最大限の感謝を述べた。そしてついに、リュースらは遥かなる長き旅路に出ることになったのであった。




城を出て行く宛てもなくリュースらは歩く。


「なぁ、まずは何処に行けばいいんだ?」

「え?何も考えないで出てきたの?!」


リュースは不思議そうな表情で顔を当然のように縦に振る。カナはまるで聞いた自分を責めるような表情で小さく溜め息を吐いた。


「目的もなく彷徨うなんて…いつまでも終わらない旅になるじゃない」

「それが旅ってもんだろ?第一、あの黒の男が何処に居るのかも分からないってのに、どうやって探すんだよ」


「まぁまぁ、落ち着きんしゃい、二人とも。それより、アルベルトが行きたいところがあるそうじゃが。のう?」


そう言ってリュースとカナのやり取りに横入りしてきたリズヴァーンは意味深にアルベルトを見つめた。まるで全てを見透かしたような瞳だ。さすがに神獣というところだが、同時にいけ好かない奴だと、アルベルトは密かに思いながら口を開いた。


「クロムの街へ行きたい」


「クロムの街?」

「え?まさか、あなた知らないの?」

「な、何だよ…悪かったな。俺はアーネス村近辺以外の土地勘しかないんだよ」


「クロムの街はここから南西の方にある商業の街だ」


クロムは元々小さな田舎町だったが、現在の長官であるブリックスという男がその優れた手腕で急速に発展させた街である。


「へぇ、商業か……」


何故か興味を抱き始めるリュース。そして彼は無邪気な笑顔で大きく頷いた。


「よし、行くか」


「………何か変な事、考えてなければいいんですけど……」

「ま、それを見るのも楽しみじゃ。俺らは大人しくあいつについて行くぜよ」


そうして一行は早速クロムの街へ向かうことになった。しかし…………。


「くそ……どこまで歩けばいいんだよ………」


歩けど歩けど街らしいものは何も見えてこない。どれほど歩いたかは分からないが、リュースの中ではもう五時間程は歩いている気がするのだが、周りの三人は顔色一つ変えずに歩いているのを見ると、よく分からない不安に襲われる。


「五時間ぐらいは歩いてるけど、クロムの街は馬でも半日ぐらいはかかるのよ」

「…………………え?」


カナの言葉にちょっと待て、とでも言う様にリュースは足を止めた。そして三人を振り返った。その形相はまさに悪魔にでも憑りつかれたような表情だった。


「知らなかったのか」

「だ・か・ら!!俺はアーネス村近辺の土地勘しかないんだっての!!」


アルベルトの率直な言葉に思わずリュースは突っ込まずにはいられなかった。見た目の割にとんでもない天然を出してくる時がアルベルトにはあった。まさに今がその状況だ。


「っはは、お前さんらのやり取りを見ると痴話喧嘩にしか見えんな」

「なっ!?あんたも傍観してないで何とか言ってくれ!」


「俺は面白いもんが見れればそれでいい。今これを止めたら、それがなくなるじゃろうて」

「あんた、見た目通りの性格だな…」

「褒め言葉として受け取っとくぜよ」


「もう、いいから早く行くわよ。こんなことをしてたらいつクロムの街に着くか分からなくなるわ」


カナの言葉に三人は、母親に叱られた子どものように頭を項垂れて再び旅路を進む。




―――――――

(リュース………我が愛する息子…………)


「えっ?」


暫く四人で歩いていると、ふと何かが頭の中を過る。それは自分を呼ぶ声のようにも聞こえた。女の声だ。


(まぁ、気のせいか……)


後ろをついてくる三人には気付かれないように一人考えたが、誰も居る気配がなかったため気のせいだと思いすぐに忘れることにした。それから先程のような声は暫く聞こえなくなってしまったためそのまま長いクロムの街までの道のりをただひたすらに歩いて行った。

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