リズムの変遷が、そのまま音楽の歴史なんだって誰かが言ってた。
長いようで短かった今日の授業も、これでおしまい。
ささっと4時限目を終わって早く放課後になってほしいな、なんて考えていると。
入ってくる我が2年B組の中年先生。
「はい、座ってー。先生も初めての経験だが、ここで転校生を紹介します。」
いやいや、4時限目に転校生ってどういうシチュエーションだよ。
皆、思い思いに、このあと昼食に何を食うかとか、部活のことだとか、遊びにいくことだとかを考えていたのだろう。一瞬の静寂が訪れる。
そして理解が追いつくと同時にうおお!!と点く導火線。
どこからともなくビートが聞こえてくる。そう、あのリズムだ。どんだけこのクラスのやつはあのリズムが好きなのか。フレディマーキュリーの産まれ変わりでも潜んでんじゃねえのか。
「「「「「転校生!転校生!」」」」」
ドンドンパ!ドンドンパ!
・・・まったく、そんな風にしたら転校生が入りにくくなっちゃうじゃないか。みんなよしなって。太一ちゃんはそういう気配りができる男だよ。
「「「「「転校生!転校生!」」」」」
ドンドンパ!ドンドンパ!
・・・だーかーら、みんなが、こんな雰囲気にしたら転校生はもう扉をガバって開けて、バディユアエイボイ!メクエイビッノイ!って全力で熱唱しながら入ってくるしか無くなっちゃうじゃないか。そんなの可哀相だよ。まったく、まだまだお子ちゃまだなあ。やれやれ。
「「「「「転校生!転校生!」」」」」
ドンドンパ!ドンドンパ!
・・・はぁ、はぁ、はぁ、みんなぁ、も、もう無理っ!!
「転校生!転校生!・・・あれぇッ?!」
「はい、田中うるさい。次、先生に注意されたら保護者呼ぶからなー。」
先生、おいらにだけ当たり強くない?
太一ちゃんは繊細だからその辺すっごく気にしちゃうんだからねっ!ぷんぷんっ!
なんて考えているとガラッと扉が開いて転校生が入ってくる。
なんだ、男かよ。普通こういうのって美少女じゃねーのかよ。ボウズ頭で学ランをネックまで締めてる。昭和初期か。
「ええー、そしたら金子、黒板に名前書いて自己紹介してくれるか」
「はい。」
カッ、カッ!とテンポよく黒板に書かれる転校生の名前。
どうでもいいけど、字綺麗ね。俺は下手っぴだからうらやましいよ。
字が綺麗だとそれだけでちょっと育ちが良く見えるというか、賢く見えるというか、ちゃんとした人に見えるよね。
「金子拳士郎です。道に迷って遅れた。よろしく。」
真面目なのか真面目じゃねーのかハッキリしねーやつだな!
「真面目なのか真面目じゃねーのかハッキリしねーやつだな!」
「あ?て、てめーは・・・!」
やべ、心の声がそのまま漏れちった。
するとびっくりしたような顔で俺を指差す昭和転校生、金子拳士郎。
「てめーのせいで散々な目にあったんだぞエドモンド!こら!わかってんのか!」
「はあ?何言ってんだお前。俺は田中太一。両親ともに純血の日本人さ。」
「おまっ!名前も嘘か!おかしいと思ったんだ!おら!これでどうだ!」
すると、学ランのボタンを外し制服を着崩し出す金子。ん?
底が削れてくたびれたローファー、腰パン、ボタンの止まっていない学ラン、中に写るは赤いTシャツ、エドモンド・・・坊主。
うん、惜しいな。今朝ぶつかったやつにそっくりだ。そっくりだけど肝心なとこが違う。
「金髪リーゼント!・・・の双子?」
「ちっげーよ!朝ぶつかってカニクリームコロッケサンドくれただろ!エドモンドと呼んでくれとか、ふざけたこと言いやがって!」
「金髪リーゼント!・・・の金髪リーゼントは?」
「さっき職員室で丸刈りにされたんだよ。てめーのせいでこんな時間まで遅くなるし散々だぜ!」
まじかよ。街角でぶつかって、それが転校生で、一緒のクラスで。
「なんで美少女じゃねーんだよ!今すぐTSして登場し直せや!クソがっ!」
くすくす、と笑い声の漏れる我が2年B組。
さすが半主人公体質。半チャーだ。半チャー、半チャーとささやく声。
ちくしょう、いっつもこうだ。俺の守護神は、詰めがあめーんだよ。すぐ油断して大事なとこでポカしやがる。
「なんだー?お前ら知り合いかー?まあ、いいや。仲良くするように。」
わざわざ、俺の方の通路を通って席に向かう金子。すれ違いざまに俺の耳元でささやく。
「放課後、ちょっと面貸せや。」
「わかった。必ず行くよ。」
誰が行くか!ノーサンキューだこの野郎!ファッキンジャップくらい分かるよ馬鹿野郎!
必死で対策を考えてたら、4時限目の説明全部聞き逃した。ちくしょう!