③
店長から早引けを言い渡されて、私は上の空で帰宅していた。
冷静になって考えると合点がいかない部分が多い。アリスちゃんは取り寄せと言っていたけど、取り寄せならば取り寄せる本を聞き取った後はお客に帰ってもらって、後日受け取りに来てもらうのが筋じゃないのだろうか?
(まあでも、あの本の内容では難しいの・・・かな?)
出版社も作者も分からない本では仕方がないのかもしれない。それでも私を早く帰らせる理由はあるのだろうか?そもそも店を閉める必要は?時間がかかるのであれば、むしろ店番の私は必要だろう。
物思いにふける私をスマホのバイブレーションが引き戻す。友達からのメールだ。
『明日の課題もうできたー?今回マジやばいから明日の朝、写させて!(人ゝω・)お願ィ!!』
メールを見た瞬間、額に冷や汗が流れるのを感じた。課題を出した先生は厳しいので有名で、課題をやってないなんてことになったら、補習でしばらく放課後は教室に縛り付けられてしまう。そうなれば先ほど店長と冗談交じりに話していた約束すら守ることができなくなってしまう。
もちろん課題をやっていれば問題は無いし、私もそのつもりだった。
だが、肝心の課題のプリントはさっきまでいたあの店に置いてきてしまっていた。
(ああ、もう!ほんと、どんくさいなぁ・・・私)
自分に少し苛立ちを感じながらクルッと踵を返してお店へ向かう。
見返し堂はあまり活気のある店ではなかったが、店を閉めるとその印象をさらに加速させていた。
ひっそりと佇む姿には少し不気味さすら感じる。今が夜ではなくて本当に良かったと思うが、私は別の問題に直面していた。
先程から返事がないのである。
それはもう、声を上げようが、扉を叩こうが店の中から物音すらしない。
「留守なのかなぁ・・・?」
やっぱりさっきの件で図書館にでも調べ物にしに行ったのだろうか?
それとも意外と早く片付いたので、晩御飯の材料でも買いに?
結局のところ、やることがない私は自販機でミルクティーを買い、シャッターを背にしばらく腰を据える決断をすることにした。
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あれからどれくらい経っただろう?飲んでいたミルクティーもすっかり温くなる程に私は待ちぼうけを食らっていた。あまり長くなるとこちらも状況が悪くなる。
帰りが遅くなれば晩御飯にも間に合わなくなるし、親も心配するだろう。何より暗くなったこの場所にいるのを想像するとゾッとしてしまう。
しびれを切らした私は立ち上がる。
周りを見渡しても人はいないので、何とかして中に入れないかと考える。
さすがにシャッターを蹴破る力は私には無いし、窓を割って侵入するのはNGだろう。
(そうだ、裏口はどうかな?)
店の裏手に回ってドアノブに手をかけると、軋む音と共にわずかながら扉が開いた。
(ちょっとだけお邪魔して、すぐに出ますので許して下さい、店長!)
不法侵入をしているという罪悪感にかられながら私はほんの少し空いた扉の隙間に身体を滑り込ませた。