④
店の中へ不法侵入、もといお邪魔すると予想通り薄暗い空間が広がっていた。
スマホの明かりを頼りに周りを見渡すと、入り口近くにキッチン、奥には茶の間と2階へ続く階段が確認でき、そのどちらにも人の気配が感じられなかった。
(早く終わらせて帰ろう・・・)
家具や雑貨に触れ、動いてしまえば住人に余計な気を使わせてしまうと思った私は、それはもう慎重な足捌きで部屋を進んでいく。
何とか部屋の奥の扉にたどり着き、さらにその先のレジカウンターでお目当てのプリントを見つけた。
(あぁ、これでやっと帰れる)
作戦を完遂し、やって来た道のりを戻る。このまま無事に帰れば、ちょっとした冒険で終わっていただろう。
だけど、行く時と同じように慎重に歩いてきたつもりだったが、目的の物を見つけて安堵し、どこかで油断していたのだろう。茶の間に中央に鎮座するちゃぶ台に思い切り足をぶつけてしまう。
鋭い痛みに声を上げそうになりながらも、何とかちゃぶ台を元の位置に戻し終えると、1冊の本が畳の上に落ちているのが目に入った。足をぶつけた際にちゃぶ台の上から落ちたのだろう。
(・・・何だろ、この本?)
普通であれば、気にせず元の場所に戻すだけなのだが、私は妙にその本が気になった。
ブックカバーがかけられた、その本はさっきのスマホの明かりに反応したかのように、薄暗い中ぼんやりと輝いていたからだ。
ペラペラとめくって中身を確認する。本の中身は恋愛漫画だった。
(あ、これ懐かしいなぁ)
数年前に大手漫画雑誌に連載され、人気のあった漫画だったので、もちろん私も結末まで読んだことがある。内容は主人公の女の子と男の子達とのラブコメディで、ベタな内容だけど魅力的なキャラ達だったので、あるキャラには熱狂的なファンができるほどであった。
(でも、ラストは結構批判があったんだよね)
恋愛漫画の宿命で異世界とかでもない限り、ラストは1人の男の子と結ばれなければならない。
問題はその時結ばれたキャラが、人気投票ではあまり奮わなかったキャラだったのだ。
(その辺は作者の匙加減だし、一応メインキャラだったから問題は無いと私は思うけど・・・)
ついつい懐かしさに浸り、暗がりの中ページを読み進めてしまうが、何故かしっくり来ない。記憶の中の内容と目の前にある漫画の内容が一致しないのだ。
本当ならこの場面は主人公の女の子と結ばれるはずの男の子の2人きりのシーンのはずだけど、この漫画では2人はすれ違っている。
「あれ?こんな内容だっけ?」
思わず口に出てしまうが、登場する人物の絵のタッチなどに違和感は全くない。
やっぱり自分の記憶違いだろうか?
それとも、かなり絵が上手いファンが作者に似せて書いた作品?
そう思い表紙の巻数や作者を確認しようとブックカバーを取ると目の前にカッという光が見え、思わず本を落としそうになる。
次の瞬間、私の目の前には非現実的な光景が広がっていた。