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【コミカライズ連載中】幼馴染みで悪魔な騎士は、私のことが大嫌い  作者: 編乃肌
番外編

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ロアセル=フィンス奮闘記録 おまけ

 鐘が括りつけられた柱の隙間を縫うように、白ばんだ朝陽が教会へと入り込みます。


 中庭に視線を向ければ、いつからかこの教会によく現れるようになった、小鳥の姿をした光の精霊たちが、楽しそうに囀っている様子が確認できました。


「おはよう! 良い朝だよ!」

「おはよう! もう直にみんなが目を覚ますよ!」

「おはよう! おはよう!」


 渡り廊下を歩いていた僕は、ふと足を止め、彼らに遠くから同じ挨拶を返します。人間同士でも精霊相手でも、挨拶はコミュニケーションの基本だとはおじい様の教えです。

 僕の声に反応し、さらに沸き立つ精霊達を横目に、僕は歩みを再開させます。


 最近新調したばかりの新しいローブは、前の草臥れたものとは違い、生地がパリッとしていて、まだ少し歩き難いです。


 でも仕方ありません。

 身長がちょっと伸びて、サイズが合わなくなったから。うん、仕方ないのです。


「あ、ロアさん。おはようございます! ここに居たのですね!」


 おさげを揺らして、新しく入ったばかりの小柄な女性の使徒さんが、後ろから僕に声を掛けてきました。僕は緩んだ頬を引き締めて振り返ります。


 ……あ、目線、同じくらいです。僅かに僕の方が高いかも?

 やはり口許はじんわりと緩みます。


 僕の前まで走ってきた彼女は、息を整えつつ、一枚の白い封筒を僕に差し出しました。


「これ、朝一にロアさん宛に届いていました」

「僕に……?」


 受け取って裏返し、届け人を確認してびっくり。中身を開けてさらに驚愕。

 次いで僕はふふっと笑みを漏らしました。


「これは、早めにお休みを申請しなくてはいけませんね」

「? 何か緊急の用件ですか? 御実家からとか……」

「あ、そういうのではないですよ! 気にしないでください。わざわざ僕を探して、届けてくださりありがとうございます」


 好奇心を滲ませて首を傾げる女性の使徒さんに、僕は感謝の言葉と共に微笑みかけます。


 すると何故か、目の前の女性の使徒さんはブワッと顔を赤らめ、「わ、あ! こ、これが噂の魔性の微笑み!? い、いえ……その、し、失礼します!」と、盛大に取り乱して去っていってしまいました。

 ……なんでしょう。最近はこういう反応をされることが増えました。


 以前までは、このような場面では大抵、子犬を見るような生暖かい眼差しで見られるか、頭を幼子にするようにわしゃわしゃ撫でられることが多かったのですが。それは減って、主に女性に、希に男性にも、あんなふうに酷く動揺されてしまいます。


「ましょーのほほえみ……って、なんのことでしょう」


 たまに言われるのですが、いまひとつピンと来ません。

 今度、おじい様に相談してみましょうか。僕が何らかの理由で、相手を慌てさせてしまっているのなら申し訳ないです。


 ああでも、今はそれどころでありませんね。

 僕はゆっくりと手元に視線を落とします。


 

 渡された封筒の中から出て来たのは――――赤い花の絵が添えられている、丁寧な字で綴られた『結婚式の招待状』でした。



 脳裏にはすでに懐かしく感じる、お二人の顔が浮かびます。

 それにまた口許を綻ばせながら、大事に招待状を胸に抱いて、僕は軽い足取りで歩みを再開しました。





 無事に一日の過程を乗りきり、あっという間に訪れた夜。


 僕は今、自室で灯りをつけて机に向かっております。

 今日は、訳あって新しく注文した精霊姫様の衣装がやっと届いたり(王族も御用達の服飾専門店に特注で頼んでおります)、女王の宝剣をピカピカに磨いたり(定期的に綺麗にしております)、少し慌ただしかったです。

 まぁ、あの悪魔絡みの事件の時の忙しさに比べれば、些細なものですが。


 いつものように母さま宛の近状報告を書き終え、僕は一旦万年筆を置きました。そして引出しの中から、例の招待状を取り出します。

 これを送ってくださった方々の……スーリア様と護衛の騎士様の顔が、描かれた赤い花びらの中に浮かび上がります。



 聖鐘の森からお戻りになってから、お二人の間に流れる空気が変わったことに、当時の僕はちゃんと気付いておりました。

 ボロボロのスーリア様の御姿に、精霊女王様との謁見の場で何が……っ!? と卒倒しかけた僕ですが、それが落ち着くと、今度は騎士様の態度の変化に驚いたものです。

 

 適切な表現が上手く思い付かないのですが、なんというか、スーリア様を見る眼差しが、惜しみなく優しくなっていたというか。

 えっと、あれを『甘い』というのでしょうか。

 まだ戸惑いのようなものは感じるのですが、今までの距離感が嘘のように、常にスーリア様の傍について回り、何かあれば甲斐甲斐しく世話を焼いてと、騎士様の変化は顕著でございました。


 特に女性の使徒達の間では、変な憶測が飛び交っていたように思います。

 皆さん、非常に楽しそうで……注意出来なかった不甲斐ない僕を、どうかお許しください。


 スーリア様はそんな騎士様を相手に、困ったように笑いながらも、見ているこちらも暖かくなるような、酷く幸せそうな表情を覗かせていたのが印象的でした。


 

 そんなお二人の様子を、僕はお別れの日まで間近で見守っていたので、この『結婚式の招待状』を貰い受けても、びっくりはしましたが意外だとは思いませんでした。

 

 僕は招待状の返事を書くために、再び万年筆を手に取ります。

 黒いインクが白の上を走り、用意した返信用の便箋に、祝辞と参加の意が綴られていきます。


 おじい様に結婚式のことをお伝えすれば、すぐに休暇の許可をくれました。というか、おじい様にも招待状が届いていたらしいのですが、流石に長く教会を空けられないということで、「わしの分まで代わりに祝ってきてくれるかの」とのことでした。


 スーリア様になら、精霊たちからも祝福が降りることでしょう。

 精霊姫であったお方ですし、話が伝われば、精霊女王様もお喜びくださるはずです。


 僕も式では粗相のないように、しっかりとお二方に『おめでとうございます』を伝えなくては。


「正装の準備も要りますね。アルルヴェール領への旅程も考える必要があります。あ、お祝いの品は何が良いでしょう……悩みます」


 教会で婚礼を挙げる方は多いですが、個人的にお知り合いの方の結婚式に赴くのは初めてです。

 書き終えた便箋はそのままに、椅子に凭れて思考に耽ります。やがて頭が煮詰まってくると、僕は自然と机の端にある瓶に手を伸ばし、その金色の蓋を開けていました。


 ――――中身は、丸い色取り取りの飴玉です。


 いつかスーリア様からもらったあの飴玉に、あれからすっかりハマってしまった僕は、少々高いのは承知の上で、定期的に町で購入しております。

 こうして部屋で考え事をしていると、癖のように口に放り込みたくなってしまうのです。


 ……この飴玉も、お祝いの品の一つに加えたらどうでしょう?


 透明な瓶に輝く宝石を詰めたみたいで、これだけでとても綺麗ですし。この王都でしか買えない、それなりに貴重な嗜好品です。飴なら移動の間も心配せず持ち運べます。レースのリボンでも掛けたら、悪くない贈り物になるのでは?


「明日また、女性の使徒さんたちに聞いてみましょう」


 母さまに、お手紙を通して聞くのもいいですね。

 仄かな甘さを舌で転がしながら、僕は小さく笑みを溢しました。



 幸せそうなお二人にまたお会いできるのが、今からとても楽しみです。



●●●



「……何を嬉しそうに見ているんだ? スー」


 朝一に届いた手紙を、食卓の椅子に座って読んでいた私の背後から、寝起きで僅かにぼんやりまなこのレイスが声を掛けてきた。

 今日はお互いに仕事が休みだったから、連日勤務でお疲れのレイスはまだ寝ていればいいのに。こっそりベッドを抜け出したのに、すぐ気付かれてしまったようだ。


 後ろを振り返って、私はレイスにも手紙が見えるように身体をズラす。


「前に結婚式の招待状を送ったでしょう? その返事が来たのよ」

「誰からだ?」

「ロア君。ぜひとも参加させて頂きますって」


 「嬉しいわよね」と笑い掛けると、レイスは何故かその赤い瞳を尖らせ、苦虫を噛み潰したような顔になった。思っていた反応と違って、私は首を傾げる。


「なによ。ロア君が来てくれるのよ? 喜ぶところじゃないの?」


 結婚式に来てくれる人が多いのは、良いことじゃないのか。ロア君にはレイス共々、教会ではお世話になったのだし、彼が参加することに問題は何一つ無いはずだ。


 そう見上げて問えば、レイスの顔はますます歪む。


 訳が分からず、訪れる束の間の沈黙。

 次いでレイスは、寝癖の残る艶やかな黒髪を揺らして、椅子の背もたれ越しに私を抱き締めてきた。急な行動に不意を突かれる。


「い、いきなりどうし……」

「…………お前が、あんまり嬉しそうだから」

「は?」

「ロアとかいう使徒に会えることに、お前が嬉しそうにしているのが嫌だ。……気に入らない」


 拗ねたような声で、レイスは耳元でボソボソと「スーはアイツに甘かっただろう」と文句を言ってくる。数秒遅れて彼の言葉の真意を汲み取った私は、小さく吹き出して、私に回る長い腕を片手でポンポンと叩いた。


 本当に、素直になっちゃって、まぁ。


「私が年下に甘いことは、貴方はよく知っているでしょう?」

「……知っているから余計嫌なんだ」


 そんなことを呟き、私の金茶の髪に顔を埋めるレイスは、もう完全に拗ねている。

 私はふうっと息をついた。


 肩に僅かな重さと暖かみを感じながら、ふと蘇ったのは、いつか口に含んだあの飴の味だ。

 優しい味で、甘過ぎずまろやかで美味しかった。

 あれをあげた彼は、今も元気に頑張っているかしら。むしろまた頑張りすぎて、倒れていないといいけれど。


 そんなふうにロア君のことを思い浮かべていたら、変なとこ勘の良いレイスに気付かれたようだ。ぎゅっと、レイスは私を抱く力を強めてきた。

 

 ……さて、どう宥めようかしら。



 心の中でひっそりとロア君に会えることを楽しみにしながら、私は私の愛しい旦那様の腕の中に、大人しく収まるのだった。





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