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神獣

ハイマレの森まではクロムの街から約50キロ程の場所にある。この辺りでは有名な魔物の巣窟地だ。


「魔物には備えておけ」

「はい」


陽が大分上り始めた頃に出てきた為、ハイマレの森に着いた頃には陽が傾きつつあった頃だった。

二人はハイマレの森に足を踏み入れたものの、外の世界とは異なり、どこか冷たい空気を感じる所だった。


「ここが、ハイマレの森ですね」

「お前は初めてだったか?」

「はい。私はずっとアーネス村を任されていましたから…」


「ここは魔物の巣窟で、かなりの生息数が確認されている場所だ。今までは、人間を見ても滅多に攻撃などしてこなかったのだが……世界の状況を鑑みると、攻撃してくる可能性も十分にある」


神聖な場所なだけに、魔物も清気を帯びてかなり落ち着いていたようだ。人間も上手く共存社会を形成しようと尽力していただけに攻撃的になることも決してなかった。



「神獣も居るのでしょうか…」

「神獣は魔物の支配者だ。我々が足を踏み入れても襲ってきたりしないということは、恐らく神獣の手が入っていると見てもよいだろう」


魔物は支配者を失うと己の自我も失い、本能のままに敵を攻撃し始める。下手をすれば魔物同士で殺し合うということも当たり前のように起こりうるのだ。


「カナ、フィールドの展開を」

「はい。開け、リサーチフィールド」


カナが杖の先を地面に向けて言葉を発すると、それに呼応するように半径10キロ範囲方陣が敷かれる。これを使えば、魔物の位置やアイテムの位置が特定出来るのだ。これで魔物の襲撃があってもいち早く術者であるカナの元に情報が届く。


暫く二人は無言のまま奥地へと足を踏み入れていく。かなり足場は草で生い茂って伸びて弛んだ茎が足に絡まってなかなか進みにくい地形をしている。


「リュースは、大丈夫でしょうか?」

「心配か」

「はい、ここで何かあっても困りますし……」


ふとしたカナの言葉にアルベルトは深くは口を出さない。だが、彼女が他人をここまで気遣うのは久々に見た気がする。そこに成長を見ているような気がして、彼としては少し微笑ましいとまで感じた。


「っ!?教官、早速魔物の気配を……」


突然カナの足が止まり、辺りを警戒する。どうやら一方ではなく周囲を囲まれているようだ。


「応戦しますか?」

「相手の出方を見る。ここで敵とみなされては面倒だ」

「了解」


二人は暫く魔物の動きをじっと待った。しかし、リサーチフィールドで感知した位置から一向に動く気配はない。


「魔物に動く気配はありません。どうしますか?」

「ならば、暫くこのまま待機だ。時間が経てば、我らを敵ではないと認識して引いてくれるだろう」


アルベルトはそう言って持っていた武器を地に投げた。


「きょ、教官!?」

「黙って見ていろ」


どうやらさすがに自暴自棄になったというわけではないようだ。カナは大人しく黙って立っていた。


「これはこれは……。随分とお手柔らかな客人じゃのう」


森の静寂の中を誰かがスタスタと歩いてくる。陰っていてよく見えないが、声色と陰の大きさからして長身の男だ。


そして暫くすると、ついにその姿が二人の目にも映る位置まで近づいてきた。


そこにいたのは、緑が勝った青い腰までもある繊細で美しい長髪を靡かせ、前髪で左目を覆い隠した端麗の青年だった。しかし、金色に輝くその鋭利な瞳からは、人ならざる気配すらする。服装は質素な布地服だが、ただの人間が放つオーラではない。どこか神々しさがあった。


「お前が神獣か?」


「ほぉ、俺のことを知っちょるるとは……。茶髪の短髪兄ちゃんも侮れんのぉ」

「じゃぁ、ホントに……神獣!?」


カナの驚きようを見て青年はカッカッ、と笑って見せた。どうやら自分達を襲撃しに来たわけではない、という考察は当たっていたらしい。


「しかし、茶髪の兄ちゃんも、人間には見えんがな……。この俺の六感は騙されんぜよ」

「……………」


青年の言葉にアルベルトは黙り込む。


「それにしても、あなた、名前は?」

「おぉ、そうじゃった。ってか、神獣に対して馴れ馴れしくないか?お嬢さん?」


そう言って青年はカナにぐっと距離を詰める。カナは思わず背筋に冷や汗の出る感覚を覚えて後退りするが、それもからかっての行動なのか、また声を上げて青年は笑い出す。


「何、冗談じゃき。堪忍してくれな。俺の名前はリズヴァーンじゃ。お前さんらの察しの通り、この俺がこのハイマレの森を守護する神獣じゃ」


そう言って、リズヴァーンははだけた胸にトントン、と拳を打った。想像していた神獣の姿とは大いにかけ離れているが、そこは最早気にしてはいけないところだろう。


「私はカナ・ファルツです。そして、こちらが………」


「知っとるぜよ。リ………」

「アルベルト」

「………成る程。今はそう名乗っとるんか」

「……神泉の水辺に生えている幻のキノコが欲しいのだが」


アルベルトは早々に話を切り上げて目的についての話をする。リズヴァーンは何かを察知したように不敵な笑みでこくりと頷いた。


「成る程な。どうも怪しいと思っておった。昨日の男の仲間かなんかか?」

「昨日の……男……?」


そう言えば、昨日ここに来た男が一人音信不通になったと言っていた。それもついでにこなすために二人は今ここにいるのだ。キノコ採取と神獣のことで頭が一杯だったカナはそちらの目的を忘れていた。


「その男と我々は一切の関係を持たない。私たちはある少年を助けるためにキノコを求めて来たのだ」


「ほう、それは興味深い。一体何から救おうと言うんじゃ?」

「呪詛だ」

「呪詛?人間の子供に呪詛か……。そりゃ、諦めた方が良いぜよ。呪詛なぞ受ければ、子供の身では数日と持たんじゃろ」

「そいつは人間ではない。お前と同じようにな」


アルベルトの一言にリズヴァーンはさらに興味を示した様子だ。その言葉を聞いた瞬間、心が決まったのか、意外な言葉が返ってきた。


「よし、いいじゃろ。俺が協力しちゃる」

「え?」

「面白そうじゃ。一つくれてやるぜよ。ま、あの男ももう開放してええじゃろ。おい、お前さんら、あの男を連れて来んしゃい」


リズヴァーンが周囲に呼びかけるように話すと、周囲に控えていた魔物がすぐさま動き始めた。


「本当に、魔物の王様……なのね、あなた……」

「何じゃ、疑ってたんか?」

「いえ、別に…そういうわけじゃ、ないけど……」

「何じゃ、そう思ったならそうと言ってくれれば良いんじゃがな…」


リズヴァーンは冗談めかしく笑う。何とも表情から心境が掴めない男だが、仲間となってくれれば心強いことは間違いない。


「オリジンは良いのか?それにここの魔物達も」

「オリジンなぞ知らんぜよ。魔物らは自分らで何とか出来るはずじゃ。俺の見様見真似で対応力は付けておるからの」


ふて腐れた表情ではあるが、彼は魔物達を家族同然に思っているのだろう。その表情は嘘偽りのない澄んだ表情だ。


「では、キノコはいただく。かなり急ぎなのでな」

「あいよ。キノコは俺が持っちょるから大丈夫じゃき。さっさと行くぜよ」


「神獣の姿にはなれんのか?」

「お前さん、今俺に乗ろうとか考えたじゃろ……。それは無理じゃ。神獣は主君と認めた者にしか背は預けぬ生き物。仮に俺がお前さんらを信頼できる仲間とでも思えるようになれば乗せることも出来るんじゃがな」

「………残念だ」


アルベルトはあからさまな溜め息を吐いた。


(教官って、結構おっかない性格してるわよね……)


そんなアルベルトを横目に、カナはそんなことを思ったが決して口にはしなかった……。

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