しがない街から
2日。
時間になおすと48時間。
開幕、極大ビームを喰らってからかなりの時間が経過していた。
不味い。
敵のHPバーを見る。
残り1/3程。
ゴーレムの高い防御力の前に、僕の攻撃は全くの無意味であった。
剣で切りつけても、HPバーは1ミリも減らない。
敵にダメージを与えられるのは唯一【吸収】のスキルのみだ。
このままのペースでいくと、あと24時間かかることになる。
とてもじゃないが精神力が持たないな。
「あーーーヤバイ。弱点とかないのか?」
僕の口がぼやく。
弱点か…。
倒せるかもしれない方法が一つあると言えばあるよなぁ。
ゴーレムの拳を、ヒラリヒラリと躱しなら思う。
ここが腕の見せどころだな。
よっ。
真上から振り下ろされる敵の右手をバックステップで避ける。
そして、
トンッ。
地面を軽く蹴り、敵の右腕に飛び乗ると、
行くぞ!
相手の腕の上を一気に駆け上がる。
敵の肩まで到達すると、
フワリ。
ゴーレムの顔の正面に身を躍らせた。
ゴーレムと目が合う。
弱点。それは目だ。
全身が岩でできているゴーレムで唯一材質が違う場所。
水晶の様な材質でできており、硬そうにない。
これでダメージを与えられなければ、いよいよ打つ手がないな。
僕は右手を突き出すと、叫んだ。
「喰らえ。【不死の炎】!」
***************
……効かなかった。
僕の放った七色の炎が相手に届く直前にゴーレムの目からビームが放たれ、あっさり相殺された。
24時間。
あれから24時間後、遂にゴーレムが消滅する。
ボン。
ドロップした素材を拾うと、フラつく足で最奥の間に進む。
殺風景な部屋だった。
中央に宝箱が置いてあるだけで、他には何もない。
派手な箱だな。
煌びやかな箱を開けると、
「これが【堕天の鎧】か…。」
中には黒い革鎧が入っていた。
バイクのプロテクターみたいなデザインだな。
「多くの者が欲しても手に入れられなかった鎧。最強の戦士である俺様にぴったりだぜ。」
僕の口が満足そうに呟く。
ふーむ。大変な戦いだったが、確かに収穫は大きかったな。
僕は【堕天の鎧】をアイテムボックスに突っ込むと、
眠い。これ以上は起きていられん。
半ば意識を失う様にログアウトした。
**************
あー。やっと熱が下がったか。
体温計を脇に置くと、僕はベッドから出て、パソコンを立ち上げた。
「ドッグ・ラン・オンライン」内でロックガーディアンを撃破してからの三日間。僕は風邪を引き、寝込んでいた。
理由は、三日間不眠でゲームをし続けたからだ。
やはり、何事も行き過ぎは良くないな。
僕はパソコンの前に座ると、ネットを使い、「ドッグ・ラン・オンライン」の公式ページにアクセスした。
画面に幾つもの情報が表示される。
さて、熱も下がり、体調も回復してきたので、明日からゲームに復帰するつもりだ。
故に、今日の内に最新の情報を仕入れておこうと思う。
普段は自分のことで精一杯で、情報収集が疎かになってしまう。
こういう機会に情報を仕入れておくのも悪くないだろう。
パソコンの画面を隅々まで見ていくと、
ん?何だこれ?
《パーティ別、金券獲得額ランキング》
面白そうなカテゴリーを見つけ、クリックする。
すると、二つの項目が表示される。
・総合計
・一人平均
総合計の方をクリックしてみると、
1位 『第二陣冒険者連合軍』
2位 『光の守護者』
3位 『虎穴』
ふむ。2位と3位は名前を聞いたことがあるけど、1位の所はない。
「名前ダサいな。」
苦しくも口と同じことを考えてしまう。
これ、パーティの実状をそのまま名前にしただけだろ。
まあ、格好良さの基準は人それぞれの上、厨二感全開の名前とどちらか良いかは微妙なところだが。
しかし、パーティメンバー全員の金券獲得額の合計が一番多いということは、それだけ成果を上げているということだろう。
第二陣ということは、つい最近出来たパーティだろうに。凄いな。
名前を覚えとこう。
カーソルを動かし、一人平均をクリックする。
1位 『悪魔の舌』
2位 『黄金の豚』
3位 『火狐』
……。
……ん?
思わず二度見する。
1位?どういう事だ⁉
「そんなに稼いでたか?」
口も驚いた様に呟く。
一人平均のカテゴリーの説明を見ると、
一人平均。
パーティメンバーの平均の金券獲得額。
パーティメンバーか。
僕たちのパーティは僕とシンの二人だけだ。確かに僕は人一倍功績を残してるだろうが、こういうランキングで1位になる程だとは思えない。
つまり、
……あいつどんだけ稼いでるんだよ。
思わず、唯一のパーティメンバーである女を思い浮かべる。
うーむ。
偶にボス討伐通知で『悪魔の舌』の名前が流れるから、それなりには稼いでると思っていたが。
どうやら、相当強い奴らを倒していたらしいな。
カーソルを動かし、画面を見ていくと。
おっ。これは興味深いな。
一つの説明文で目が止まる。
魔王軍側につくメリット。
そういえば、知らなかったな。
大量の金券と経験値。
長い文でだらだらと記してあるが、簡潔にまとめるとこうだ。
魔王軍につくことができるのは一部のレア種族だけ。
PK数や結界水晶破壊などの功績に応じて金券がもらえる。
大陸ステージにいる時は獲得経験値1.5倍。
デメリットは多くの者が犯罪者プレイヤーとなるため、ゲーム内で行動し辛くなる。嫌われる。
うーん。微妙だな……。
犯罪者プレイヤーになると街などにも入り辛くなるから、デメリットとして大きすぎるんだよなぁ。
まあ、どちらにせよ僕の種族「不死鳥」は魔王軍に参加する権利がなかったみたいだから、関係ないけどね。
「嫌われ者は嫌だ!俺様は皆に好かれたーーーーい!」
僕の口は今日も絶好調だ。
****************
《頼みたい事がある。今日の2時に「しがない街」で会いたい。
ユウジ》
翌日、僕がスマホを開くと、幼馴染の一人、ユウジからのメッセージが来ていた。
頼みたい事?何のことだ?
「しがない街」でということはドッグ・ラン・オンライン内部での用事ということだろう。
しかし、ユウジからの頼み事か。一体なんだろう?
奴のことだからまた無茶を押し付けてくるか?
まあ、今考えていても仕方がないな。
とりあえず、今日の内に「しがない街」の近くまで移動しておくか。
幸いなことに「しがない街」は今僕がいる「不甲斐ない街」からそれほど離れていない。
魔族圏攻略も少しくらい遅れても問題ないだろう。
僕はVRギアの電源を入れると、静かに目を閉じた。
*************
「あ、シオン。こっちこっちー。」
僕がしがない街の門をくぐると、よく知った幼馴染の声がする。
声のした方を見ると、髪と瞳の色を蒼く染めたカナがいた。
「よお、カナ。カナもユウジに呼び出されたのか?」
門の足元にいるカナに近づきつつ、尋ねる。
「うーん。どうなんだろう?呼び出されたと言えば呼び出されたんだけど。私達、ゲーム内ではいつも一線に行動してるから、連絡は普段から取り合ってるの。」
「ほう。二人は同じパーティとして活動してるのか?」
「うん。ユウジが隊長で私が副隊長でパーティを作ったの。最初は二人しかいなかったけど、今では100人を超える大規模パーティになったのよ。」
ほう。それは凄いな。
それほどの人数になるまでパーティメンバーを増やすことは決して簡単なことではないだろう。
素直に賞賛の念を送ろうとして、
いや、少し待て。
ということはつまりはアレか。
ユウジは今現在、100人を超える大規模パーティの隊長ということか。
うわー。そんな立場の奴が僕に何の用だよ。益々、ユウジの頼み事を聞きたくなくなったんだが…。
考え直して僕が頭を抱えていると、
「おお、呼び出しておいて俺が最後で何だか申し訳ないな。俺からの話しは少し長くなりそうだから場所を移していいか?二人とも俺について来てくれ。」
遅れて、ユウジが僕とカナの元にやって来た。
ユウジの言葉に僕とカナが頷くと、背を向けて歩きだす。
長い話か。
さてさて、いったいどんな話になる事やら。
僕とカナは先を歩くユウジの背中を追って歩き出した。
**********
「はあ?経験値全損した⁉」
しがない街の一角にある喫茶店にカナの声が響き渡った。
「ちょ、バカ。声が大きい。パーティメンバーの奴らがいたらどうするんだ?」
ユウジがカナに小声で言う。
「いや、でも何でそんな事になったのよ?」
「そ、それはその…少しソロでも遊びたくなって、格上の敵に挑んだらあっさり返り討ちにされたんだ。」
「はぁ?あんたホントにバカね。せっかくパーティが大きくなっていざこれからという時に隊長が経験値全損してどうするのよ?」
「そんな事言われてもよぉ〜。しちまったものは仕方がないだろう?」
「仕方がないってなによ⁉」
いや〜、経験値全損か。
それは大変なことだなー。
僕は二人が言い争っているのを見ながら完全に他人事感覚でちびちびとコーヒーをすすっていた。
「そこでシオンに頼みがあるんだ。」
……そこでってどこだよ。
今までの会話の流れから僕への頼み事が全く思いつかないのだが…。
僕はユウジの方に意識を向ける。
「頼み?いったい何だ?」
「今、カナと話していたのを聞いていたら分かると思うが、今俺たちのパーティは非常に大事な時期を迎えている。そして、このタイミングで隊長が経験値全損したというのはパーティメンバー達の士気を大きく下げかねん。
それは分かるよな?」
ん?パーティにとって大事な時期?
そんな話してたか?
まあ、話し半分で聞いていたからあんまり覚えていないが、取り敢えず今隊長が抜けるのはマズイということか。
「まあ、何となく分かる。」
「そうか。そこでシオンに頼み事なんだが…。俺の代わりにしばらく隊長を務めてくれ!」
……。
ファッ!
どういう話の流れだよ⁉
隊長がいても人が代わったら意味ないだろ?
「いや勿論、シオンには俺に変装してもらう。」
……変装?
「ああ。まあ、変装というか演じてもらうという感じだな。取り敢えず、顔は仮面で隠して、声と振る舞いだけ真似してくれてればいいから。あとはカナがうまく誤魔化してくる。」
え?それで誤魔化せるのか?
いや、まあ声と体格は僕のスキル【変身】を使えば完全にコピーできるし、仮面さえつけてしまえば見分けはつかないだろうが…。
「戦闘時はどうするんだ?流石に全く違う戦い方をするわけにはいかんだろ?」
「ふむ。そこまでは考えてなかったな。まあ、そこら辺は適当に誤魔化してくれ。俺の職業は魔導師なんだが……。」
「魔導師?」
「そうなの。ユウジは私達のパーティの中で唯一、魔法剣士じゃないのよ。隊長だけ違う職業なんて変な話でしょう?」
ふむふむ。魔導師か。
僕はユウジとカナの話に相槌を打ちながら考える。
案外、魔法剣士よりは真似しやすいかもな。
魔法剣士の戦い方はよく知らないが、魔導師なら実際に戦う所を何度か見ているからな。
僕の場合、【絶対零度】のスキルで氷属性、【不死の炎】【漆黒の炎】のスキルで炎属性を使えるようなものだ。
これは案外何とかなるんじゃないか?
一見、無謀だと思われたユウジからの頼み事だったが思ったよりもあっさり片付きそうだ、と僕が安心してコーヒーを口に含んでいると、
「あ、言うの忘れてだけど……」
ユウジが口を開く、
「俺の主要属性は木と土だから。」
……。
ブゥゥゥゥー!
僕は盛大にコーヒーを吹き出した。




