にちじょう
「貴方の幸運をお祈りしています」
突然人が変わったように占いを始めた福利の姉、彩香が予知したのは僕達の破滅の未来だった。
「助かる道は……ないのか?」
「運命を受け入れなさい。私から言えることはここまでです」
「対処法も教えないとかあまりに無責任じゃないのか?」
僕が言葉を返すと、彼女は悲しげな表情になった。
「行きなさい、貴方には大切な子達がいるはずです。守ってあげなさい」
どうやら聞けることはここまでらしい、僕は言葉に従って、家に帰ることにした。
「こういち、おかえり」
「ただいま仁子」
「お帰りなさいませ、ご主人様」
「またお前は改まって……ここはメイドカフェか何かか?」
依然として変わらない僕達の日常が引き裂かれるなんて余程のことがないと有り得ない。やはり彼女の言っていたことは間違いだ。僕の中で起こった不安を自分自身でかき消した。
「さぁ、2人とも久々に買い物行くか」
「「わーい」」
無邪気な彼女達の声に僕は安心する。いつかこの娘達も少しずつ大人になっていくのかと思うと、少し寂しい。感傷に浸っていると、携帯電話が鳴ったので、慌てて出た。
「もしもし」
「身上!お前また今日の講義もサボりか?今何やってる?」
「あっ、忘れてた!すみません、すぐ向かいます」
「あっ、忘れてたじゃないんだよ!お前にどれだけの期待をかけていると思っているんだ!数日前にも山中と2人で怒られたばかりだろう!あんな奴と絡むくらいなら大学辞めちまえ!」
「本当にすみません……」
「わかったらさっさと来い!」
またしてもガチャン、と電話口にまで響いた。どうやら、仁子や福利と一緒に買い物に行く時間も無いらしい。
「ごめん、2人とも。今日は大学へ行かないといけないんだ、ごめんな」
「こういち、気をつけてね」
「私からも、ご武運をお祈りしてますわ」
彼女達の優しさに心を打たれながら、急いで大学へ向かった。早く行かなくては教授に怒られる。慌てながら通い慣れた通路を進んだ。
「あそこの角を曲がって……痛っ!」
僕は大学まで残り数kmの曲がり角で人とぶつかってしまった。何故こんな時に限ってぶつかるのか。僕は相手の顔を見上げたが、その見覚えのある顔に絶句した。
僕とぶつかった相手はどうやら人ではないらしい。
「お、お前は……!」
「やぁ、久々だな。愚かな人間よ」
「ゲノム!?お前、何の為にここに来たんだよ」
「何の為って決まっているではないか。お前のその進化薬、少し研究材料として持ち帰らせて貰うぞ」
「断る!」
彼は予想外の反応だったのか、少し驚いたような表情を見せた。どうやらすぐに僕が手放すと思っていたらしい。
「お前、確かに聞いたぞ。生体神規約第24条:生体神はいかなる場合でも、生体の行動を制限したり、生命の破壊活動を行ってはならない!お前のやっていることは進化以前に生命の存在を侮辱している!」
「五月蝿い!そんなもの、どこに証拠がある?言ってみろ!」
「僕の友人から聞いた」
僕の言葉が余程滑稽だったのか、彼は吹き出した。僕は依然として真剣に奴と対面している。
「ハハハハハ!面白い餓鬼だ!友人から聞いただけで証拠になるとでも言うのか?お笑いにも程があるぜ」
「その友人はお前によって生み出され、失明し、お前に魔術で酷い仕打ちを受けたと聞いた!これも全てお前がやったんじゃないのか?これは重大な規約違反だ!」
「黙れ!お前に崇高なる私の何がわかる!往生際の悪い糞餓鬼が、今に思い知らせてやる!」
そう言うと彼は空へと舞い上がり、何やら呪文を唱え始めた。すると辺りは一変し、地面が割れ、空は赤く煮えたぎり、大雨が降り、雷が鳴り始めた。僕も何とか立っていられるのがやっとである。
「お前の言う思い知らせるとは、この程度か!暗黒卿!」
「ほざけ!お前は神を侮辱し過ぎた。さっさとお前の進化薬を寄越せ。さもなくば、この街ごとお前を葬る!」
激昴する彼に僕はますます怒りが湧いてきた。こいつを絶対許す訳にはいかない。僕の中に熱い何かが煮えたぎっていた。
「嫌だっつってんだろ!やってみろ!この腐れ外道が!」
「この野郎……!」
彼の怒りは頂点に達した。瞬間、僕の住む地域だけでなく、彼の破壊活動が更に広がりを見せた。彼の高慢が何も関係の無い人々まで巻き込んでいく。それは時間を追う毎に激しくなり、最早誰も手がつけられない程の天変地異と化していた。
「さぁ、崩壊を始めようか」




