⑦
「話は終わったか?」
一服を終えたらしく、そう話す店長からは少しタバコの臭いがした。
「終わったよ、優。それでね、栞お姉ちゃんから提案なんだけど・・・」
アリスちゃんはさっき私が提案した内容を説明する。それを聞いた店長は「へぇ・・・」と一言呟き、じっと私を見つめる。静かに見つめるその揺らぎの無い瞳はまるで作り物のようで美しく感じた。
「なるほど・・・分かった、そいつでいってみようか」
「えっ!?」
すんなりと私の案が採用されてしまい、思わず声を上げてしまう。
「あの、いいんですか?私みたいな素人の意見で」
「素人も玄人ないさ。今この中で君が一番冷静にこの本を見ることができてる。それで理由は充分さ」
ストレートにそう言われたので、少し照れてしまう。
「それじゃあ仕切り直しとするか。悪いが橘さんにはもう少し付き合ってもらうよ」
立ち上がり身支度を始める店長。アリスちゃんも橘さんに声を掛け立ち上がる。
何が始まるのだろうと私も一緒に立ち上がって見守っていると、店長はさっき私が取り外したブックカバーを拾い上げ、そのまま私が提案した単行本5巻にブックカバーをかける。ただそれだけのありふれた行動だったが、その本は何か意味を持つかのようにうっすらと光りだした。
目的のシーンがあるページを開き、間に栞を挟み込むと準備が完了したようで、店長は私に問いかける。
「さて・・・俺達は今から行くが、君はどうする?」
「私も・・・行って良いんでしょうか?」
「君が今回の作戦の立案者さ。その権利がある。君が行きたいというなら止めることはできないさ」
そう言って店長は私の返答を待っている。他の2人をチラっと見ると、アリスちゃんは私が次に何を言うのか分かってみるみたいで、ニコニコと笑顔を向けてくる。橘さんも特に異論はなさそうだ。
ほんの1,2週間前に意を決してアルバイトを始めた私だったが、さらにこんな選択を迫られるとはあの頃の私には想像できなかっただろう。
ただ前と決定的に違うのは不安などは無く、子供の頃によく感じていた純粋な好奇心で胸の中は一杯だった。
「私も行きます!連れていって下さい!」
その言葉を聞いてニッと笑う店長。ポンと私の肩を叩いて、本の中に入る手順を説明し始めた。
「いいか?別に大したことはない。こんな簡単ことは誰にでもできる。そこのちびっ子でもできることだ」
「ちょっと!それ誰のこと!?」
むくれる姿も可愛らしさのせいかあまり迫力がないアリスちゃん。どうやら店長に言われたことが気に障ったのだろうか、まず最初にお手本を見せてくれるらしい。
「じゃあベテランのあたしがお手本を見せるから、よ〜く見ててね、お姉ちゃん。」