色白だったり、汗っかきだったり、緊張しいだったり、くすぐったがりだったり、赤面症だったりする女の子は皆、スケベだと仮定する癖がある。
休み時間、さっきの2時限目はそれなりに有意義だったらしく皆、思い思いの人へ話しかけて打ち解けているようだ。
俺はこいつら全員にいつか仕返しをする方法を考えながら右隣の塚原さん、いや、早苗、いや、さなちゃん、やっぱり塚原さん!・・・に話しかけた。
「塚原さん、さっきは巻き込んでごめんね。」
「へ?あっ、ううん!ちょっとびっくりしたけど大丈夫だよ。田中くん?半チャー?どっちで呼べばいいかな。」
やばい。すんげえ可愛い。
『えへへ。』とタイトルをつけて大きめの美術館にでも寄贈したくなるような笑顔だ。これは、親御さんの教育が良かったんでしょう。純真な心がないと、こうは笑えませんわ。
「俺のことは太一と呼んでくれ!これからよろしく。」
「うん。よろしくね、たいちくん。わたしのことも早苗でいいよ。」
やばい。すんげえ柔らかい。
握手したこの手、離したくない。離さない。よし、とりあえず、運命が二人を別つまで握ったままとする事に決めた。
しかも、呼び方だって、太一くんじゃないからね。たいちくんだからね。親愛の情が入ってるよね。この差は大きいよ。
それにさ、いま気づいたけどこの子、声が澄んでて綺麗だよなー。
鮎が住めるよ。うん。この子の声には鮎が住める。太一印の御墨付きですわ。
「呼び捨てだとなんか偉そうだし、さなちゃんって呼んでいいかな?改めてよろしく、さなちゃん。」
「あははっ。こちらこそ。たいちくん。・・・たいちくん?」
太一ちゃん特製のアルカイックスマイルを浮かべながらじっとさなちゃんを見つめる。握手した右手は握ったままだ。だって、離さないって決めたもんね。
「た、たいちくん?は、恥ずかしいから手離して?ね?」
みつめる。みつめる。みつめつづける。
みるみる沸騰したかのように赤くなっていく、さなちゃん。こちとら気分は羊達の沈黙のレクター博士だ。どうだ、なにを考えているかわからないだろう。当然さ、俺にもわかってないんだから。
「あっ!ごめん、さなちゃん。ちょっと、この後古い友人を食事に招待しようと思っていてね。」
「へ?そ、そうなの?じーっと見てくるから緊張しちゃったよ。やだ、あたし手汗とか大丈夫だったかな?もし濡れちゃってたらごめんね・・・!」
うん、じっとりでしたよ。じっとり。さなちゃんのお手手、じっとり。
すぐに赤くなったり汗かいたりする女の子見ると、つい夜も敏感なのかしらん。なんて邪推をしてしまうよね。邪推を。
ぱたぱた、と手で顔を仰ぐさなちゃん。やっぱり涙目で少し俯向くさなちゃん。時々、様子を見ようと上目遣いで俺をチラっ、チラっと見てくるさなちゃん。くぅー、たまんないっす。
「ゼンゼンヌレテナカタヨー。」
ぽっけからハンカチを取り出してさなちゃんの目の前で念入りに拭いてみせる。
手を洗っても服で拭く派の俺は、毎朝、お袋にハンカチ持った?なんて、確認される度にハンカチなんか一生使うタイミングねーよ!と心の中で思ってたもんだが、あったよ。
俺は、多分、この時この瞬間のために幼稚園から約十数年間ハンカチを持ち続けたんだって思ったね。
「や、やっぱり濡れてたんだ!やだ、もう。恥ずかしいからやめて。」
「ヌレテナイヨ、シャチョさん、ヌレテナイヨー。」
「もうっ!たいちくんのいじわる!」
おいおいおい!おいおいおい!おいおいおいおいおい!
まじかよ!まじっすか!なんなのこの子。ほっぺたぷくーて!ほっぺたぷくーしだしたよ!
どんだけ可愛いんですか。いいんですか。こんなに可愛くていいんですか。
やばいよ、このままだと俺もぷくーってなりそうだ。可愛さのあまりさなちゃんほっぺに共鳴して、たいっちゃんおちゃんちんもぷくーってなりそうだ!
「ごめん、ごめん。冗談だよ。さなちゃんの反応が可愛いくて、つい悪ノリしちゃった。」
「かわっ!あ、あたしなんて全然可愛くないから!もうっ、からかわないで。」
「そう?そういうとこが可愛いと思うけどな。」
「ま、またっ!たいちくん!あんまりいじわるするなら、あたし怒るからね!」
「ごめん。わかったよ。じゃあ、はい。仲直りの握手しよう」
そっと手を差し出す俺。
手汗を気にしているのか逡巡しているが、仲直りの握手と言われ断れなさそうなさなちゃん。
「どしたの?仲直り、するのいや?俺の事もう嫌いになっちゃった?」
「う、ううん!そういうわけじゃない!・・・けど。」
観念したのかおずおずと俺の手を握るさなちゃん。
はーい、またもう離しませーん!
太一ちゃんアルカイックスマイルモード入りまーす!
「ちょ、たいちくん?もういいでしょ?離してたいちくん!ね?」
じわじわと再び手汗をかくさなちゃん。比例して顔を赤くするさなちゃん。左手でぽかぽか俺の右手を叩くさなちゃん。
「もう!たいちくんってば!なんで急に黙るの?恥ずかしいから離してってば!」
幸せな時間というのはあっという間だ。二人を別つチャイムが鳴る。
今の俺にこのチャイムに抗える力などあるわけもなく。
泣く泣くさなちゃんの手を離す。
明らかにじっとりと俺の右手にそれとわかるものがついている。
涙目のさなちゃん。
「たいちくんのばかっ!」
可愛い罵倒はご褒美です。
「って、あ痛ぁっ!」
誰だ、俺の内ももをつねったやつは!
って、さなちゃんか!ご馳走様です!
「仕返しだもん、べーっだ!」
小ぶりで綺麗な赤い舌。右目を引っ張る華奢な人差し指。本気で仕返ししたと思っているその初心な心。
おいおい、あんまり可愛くてクラクラしてきたぜクラリス。
やばい、鼻血出そう。
鼻血出したら流石に引かれると思いとっさに机に突っ伏す。
「だ、大丈夫?ごめんねたいちくん。そんなに痛いと思わなくって。」
さすさすと、つねった俺の内ももを撫でるさなちゃん。
そこはやばい。太一の大事なとこ、太一の大事なとこが一大事になっちゃうよ。
あ、あ、やばい。ダメだと思ったらなおさらやばい。
・・・完全に勃起している。
でも、お陰で鼻血出なくて済みそうだよクラリス。海綿体とさなちゃん、そしてクラリス・・・いや、サナリス。サナリスに感謝を。
すると、俺の一大事な大事なとこに顔を近づけるサナリス。
まじか!さすがに授業始まるしそれはやばいって!やぶさかではない!やぶさかではないけれど。やばいって!やぶさかやばい!やぶやばっ!
「ふーっ、ふーっ。いたいのいたいの、とんでけー。」
・・・。
・・・ああ、サナリス。
それでこそ僕のサナリスだ。
君のこの手汗をそら豆とソテーしてワインのつまみにしたいよ。
そっと、さなちゃんの机の上に先刻、行き場を失ったチロノレチョコきな粉餅味を置く。
満面の笑顔で嬉しそうに食べるさなちゃん。
いいなあ。俺も咀嚼されたい。
決めた!ぼく、将来はチロノレチョコになる!