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豆、というアダ名を可哀想だと思いデンプン、と改名したらブチ切れたあいつは今でも元気にやっているだろうか。

 始業式が終わり、2時限目は、新しいクラスでのホームルームと相成った。

 いやあ、大した覚悟や信念もなく始業式から遅刻なんてするもんじゃないね。ヘタにうちの高校には不良がいないもんだから、稀代の大悪党でも現れたかの如く職員室で大袈裟にこってり絞られたよ。

 先生、初日から飛ばしちゃってごめんね。ごめんね、先生。

 ホームルームでは、まずは自己紹介ということで、”あ”から順にクラスメイトへ挨拶していく。無難にまとめるやつ、滑るやつ、色々いて結構面白い。


「故あって遅れました!田中太一17歳です!よろしくお願いします!」


 とりあえず、こういうのは最初の印象が大事だ。

 ズバッと自分から潔く謝罪することで爽やかな男性だと思ってもらおう。

 すると、中学から一緒の奴らやら高校1年の時のクラスメートやらを中心に、半主人公だの半熟勇者だのバファリンの優しさじゃない方だのと好き勝手なあだ名が飛び交う。大喜利大会みたいになってきて収集がつかなくなりそうだったため、遮る。


「ちょっとぉ!みんな呼び方は統一してぇ!」


 先生、見てくれましたか?俺のこのクラス掌握術。遅刻なんて一時の気の過ちだとわかってくれましたか?ねえ、先生。わかってくれました?先生。


 すると、どこからか、半炒飯!半炒飯!と囃し立てる声が。次第にその半炒飯という産声はうねりをあげるようにクラス中に伝播して熱狂の坩堝へと化していく。


「「「「「半チャー!半チャー!」」」」」


 ・・・え、なにこのクラス、団結早くない?出会ってすぐよ?出会ってすぐで半チャーコール合唱よ?30秒とまでは言わないまでも出会ってすぐなのよ?とにもかくにも出会ってすぐよ?

 それに半炒飯で半チャーって何だよ!嫌だよ!皆から半チャーって呼ばれるの!

 つーか、初対面同士なかなか話せない状況を打開するために皆、俺を踏み台にして仲良くなろうとしてない?!完全に俺以外の皆が仲良くなるパターンのやつじゃない?!

 あ!やばい!皆、半チャーのリズムに合わせて右足、左足、拍手。右足、左足、拍手。のドンドンパ!ドンドンパ!ってやつやり出してる!クイーンのやつ!ウィーウィルロッキューのやつ!やだ!めっちゃ楽しそう!


「ちょっとぉ!俺もそれやりたい!皆の仲間に入ってドンドンパやりたい!やりたいのにニックネーム半チャーは嫌だ!どうしたらいい?!ねえ!この葛藤、一体全体あたいはどうしたらいいの?!教えて!教えてよ、先生!」

「田中うるさいぞー。席につけ。」

「あ、はい。・・・って、俺の担任、普通の中年男性じゃねーかッ!」


 素直に着席、からの強烈ツッコミ起立!!

 ずっと言いたかった!これ、ずっと言いたかったから!!ああカタルシス感じちゃう!!溜めて溜めてドン!溜めて溜めてドン!

 ちなみに人壬天堂ジンブテンドウ64のスマブラ、通称、大乱闘スマイルブラザーズのサヌス使いの俺としては飛んでって戻ってきた所を溜めて溜めてドン!するのが相手を倒す時の義務と思ってる。愛してる。

 大体、なんで、担任の教師が、ロリッ子じゃねえんだ!妖艶な美女じゃねえんだ!それか、教室で咥え煙草とかしちゃって普段は無気力だけど、普段は無気力だけど・・・


「テロリストが入ってきた時に元軍人の経歴を生かして一網打尽にしちゃう枯れたイケメンじゃねえんだああ!!!」

「田中ー、保健室挟んで精神病院行くか、黙って着席するか選べー。」

「あ、はい。すんません。」


 ごめんな、俺の次の人。めっちゃやりにくそう。メガネの似合うちょっと地味目なこの男子は、田村くんっていうのか。悪く思わないでくれ、同じ田んぼ使いとして負けるわけにはいかなかったのだ。

 一応、謝罪の意味を込めてそっとチロノレチョコのきな粉餅味を置いておいた。

 みなまで言うな、大好物なんだろ。わかってるよ。この世にきな粉餅味が大好物じゃない奴なんて存在しないのさ。


「田中くんありがとう、あ、半チャーって呼んだ方がいいのかな?」

「太一でお願い。田村くん。」

「わかった。でも僕、きな粉アレルギーだから気持ちだけ受け取っておくよ。ごめんね。」


 ・・・いたよ。まじかよ。きな粉アレルギーて。きな粉に弱いってこと?きな粉×?特殊能力きな粉×って事?

 いや、きな粉だけアレルギーなんてことはないか。つまり大豆がだめってことか。突き詰めると、デンプンがだめってことか。田村くんはデンプンがアレルギーなのか。よーっし!


「ええっ!田村くんきな粉アレルギーなの?!じゃあ、デンプン×だ。この世界が実況パワープロ野球パワプロだったとしたら特殊能力デンプン×持ちだ!」

「え、ちょ。た、太一くん?!」

「あ、そーれ!デンプン×!デンプン×!」


 ドンドンパン!ドンドンパン!


「や、やめてよ。恥ずかしいよ。」

「デンプン×!デンプン×!デンプ・・・」


 あれぇえ?!なんでぇえ?!

 なんで皆乗ってこないの?!さっきの団結感どこいった!


 ・・・。


 ・・・いや、ある意味さっきの団結感発揮してるぅう!!やっぱり俺以外の皆だけ仲良くなってるぅう!


 畜生!死なば諸共、道連れよ!

 俺は、右隣に座っている突然ひとりでウィーウィルロッキューのリズムを刻みながらデンプン×!と言い出した男にビックリした様子の女子の方を向く。


「塚原さん!ほら、塚原さんも一緒に!」

「えっ?!えっ?!えっ?!わたし?!えっ?!」

「ほら!デンプン×!デンプン×!そうだ!もっと大きく!羞恥心なんて捨てるんだ!」

「で、でんぷん・・・でんぷん・・・!ひ、ひゃい!でんぷんばつ!でんぷんばつ!」


 ・・・なにこの子、超絶可愛いんですけど。

 目立つのが少し苦手なタチなのかな?お顔を真っ赤にして涙目になりながらも胸の前で小さく拍手。俺のがドンドンパン!なら塚原さんのはモゾモゾペチン!いや、もぞもぞぺちり。だな!

 いいぞー!塚原早苗つかはらさなえ!ちょっとメガネの縁の太さとかラインが輪郭にあってなくて本当は可愛いと思われる顔の足を引っ張っちゃってるけど、それがまた俺だけが塚原さんの本当の魅力に気づいてあげられてる感じがしてなお良いぞー!その調子!気合いだ!気合いだ!


「いいぞ!早苗!その調子だ!いけ!早苗!いや、さなちゃん!さなちゃんいいぞ!さなちゃん、いっけぇええ!!!」

「田中ー。放課後職員室来なさい。」

「あ、はい。すんません。」


 2年B組、中年先生からのお達しだ。

 その後は、田村くんが無事、皆からデンプンと呼ばれることになった以外はつつがなく進行していき2時限目のチャイムが鳴った。

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