道中で!
「武器を取りにきた。」
「……誰だ?」
「ほら、俺だ俺。」
「……。もしかして…変態やろうか?」
「そうだ、その通りだ。」
その通りだじゃねえよ!というか、やはり変態だと思われていたのね。
さて、僕は今新しい武器を受け取りに鍛冶屋に来ているわけだが。鍛冶屋の店主になかなか僕だと気づいてもらえなかった。
理由は簡単。ずばり、僕が変身しているからだ。
勿論、昨日得た【変身】のスキルで。
ここで、このスキルの効果を説明しておこう。
まずこのスキル、【変身】という大そうな名前がついているが、どちらかと言えば変装だ。
他の生物になることは勿論できず、それどころか顔の周辺のパーツはほとんどいじれない。精々髪の長さを変えられる程度だ。そのかわりにというか、体のほうはかなり自由に変えられる。もちろん声も。
そこで、今の僕の姿なのだが、…銀髪ロングのスタイル抜群な美女になっていた。
もともと切れ長の目をもつ女形の顔だったため、クールビューティーといった感じだ。
「お前……、女だったのか?」
「いや、俺は……。ん?この場合一人称は私かな?……ちゅうせいだ!」
いやいや、そこは男でいいだろ!まあ、ゲーム上の設定は確かに中性だけど。話がややこしくなる。
でも不死鳥が【変身】を得られた理由は中性だからかもな。性別の変更ができるスキルだし。
「そうか。武器を取ってくるから少し待ってろ。」
そういって店主がいったん店の奥にひっこむ。
再び戻ってきたときにはその手に一振りの刀が握られていた。
「これだ」
「ああ。」
刀を持ってみると、ずしりとした重さを感じる。
その刀は柄の部分は真っ白な木、刃の部分は水色透明の水晶のようなものでできていた。因みに鞘も柄と同じで真っ白な木でできている。
「見事な刀だ。」
光をうけてきらびやかに輝く刀身をみて僕はつぶやく。
「満足してくれたならなによりだ。ところでお前に一つ質問がある。」
ん?なんだ?
僕は刀を鞘に納め、店主のほうを振り向く。
「お前はこれから新しい街に行くのか?」
「ああ、そのつもりだ。」
「なら、俺も連れて行ってくれないか?」
「ん?なぜだ?」
「それは当然、最前線が最も鍛冶屋の需要があるからだ。俺達職業プレイヤーは常にポイントを稼がなければならないからな。」
ああ、なるほど。
そう、実はこの「ドッグ・ラン・オンライン」には、俺のような攻略プレイヤーのほかに、職業プレイヤーと呼ばれる人々が存在する。
職業プレイヤーはその名とおり、鍛冶屋、料理人、裁縫士などの様々な職業を行う人々のことで、現実ではできないことをノーリスクでできると結構人気だ。
まあ、自分の店を持つとか、現実ではなかなかできないからね。
人気とはいっても全プレーヤーの一割ほどなんだが。
そして、攻略プレイヤーが攻略実績によって評価されるように職業プレイヤーにも評価基準がある。それが人気ポイントだ。人気ポイントのシステムを簡単に説明すると、攻略プレイヤーの人々が一人一票自分のお気に入りの店に投票し、その獲得票の多さで職業プレイヤーがランク付けされる。この投票は毎週行われ、週間ランキングで上位に入ると攻略プレイヤーと同じく運営から豪華景品が贈られるという仕組みだ。
豪華景品といえば、僕のもとには森と氷山のボスを初めて討伐した実績に対して既に景品が贈られてきていた。
まあ、景品というか金券だったんだけどね。建前上景品といっているのかな?
それはまあ結構な額で僕は大満足だったのだけれども。
そういうことで、鍛冶屋の店主が言っていることは至極当たり前のことで、理解ができる。
「私は構わないぞ。」
「そうか、恩に着る。そのかわりと言ったらなんだが今回の刀代はタダでいい。
ほかに何か必要なものはあるか?」
「そうだな…、そこの仮面をいただこう。」
僕が指さしたのは壁に掛けられている一つの仮面だ。
目元だけを隠せる何の装飾もない白い仮面だ。
というか、いつの間にか一人称が私になってるんだけど!
「ほらよ。それじゃあ今から旅立ちの準備をするから少し待っててくれ。」
「分かった。」
鍛冶屋の店主が店にあるものを片っ端からアイテムボックスに突っ込み始める。
職業プレイヤーのアイテムボックスの収納数はほぼ無限だからな。
それを横目に受けっとった仮面を装着してみる。
ふむ、なかなかいいな。材質は何かの骨だろうか?
【変身】では顔は変えられないからな。
髪型、声、体型(性別)をかえて仮面をつけていれば、間違いなく別人に見えるだろう。
ん?なぜ別人になりたがるかだって?そんなの簡単さ。戦う時に変身したらかっこいいじゃないか。
普段は男、戦うときは仮面の女。うん、悪くないね。
「終わったぞ。」
「よし、それじゃあ出発しましょう。」
僕たちは二人で東門をくぐった。
***************
皆さんごきげんよう。
突然だが、俺の名はギルバート。
今まではじまりの街で鍛冶屋をやっていた中年のドワーフだが、新たに安らぎの街という街が発見されたということでそちらに活動拠点を移すことにした。
そして、今現在俺は安らぎの街へ向かって護衛に雇ったやつと二人で旅をしている。
この男(今は女だが…。)はっきり言ってよくわからん。
なぜ、こいつを護衛に選んだのか。その理由は、こいつが持ち込んで来た素材がとんでもなく上品質だったからだ。たぶん、こいつが攻略したという氷山はかなり難易度の高いフィールドなのだろう。
きっとこいつ自身、とんでもない実力者に違いない。ということで雇ったの
だが、こいつには一つ問題がある。
「おまえ、なんでスライムをずっと持ってるんだ?」
そう、この男(今は女だけど俺の中での扱いは男だ)は旅に出て最初に出会ったスライムを捕獲し、ずっと右手にスライムを掴んでいる。粘液の塊を掴み続けるとは器用なものだ。
「ああ、これ?私はずっと敵意を浴びていたいのよ。一瞬だって途切れたらいやなの。」
クスクス。
「……。」
そう、こいつは変態だった。出会った時から分かっていたが…。
というか、スライムを素手で掴んでて大丈夫なのだろうか?
いや、きっとその痛みすら心地よいとか言うに違いない。触れないでおこう。その証拠に
眼が血走っている。
いや……、これは違うな。スキルエフェクトか。
「スキルエフェクトで眼が赤くなっていようだが、なんかスキルでも使っているのか?」
「エフェクト?眼が赤く?きゅうしゅうは切ってるからさいりんか?まさかエフェクトがあるとは…でもアナ達といたときは…ぶつぶつ…。」
ふむ。気付いてなかったらしいな。
こんな奴だが、実力はやはり高い。
今、俺達は調度荒野から高原に入ったところだが、高原の敵を難なく倒している。
少し前に荒野のボスと戦った時は、まさに瞬殺だった。
ただ片手で触れただけのように見えた。
次の瞬間には荒野のボスであるゴールデンスライム(金色のスライム)は粉々に砕け散っていた。
人選は間違ってなかったな。
このペースで行けばすぐに高原のボスまでたどり着けるだろう。
俺は満足しつつ、足を進める。
****************
はい。なぜかいま僕たちは10人ほどの男女に囲まれていた。皆ギラギラとした目をしている。
僕が鍛冶屋の店主を連れ立って旅を始めてからかなりの時間がたっていた。
道中はかなり順調で、もうじき高原のボスのところにたどり着くかというところだった。
そんなときに現れたのがこいつらだ。草むらから出てきたと思ったら、あっという間に周りを囲まれてしまった。
全員の体が微かに赤く発光している。PKをしたことがある証だ。
「ひっひっひ。ここまでの道中ご苦労様。残念ながらこの先は通行止めでーす。」
「おいおい、ビビッて声も出ないのか?なんか言ってみろよ仮面女!」
「……。」
「おい!無視してんじゃねえ。舐めてんのか!」
……。
あ、仮面女って僕のことか。
というか、またテンプレ通りのワルが出てきたな。
そういえば最近PKが増えてきてるって言ってたからな。間違いなくそれだな。
このゲームでPKを行うと、相手のお金と相手が今までに蓄積した経験値の10分の一を得られる。
PKが多発している理由は間違いなく経験値だろう。モンスターを倒すよりプレイヤーを倒したほうが圧倒的に楽だからね。
おかげでPKをするプレイヤー、犯罪者プレイヤーは突出してレベルが高く、プレイヤー10人以上から成る集団を全滅させたなどという話をよくきく。
特に運営がゲーム攻略の貢献者へ与える豪華景品が金券、しかもかなりの額だと分かってからはひどい。
だが、そのおかげ?でここ数日、誰も知らないようなフィールドの攻略通知が相次いでいる。
因みに、通常の攻略者の攻略スピードも一日前から格段に早くなっている。
きっかけは、安らぎの街にいくために今までにない大規模なパーティが編成されたことだった。
100人をこえるほどの超大型パーティは瞬く間に高原を突破してしまった。
このことで、多くの人々が気が付いたのだ。このゲームは本来かなりの人数で協力して攻略するものなのだと。なんせ、パーティ人数に上限がないのだから。
「おい、落ち着けよ。ただビビッて口がきけないだけだろ。」
「あ、ああ。そうだな。」
まだ一言も発していないのに仲間内で勝手に話が進んでいる。
でも、できれば戦いたくはないかな。僕はもともと喧嘩とか嫌いだからね。
ここはうまく慰めて、スキをついて逃げよう。そう思い、口を開く。
「さっきからキーキーとうるさいわね。私って猿の言葉の意味は分からないの。これ以上ごちゃごちゃ言うと消し炭にするわよ!」
「……。」
「……。」
ですよねー。僕が口を開いてうまくいったためしがないからね。というか僕の口、ノリノリだな。なんか性格までかわってないか?
相手もだまっちゃったよ。沈黙がつらい。
「そこまでだ!」
そのとき突然、後方から大きな声がした。
そこにいたのは美男美女、ではなく冴えない男女の4人組だった。
「『大天狗』!お前たちの悪事もここまでだ!」
「ゲゲッ、『黒炎』!毎回毎回、邪魔しやがって。あんまり調子にのるなよ!今日こそ貴様らを地獄におくってやる。」
「それはこっちのセリフだ。多くの人々を傷つけた罪、今日こそ償わしてやる!」
「いくぞ!ハッ!」
「ぐ、やるな。テヤーッ!」
「ヤーッ!」
「トーッ!」
ガコッ!バキバキ!カーンッ!
ドコッ!バコッ!
……。
……。
「先を急ぐわよ…。」
「ああ。」
突然の乱入者の登場で、完全に蚊帳の外となった僕たちは戦い続ける2グループを無視して先に進んだ。
《Lv.13 コボルトキング》
体はやたらと体毛が濃い人間、顔は犬という体長3メートルほどの怪物がいた。
多少予想外のことはあったものの遂に高原のボスの所までたどり着いたのだ。
既に道の先には大きな街が見えている。
ここまで長かったが、ここを抜ければ遂に安らぎのまちだー!
【絶対零度】!!!
コボルトキングは砕け散った。