表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/31

俺はもう、揚げ物を美味しく食べるためにソースをかけるのかソースを美味しく食べるために揚げ物を食べているのかわからない。

 たったった、と軽快に走っていく俺。

 太一は走った。友のために。ってなもんだな。

 あと少し走ればすぐに2つ目の角だ。2つ目の角では一体なにが待ち受けているだろうか。


 ・・・。


 ・・・結論から言おう。


 何もなかった。

 普通、ここはもうちょっと何事かあるものだと俺も思うが、マジで何事もなかったのだから仕方ない。

 なんなら結構前の方から塀の少し上のあたりに設置されたカーブミラーをじっと見ていたから、あ、これは何事もないな。ってわかってた。ごめん。

 何事もない2つ目の角に手向けるべく、せめてもの直角ターンをお見舞いする。

 気を取り直して俺は3つ目の角に向かうのだ。

 だがしかし、ここまで走ってきた俺は、ある問題点に気が付く。そう。


「はあっ!はあっ!・・・パン咥えながら走るの思ってたよりめっちゃキツい!」


 喉の奥からヒィーヒィーと喘息のような音が聞こえるし、口元の両サイドは、よだれでもうだらっだらだ。狂った犬か、俺は。

 こうなっては致し方あるまい。

 取り敢えずこのカニクリームコロッケサンドを半分にして、両手に持って走ろう。

 そんで角でぶつかるタイミングでまた咥えることとしよう。うん、それがいい。

 まだ熱そうなカニクリームコロッケも冷めやすくなるし、何より走りやすい。一石二鳥だ。

 3つ目の角にもどうせ何もないだろう。人生はそんなにドラマチックには出来ていないのだ。中身が零れないように丁寧に半分こしながらインターバルがてら歩いて行く。


 その時だった。


「よしっ、綺麗に半分こでき、ギャアーッ!」


 ドンっ!と人とぶつかったとき特有の強い衝撃。

 舞い上がる焼いただけの食パンにただ目玉焼きを乗せただけと思われる無機質な目玉焼きパン。って、目玉焼きパン?!俺のハーフカニクリームコロッケサンドじゃない!


 この衝撃、誰かが咥えた誰かの目玉焼きパン、尻餅をつく人間。

 間違いない!これは、焦がれに焦がれ、焦がし尽くした新たな恋の予感!


 尻餅をつきながらも、俺は両手ともカニクリームコロッケサンドを死守したことに安堵しながら、辻仁成ばりのやっと会えたね。の心境になる。

 好きなオカズは最後に食べるタイプの太一ちゃんは、足元からマイソゥスウィートハニーのご尊顔を御拝見賜らんとする。


「いってえ!てめえ、どこみて歩いてんだ!!」


 瞬間、俺の脳みそにおける海馬が膨大すぎる情報量に圧倒されて処理落ちする。

 実は家庭的で一途なヤンキー娘でもなし、空手道場を営む父や男兄弟や門下生に囲まれてつい口調も男っぽくなってしまったロリっ子娘でもなし、というかどうやら女でなし。人でなし。


 底が削れてくたびれたローファー、腰パン、ボタンの止まっていない学ラン、中に写るは赤いTシャツ、リーゼント、金髪。


 金髪?!金髪リーゼントだ!産まれて初めて見たリーゼント、しかも金髪て。アニメでもあんま見たことない気がするぜ。金髪リーゼント。


 なんだろう。この豚丼と牛丼混ぜて一緒に食ったらそんなに混ぜる前と変わらなかったような感情。金髪かリーゼントかどっちかでよかったんじゃないかな。

 数学的に考えたらきっと、麦茶と焙じ茶混ぜた味覚と等しくなる金髪リーゼントの視覚。

 微妙だ。一言でいうなれば微妙だ。


「す、すみません。」


 とりあえず謝りつつも、ぶつかるという事象は、本来一人では成し得ないため、どこ見て歩いてんだ。というこの言葉はそっくりそのままこの金髪リーゼントにもトンボ帰りしてくるブーメランであるように感じる。

 なんなら、最近よく言われる歩きスマホだって正面からぶつかったのならば歩きスマホしてた奴よりも歩きスマホしてないのにぶつかった奴のほうが悪いんじゃないか、いや、善悪というよりは、ヤバイんじゃないか。と、俺なんか思ってしまうのだが、皆はその辺どうなんだろうか。


 なんて、現実逃避ができていたのもここまで。もう、言い逃れできないくらいに海馬さんが仕事を始めてしまう。男だ。だめだ。こいつ絶対男だ。だって顔が男だ。これで実は女だったとしても別に付き合いたくないし、それ以前に絶対男だ。


 我が人生、全編に悔いあり!悔いまみれだ!狂い悔いだ!くそっ、くそが!!

 ついに訪れた”道角ゴッチンコ、恋の芽生えは唐突にソースを添えて”は、シェフの砂糖と塩、チの字とマの字を間違えるという致命的なミスによって廃棄食品と化した。


「あ、てめえ堂尼化どうにか高校の生徒か?ちょうどいいや。道案内してくれよ。」


 なにが丁度いいんだこいつ。やばいよ。絡まれるよ。どういうこと?俺を人質にしてうちの堂尼化高校の番長とタイマンでも張る気か?


 どうしよう、うちの学校には番長どころか不良もいねーよ。悪さで言ったら虐められていないのにゲームやりたさに虐められている事にして不登校を演じてる森川もりかわくんが一番悪い奴な気がするぜ。


 次点が、飼ってるハムスターに自分の鼻くそ食わせて喜んでることを俺に自慢してきた海林うみばやしくんだ。


 あれ?水系統と木系統苗字が合わさるとライトフライ級の悪人になる法則でもあるのか?こうなってくると、去年クラスメイトだった水木みずきさんの人には言えない内緒の話が俄然気になってくるぜ。

 この分だと自分の大事なところにチャオチュールでも塗りたくって飼い猫にペペロペロンチーノさせててもおかしくはないな。うん、今度、加恋に調べさせよう。


 まあ、いいや!とにかく最悪の場合、森川家と海林家の住所を教えてお帰りいただくとして、ここは一か八か勝負だ!


「イエ、違いマス。僕は堂尼化西高校の生徒デス。」

「まじかよ。くっそ、どうしたもんかな。畜生。」


 なるべく本来の田中太一という存在がこの金髪リーゼントの印象に残らないようなるべく声を変え顔を変える。田中家の先祖は、かの有名な忍者の一族であり、俺がその末裔なのだ!


 ・・・なんて、事があったらいいな。と思いながら。くらえ!忍法、妖怪セコの術!


「あ、えーっとぉ。堂尼化高校ならぁ、今来た道を反対にまっすぐ行って突き当たりを右に曲がってぇ、またまっすぐ行って突き当たり右に曲がってぇ、あとは基本的に突き当たり右に曲がっていけば着くと思いますよぅ。」

「おお!さんきゅーな!」


 見た目に反して意外と爽やかだな、こいつ。

 すると、突然ぐぎゅるるるる。と目の前の金髪リーゼントから物凄い音の腹の虫が鳴る。

 頬を染める金髪リーゼント。いや、美少女じゃないくせに俺にぶつかってなんやかんやあって頬を染めてんじゃないよ。まじで。

 でも、そっか。金髪リーゼントの焼いただけの食パンにただ目玉焼きを乗せただけの無機質な朝食はもうなくなっちゃったんだもんな。仕方ない。ちょうど綺麗に半分こしたカニクリームコロッケサンドがあるのだ。ひとつくれてやるとするか。


「これ、良かったらどうぞ。」

「え、悪いな。なんか、何から何までさんきゅーな。」

「いえいえ、困った時はお互い様ですから。それでは!」


 金髪リーゼントがデレても意味ねーんだよ。こいつ、精子までタイムリープして女として産まれ直してまたここに帰ってきてくれねえかな。まじで。

 覚えられる前にさっさとずらかろうと腰をあげる。さらばだ!金髪リーゼント!


「あ、おまえ名前は?」

「へ?エドモンドです。」

「は?」


 しまったー!!偽名が思いつかなくってつい、昨晩久々に引っ張り出したらハマっちゃってぶっ通しで深夜までやり続けてたストⅡ、通称ストロークファイターⅡの俺の相棒の名前を口走っちまった!こうなったらしょうがねえ、ぶっちぎる!南無三!ゴワス!ゴワス!


「あ、いやですから、エドモンドです。木田エドモンドと申します。」

「そ、そうか。覚えとくぜ!木田さんきゅーな!」


 通ったー!自分以外全員リーチかかってる終盤でドラの伍萬牌ウーワンパイが通るくらいの奇跡!

 いやいや、忘れてください。パッキンリーゼントきゅん。


「ハッハッハ!エドモンドで結構でゴワスよ。それでは、急ぎますので。」

「おっ、おう!じゃあなっ!エドモンド!」


 ふぅーっ。朝から疲れたー。

 やっと校門をくぐると桜のカーテンがお出迎え。ちょっと冷えたハーフカニクリームコロッケサンドに舌鼓を打ちながら新学期に想いを馳せる。

 今年の一年はどんな年になるのかな。可愛い彼女と今年こそセッ・・・。


「道程を想定。その行程を調整。今年こそ俺は立つ。そうでい、俺は脱、童貞と同定!」


 おいおい、参ったねこりゃ。自然と湧き出るフロウとパンチラインが俺の今年の一年を祝福してるみたいだぜ。俺は、太一a.k.a堂尼化シティ。チェケ!ヨーヨー!マイクチェック!ワンツー!夜露死苦ゥ!


「あー、いい天気だな。こんな日は勿体無いから海にでも行きてーや。」


 あれだけのことがあったんです。時刻は、8時45分をお知らせします。

 当然、学校には遅刻した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ