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スーちゃんは俺の嫁  作者: 赤砂多菜
三章 虚本偽書がもたらすもの
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69.新たな形と齎された力

69.新たな形と齎された力






 道が見えた。空中を走る道。

 薄く々々、見逃してしまいそうな、しかしはっきりとその存在を感じた。

 道は直線から、上下左右、彼女の意識にしたがって変化する。

 そして。


 槍を構えたヘイトワスプが二体並んで槍を突き出すが、道を蹴ると力を込めずとも飛ぶように二体の頭上を飛び越える。

 そして、着地と同時に振り向きつつ回し蹴りを放つ。

 一人(・・)だった時とは違う、足から伝わる重い感触。


 直撃を受けたヘイトワスプの胴は砕かれ、もう一匹は味方の体と背後に現れた障壁によって挟まれ、潰される。どちらも即死だった。




 魔力の自力で出せる限度近くになり、諦めないという信念が揺らぎかけた時にそれは起きた。


 ≪リズの職業がエリアルストライカーに変更されました≫


 唐突な職業変更。

 だが、それ以上に驚愕したのは習得したスキルだった。


 ≪【風魔法:浮遊】を習得しました≫

 ≪【風魔法:エアウォーカー】を習得しました≫

 ≪【風魔法:エアステップ】は【風魔法:エアウォーカー】に統合されました≫

  :

  :

 ≪【特殊:ヴィクトール】を入手しました≫


 それまで枯渇しかかっていた魔力が、急速に充足されていく。

 本来すぐに消えるはずのエアステップの足場が、まるで物質化されたように固く揺るがず消えない。

 なによりも――。


『ボケッとしてんじゃねぇよ。リズ! まだ敵がいやがるじゃねぇか!』


 脳裏の響いた声に幻聴を聞いたかと思った。

 衝撃で、ヘイトワスプが投げた槍に気付くのが遅れた。かわすには遅すぎる。

 せめてものダメージを減らそうと、命中箇所を腕で庇おうとしたが、その必要がなかった。


 投げ放たれた全ての槍は光の障壁に阻まれた。

 リズはそれを良く知っている。いつも彼女を守っていたもの。


 【盾:防壁】


 そして、それを発した魔力の源を見れば、彼女の足だった。

 スロット付きの皮シューズをはいていたはずだった。しかし、それが金属製の脚甲に変わっていた。スロットが左右どちらにも二つずつついていたが、どれもアタッチメントらしきものがはめられていた。そして、アタッチメントには飾りなのかどれにも小さな尻尾のような毛の房が垂らされていた。

 それは彼女の相棒(ヴィクトール)の毛の色そのものだった。


『言いたい事も、聞きたい事もあるだろうが、全て後だ。まずあのデカブツを潰すぞ』


 リズはもうそれがヴィクトールの意思(こえ)なのだと疑っていなかった。



 私は諦めない。諦める必要なんてない。

 私には私を守ってくれる相棒(半身)がいるのだから。



 【戦技:テンペストドライブ】



 彼女の蹴りが起こした振動は、要塞のようであったヘイトワスプの巣をぐずぐずの土と木屑等の塊と化した。

 巣の中にいたヘイトワスプは今の一撃でほとんどが死んだであろうが、生き残りが巣の残骸を掻き分けて出てくる。

 そして、彼らの女王。ヘイトワスプクィーンもまた巣の残骸の中から憎悪(ヘイト)に満ちた声を上げる。


 ヘイトワスプは他者の存在を認めない。最後の一匹までも襲い掛かってくるだろう。

 しかし、リズは引かない。

 それは、一人(・・)であった時の生き残る為の手段ではない。

 二人、生き残る為に最後の一匹までも殺す。その覚悟の表れだった。






 工夫のない剣の一振り。

 半魚人の魔物。サハギンが盾でそれを受け止め――、いや受け流そうとする。

 魚の表情の見分けはつかないが、おそらく人のそれと似通った顔かたちならばニヤリとしていたのではないだろうか?



 ほんの刹那の間に、相手がまったく別種の存在と化した事に気付かなかった故に。


「きゅ?」


 そんな鳴き声を残して、サハギンは盾ごと両断される。さらにはその背後にいた同族までもまきこまれて。


「サハギンキングがいるな。先に片付けるか」


 カイサルは魔法具である十装を剣から魔獣形態へと変化させた。

 だが、空からの声がそれを留める。


「そっちは私が引き受けましょう。それは温存すべきです」


 空をエルフが舞っていた。

 いや、そのエルフは衣服の背中部分が破れ、そこからコウモリのようなツバサが生えていた。両腕も太くそれをウロコが覆い、鋭い爪が指先から生えるというよりも同化していた。

 空の悪食、スカイピラニアが群れをなして周囲を覆うが、彼女が爪を振るう度に包囲網が消滅していた。


「温存も何も、こいつらを片付けるだけなら大して魔力を消耗しないぜ。今の俺ならな(・・・・・・)

「ならば、そこらの雑魚の処理をお願いします」

「……お前が戦いたいだけじゃないのか? クロエ」

「否定はしません。カイサルの魔法具師と違い、私の新しい職業は元の職業の延長線上のものではないようです。この体(・・・)の使い勝手がまだつかめていません」

「分かった、好きにしな。無理だけはするなよ」


 カイサルは魔獣の筒先をサハギンの大群に向けて放つ。が、咆哮と共に放たれた閃光は無数の光線と化して上空へ折り曲がり、クロエを包囲するスカイピラニアを食い散らかしていく。


「ありがとうございます、カイサル。愛していますよ」


 クロエがサハギンの大群の奥にいる巨大なサハギンへ飛んでゆくのを見ながら、カイサルは頭をかきながら呟いた。


「ヤバイ。ヤバイ状態だよな。どうすりゃいいんだ?」


 十装を魔獣から戦槌へと変え、地面に叩きつける。

 次の瞬間、スカイピラニアを喰らったものと同質の光の柱が無数に生まれ、多くのサハギン達を瞬滅させた。


 この一撃だけでも、並みの冒険者なら目をむくだろう。

 だが、それを放った本人は憂鬱そうな表情だった。


「どうしたものか。放置してたら、そのうちシルヴィアに殺されるぞ」


 もし、この場にマサヨシがいたら、口にはしないだろうが胸の内で呟いていただろう。


 いや、もう手遅れ(致命傷)ですよ、と。




 一方、カイサルの死亡率を上げている(痴情のもつれ)クロエはというと、サハギンキングが手にしていたトライデント(三叉の槍)から放たれた水撃の直撃を受けていた。

 しかし、恐らく水撃系でも最高威力スキルである【水魔法:極水撃】クラスであったろうその一撃は、クロエを傷つける事適わなかった。

 クロスした両腕のウロコに全てはじかれたのだ。ただ、さすがに衣服までは無事ではなく、色々ときわどくなっていたが。



 まぁ、カイサルと二人だけだったので寧ろ好都合ですね。いや、それよりもカイサルに襲われたという事にした方が色々と――。


 職業が変わって強化されたのは能力だけなのか、それとも心の闇までもなのか。



 サハギンキングが先程よりも強力な水撃を放とうとしていたが、さすがにそれを許すほどクロエも甘くはなかった。


 両手を広げ、大気を大きく吸い込み、一気に吐き出す。


 吐き出された吐息は無数の石弾となりサハギンキングも、その周囲のサハギンもすりつぶして行く。



 まるで、崩落事故でもあったかのような眼下の状況に、クロエは納得したように頷く。

 竜魔術師の存在は聞いた事はあったのだ。

 かつて、ドラゴンの力に近づこうとした人間が、己の肉体の一部をドラゴンのものに変化させるスキルを編み出したと。

 それが竜魔術師。もっとも、まさかドラゴン族である自分がそうなるとは想像だにしなかったのだが。

 幸い、治癒魔法に関しては以前と同じ水準で使える上、部分ドラゴン化と併用すればドラゴンの高ステータスを活かしつつ、人化がもたらす微細なコントロールも可能となっているようだ。

 変則的ではあるが、以前よりも治癒魔法が強化されていると言っても過言ではないとクロエは判断した。



 サハギンの生き残りはサハギンキングと8割以上の同胞が殺された事で恐慌をきたし、逃げ出し始めた。

 その背に向かって石弾(ブレス)を再び放とうとしたクロエをカイサルが止める。


「そのへんにしとけ。逃げる奴まで殺る必要はない。それに温存云々を言ったのはお前だろうが」

「そうでしたね」


 悪戯っぽく舌をだして、クロエは地面に着地し、部分竜化を解除した。

 サイズが微妙に変化した影響か、衣服がずれて肌の一部が見える(半乳)状態だったが、クロエは勿論隠さなかった。






 破裂音と共に二枚貝のような外見の魔物は、殻を砕かれ死亡した。


「無事で何よりです」

「お互いにね」


 再会したニコライとユリアはお互いを確認して微笑みあう。

 そして、ニコライはユリアが相対している魔物達を確認する。


「ローパーですね。上位種ですか?」

「亜種もいるわ。こんな状況じゃなければお持ち帰りしたいところだけど」

「……これも食材なんですか?」


 ローパーの外見は二枚貝のようだが、その間から覗く目と無数の触手を見れば、多少の見た目の難は許せる冒険者といえども、実食できる猛者はそういないようにおもえるが。

 ニコライの表情にユリアは苦笑する。



「殻の中身のほんの一部に食のマニアが大金を払うような部位があるのよ。もっともローパーは強い魔物だし、その一部だけを見抜いて切り抜くのがまた一苦労なのだけど。

 それより、そっちは魔物と遭遇しなかったの?」

「勿論遭遇しましたが。幸か不幸かスケルトンだったんでね」

「あらあら」

「弱くはなかったんですが、マサヨシのスケルトンアーミーと比べるとねぇ。ただ、数が多いのに難儀しましたが、それも唐突に職業が変わったおかげで、ね」


 ニコライの手には筒に取っ手をつけたようなものが収まっていた。


「どうも、マサヨシの世界の武器で銃というそうですよ。魔力無しで金属の塊を飛ばすらしいですけど」


 言ってから、破裂音がいくつも重なる。二匹のローパーがユリアへと伸ばそうとしていたのだが、あっさりと地面へ力なく垂れた。


 ニコライは手にした銃を手放した。

 落下した銃が地面にぶつかり金属音を放つ前に、すでに新しい銃がニコライの手にあった。


「なかなかに強力だし魔力なく使えるのは魅力だけど、それが当たり前にある世界があるのね。ちょっと想像しづらいわ」

「俺もそうですけど。でも、マサヨシ達の世界では、もっと強力なものがいくらでもあるらしいですよ」

「そりゃ、人が全滅しても仕方ないんじゃない?」

「同感です。で、これはユリアさんが?」



 ローパーの集団のうち数匹を殺したのはニコライの銃弾だが、3割近いローパーがすでに殻を砕かれ絶命している。


「まぁ、私も職業が変わって、色々スキルが手に入ってね」


 ユリアはそう言って、矢筒から矢を引き抜き、投げ放った。しかし、それはローパーにではなく、その上だ。

 矢はローパー達の上に届いた瞬間、数百の矢に分裂し落下する。


 そのスキル自体はアローレインと呼ばれるものでニコライも知っている。弓術系スキルでは中級といったところで、派手ではあるが威力は下位スキルである三連にすら大幅におとる。威力より牽制重視のスキルのはずだった。


 しかし、その直撃を受けた多くのローパーは殻が砕かれ柔らかい中身を貫かれる。


「元々、狩人って便利屋みたいな職業だったけど、美食家って職業は完全に便利屋よね」


 己の眼前の凄まじい惨状を生み出した存在(ユリア)は、しかし残念そうに肩を竦めた。


「相手の弱点(ウィークポイント)強み(アドバンテージ)、強度の疲労箇所。諸々の情報が入ってくる。おまけに与えたダメージを魔力に変換、その対象を仲間に替えたりと、あたしに後方支援に徹しろってのかしら」


 後半の愚痴はともかく、ユリアの説明でニコライは納得出来た。

 ローパーの殻は硬いといっても、全体が均一に硬いわけではないし、年月によって劣化している部分があるだろう。ユリアはその部分に矢が命中するよう、的確にスキル(アローレイン)をコントロールしたのだ。

 さらにニコライは認識を改めた。

 ニコライが来た時に3割近いローパーしか死んでなかったと捕らえたが、その実ユリアはあえて3割しか殺していなかったのだ。

 あの矢の雨で生き残ったのは、ローパー自身の強さではなく、単にユリアの魔力補給の的にされただけなのだ。


「まぁ、それでも一点だけ感謝出来るところがあるわ」

「それは?」

「魔物の食べられる部位、おいしい部位も分かるようになったのよね」


 それは食材専門としていた冒険者らしい言葉だった。






 エリカは非常に困っていた。

 周囲には多種類無数の魔物の死骸。

 そして、未だに戦闘は続行中。



 しかし、エリカは何もしていないのである。



 ちょっと、私やることないんだけど。


 冷たい汗が流れる。


 エリカの代わりに応戦しているのは二匹の魔物。

 銀の鎧で身を固め、その下には緑を基調とした衣服をはためかせ、方翼をひろげて方や槍矛(ハルバード)、方や槌矛(ウォーピック)を振るい、決して弱そうに見えない魔物を平らげていている。



 ≪ミギーがモノバード(幼体)からジェノサイドバルキリーに進化しました≫

 ≪ヒダリーがモノバード(幼体)からジェノサイドバルキリーに進化しました≫



 突然、脳裏に流れた謎お告げ(システムログ)に戸惑っている間に、ミギー&ヒダリーが突如発光したかと思うと、今戦っている二体の魔物になったのだ。

 これだけでも十分驚きなのだが。


 ミギーもヒダリーも武器を振るうと、命中した魔物は勿論のこと、その柄の延長線上の相手までも、切り裂き、打ち砕いている。

 エリカにはそれの正体が分かる。というか、それは本来エリカしか使えないもの。


 絶対矛盾。


 どうやらミギー&ヒダリーはエリカと所有を共有出来るらしい。


『逞しく育ったのう……』


 途方にくれたようなガイドさんの呟きにエリカはコクンと頷いた。

 どうやら二体はエリカに褒めてもらおうとがんばっているのだが、それがエリカの出番を奪ってしまうという事実に、考えが及ばなかったようだ。


 要、教育の必要ありである。



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