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不変の怠惰  作者: 枯木人
5/5

さいごに

「…………………………………………………………………なーんでこうなるんだろうなぁ……」


 結論から言うと魔国は健全化してしまった。真面目な魔族しかいなくなると転々と魔国を移動していた男だが、もう目ぼしい都市は全て制覇してしまったようだ。魔国は人族と協定を結びこのまま発展すればお互いの種族で溢れかえることになるだろうこの星から別の惑星に移住できるように尽力している。


(……どーしようかなぁ……もう、野垂れ死ぬしかないのか……)


 皆が頑張る世界に自分の居場所はないよなぁと思いつつ荒野にある剥き出しの岩盤に腰かけて溜息をつき仰向けになる。


(この世界には俺しかダメなのがいないのか……生きるのが辛くなる……)


 最近はどこの町に行っても指名手配されている。世界最後の怠け者として晒されている気分でやるせない。もう自分何て消えてしまえばいいと思った男は楽な自殺の方法として考えていた力を発動することにした。


「【トレークハイト・オートファージ】……」


 自らの怠惰を喰らい自我を殺す。仮に生き残ったとしてもそこにいるのは自分ではないだろう。苦しくもなく、痛くもない。死に際も汚くないという素晴らしい死に方のはずだ。通用するかどうか疑問だったが意識が薄れていくのを感じ、成功したのを確認して薄く笑いながら彼は眠りに就いたのだった。









「……あれ、まだ意識が……?」

「久し振りだな。」


 再び男が気付いた時、聞き覚えのある声がした。それは別世界に飛ばされる直前に聞いた声であり怠惰を司る悪魔、ベルフェゴールの物だ。彼はどうやら苛立っている様子だ。


「まずは、貴様が集めた全ての怠惰を貰い受ける。」


 ベルフェゴールはそう言って最後に自らの怠惰を喰わせた能力ごと回収した。それにより男の魂は球状に戻り、辺りは何も見えない状態になる。そのままベルフェゴールは続けた。


「さて、俺はお前に罪を集めろと言ったはずだが?」

「はい、怠惰を食べまくりました……」

「それ以上に信仰が集まって来てるんだがな! 誰が国を救い、星を救えと言った!」


 男はベルフェゴールの以下づ地の如き怒声に球体となっている身を竦ませる。続けられた言葉は脳が蕩けそうな程の美声だった。


「その所為で、怠惰の象徴、ベルフェゴールたる俺は眠りに就き富をもたらす女神、バアル・ぺオルに戻る羽目になったぞ……! あぁ働きたくない……」

「申し訳ないです……」


 働きたくない気持ちは理解できるので心底悪いことをしてしまったと男は謝罪するがバアル・ぺオルが許すはずもない。


「お前には罰を与える。」

「わかりました。」


 物わかり良いなこいつと来た時のことを思い出しつつバアル・ぺオルは厳かに告げる。


「お前は人間に戻り、結婚生活を送ってもらう。」


 そこでバアル・ぺオルは区切って何も見えない男には分からなかったが艶やかに笑って見せて続ける。


「お前を何とか更生させようとする働き者の妻とな!」

「……っ! そ、それは、それだけは……! お許しを……!」

「ならぬ。」


 魂の状態で震える男にバアル・ぺオルはベルフェゴールだったときに失楽園で行われた悪魔の会合。その中の「人間の結婚生活に幸福なる物は在りや?」という議論を思い出す。実際に人間世界を見て回った当時の彼は「ない」と断じ、人間嫌いになったものだ。

 そんな人間嫌いとなった彼、今は彼女に人間の守護をさせるのだから当然ながら男にもそれ相応の対価を払わせなければ気が済まない。


「貴様は我に幸せな人間の結婚生活という物を継続して見せ、そして幸せなままで死ぬまで何度でも結婚生活をやり直してもらう。」

「お許しを、お許しを……」


 球体の魂状態になっている男だが、それでも平伏して見せるような態度を見せて許しを乞う。それに対し彼女は女神ではなく悪魔として最後の試練を課すかのように告げた。


「まずは、お前の前世たる幼馴染との結婚生活から始めようか……安心せよ。王国の姫ともつき合わせてやる。」

「ひぃっ!」


 片やお節介を極めた美少女。片や崇拝者たる美女。どちらも才気あふれる少女だが決して自分のことを見捨てないだろう。それ即ち不幸に真っ逆さまだ。二人とも良い人過ぎて自分のミスで付き合わせるなど身が縮こまるどころではない。もう死んでしまいたかった。


 いや、現在既に死んでいるが。


「さぁ、目覚めた時から始めろ……幸せにするのを断った場合はその輪廻転生、姿が変わってもまた次の世界で、更に次の世界で、延々とそやつらに付き合わせることになるだろうがな……」


 有無を言わせぬ女神によって男はこの世界から追放される。その時、彼の怠惰の殆どが女神に取られたままだった。








 意識が浮上した時、目の前にはいつか見た映像通り泣きじゃくっていた幼馴染の姿が。彼女を認めるや否や男は意思の宿った目で彼女に告げる。


「君を一生幸せにさせて欲しい。」

「っ!? はぁっ? え、あ?」


 彼の挑戦はまだ始まったばかりだった。




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