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スーちゃんは俺の嫁  作者: 赤砂多菜
二章 刃を持つ戦闘機
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37.体操着かメイド服か

37.体操着かメイド服か






『ふぉ、ふぉぉぉぉ!?』


 ガイドさんがパンティー被った人(へいたいかめん)のような奇声を上げた。

 ハウスさんがお茶とお茶菓子を持ってきただけなんだが。


 ちなみにお茶菓子はハウスさんのお手製クッキー。

 以前、ハウスさんに料理を教えた(ひと)が、元料理人ギルドに属していた霊達(しりあい)に声をかけたらしく、色々ハウスさんに教えているらしい。


 ……下手すると人より霊の方が出入り多いんだよ。ハウスさん家。

 まぁ、祟ったりしないならいいんだけど。


 で、ガイドさんはどうやらお茶菓子にご注目の様子。

 向こうじゃ、もうないからなぁ、お菓子なんて。人間は滅びちゃったし、エレディミーアームズは、物を食べないし。まぁ、瓦礫の下に埋もれてる可能性もなくはないが、色々と汚染されちゃってるだろうし。


『エリカ! ちょっと、体を貸せ!』

「いやよ。食べたければ、自分の体を作れば?」

『無理じゃ。この世界じゃ儂は一スキルにすぎんのだ。作ろうとしたところで二重存在として、完成させる前に抹消されるわ』

「じゃ、あきらめるしかないな」

『ちょ!? マサヨシ様、そんな殺生な!」


 まぁ、無類の菓子好きのじいさん(ガイドさん)にとって、久方ぶりに目にしたクッキーは、喉から手が出るほど欲しいものなのだろうが。

 あいにく、タケノコ派(てき)に塩を送るほど、俺は甘くはない。


「おいしいけど、あんまり甘くはないね」


 さっそく手をつけたエリカの感想に、ガイドさんの悲鳴が聞こえた。元気なじいさんだ。


「まぁ、向こうと食料事情が違うし、調味料とかも色々差がある」


 調味料と言えば、醤油が欲しいんだが大豆由来っぽいのがないんだよなぁ。


「本当に別世界なんだね」


 エリカが感慨深げに言った。


「いいもんだろ?」


 脳みそだけになってしまったエレディミーアームズ(おれたち)が、失ってしまったものがここにはある。


「うん」


 エリカも何がなんて聞かなかった。

 しばらく、無言の時間が続いた。


「あのメイドさんって」


 再びエリカが口を開いたのは、冷めかけたお茶を俺が飲み干そうとした時だった。


「マサヨシの趣味?」


 思わず口に含んでいたお茶を噴き出しそうになった。


「待て待て待て。なぜにそうなるっ」

「え? だって、ナース、教師、メイドのどれかを選ぶなら断然メイド――」

「いや、それゲームとかの話だからね? 実際にどうのこうのって話じゃなかったからね?」


 エリカに最後まで言わさない俺。

 というか、なんでこっちの世界で昔の話(くろれきし)を穿り返されるんだよ。


「なんだ。メイドさんの服の方が良かったから、あの服(たいそうぎ)がダメだったのかと思った」


 うぇーい!

 なぜ、そうなるっ。


 「みんなもあの服(ブルマ)なら、マサヨシが喜ぶとか言ってたけど」


 貴様ら(エレディミーアームズ)も共犯か!


『うむ。儂らもマサヨシ様が喜んでくれると思っていたのですが』


 そっち(あくま)もかいっ!!


 俺はみんなにどういう風に思われていたんだろうか。いや、これはそういう風に思われていたんだろうな。

 心が痛いよ。


「で、エリカ以外にもこっちに誰か来るのか?」


 確かにみんなもこっちに来れるように、とヘルプさんにお願いしてはいたが。まだ方法を模索の段階だったはずだ。


『いや、今回は儂らだけじゃ。やはり、こちら側の肉体をどうするかがネックでな。エリカの場合は、儂の肉体をコンバートしたものを使ってもらっているが』


 ああ、だからさっき体を貸せとか言っていたのか。主導権はエリカが持っているんだろうが、エリカの許可があればガイドさんが操れる感じか?


『前もって連絡は欲しかったですね。こちら側で受け入れの準備も出来たでしょうし。今回のようなトラブルも防げたでしょう』


 ヘルプさんの苦情に、ガイドさんはすまなそうに言った。


『向こう側でもエリカが何度かトラブルを起こしてな。同胞(あくま)やセンチ組とも相談したが、やはりマサヨシ様にフォローしてもらうのが一番だという結論になったんじゃ。儂がこっちに来たのはたまたま手が空いていたからじゃな。向こうの環境復旧を手伝えるような能力もないしな』


 うぇーい。

 やっぱ、トラブってましたか。

 エリカは小首を傾げて、少し困ったような表情をしている。

 話の内容は分かっているんだろうが、実感が伴ってないんだろう。

 まぁ、(ストッパー)のところに来た以上は、これ以上問題を起こさせないが。


 とりあえず、スーちゃんに頼んで小さめの分体を出してもらう。

 それは軽快にはずんでエリカの肩にのる。内部には余分にもらってるタグがちゃんと見えている。タグは契約魔物である事を示すものだ。


「これは?」

「まぁ、監視用スーちゃんって所だな。俺が離れた位置にいても監視用スーちゃんを通して状況が分かる」

「離れていても話は出来るけど。それじゃダメなの?」


 エリカが俺と召喚契約をしていないにも関わらず、ヘルプさんやガイドさんのチャンネルに参加出来るのは、恐らく肉体の元がガイドさんだったせいだろう。ガイドさんとは元の世界で契約を交わしている。


「まぁ、話だけじゃな。状況が見えないと助言が出来ない場合もある。万全を期しておきたい」


 プライバシー無視な気がしないでもないが、わざわざ異世界まで俺を頼ってきたのだし、変な遠慮からトラブルにつながるのは本末転倒だろう。


「じゃ、これまでの話はここまでにして、ここからはこれからの話をしよう。エリカは冒険者という扱いになってるがそれはかまわないな」

「うん。マサヨシと一緒の仕事なんだよね?」

「そうだな。基本、これからは一緒に行動する事になるな」


 ただし、だ。


「その前に、この世界の常識を覚えて貰う。お勉強だ」

「えー」

「えー、じゃない。俺だってやったんだ。向こうの感覚で行動すると、お前じゃなくてもトラブルを引き起こしかねないんだ」


 例えば、名前の扱いだ。元の世界では偽の名前をかたっても、罪に問われるのは詐欺くらいだ。だが、この世界では名乗る事の意味は重い。

 騙る名前次第では、命取りになりかねない。マスター権限者や名のある商人。後は宗教関係もヤバイ。

 名前一つでもこれなのだ。

 俺自身も実は完全に適応出来てるとは言いがたいのだが、何もしらないこいつをフリーダムにするのは危険すぎる。お互いに。


「しばらくは図書館に通ってもらう」

「図書館? 漫画はある?」

「あるわけねぇだろ」


 あったら、俺が読みつくしてるわ!


「だったら、漫画部もつれて来ればよかったよ」

「漫画部?」


 そんなのあったっけ?


「人間だった時のコミケ? 経験者が週刊誌作ってる」


 なにそれ!?

 読みてぇ! それにどうやって描いてるのかも興味ある。


 だが、しかし。


「あいにく、あっちの文化を無闇にこっちにもってくるのは禁止。一応、別世界なんだから、そのへんのケジメはつける方針だからな」

「ん、分かった」


 エリカは特に反対もしない。この辺は、俺に決断を預けているが故だ。


「その間。マサヨシはどうするの? 私と一緒?」

「どうだろうな。ドラゴン族の件がスムーズにいけば、そうなるかもだが。希望的観測すぎるか」


 話し合いで分かり合えるなら、元の世界の人間は滅亡しなかったろうしな。

 なんらかの利害を絡めての折衝をカイサルさんが行っているはずだ。場合によっては利と害を俺がなんとかしなければならない事もあるだろう。


「まぁ、監視型スーちゃんと一緒なら図書館詰めじゃなくて、街を散策してくれてかまわない。これから住む街でもあるしな。エリカの部屋はハウスさんに用意させる。俺はこっちにいない事が多いから、何かあったらハウスさんに頼んでくれ」

「ん? マサヨシはここに住まないの?」

「さっきも言ったが色々あって、宿屋に部屋を借りているんだ。まぁ、こっちにはすぐこれるんだが」


 何せ、ドア一枚でつながってるしな。


「私もそっちじゃダメなの?」

「今すぐはカンベンしてくれ。ドラゴン族の件が落ち着いたら考えてもいいが」


 ここで駄々をこねられてたら困るが、こいつにとって俺の下した決断は絶対だ。ドラゴン族の件も、俺がこいつをすぐに制していたら起きなかったかもしれないが。


 いまさらだな。それにあの時を空気からして、どう転んでも交渉は決裂したんじゃないかと思う。そもそも、向こう(ドラゴン)は交渉に応じる気はなさそうだったし。


 ある意味、エリカとドラゴン族は似ているな。エリカは俺に決断を預け、彼ら(ドラゴン)は力が物事を決める。

 思考放棄とも言えるが、俺はそれが必ずしも悪いとは思ってはいない。百人いれば百の考え方が、千人いれば千の生き方があるのだ。

 もっとも、ドラゴン族は自分達の生き方を他人に押し付けてくるのが問題だが。


 決闘による決着。交渉の結果としては下から数えた方が早いシロモノだが、下手に対等を求めるよりは、スムーズに物事が進む可能性が高い。無論それは、スーちゃん達桁溢れ(オーバーフロー)組という反則の一手ありきなんだが。


 ただ、それによって発生する問題もある。アルマリスタがドラゴン族を支配下に入れた場合、あきらかに過剰戦力になる。俺は一介の冒険者なので、街同士の付き合いがどうなっているのか分からないが、ある日突然近くの街の戦力が増えた場合、警戒されるだろう。変に痛くない腹を探られたり、疑心暗鬼になられる可能性だってある。さすがに即戦争とまではいかないだろうが、何かのきっかけになる事は十分考えられる。


 まったく。


 俺はため息をついた。エリカが不思議そうに首を傾げている。


 なんでこんな事で悩んでいるだろう。俺は気楽に生きたいのだがなぁ。






 その日の夜遅く。剣の休息亭の食堂にて今後の打ち合わせが行われた。

 顔ぶれは《自由なる剣の宴》のうちでもドラゴン族のところに行ったメンバーだ。他にもクランメンバーはいるのだが、カイサルさんは今回の件に関してはこの面子で動くつもりでいるっぽい。船頭多くして船山に登るみたいな事になるのを恐れているのだと思う。


「ヴィクトール、《銀の杖》はどうだった?」

「概ね、問題ないと考えていいだろう。あそこも名誉志向だが、あくまで魔術師としての能力誇示に寄っているからな。龍殺し(ドラゴンスレイヤー)にはさほど興味はないようだ。多少の嫌味は言われたがな」


 苦笑するヴィクトールさんを見て、リズさんが肩を竦める。


「こっちも似たようなものね、カイサルさん。《天馬騎士団》もマークする必要はないと思うわ」

「《ダンジョンイーター》は露骨に金を要求されたっす。まぁ、あそこは何かと慎重だから、ほっといても変な事はしないと思うっすけど」

「慎重というのは俺も同感だけど、楽観はしないほうがいいと思うよ」

「ニコライはお金を払ったほうがいいって考えっすか」

「断言まではしないけどね。恨みってのは積もるものだからね」


 俺も正直、金で済む話ならその方が手っ取り早いとは思う。


「金を払うと弱みと勘違いされる可能性もあるからな。まぁ、明日にでも向こうの頭と話してみるわ」


 頭をかきながらカイサルさん。


「俺が声をかけたクランでも、そこまで煩い所はなかったな。嬉しい誤算と言ってもいい。だが、それでも条件を出してきた所はあった」

「どこだ?」


 ヴィクトールさんが聞くと、気怠げな表情をするカイサルさん。


「《アルマリスタの盾》と《御馳走万歳》がせめて決闘に一名いれろと言ってきてる」

「まて。後者はどう考えても、おかしいだろ。あいつら、グルメ気取りの集団のはずじゃなかったのか? 何を考えているんだ?」

「いやな。どうも、食うつもりらしい」

「……何を?」

「だから、……ドラゴン」


 うぇーい!

 まじで!?


 その場の全員が嫌そうな顔をする。

 良かった。俺だけじゃなかったのね。そう思ったの。


 ヴィクトールさんが頭痛を堪えるように額に手を添える。犬耳(△△)がピクピク震えている。


「正気か? カイサル」

「俺に聞くなよ。俺だって、倒したドラゴンの分配は安くてもいいから肉にしてくれって言われた時は、頭が真っ白になったよ」


 ご愁傷様です。

 しかし、普通に会話出来る連中を食うつもりなのか。


 ん?


 でも、良く考えたら俺も意思の疎通可能な連中(まもの)を倒してるな。

 職業が召喚師という特殊なケースか。

 ……今後は避けられる戦闘は避ける方向にしようか。


 それは横においておくにしても、だ。


「そもそも、ドラゴンって食えるもんなんですか?」


 俺は素朴な疑問を口にした。

 魔物であれば、獣系ならたいがい肉は食べられる。うまいかどうかはまた別としてだ。植物系の魔物も食えるのが多めだ。

 だが、ドラゴンは獣。それも本人達や周りがそう言ってるだけで、俺から見たらゴブリン族のように神明種と認められていないだけで、人と呼べるの範疇の気がする。


「さぁな。ただ、《御馳走万歳》は自分達が食う為に食材を集めるクランだ。あるいは記録なりレシピなりがあるのかもしれん」


 うへぇ。

 出来れば止めて欲しいなぁ。


 カイサルさんは俺を見て苦笑を浮かべる。


「そんな顔をするな。今回は血なまぐさい事なしで収めるって決めただろ。なんとかするさ」

「出来るんですか?」

「出来るかどうかは問題じゃない。やるのさ。今回(・・)は間に合うんだからな」


 カイサルさんは精神論を言っているわけじゃない。

 ゴブリン族の時は、知った時は事が起こった後だった。でも、今回はそうじゃないんだ。


「俺が手伝える事は?」

「今はないな。むしろ他のクラン員からやる事はないかと聞かれてる状態だしな」

「まぁ、ダンジョンに入れませんからね」


 うん。実は打ち合わせのメンバーこそ、ドラゴン族のところに行ったメンバーだが、食堂には他のクラン員達がいて、普通にこちらに聞き耳を立てていたりする。

 ……みんな暇なんだなぁ。


「という訳でマサヨシは続けて待機だ。他のクランに顔が利く訳じゃないからな。お前が必要になったら声をかけるさ。まぁ、声をかけるような状況にならないのが理想だがな」

「そうですね」


 俺が役に立つ場面って、スーちゃん達の力が必要だって事だもんな。

 俺はダンジョンに入る時はソロか、この面子でパーティを組むくらいだが、もうちょっと社交的になるべきなんだろうかね。

 まぁ、ダンジョンの改変期が終わったら考えよう。



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