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『正義の剣』

まだ来ていないみたいだな。

本日の依頼の集合場所である冒険者ギルド。

かなり早い時間帯のせいかギルド内にはほとんど人影がなかった。


暇だし、クエスト掲示板でも見てるか。


掲示板版の前に移動し、依頼書を眺める。


げげっ、護衛依頼って最低でも《D》ランクなのか。


街を出る前にランク上げないといけないな。

僕がこれからの行動について考えていると、


「お待たせ。君が今回荷物持ちの依頼を受けてくれた人かい?」

「ああ。」

後ろから掛けられた声に僕が返事をしつつ後ろを振り返る。


すると、そこには美男美女の4人組がいた。


アイドル集団かよ!

よくもまあ、これだけ容姿のいい奴ばかり集まったものだ。


僕が感心していると、


「俺達が今回の依頼主、『正義の剣』だ。よろしくな。」

先頭のイケメンが笑顔を浮かべてそう言った。





**********



「主流が大人数の体制に変わってからはホントに攻略スピードが上がったよな。」


「そうですね。私たちも以前のように功績をあげられなくなってしまいましたし。」


「大人数で寄ってたかってモンスターさんを虐めるなんて酷い奴らなの!プライドの欠片もない奴ら、リリは嫌いなの!」


「まあ、落ち着けよ、リリ。プレイスタイルは人それぞれだろ?それにゲームなんだからモンスターを倒して当然だ。現に、俺達も今からアースドラゴンを倒しに行くわけだしな。」


「むうぅ……。」




僕たちは今、鉱山の山道を歩いていた。

足元はゴツゴツとした岩で非常に歩きにくい。

どうやら、アースドラゴンは鉱山の中腹にある坑道の奥に潜んでいるらしい。


『正義の剣』。サービス開始からパーティの主流が大規模なものにかわるまで最前線で攻略を行っていたパーティだ。


しかし、会話の内容が案外普通だな。もともと攻略の最前線を走っていた人達だし、もっとストイックな雰囲気で攻略を行うものだと思っていたのだが、ただ純粋にゲームを楽しんでいるだけのようだ。


前を歩く『正義の剣』の面々を見る。


一番右端を歩く荒々しい雰囲気をもった男はジンというらしい。

逆立てた銀髪に獰猛な赤い目。頭の上からは黒く尖った耳が生えている。

「狼男」、レア種族だ。先ほどから会話の話題を提供し、場の空気を盛り上げているのがこの男だ。


そして、その隣を歩くロリエルフ(?)とでも言うような見た目をした小さな女の子がリリだ。金髪のショートカットにまんまるの青い目。耳が尖っているのでエルフというのがすぐに分かる。見た目通り性格も子供っぽい。語尾が「~なの」になる癖がある。


さらにその左隣を歩く和服の女がフウ。

種族は人族で、キャラクターメイキングの時に一切見た目を弄らなかったらしく黒髪、黒目である。肌白で日本美人という言葉がとてもよく似合う。性格はおとなしく、柔らかな雰囲気を持っている。


最後に一番左端を歩く男がリーダーのラルフだ。

肩口で切り揃えられた金髪に落ち着いた雰囲気の緑色の目。尖った耳に浅黒い肌をしている。


これは……ダークエルフか?そんな種族がいるなんて聞いたことないんだが…。


身体的な特徴からしてダークエルフということでほぼ間違いはないだろう。ということは、不死鳥と同じく認知されていないレア種族ということになる。


このパーティは名前ばかり有名で戦い方などは一切知られてなかったからなあ。

さすがにダークエルフがいるというのは噂になってもよさそうなものだが。

隠していたのだろうか?


まあ、何はともあれこのパーティで最も謎多き男だろう。


性格は全てを見透かしているかのようで非常に落ち着いている。仲間への気配りもよく出来るため、メンバーから頼りにされているようだ。


かなり個性的な4人だが、端からみてかなりの仲良しに見える。


道中もずっと話しながら歩いているしね。




「シオンはソロで攻略してるんだろ?なんか理由でもあるのか?」

ジンが僕に話題を振ってくる。


「いや、特に理由はないな。ただ、一人で戦うのが好きなだけだ。」



「私たちが4人で戦っているのと同じ理由ですね。」

「ゲームは楽しんでこそなのー!」

「ソロというのも面白そうだな。」


僕の回答に他の3人がそれぞれの反応を見せる。


やはり、攻略というよりは楽しむことを一番に考えているようだな。


まあ、僕は攻略を優先する人なんだけどね。最前線を突っ走っているときの全能感が好きなのだ。

不死鳥という種族じゃなければ間違いなく大規模パーティに属していただろう。



その後も、ジンが質問し僕が答える。その回答に他3人がそれぞれの意見を述べるということを繰り返す。


気が付くと、いつの間にか坑道の入口に到着していた。



「坑道の中から生物の気配がほとんど感じられないな。」


「本当ですね。アースドラゴンの影響でしょうか?」

「不気味なのー。」

ラルフの言葉に女性ふたりが頷く。


「カカッ。このままだとシオンの仕事がホントにねえなあ。」

ジンが笑いながら言う。


そう、この道中僕の仕事はほとんどなかった。

荷物持ちというのは戦闘を行う集団についていき、ドロップした素材を自分のアイテムボックスに回収する役のことを言う。

僕にHPという概念がないせいで忘れがちだが、本来、戦闘を行うときにはHPを回復するHPポーションを使って当たり前なのだ。魔導士の職に就いているひとはさらにMPを回復するMPポーションも必要になり、素材などにアイテムボックスの容量を割く余裕はない。そのため、攻略を行う場合は大抵荷物持ちを雇うのだ。


ということで、僕の仕事は素材アイテムの回収なのだが、これまでの道中で敵との遭遇は数えるほどしかなく、僕の出番はほとんどなかった。



そういえば、昨日あたり大型パーティがアースドラゴンを討伐に行くとか言ってたな。

道中の敵が少なかったのはその影響だろうか?ボスの討伐通知が届かなかったからアースドラゴンは倒せなかったのだろうけど。

というか、100人規模で倒せなかった敵をたった4人で倒せるのだろうか?

疑問におもいつつ、坑道に入っていく『正義の剣』の面々に続いた。




やはりというべきか、坑道の中にモンスターは一匹もいなかった。

何事もなく、奥へ奥へと進んでいく。



そこは広大な空間だった。宮殿のように無数の巨大な柱が天井を支えている。


空間に足を踏み入れた直後、大気を震わせるかのような重々しい声が空間に響き渡る。


『愚かな下等生物どもよ。またもワレにやられにくるとは、学びのない奴らだ。』


広い空間の最奥にそいつはいた。



《Lv.60 アースドラゴン》



岩のような鱗が全身を覆っており、かつて戦ったフロストドラゴンよりもさらに一回り大きなドラゴン。巨大なオーラを纏った岩竜。


フロストドラゴンよりも強そうだな。言葉も流暢だし。


「これがアースドラゴンか。中々骨が折れそうだぜ。」

ジンが呟く。


「本当ですね。でも、あれだけ大きければ魔法は当てやすそうです。」

「格好の的なのー。」

女性陣がそれぞれ、自分の魔法杖を取り出しながら言う。


『貴様ら、もしやワレに勝てると思っているのか?勘違いも甚だしい。』


「それはどうかな?」

そういいながらラルフが一歩前に出る。

「お前こそ、俺達をそこらの奴と同じに考えていると痛い目見るぜ。」

そして、不敵に笑う。





「いくぜ!」

ジンが大斧を両手に走り出しだした。


「リリ!フウ!援護しろ!」

ラルフもジンに続いて走る。


「任せて。」

フウの杖の先に紫電の球体が現れ、


「撃ち抜け、【雷球】!」

一声と共に凄まじい速さで打ち出される。


『そんなもの効かぬ!』

雷球は岩の鱗に当たり、あっさりとはじかれた。



ガァッ!

岩竜の口から接近していた男二人に無数の光弾が放たれる。



「【体勢変化 迅】!」

ジンの身にまとっている空気が変わった。

一気にスピードが上がり、止まらず弾幕を掻い潜る。



「【神速瞬歩】。」

ラルフの姿が一瞬で消え、光弾が地面を抉り取る。


「遅すぎだ。」

先ほどいた場所からかなり離れた位置にラルフが現れていた。


ん?あれはスキルなのか?速過ぎて全く見えなかったぞ…。

僕が驚いていると、



「次はこっちの番だぜ!」

岩竜の懐に入ったジンが叫んだ。



「【体勢変化 撃】!」

両手で持った斧を振り回し足に叩きつける。


ミシリ。

嫌な音がし、鱗に僅かにひびが入った。



『下等生物がああああああ!』


「ぐぼっ!」

岩竜が振り回した尻尾が直撃し、ジンが吹き飛ばされる。

ガッ!

その体めがけて、岩竜が光弾を放つ。



「【体勢変化 堅】!」

光弾がジンに襲い掛かる。


「ぐぅ。」

ジンは大ダメージを受け、膝をつく。


「【超回復】なのー!」

リリの声と共に薄緑色の光がジンの体を包み込み、HPが回復した。


バランスがいいパーティだな。

岩竜と戦う『正義の剣』を見ながら僕は思った。


前衛の男二人が注意をひき、

後衛の女二人は攻撃と回復にそれぞれ役割を分けて支援に徹する。


前衛二人は強力なスキルのおかげで中々ダメージを負わず、例えダメ―ジを負ったとしてもフウが追撃を阻止するために魔法を行使し、その間にリリが回復させる。

後衛を狙えば連携を崩せそうだが、前衛の攻撃力が高すぎて中々無視できない。


隙がないな。

レア種族二人のスペックの高さを生かしたうまい戦い方だ。


その後も岩竜と『正義の剣』は一進一退の攻防を繰り返す。



『虫けらが、いつまでも調子にのるなあああああ!』

岩竜が渾身の力で地面を踏みつける。



「くっ。」

「グぅッ」

衝撃波を受け、前衛二人が後方へ下げられる。


『灰も残さず消え去るがいい‼』

岩竜の口元に光が収束していく。


あれはヤバい。


僕は見た瞬間そう悟った。

今までの攻撃とはレベルが違う。


「皆下がれ!」

ラルフがそう叫び自分だけが岩竜に向かって走り出す。


グガアアアアアアアア!!!!!!


岩竜の口から極光の特大ビームが放たれる。

凄まじい熱量だ。


ラルフが熱戦に向けて手をかざし、叫ぶ。


「【消去】‼」



パリンッ!

甲高い音が鳴り響く。


ラルフの手に触れた瞬間、

視界を覆い尽くしていた極光のビームは跡形もなく消え去っていた。


広い空間に静寂がおりる。



「シオン、ここにいると危険だ。坑道の外で待ってろ。」


ラルフが小さな声で告げてくる。


「ああ。」

僕は頷き、広間の出口に向かう。



「さあ、ここからが本当の戦いの始まりだ。」

背後からそんな声が聞こえていた。





*********



く、まずいな。

俺は周りの仲間たちを見ながら思った。

アースドラゴンと戦い始めてそれなりの時間が経過していた。


皆、かなり疲弊してきているな。

それに、焦りが生まれてきている。

必死に戦う仲間たちと岩竜を見比べる。


岩竜もかなりダメージを喰らっているだろうが、いまだに余裕を感じる。


このままいってもジリ貧か…。


こうなったら、一か八かで総攻撃をかけるか?

今仕掛けても勝てる確率はほぼないに等しいが決してゼロじゃない。


なぜなら、俺にはダークエルフ特有の必殺技とでもいうべきスキルがある。

相手に大ダメージを与えることができるが、使用後しばらく動けなくなるという効果があるため、使うとしたらとどめを刺す時だ。


しかし、なぜこいつに限ってHPバーが見えないんだ?


そう、普通のモンスターなら頭上に表示されているHPバーがアースドラゴンにはなかった。

そのせいで相手がどれだけ弱っているかいまいち見極められず、戦いの運び方を決めあぐねている。


ここが、ターニングポイントだ。

このまま堅実に戦うか。一か八か仕掛けるか。


どうする?

俺が必死に決断を下そうとしていたとき、そいつは突然現れた。





「どけ。」





え?

突然、掛けられた声に一瞬思考が停止する。



振り返ると、俺の斜め後ろにいつの間にか一人の女がいた。


黒い外套を纏い、目元を仮面で隠している。



なんだこいつ?というか、いつからここにいた?


突然の出来事に俺が混乱した頭で考えていると、女が再び口を開いた。


「聞こえなかったのか?あのデカブツは私が倒してやる。お前らは下がっていろ。」

そう言うと、俺の脇を抜けゆっくりと岩竜に向かって歩いていく。


女のあまりの異常さにパーティメンバーどころか、岩竜までもが沈黙していた。


倒すだと?たった一人でか?

俺達4人ですら負けが濃厚だったんだぞ?そんなこと可能なのか?


いや、女の姿を見るに嘘を言っている気配がない。

本当に倒すつもりでいるのだろう。


「お前はいったい何なんだ?」

俺の口から勝手に言葉がこぼれ落ちていた。


女は振り返ると、口元に微かなほほえみを浮かべて言った。



「私は『悪魔の舌』だよ。」




なに!?

『悪魔の舌』だと‼


仲間たちにも同様の驚きが広がる。


『悪魔の舌』。サービスが開始していくらも経たないうちに氷山を攻略したパーティ。このことはそれなりに有名だ。

多くのプレイヤーは氷山というフィールドを知らず、ほとんどの場合がネタとして扱われていた。


だが、俺達は違う。

なぜなら、俺たちはサービスが開始した直後に氷山に行っているからだ。

当然、撤退した。明らかに来るフィールドを間違えたと思った。

ここは、初期に攻略する場所ではないのだと。

しかし、それから少しして攻略通知が届いた。

驚きだった。なんといってもその時、俺たちは攻略の最前線を走っていたのだ。

このタイミングでの氷山攻略。それがいかに異常なことかを当時、一番知っていたといってもいいだろう。

だから、俺たちの間で『悪魔の舌』は最も関心のあるパーティの一つだった。



この女がそのパーティの一員だというのか?だとしたら……。


仲間たちの間で期待値が高まっているのが分かる。


もしこの女が本当に『悪魔の舌』の一員なのだとしたら本当にやってくれるかもしれない。


実際、この女が現れる前のまま戦っていたら俺たちはかなりの確率でデスペナルティを負っていただろう。

経験値全損。今までの苦労が全て水の泡になる。

その恐怖を確かに感じ始めていたところだ。


このタイミングでの登場。

俺達にとってはまさに希望の光だった。


「本当にまかせていいのか?」

「当然だ。大船に乗ったつもりで待っていろ。」



女が岩竜と向き合う。

「行くぞ、デカブツ!」


一気に加速する。

両者の距離がどんどん近づいていく。


女がかなり接近してから、思い出したかのように岩竜が動き出す。


岩竜が大きな爪を女に叩きつける。


スローモーションのように全ての動きがゆっくりと見えた。



迫ってくる爪、それでも女はスピードを緩めない。


さらに迫ってくる爪、それでも女はスピードを緩めない。


さらにさらに迫ってくる爪、それでも女はスピードを緩めない。


さらにさらにさらに迫ってくる爪、それでも女は…、



次の瞬間、女に岩竜の爪が直撃していた。


女の体がくの字に折れ曲がり、ものすごい勢いで後方に弾き飛ばされる。



「うぎゃあああああああああ!」


ドガシャンッ‼


派手な音をたてて、壁にぶつかった。



「……。」

「……。」

「……。」

「……。」

『……。』








あれ?よわくね???





***********


し、しまったーーーーーー!!!

僕は今、洞窟の壁に頭からめり込んでいた。


うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお、

ガポッ。

何とか頭を壁から引き抜くことに成功する。


はあ。道中に敵がほとんどいなかったせいで【再臨】の効果が全く発揮されていないじゃないか。

これじゃあ、僕一人で勝つのは厳しいな。


かなり大口を叩いてしまったのだが…。

沈黙と皆の視線が痛い。


しょうがない。ここは恥を忍んで頼むか。


「皆さん。私と共同戦線を張りましょう!」

にこっ!

僕は美少女スマイルを決めていた。





仮面被ってるけど……。




**********



ガッ!

光弾が降り注ぐ。


【神速瞬歩】

3秒間に一度、超高速移動を可能とする。


俺はスキルを使い、一気に距離をとる。



俺とジンが距離をとった一瞬のうちに、岩竜の口元に光が収束する。


グガアアアアアアアア!!!!!!


【消去】!

 60秒間に一度、如何なる攻撃も無効化する。


パリンッ!

ガラスが砕けるかのような音と共に熱線が打ち消される。


仮面の女が現れてから既に2時間が経過しようとしていた。


そろそろ、アイテム切れが近い。

正直、ここまでもつとは思わなかった。


これほどまで長い時間戦い続けられたのはひとえに仮面の女のおかげだろう。

彼女が前衛に加わったことで負担が軽くなったのだ。

派手な氷魔法で攻撃し岩竜の注意を惹きつけ、ほとんどの攻撃を彼女一人で受けていた。

まあ、攻撃が効いている気配は全くないが…。


そのおかげでアイテムをかなり節約しながらここまで戦ってくることができたのだが、


さすがにこれ以上はキツイか。

皆、既にボロボロで満身創痍だ。


岩竜からも最初のころほどの余裕は感じられないが、このまま戦い続けたら間違いなくこっちが先に力尽きる。


しかけるなら今か?




そう思った直後にジンが吹き飛ばされる。


そこに岩竜が追い打ちをかける。


……。

……。



なに?後方支援がないだと?

慌てて後方を振り返ると女性陣二人が苦しそうに膝をついていた。

魔力枯渇。

最悪のタイミングだ。

仮面女も遠くに飛ばされており、助けに入れそうもない。



悠長なことを言ってる場合じゃないな。俺がやるしかない。

切り札を使うぞ!


俺は剣を頭上に掲げ、剣先に全魔力を流しこんだ。


「うおおおおおおおおおおおお。」

キュイン。キュイン。キュイン。


剣先に光が収束する。黄金色の光がどんどん膨れ上がる。


その間にも、岩竜がジンにとどめを刺そうと迫る。


キュイン。キュイン。キュイン。


岩竜が完全に光弾の射程圏内にジンを捉える。


キュイン。キュイン。キュイン。


岩竜が光弾を吐くモーションに入る。


キュイン。キュイン。キュイン。

ちくしょう。早くしろ!


キュイン。キュイン。


カチッ。


来たっ!


「させるかああ!!!」

俺は咆哮をあげ、剣を構える。



「くらええええええええ!

【正義の剣】!!!」



光速で振りぬいた剣先から黄金の光が解き放たれる。

その熱量は岩竜のビームをもしのぎ、一瞬で視界を金色に染め上げた。








《グギャアアア!許さん、許さんぞ!下等生物の分際で‼》


景色が晴れた時、岩竜の鱗はボロボロだった。

体のいたるところから出血している。間違いなく大ダメージを負っていた。


しかし、

生きている…。



ジンを助けなければ。

彼はいまだに岩竜の射程圏内だ。


早くジンを助けなければ。


ぐぅ。

か、体が動かない。

【正義の剣】の反動だ。


ジンを助けなければ…。

「下等生物、下等生物って。あなた達ドラゴンはみんな同じことしか言わないのね。」

凛とした声が広間に響き渡る。


声がした方を慌てて見ると、岩竜とジンの間に一つの影があった。


仮面女だ。


いつの間に移動したんだ?さっきまで反対方向の壁際に吹き飛ばされていたというのに。


《満身創痍の死にぞこないが、わざわざワレの前に出てきてそんなに死にたいか?ならば望み通りの死をくれてやる。》

岩竜が低い声で告げる。


「あははは。満身創痍なのはどう見てもあなたでしょう?

それに、……私が満身創痍?いつの間に私が本気を出して戦っていると錯覚していたの?」



「なに?」


女の言葉に、俺は思わず声を上げていた。


「あら、あなたも気づいていなかったの?」

そういいながら、女がこちらを振り返る。


「私ってホントは氷魔法が苦手なの。一番得意なのは炎魔法なのよ。」

クスクスと笑う女から俺は目を離せなかった。


話の内容が衝撃的すぎて信じられなかったんじゃあない。


彼女の笑顔が美しすぎたからじゃあない。


ただ、

仮面の下の彼女の瞳がいつの間にか真っ赤な色に染まり、不気味な光を放っていたからだ……。



*********



イタイ!セリフが痛いよ!

中二成分全開。嘘八百だよ。

氷魔法どうこう、炎魔法どうこうの前にそもそも魔法なんて一つも使えないんだぞ。あくまでスキルなんだぞ。

というか、いつまでクスクス笑ってるんだよ僕の口!

そろそろやめないとただの変態だと思われるぞ。いや、既に周りの視線の質が変わってきている気がする……。


一度口にしてしまったものはしょうがない。精一杯、炎の魔導士を演じてやろう。

ただでさえ厳しい戦いだというのに無駄な課題を増やしやがって。

こんな時にしか使い道のないスキルを使うか。


さて、決着といこう。




【七色の髪飾り】

僕の背中から炎の翼が生える。

さらに体中に炎の衣を纏う。

それらの炎をゆっくりと手に集めていく。

まあ、実際は炎のエフェクトであって炎そのものではないのだが。

やがて十分な量が集まったところで手元の炎の色が徐々に七色に変化した。



岩竜の口元に光が収束する。

負っているダメージからして間違いなく、最後の一撃だろう。

ゆっくりと、ゆっくりと光りが集まった。



《消え去るがいい。愚かなものどもよ!》


「灰に成りなさい。【不死の炎】!」



放たれた極光のビームと七色の炎は激しい音をたててぶつかり合い、視界を埋め尽くした。




***************





ふう、結構危なかったな。

「口」はかなり余裕があるようなことを言っていたが、実際はかなり危なかった。

岩竜が『正義の剣』の面々の地道な攻撃、そしてラルフの最後の光の剣での大ダメージを負っていたおかげで何とか打ち勝てた。

彼らの並外れた強さがあったからこその勝利だな。


でも、やはり僕はソロ向きだな。今回の戦いで痛感した。

【再臨】や【吸収】は僕がいつもとんでもなく長い時間を掛けて戦っているから効果を発揮しているのであって、今回のように2時間ちょっとだと心もとない。

仲間を守るスキルもないしね。


しかし、皆無事でなによりだ。







チリン。 

《鉱山のイベントボス、「アースドラゴン」が討伐されました。討伐パーティは『正義の剣』、『悪魔の舌』です。》










僕たちは鉱山から冒険者ギルドの前まで帰ってきていた。

当然、僕の姿は男に戻っている。

あの戦いのあと、坑道の外で何食わぬ顔で合流した。

ギルドへの報告も既に済んでいる。

朝早くに出発したのだが、街は既に夕暮れ色に染まっていた。



「今日はお疲れ様。」

「お疲れ様です。」

「また一緒に冒険したいのー。」

「また会おうぜ。」


「お疲れ様。機会があればまた一緒に同行させてくれ。」



『正義の剣』のメンバーがそれぞれ挨拶をし、僕に背中をむけて歩き出す。


悪魔の舌かっこよかったですね。

中二病全開の変態さんだったのー。

というか、カッコつけてないで早く倒せよって感じだったな。最後ら辺かなりひやひやしたぞ。次会ったら一発殴ってやろうか。


風に乗って彼らの会話が微かに聞こえてくる。



うんうん。

よく聞こえないが、僕のことを噂しているようだな。

きっとベタ褒めだろう。



そのまま全員の背中が見えなくなるかという時に


「あ、言うの忘れてた。」

ラルフが立ち止まって振り返る。



そして、ニヤリとして口を開いた。


「今度助けに来るときはその髪飾り外してこいよ。」



……。


あっ。

僕は慌てて頭をおさえた。



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