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みじん娘っ!  作者: スタイリッシュ土下座
11/12

ほうかい

「フハハハハ!逃げ惑え!愚民共よ!」

 彼によって引き起こされた異常現象は更に広がりを見せ、多くの命が犠牲になっていく。流石の僕も地面に這いつくばり、暴風雨を耐えることしかできなかった。

「どうした?先程までの威勢はどこへ消えたのだ?人間!」

「黙れ!お前のような邪悪に負ける訳にはいかないんだよ!」

「こういち!」

 突然響いた声を聞き、僕は咄嗟に振り向いた。そこにいたのは仁子、福利、そして緑ちゃんだった。このままではまずい、怒りの矛先が彼女らにも向かう可能性が出てきた。何としてもそれだけは避けたい。

「お前ら!?何やってんだよ!?早く安全な場所へ逃げろ!」

「でも、こういちだけおいてにげれない」

「いいからさっさと逃げろ!」

 僕は何度も警告を繰り返したが、構わずこちらへ進んでくる。絶対絶命。

「どこを見ている?人間!」

 僕は目線を戻し、見上げた瞬間、彼が目の前に瞬間移動していた。僕は天高く蹴り上げられ、首元を掴まれた。息ができない。首を強く握り締められながらも、蹴り上げられた痛みを感じていた。

「こりゃあ丁度いい!折角お前の娘達がいるんだ!見てもらおうじゃないか、お前が苦しみ悶える姿をな!」

 そう言うと彼は僕の腹に1発、2発と剛腕を響かせた。あまりの激痛に僕は情けない叫び声しか出せなかった。

「やめろ!こういちはなにもわるいことしてない!わるいのはおまえだ!」

「自分が正しいと思ってやっているのだろうけど、アンタのやってる事は共食いするドブネズミ以下よ」

「もう……止めてください!いくらゲノム様とはいえ、そこまで光一様に危害を加えたら、もう2度と善には戻って来れません!」

「五月蝿い!お前ら微生物がこの私に向かって偉そうな口を叩くんじゃない!」

 そう言ってもう1発、腹いせに僕の腹に拳を食らわせた。僕の口元から鮮血が流れ落ちる。意識が朦朧とし、何も考えられなくなっていた。その中で僕は遠い所に住んでいるおばあちゃんを思い出した。両親が共働きで、いつも遊んでくれたおばあちゃん。お腹が空いた僕におやつを用意してくれていたおばあちゃん、僕の事をいつも考えてくれていたおばあちゃん……。僕は何故、走馬灯を思い起こして泣いているのか。口から血を吹き、あばら骨を何本か折られたというのに、どうしてここまで安らかな気持ちになれるのか。僕は今、死を受け入れようとしている。ただ、最後に一つだけわがままを言えるとするならば、せめてもう少しだけ、生きたかった────。

「止めだ!」

 彼が怒号を発したその時、奇跡は起こった。彼の背中辺りが急に爆発し、僕は彼の手元から離れた。意識が戻ったのは、仁子達に受け止められて数分後の事だった。

「……う……いち……こういち!」

「仁子……お前……!」

「こういち!いきてた!」

「全く、余計な心配かけさせないでよ、光一くん」

「でも応急処置が効いて良かった……しばらくこのまま安静にしておいてください」

 僕は安静にするよりもどうしても気になることがあった。口が動かしにくいが、福利に問う。

「それより、アイツはどうなった?それにあの爆発は一体何なんだよ」

すると、福利は一つのトランシーバーを僕に向けた。その声の主は……。

「全く、お前はいつも全部1人で背負い込みやがって、もっと俺を頼れよ」

「お前は……山中!」

 聞き慣れたその声に僕は驚きを隠せなかった。まだ希望は残されている。僕は彼にあの爆発の正体を聞いた。

「そりゃ決まってるだろ?お前がピンチで世界の終わりが近づいてるってことを軍に伝えたら、軍用ヘリ貸してくれたんだよ。それで、不意打ちでアイツにミサイル食らわせたらドカン!だ」

「だからお前……!どこの軍だよ……!」

彼の軽すぎる言葉に僕は一粒の涙を流した。どうやら僕達の希望は山中に託されたようだ。

「とりあえずお前らは安全な場所でターゲットを見張ってろ、あの生体神とやらは俺が撃退する」

「了解、山中!」

「フン、屑だけどやる時はやるものね」


「ぬぅぅ……!人間ごときがこんな破壊力の高い兵器を作りおって……!解せぬ!」

 瓦礫の中から空へ舞い上がった彼は既に軍用ヘリや戦車に囲まれていた。ヘリに搭載されたスピーカーを使い、山中が挑発する。

「おい、生体神だかなんだか知らねぇけど、これ以上破壊活動を続けるなら、お前を抹消する!

 ゲノムはそれを聞き、余裕そうな表情を浮かべ、嘲笑った。

「そのチンケな兵器で私を倒そうとしているのか?やってみろ、愚か者め」

「打て!一斉掃射フルバースト!」

 全照準がゲノムの方へ移ると、山中の号令により、全ての弾が発射された。しかし、彼は全ての爆撃を避け、ヘリのプロペラを破壊し、戦車に丸いくり抜きを施していた。一瞬の内の出来事だった。

「さっきは不意打ちを食らってしまったが……撃たれる方向がわかればどうということはない」


「どうすればいいのよっ!?」

 福利が叫ぶのも無理はない。世界の全てを彼の手に支配されたようなものだった。絶望している僕らにトランシーバーの通信が繋がった。すかさず僕は通信に出た。

「おう、光一か?俺はもう駄目だ。ヘリのプロペラをやられた。操縦不能でお手上げ状態だ。最後に一言だけ言っておくが、お前と過ごした数ヶ月、悪くなかったぜ」

そう言って通信は途切れた。僕からは話す気力も無かった。仁子達は泣き出し始めていたが、緑ちゃんだけは涙を流してはいなかった。

「クソっ……だからアイツは屑なのよ……!」

 悲しみというよりも、今まで厳しくしていた分、やるせなさや怒り、憎しみが残っていたのだろう。そんな彼女を見て、僕は無言で立ち上がった。

「光一さん……もしかして、ゲノムに立ち向かおうとしているのですか?」

「勿論だ」

「そんなの無理ですよ!軍用ヘリや戦車でさえ、一網打尽にされたのに、負傷している貴方が倒せる訳がない!」

 彼女の悲痛な訴えに僕は息を吸い、声を張り上げた。

「違う!!!僕の親友を殺されたんだ!!!このまま黙って引き下がれるか!!!」

 僕の中で何かが切れた音がした。心の奥はドス黒く、まるで沸騰し続けたマグマが火口から噴出するかのように残忍で凶暴であった。僕は何も考えずに廃墟と化した街を走り、彼を大声で挑発した。

「おい!お前のお望み通り出てきてやったぞ!さっさとこっちに来やがれ!卑怯者!」

 瞬間、彼は僕の目の前に現れ、首を強く握り締めた。確かに苦しい。だが僕には秘策がある。

「今更お前のような雑魚に興味はない、消え失せろ!」

 彼が台詞を吐き、攻撃に移った瞬間、僕は瞬時に注射器を取り出し彼の腕に注射針を差し込んだ。全ての成分を入れ終わったと同時に彼は僕を引き離し、宙に舞う注射器を破壊した。

「お前……私に今何を打った!?」

「さぁね、自分の身体に聞いてみろ」

 薬品を打って数秒経った時、彼の身体が膨れ上がり、今にも破裂しそうになっていた。

「お前……まさか!"栄養剤"を打ったのか!?それも、即効性の高い物を!?」

「あぁ、ご名答だ。元々生体神というのは他の生物よりも生命エネルギーが強く、その分体内でコントロールすることが難しい。つまり、少しだけエネルギーを入れてやるだけで、体内でのコントロールができずに、そのまま破裂する!お前が虐待した、福利のお姉さんから教えてもらったんだ、お前の弱点を!」

「貴様……!私の身体を弄ってタダで済むと思っているのかぁぁぁぁ!!!」

 彼は僕を殴り殺そうと試みるが、身体が思うように動かず、そのまま肉体ごと崩れ落ちてしまった。

「山中……お前の敵、取らせてもらったよ」

僕も捨て身の切り札だったので、疲れからかその場に倒れ込んだ。

「こういち!だいじょうぶ?」

「光一くん、なかなか格好良かったじゃない……見直すわ」

「これで、本当に……本当に!」

「あぁ、僕らは平和を取り戻したんだ」

 これで長く苦しい戦いが終わる……そう思っていた時にまたしても、僕達に悲劇が訪れた。突然、仁子の肩を細長い光線が貫き、彼女は苦しむ暇もなく、血を流しながらその場に倒れ込んだ。恐る恐る光線が放出された方を振り向いた僕は声にならない叫びをあげていた。宿敵の黒い影は、まだそこに立っていた。

「私を栄養剤程度で倒せると思っていたのか?やはり貴様は愚か者だ」


「うわああああああああ!!!!!」

 万策尽きた。僕は悲鳴をあげることしかできない。自分が一番大切にしてきた家族を守ることすら叶わなかった。大いなる存在を相手に恐怖で身は震え上がり、怯えることしか出来なかった。

「光一……といったな?お前は凄い人物であった。超生物進化薬という薬品を作り、私の裁きに自ら抵抗し、最後まで全力で戦った。その姿勢を心から評価する」

 そう、確かに栄養剤は彼にとって毒であり、効果は抜群だった。しかし、彼の中に残っていた栄養は彼の復活に貢献してしまったのだ。そんな誰にでも考えればわかる事にも気付かなかった僕はおそらく、人類史上最低の生物科学者だ。

「く……来るなっ!そうだ……僕が悪かったんだ!何もかも僕のせいだったんだ!許してくれ!」

僕はここで遂に神に対する屈服という言葉を覚えた。最早そうすることでしか自分というものを保つことが出来なかったのだ。

「やれやれ……最後まで私に抗ってくれればどれだけ名誉な事だったか……もういい、お前は……!」

「うわああああああああ!!!!!」

「用済みだ」

 僕は確実に首を切られた……はずである。何故か彼の攻撃は喉元数mmの所で止められていた。その行為は僕がヤケクソで起こした反応なのか、どうしても生き延びたいという生存本能が働いたのかはわからない。僕の中に熱い闘士が湧き上がる。

「貴様……!やりやがった!」

 『超生物進化薬』。彼が攻撃を始めた時、咄嗟に僕はそれを懐から取り出し、自動的に頭上から残っていた薬品全てを被ったのである。すると数秒も経たない内に僕の身体が光り始めた。それは今までの僕を全て変えてしまう、進化の光だった。

「例え僕がどうなってしまっても構わない……今までの僕の全てを賭けて、お前を倒す!」

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