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実の母親に美人とか不美人とかいう概念を持ち込める奴は先んじて服役させるべきではないか。

 ぴぴぴっ、ぴぴぴっ・・・

 男子高校生の部屋としてはそこそこ綺麗な方と言える整頓された部屋に目覚ましのアラートが鳴り響く。

 ちょっとだけ隙間の空いたカーテンからは陽の光が射し込む。どうやら今日は快晴のようだ。


「・・・うるさいなあ、いまなんじだと。ってヤバっ!おい!いま何時だと思ってんだ俺っ!!」


 ぼんやりと開けた薄目に映し出されるは、8時10分の文字。

 8時半始業なのに徒歩で20分てことは、チャリで行けば余裕・・・って、やばいやばいやばい!こないだチャリで友達と日本ダービーごっこした時にブッ壊れて放置してたんだ!


 もう、カバディやってんのかってくらいにヤバイを連呼しながら、寝癖にも構わずだいぶ馴染んだ学ランへ着替えて大急ぎで居間へ向かう。


「母さん!やばい!時間ないから飯いらない!いってくるわ!」

「だめよ!朝ご飯はちゃんと食べないと!ほら!これ持って行きなさい!あんたの好きなやつパンに挟んどいたから!」


 うちのお袋は、特に有り得ないほど美人だったり、なんかの財閥やらの娘だったり、超能力が使えたりもしない。普通の専業主婦だ。街の何処にでもいるただのおばさんだ。なんてこった。


 たまに見かける、よく姉と間違われるうちの母は〜、なんてのは実際にあり得るんだろうか?

 今、俺が17歳で、お袋が超絶美人だったと仮定して16歳で出産したとすると今、大体33歳くらいってことか。微妙にあり得るっちゃあり得るか。

 つっても、33歳と17歳が並んでたら流石に若い親子だと一発で分かるだろうな。

 一応、お姉さんですか?って言っとけば間違いないだろう。という社交辞令の元にこの、姉と間違われるうちの母という空想上の生き物は存在しているのかもしれないな。


 でも、もしお袋が常に和服を着てるような超絶美人で、太一さん、お母様ずっとひとりでお家に居て寂しいから早く帰ってきてくださいね。なんてちょっと俯き気味からの濡れた上目遣いで左手の小指をキュっと握られたりなんかしたら最高だよな。たまんないっす。超絶美人の母親たまんないっす。


「ほら!なにぼーっとしてんの!さっさと行ってきな!」

「わかったよ、お母様。・・・って!ババアじゃねえか!」

「ああん?!ぶち殺すぞクソガキが!さっさと行ってこいって言ってんだよ!」

「おわ!間違えた!ごめん、間違えた!行ってきます!」


 背後から聞こえるお母様、いや、ババアの方の母親のハンカチ持った?と、まったく誰に似たんだか、のダブル呟きを背に感じながらスニーカーを履いてダッシュする。


 あれ?っていうか、今の俺めっちゃ主人公っぽくない?

 遅刻しそうな時間帯、新学期初日、学校までの曲がり角は全部で3つ。全ての条件は揃ってる。あとはぶつかるだけだね!まだ見ぬ太一ちゃんのマイスウィートハニー!


 よーっし!太一!いっきまーす!・・・なんてスニッカーズよろしく、勢いよくババアに授けられた食パンサンドをかじる。これが良くなかった。


「熱っ!あっつ!なにこれ!熱っ!!焼き石挟んだんじゃねえのか!熱過ぎだろ!」


 中を見ると食パン、キャベツの千切りに包まれた揚げたてのカニクリームコロッケが。


「確かに大好物だけどさ!朝急いでる人に渡すもんじゃないよね!」


 もう、なんならグツグツと沸騰してるんじゃないかってくらい湯気が立つ。すごいな、カニクリームコロッケとその中に熱を閉じ込めるお袋の揚げる技術。


「て、やばい!そんなことに感心してる場合じゃない!とりあえずパンのとこ咥えて走ろう。」


 そんなこんなで一つ目の角に到着。いざ、行かん!魅惑の通り角へ!

 ・・・と思ったらちょうど小学生の集団登校の班が。

 うん、先頭の女の子は6年生の班長さんかな?

 先んじてタイミングを制されたことから、まさかこちらから無理矢理ぶつかる訳にも行かず。なんとも言えない笑顔でその班を見送っていると5人からなるその登校班から一斉に朝の挨拶を受けた。すごい声のでかさだ。


 これはポケモノ、通称ポケットモノローグの世界だったら攻撃に分類されるんじゃないだろうか。一斑の攻撃。あさのあいさつ、効果は抜群だ。80のダメージ。みたいなね。

 でも、確かに小学生の頃って声のでかさと硬筆の筆圧の濃さに全身全霊をかけていたっけな。これから君たちには色んな苦難が待ち受けていることだろう。頑張れよ、若人よ。


「あ、うん。おはようございます。」


 ぼそぼそと挨拶を返す俺。純真無垢な小学生たちと同じテンションでは返せなかった。だって思春期だもの。

 君たちはこんな高校生になっちゃだめだよ。そんな祈りも込めた所で気を取り直して快調に飛ばしていく。


 俺の道角はまだ始まったばかりなのだ!

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