黄泉
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人族の国。王都近郊のとある喫茶店。
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男1:《沼の主》って、どんな奴なんだ?
女1:聞いた話によると《沼の主》は五凶星の中で唯一の第二陣プレイヤーらしいよ。
女2:Lv.10の時にフロストドラゴンを倒したとか。
男1:マジか⁉それは凄いな。一体やつはなんの種族なんだ?
女1:ええっと、……アメンボだったかな?相手のスピードを落とすスキルと自らのスピードを高めるスキルを片っ端から取得していて、術中に嵌ったらその影すら捉えられないんだって。
男1:ほう。スピード特化か。なんかカッコいいな。
女2:うん。《沼の主》は本来嫌われ者であるはずの犯罪者プレイヤーだけど、この「ドッグ・ラン・オンライン」で一位二位を争うほどの人気プレイヤーなんだよ。
女1:《沼の主》改め、愛すべき変態ってね。
男1:なんだそれ???
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一方的な展開だった。
沼地に足元を固定されて身動きの取れない《不死の人》の周囲を《沼の主》が高速で移動し、何度も短刀で斬りつけている。
《沼の主》は足に青白い光を纏っており、沼の上を滑る様に移動していた。
まるで、水の上を走るアメンボの様だ。
「凄い速さですね、セーヤさん。僕にはなにが起こっているのか殆ど見えませんよ。」
隣のセイギが話し掛けて来る。
「ああ。しかし、そろそろ……」
ボクが言いかけた瞬間、
戦闘に動きがある。
《不死の人》がおもむろに外套の中から麻袋のような物を取り出し、その場で逆さにした。
キラキラ。
《不死の人》の足下に金色の細かい粒子が舞う。
なんだあれ?
ボクがそう思った瞬間、
ピカッ。
眩い閃光が弾け、
ズドーン。
《不死の人》の周囲が爆発する。
「おっと……。危ない。危ない。」
慌てて距離をとる《沼の主》。
広場中央の様子は爆発により巻き上げられた塵や埃などでよく見えない。
どうなったんだ……?
視界が晴れた時、広場の中央にはクレーターができていた。
泥が辺りに飛び散り、爆発の凄まじさを物語っている。
そして、
《不死の人》はクレーターの中央に倒れていた。身に纏った外套はズダズダだが、何故か仮面だけは割れていない。
自爆技で足元の拘束を無理やり解いたのか……。
先程の金色の粒子は起爆剤みたいなものだったのだろう。
しかし、流石にダメージを負い過ぎじゃないか?
広場中のプレイヤー全員が息を飲んで動向を見守る中、《不死の人》がゆっくりと起き上がる。
そこに、
「ダメダメー!反撃の隙は与えないっての!【神速】!」
《沼の主》が金色の光を身に纏って物凄い速さで肉薄する。
そして、
「【速吸術・絶】。」
何もない空間から短刀を取り出し、そのまわりにキラキラとした緑色の粒子を纏わせると、《不死の人》に叩きつけた。
木属性の属性エフェクト。
煌びやかな光を纏った一撃を《不死の人》が、いつの間に取り出したのか、右の掌に逆手に握りこんだ苦無で受け止める。
クレーター内。
《沼の主》と《不死の人》が目にも留まらぬ速さで動き回り、金属と金属がぶつかり合う音が広場に何度も響き渡る。
ガン。キン。ガン。
キン。キン。キン。
同じ様な音が広場に木霊すること約5分。やがて、違う音が混じり出す。
ガン。キン。ズバッ。
ズバッ。キン。ズバッ。
刃物が肉を割く様な音。
遅くなっている。《不死の人》の動きが目に見えて遅くなっている。
《沼の主》と刃を交える度にスピードが落ちていく、《不死の人》。
それに対して、《沼の主》のスピードはどんどん速くなっていく。
これは……【速吸術】の効果だ。
ボクはその原因をすぐに見抜く。
【速吸術】
第二陣の魔法剣士が使用する代表的な魔法の一つ。剣に魔法の光を纏わせ、相手を攻撃する。攻撃を与える度に相手のAGI値、俊敏さを下げ、下げた分のAGI値を自らのステータスに加える。効果は自分と相手との距離が一定以上離れるまで、永続的に続く。
《沼の主》が使用した【速吸術・絶】は間違いなくこのスキルの上位互換。
その証拠に、効果の現れが顕著だ。
既に《不死の人》が苦無を一振りする間に《沼の主》が短刀で三度斬りつけるというほどにスピード差ができている。
しかし、中々勝負がつかないな……。
幾ら《不死の人》がステータスポイントをDEF値に極振りで、防御特化だと言ってもそろそろHPがなくなる頃だと思うのだが。
この「ドッグ・ラン・オンライン」には四肢破損システムと言うものがあり、HPが少なくなると、体の部位が動かなくなったり、手足が吹き飛んだりする。
今のところ《不死の人》にその兆候は見られない。
一体、どうなっているんだ?
ボクが目の前の状況に僅かな違和感を感じていると、
「まぁ、これくらいでいいだろう。」
《沼の主》が後方に飛び退き、《不死の人》から距離をとる。
そして、
「そろそろ、必殺技で決めるぜ。」
右手をゆっくりと前に突き出した。
騒つく広場。
《沼の主》の右手に緑光が集まって行く。
これは……槍?
緑光はやがて、巨大な槍の形を成す。
《沼の主》が右手に握り込む全長5メートルはありそうな巨大な槍。
それをゆっくりと振りかぶると、
「喰らえ【魔槍破裂鉾・三十鏃】!」
《不死の人》に向かって投擲した。
巨大な槍は空中で複数の鏃に分裂し、あらゆる角度から《不死の人》を急襲した。
降り注ぐ何十もの緑光の鏃。
クレーターの中心に位置取る《不死の人》が避けようと試みるが、鏃は空中で何度も向きを変え、確実にその体に吸い込まれる。
ズバズバズババババ。
着弾した鏃が眩い光を撒き散らし、広場全体を鮮やかな緑色に染め上げた。
「くっ。眩しい。」
思わず両手で目を覆ってしまう。
何という威力だ。
爆風で後ろの神殿の屋根が吹き飛びそうになっている……。
叩きつける様な風。
足元が泥で固定されていなければ確実に吹き飛ばされている。
そんな荒れ狂う風もやがては収まり、広場が静寂に包まれる。
広場の中央に先程よりもひとまわり大きなクレーターができていた。
その中央に黒い影が倒れている。
《不死の人》。
まだ、HPが残っているのか。
ここまで来ると本当に凄いな。
爆心地にいたにもかかわらず、未だに原型をとどめている《不死の人》のスペックに思わず感心してしまう。
しかし、
……流石にもう動けないか。
ボロボロの外套を纏ったその姿はピクリとも動かない。
「うーん。本当にしぶとい!俺っちの必殺技を喰らっても原型をとどめていられる奴なんてモンスターでも中々いないっていうのになぁ。」
《沼の主》が踊る様な軽いステップで《不死の人》を見下ろせる位置まで移動する。
そして、
「それじゃあ、これでフィニッシュだ。俺っちの必殺技パート2。じっくりと味わってね。」
《沼の主》が屈み込み、右手を《不死の人》の顔の上に翳した。
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「それじゃあ、これでフィニッシュだ。俺っちの必殺技パート2。じっくりと味わってね。」
俺っちはそう呟き、《不死の人》の元に屈み込んだ。
《不死の人》の仮面は真ん中にひびが入り、少し動けば外れてしまいそうな状態だ。
ふむふむ。先程の爆撃時に仮面を守っている余裕はなかったということか。これはもう相当弱っているな???
そう思った俺っちが右手を顔の真上に翳し、第二の必殺スキルを発動しようとした瞬間だった。
「うえっ。」
思わず俺っちの口から声が漏れる。
……全く。
この女、しつこいねぇ。
手が伸びていた。
今までピクリとも動かなかった《不死の人》の右手が伸び、俺っちの首元を掴んでいる。
そして、
グイッ。
そのままの状態から、《不死の人》にあっさりと引きずり倒される。
地面に横たわる《不死の人》の上に跨るような状態。膝と両手で倒れるのをなんとか堪える。
「あははぁ。まだ、これだけの力が残っていたとは驚いたなぁ。しかし、……仮面が外れているけど、いいのかい?」
問いかける俺っち。
それを不機嫌そうな金色の双眸が至近距離で睨んでくる。
俺っちの首元を掴むために動いた所為で、《不死の人》の仮面が外れたのだ。
「……別に問題ないわ。あなたの体の陰になって、周りからは見えないもの。」
意外にも《不死の人》が返事をしてくる。
おおっと⁉
まさか返事をしてくるとは思わなかった。案外、普通に話せるものだな……。
俺っちが驚いていると、
「兎にも角にもあなたはあと10秒で綺麗さっぱり消えることになるわ。この周囲一帯も含めてね。」
突如、《不死の人》の体から外側に向かって風が吹き始める。
これはスキルか⁉
加えて、先程も目にした風に乗って舞うこの粒子は……鱗粉?
吹き荒れる強力な風に乗って辺りに撒き散らされる黄金の粉。
この粉は確か先程、爆発を引き起こすのに利用されていたような……。
は⁉
「まさか、この辺り一帯をまとめて吹き飛ばす気か⁉」
俺っちがなんとか身を捩って《不死の人》の手を振りほどこうとするが、
ぐぬぬー。外れない。
握力強すぎ……。
《不死の人》の握力が強すぎて、掴んでいる手を振り解けない。
しまった、そろそろ10秒経つんじゃあ……。
俺っちがそう思った瞬間、
ジジジジ。
今度は《不死の人》の右手が赤黒く輝き出す。
くぅぅーーーーー。必殺技を放って手を振りほどきたいところだが、そんなことをしたら、自ら爆発を誘発してしまう。このまま敵のスキルを受けるしかないのか?
スキルを封じられ、打つ手なし。
これは……オワタ。
自らの敗北を悟った俺っちの耳に、
「【黄泉】発動。」
《不死の人》の小さな呟きが響いた。
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人族の国、王都。
その中心で巻き起こった金色の大爆発。
その規模は爆発を起こした張本人の予想よりも遥かに大規模なものとなり、ドッグ・ラン・オンラインの世界から一つの都市を丸々消し去ることとなった。
チリン。
《人族の国の結界水晶が破壊されました。残存する結界水晶はあと1つです。》
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