転移先
「……話、終わった?」
「え、えぇ……聞いていただけたのでしょうか……?」
転移先で俺は変な人たちに絡まれていた。何やら世界が大変だから助けてほしいそうだ。面倒だったのでずっとぼうっとしていたら怒られた。そして思ったのだがやる気が、ある。人の話を立って聞いていたのだ。しかも内容まで若干把握している。更には会話をする気まであるのだ。
「聞きはしました。でも、面倒臭いので動きたくないです。」
「お願いします。不躾な頼みだとは思いますがあなたに頼る他この国が生き残ることは出来ないのです。私に出来る事なら何でも致しますから……この身が欲しいと言うなら捧げましょう。地位が欲しいのなら封ぜましょう。」
また話が長いモードなので放置する。口答えは面倒そうな相手なので態度で示すべきだろう。働かないと。正直、もう立っているのが面倒なので横になりたいのだ。人が歩いている不潔な場所かもしれないがまぁ仕方ない。中々の手触りの絨毯だしいいか。
「貴様! 不遜な!」
怒られた。割と本気で怒ってるみたい。殺されるかなぁ……今度こそ地獄行き? いや、神様たちにとって悪いことはしてないから多分地獄じゃないはず……意識が遠のくなぁ……
「……あ。」
「さっさと立てぇっ!」
そう言えば思い出した。何か変な力が芽生えているのだ。周囲の怠惰を食べたりバリアにしたりする何か格好いい名前の能力……
「トレーク・ハイト……」
……何か美味しいのが喉の辺りを通ってる。怠惰の味は蜜の味なのか。納得。バリアにしたら吐き戻すというノリなのかな……?
「止めよ。」
「ダマダ閣下!?」
「我が世界の問題を他の世界のモノへ押し付けようという不条理に対してこの様な対応を取られるのはこの方の非ではない。我らの不徳の致すところだ。そもそも……」
こんこんと道理を説き始めるダマダ。この場にいる貴族たちは「この世界で解決できぬのなら他の世界から何も知らぬ人間を呼びつけ、目的を達成させるまでこき使えばよい」と昨日笑っていた男の変貌に目を丸くし、兵士も驚きのあまり止まっている。
(話、長い……でも、貧乏舌の俺でもこれは美味しいって分かる。凄いなぁ……何よりいいのは手も口も顎も動かさないで食べられることだ……)
次第に場の雰囲気が変わっていき熱を帯び始める。先程まで彼を品定めしていた貴族たちは気付けば皆自分たちで何かを成し遂げようという議論を展開していた。その様子を見ていた最初に男に説明を与えていたうら若き女性、王女は寝そべっている男へ熱視線を送る。
(あの方が、ここにいる貴族たちに何か……?)
大体あってる。怠惰な心を喰われた貴族たちは真面目になってしまったのだ。しかし、男は我関せずと無視を決め込みつつ周囲が勝手に盛り上がってるんだし俺もういいよね? という視線をこの場で一番偉そうな人……王女に向ける。
そこで王女は自らの使命を思い出した。
「静粛に。この場において決めるのは世界への対策ではない。異世界から私たちが呼んだ彼の待遇を決めるものであり、彼の求めることを叶える場である。異世界の賓客様。我々は使命を思い出しました。無関係に巻き込んでしまったあなたへ何とお詫びしたらいいことか……」
「寝る場所を提供してくれれば別にいいです。」
「なんと寛大なお心……!」
この場にいる全員がまさかの返答に感動した。しかし、男は意味が分からずに首を傾げる。
(……感動するほどのこと? まぁ確かに食事も水も要らないって言ったからそうかな……別に幽閉したければすればいいけど……寝てて三食付く上に住む場所まで貰えるという……あ、おやつ代わりに怠惰を食べてもいいかな……?)
そんなことを考える彼に与えられたのは国賓としての待遇。彼は何もしてないのにこんな待遇を受けていい物か考えつつ無為の日々を過ごすことになるのだった。