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1章

第一章街

十人十色という言葉がある。

考え・好み・性質などが、人によってそれぞれに異なるということ。

まぁ、当たり前っちゃ当たり前だ。

全く同じ人間ばかりじゃ怖すぎる。

まるでロボットみたいじゃないか。

ちなみにこれは人だけに言えることじゃない。

街も動物も風景も場所によって色々なところがある。

街の個性だ。

俺は生まれ育ったあの街が大好きで、「大きくなったらまた戻ってやる」と思ってた。

たとえ1人になろうとも。

全てを捨ててきたとしても。

俺はあの街でしか生きていけないと思った。

それほどあの街は住む人を依存させるんだ。

今日それを成し遂げる日を迎える。


地下鉄のエスカレーターを登る。

閉ざされた空間から徐々に開かれていく空間。

海の匂い、風の匂い、雨の混じった天気の匂い。

懐かしい。

小さい頃から一緒に成長してきた街。


青さが見えてきたとき、「ただいま」って言おうとした。

ただいまって・・・。

ガンっっっ!

「いってぇぇえええ!!!」

駅のすぐ側にあった電柱に頭をぶつける。

「・・・あれ??」


俺の大好きな街は確かにそこにあるのに、俺の知らないものに変わっていた。

「なにこれ…」


俺を出迎えた潮風は早く帰れと言わんばかりに俺の知らないものだった。


ふと、振り向いた視線の先に目を向ける。?地下に続く階段に1人の少女が立っていた。

「あっ・・・」

 ツインテールの綺麗な細身の女の子だった。

 胸に大きな鍵のキーホルダーをしている。

 なんだろうか。

少女「ねぇ・・・」

「あ、え?俺?」

こくりと頷く少女。

少女「あなたは・・・空っぽだね」

「は?」

少女「孤独になれた方がいい」

「・・・」

少女「またね」

そう言うと彼女は階段を降りていった。

追いかけようとした時、まるで都合の良い風が俺を逆風で邪魔してきた。

「またねって・・・」

「まぁ、いっか」




その時だった。

?「ゆーーいちろーーー!!!!」

海沿いの道路を走ってくる1人の女。


見慣れた顔だった。

 セミロングの女。

 Tシャツに短パンというラフな格好。

 いつも通りだった。

「おー!!雅ー!!元気してたか!!」

雅「ボケてないよーっ!!!」

「そりゃあ良かった」

久しぶりの再開で少しテンションが上がる。

ガンっっっ!!!

本日2回目、電柱にぶつかる。

雅「大丈夫?!?!」

幼なじみの果粉雅(はてこみやび)

俺が生まれて小三までのこの街を出るまでの期間、片時も離れたことない、というよりも離れられなかった幼なじみである。

雅「じーさもばーさも待ってるよ!ゆーちゃん来るって張り切ってお弁当八段くらい作ってるの!」

「いやいや、そんなにくえんから」

そう言いながら俺はヒヤロンで頭を冷やす。

この季節。丁度八月ごろ。ヒヤロンがどんどん売れていく季節である。

雅「だよねぇ。でもあの様子じゃゆーちゃん帰ってきたってみんなに言いまくってたかんね。?集まると思うよー笑」

「そうか、だったらさっさと行かないとね」

雅「いこいこー」

そう言って嬉しそうに腕を組んでくる雅。

正直昔からこんな感じの犬系女だ。慣れっこである。

雅「えへへー♡ゆーちゃんの匂い懐かしいなぁ」

「あんまり近づくなよ。汗臭い、つか暑い」

雅「仮にも女の子に向かってそれはないでしょーよー」

「自分で仮にもとか言うなよ」

雅「あ!てゆうかびっくりしたでしょ」

「ん?なにが?」

雅「町並み。すっかり変わっちゃってさー。ゆーがいた頃はもっと自然が多かったでしょ」

「あぁ、むしろ自然しかなかった」

雅「いや、ほんと不便だったわー」

「コンビニ行くまで自転車で30分?」

雅「いま5分くらいのところにラブホできたんだよ」

「よし行くか」

雅「ゆーちゃん持ちでね」

「行かんわ」

話は逸れたが、全く雅の言う通りだった。俺の知っていた街はなくなってしまった。

昔雅と遊んでいた海の近くのケヤキ並木だって老舗のラーメン店とか誰も人が通らなそうな道とか、少し古臭いような、よくいえば風情のある裏道とか。

そんなのが全部改装され、今はケヤキ並木の中に大きなビルが埋め込まれているし。

この街に降り立って俺が感じた違和感はこれだったんだって。

「なんか、寂しいな…」

雅「なにが?」

「俺達の街がさ・・・どんどんどんどん変わっていって。思い出がどんどん無くなってくんだよ」

雅「てかさ。結局さ、置いてきぼりなんだよね」

「どういう事だ?」

雅「街はどんどん変わってく。人の出入りも激しいから街全体が大きく動いてる。ゆーちゃんだって東京に行っちゃったし」

「それは・・・」

言いかけた。

言いかけたけど言わなかった。

そう言われて言い訳をしたくなったけど。

そんな理由なんてこいつはもうとっくに知っているだろう。

あえてまた言って同情を引きたいのだろうか。俺は。

「俺だって、行きたくて言ったわけじゃねぇよ。」

雅「分かってるよ。だからゆーちゃんも帰ってきたんでしょ?」

「まぁな」

雅「よしよし」

いきなり頭を撫でられる。

雅「ありがとね」

昔っからそう。

こいつはなんか照れくさいのか、いつも頭を撫でてくる。

恥ずかしくてたまらないのにこいつの前では受け入れてしまうのだ。

雅「ほら、だからさ。ずっとここにいるあたし達は変わらないから、なんか街に置いてかれてるなって。そういう話!!!」

俺の頭を撫でていた手をスボンで拭き取るように拭う。

地味に顔が歪んでいた。

「おい、俺の頭がくせぇのか」

雅「いや!違うよ!なんか似てたから!」

「何に」

雅「家のおじいちゃんの、加齢臭」

つまり臭いってことだよなぁァ?!?!

ガンっっっ!!!

ツッコミに夢中になり本日三回目、電柱に頭をぶつける。

久しぶりの雅との再開と、懐かしい会話と変わり果てた街、そして攻撃してくる電柱。

それだけでも結構衝撃的なのに・・・。

なぜだか俺はこの街に来てそれとは違う違和感を何か感じていた。

「・・・なんか忘れている気がする」



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