不甲斐ない街へ
《Lv,92 スカルキング》
訝しみの街の片隅にある小さな墓地。
その最奥部で僕は、派手な王冠を被った骸骨と戦っていた。
そろそろかな。
敵のHPバーを見る。
戦闘開始から2時間が経過した今、骸骨のHPは既に目に見えないほどしか残っていない。
それから5分後、
ボンッ。
小さな音を立てて、骸骨が消滅した。
【吸収】の効果でHPがゼロになったのだ。
ふう、依頼達成。
戦いを負えた僕は、依頼達成の報告をするために冒険者ギルドを目指した。
「はい。確かに依頼の達成を確認しました。」
ギルドの受付カウンターで何事もなく依頼達成の報告を完了する。
さて、キオと共に依頼をこなした後の5日間。
僕はただひたすらレベリングをしていた。
楽しさは二の次で、時間効率を最優先にしてだ。
そのおかげでというか、
この短期間で僕のレベルはかなり上がった。
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Lv.83 振り分けPt 0
HP : -
MP : 0《固定》(+0)
ATK:1《固定》
DEF:1《固定》
AGI :182
DEX:240
スキル:【吸収】【不死の炎】【再臨】【絶対零度】【七色の髪飾り】
【漆黒の炎】
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大陸の敵と戦うにはまだ力不足は否めないが、それでも、レベリングをする前よりはかなりマシになったと言えるだろう。
さて、どうやらここ最近、攻略組と呼ばれる人々は皆、この街の先にある「不甲斐ない街」と呼ばれる場所にいるらしい。
僕自身もこの街の近郊である程度の実力アップを図れたし、そろそろ最前線に戻る頃かと思っている。
ということで、取り敢えずは不甲斐ない街への護衛依頼でも受けよう。
僕はギルド内の依頼掲示板をに近づくと、依頼書を覗き込んだ。
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「いやぁ、助かったよ。ここまでお疲れ様。機会があればまた頼むよ。」
依頼主はお礼を言うと、門を潜り去っていった。
さて、やっと着いたか。これで護衛依頼達成だな。
早速、僕も街に入ろう。
「ようこそ不甲斐ない街へ!」
レンガ造りの立派な門をくぐると、目の前には多くの人々で賑わう繁華街のような景色が広がっていた。
ふーむ。ここが攻略の最前線、不甲斐ない街か。
流石にプレイヤーが多いな。
門を通り、歩みを進めながら辺りを見回すと、視界に入るほとんどの人々がプレイヤーだった。
不甲斐ない街。妖精圏の最南端に位置し、魔圏との境界線上に存在する街。その先のステージを攻略するプレイヤー達が基点として利用する為、多くの人々で賑わっている。
街の外観はこの大陸に存在するこれまでの街と同様に西部劇に出てきそうな街並みだが、広さは比べものにならないほどに広く、まるで一つの国のようだ。
うーむ。広すぎてどこに行けばいいか分からないな。
右を見ても左を見ても、食物売り場しかない……。
この辺りには鍛冶屋とかはないのだろうか?
どうやら門の近くには食べ物を専門に扱う店が集まっているらしく、目に入るほとんどの店が食べ物を売り出している。
時刻がお昼時という事もあり辺り、一帯は物凄い人数の人で覆われていた。
うーむ。これは一度、避難しないとダメだな。人ごみに押しつぶされてしまう。
僕は器用に人ごみの間をすり抜けると、比較的空いているように思われる酒場に足を踏み入れた。
酒場の中はかなり混んでいたが、カウンターの端に空いている席を見つけて腰を下ろす。
適当にお酒を注文し、運ばれてくるのを待っていると、
ん?何だこれ?
近くの柱に気になる貼り紙を見つける。
《第1回 PvPトーナメント開催
参加者募集中
開催日 5日後
場所 不甲斐ない街中央広場》
PvPか。
そういえば、僕は一度もやった事がなかったな。
特にやる機会もなかったしなぁ。
僕が貼り紙を眺めていると、
「あれ?もしかして、君も大会に参加するのかい?」
隣の席の男から声をかけられる。
その男はぱっと見カウボーイという格好をしていた。
カウボーイハットを被り、腰には二丁の拳銃をさしている。
拳銃か。使っている人を初めて見たな。このゲームは基本的に剣の方が強いから、あまり使うメリットがないんだよなぁ。
僕が男の姿を観察していると、
「いや、俺は参加しないよ。攻略を進めること以外にあまり興味がなくてね。フフッ。」
男の言葉に僕の口が答える。
「へぇ、そうなのかい。PvPも面白いのになぁ。俺なんて初めてやった時からその魅力にはまっちまって、今では装備もステ振りもPvP仕様さ。」
「ほう。ということは、あんたはこの大会に参加するといことかい?」
「ああ、勿論だ。ただ、参加者が相当の数になりそうだから、優勝はきびしいだろうがな。」
男がビールを煽りながら言う。
相当数?大会が開催されることすら今日まで知らなかったのだが…。
「PvPは随分と人気なんだな。」
僕の口が言うと、
「実はな、この大会の優勝賞品が凄いんだ。」
カウボーイ男が言ってくる。
凄い?なんだか少し気になるな。
「優勝賞品?一体何が貰えるんだ?」
「なんと…あの【堕天の鎧】と対になると言われる【聖天の鎧】だ!」
……。
ん?【堕天の鎧】?
何だそれ?聞いたことがないぞ。
「その【堕天の鎧】や【聖天の鎧】というのはそんなに凄いのか?」
僕が尋ねると、
「何を言っているんだ?当たり前だろう?…もしかして運営の攻略情報をチェックしていないのか?」
カウボーイ男が驚いたように言ってくる。
運営の攻略情報か……。
確かにチェックしていないな。
正直、運営の公開している情報は装備品の入手先などが主であまり興味がなかったんだよなぁ。
僕自身、鎧などの防具は何一つ身につけていないしね。
刀などの武器もドロップ素材を鍛冶屋で加工して貰えば事足りる。
まあ、宝箱から入手する系の装備品には特別な効果が付与されているものがあるらしいので、それを集めることがこのゲームのやり込み要素の一つであることには間違いないが。
現にコレクターと呼ばれる人々もいるしね。
「まぁな。装備品などにはあまり興味がなくてな。」
「そうなのか、変わってるな。だが、【聖天の鎧】は本当にやばいぞ。何て言ったってATK値2倍だからな。」
攻撃値が2倍⁉そんなに破格なのか。
「へ、へぇ。因みに【堕天の鎧】の方はどんな効果なんだ?」
僕の口が恐る恐る尋ねると、
「堕天?堕天の方はAGI値が2倍だ。」
カウボーイ男が淡々と答えた。
……。スピードが2倍。少し強すぎないか?
「…そんな強い装備があって、ゲームバランスは大丈夫なのか?」
「ん?あぁ、それなら心配ない。どちらも一つずつしか存在しない特別品だからな。それに【聖天の鎧】はともかく、【堕天の鎧】を手に入れることは不可能だしな。」
「不可能?」
「ああ、宝箱のあるステージが厄介でな。ボス部屋に1人単位でしか入れない上に、ボスが滅茶苦茶強いんだ。」
「強い?」
「ああ。巨大なゴーレムでな、防御力が高くてダメージを1も与えられないんだ。その上、攻撃力も高い。ソロで倒すのは勿論、大人数で戦えたとしても勝てる気はしないな。」
「ほう、そんなヤツがいるのか。」
なんだか面白そうだな。
そう思いつつ、自分の装備を見る。
黒い外套。
初期装備であり、防御力はない。特別な効果もない。
そろそろ替え時かな?
その強いと噂のゴーレムを倒すついでに【堕天の鎧】とやらをいただこうか。
僕は運ばれてきたビールを一気に煽ると、席から立ち上がった。
「何だい?もう行くのかい?」
「ああ。少し用事ができたものでな。」
カウンターに背を向け、入口を目指す僕に、
「暇があれば大会を観に来てくれよ。」
カウボーイ男がヒラリヒラリと手を振っていた。
***************
不甲斐ない街の先にあるフィールド、魔草原。
膝下まで伸びた枯れ草が辺り一面を覆うこのフィールドの片隅にその小さな遺跡はあった。
これが「黒の遺跡」か。
案外、小さいな。
運営の公開している情報によると、どうやらこの遺跡に【堕天の鎧】があるらしい。
僕が足を踏み入れたその遺跡の中は、正に古代遺跡といった感じだった。
いつかテレビ番組で見たピラミッドの内装を思い起こさせる。
それにしても天井が高いな。そのくせ、道幅が狭い…。
僕が歩を進めて行くと、
何だこれ?
床のタイルで一箇所だけ微妙に色が違う所を見つける。
もしかして、隠し扉的なものか?
踏み抜いたら、地下へ下りることができるかもしれない。
そう思い、
ガンッ。
思い切り踏みつける。
すると、
シャキンッ。
突如、床からトゲが飛び出てきた。
「痛ぇ‼」
トゲが尻に刺さり、思わず飛び上がる。
い、痛い!
いや、実際は痛覚設定を0にしているから全く痛くはないのだが。
驚いたな。
まさか、罠だとは。
こういうステージではありがちなのに、頭からすっぽりと抜けていた。
僕は頭を何度も降ると、
気が抜けてるな。ここからはもっと慎重に進もう。
周りの様子に注意を払いつつ、再び歩を進めていく。
やがて幾つもの巨大な柱で天井が支えられた広大な空間に出た。
ここがボス部屋か?
僕が宮殿のような空間の半ばまで移動すると、
ガチャリ。
背後で大きな音がする。
「何だ⁉」
僕が驚いて振り向くと、部屋の入口の大きな扉が閉じていた。
「成る程。一度入ったら逃げることは出来ないということか。」
僕の口が呟く。
ふーむ。これは鬼畜な設定だな。
僕がそう思いつつ、前を向くと、
《Lv.250 ロックガーディアン》
部屋の奥に巨大な岩人形が出現していた。
高さは30メートル近くあるだろうか。荒削りの岩で作られた人型のその姿は正にゴーレムといった感じだ。
「デカイな…。」
思わず見上げてしまう。
僕がそのデカさに感心していると、
ギギィ。
軋んだ音を立ててゴーレムが動き出す。ゆっくりと口を開くと、
『愚かな侵入者よ。我が質問に答えるがいい。』
甲高い声で喋りだす。
質問だと?
僕が眉をひそめていると、
『ワシは痛みというものを知らない。ワシがあまりにも硬く、今まで挑んできたものすべてがワシに痛みというものを与えられなかったからだ。故に問うことにした。ワシは戦う前に皆に問うことにしたのだ。一つの質問を。決まった質問を。故に、貴様にも問おうと思う。
そなたの痛みは何処にある?
この質問に答えられねば、貴様は灰燼に帰すことになるだろう。』
意味深な言葉を投げてくる。
痛みだと?
何処にあるって……脳か?神経か?
ゴーレムの言葉に頭をひねる。
もしかして、心か?
こういう質問の場合、心という可能性はかなりありえる。
だが、正解が心では少々安直すぎる気がする。
僕が思考の海に沈んでいると、
「フッ、フフ。フハハハハハハ。」
突如、僕の口が笑い始めた。
な、何だ?
口が突然笑い出したことに驚いていると、
「そんなの簡単だぜ。」
僕の口が言い切る。
す、凄い自信だ。
まさか、本当に答えが分かるのか⁉︎
僕が期待を込めて、次の言葉を待っていると、僕の口がゆっくりと動いた。
「それは勿論……尻だ!さっきトゲが刺さったところが痛くてたまらんわ!」
……あ、終わった。というか、別に痛くないだろ。
僕がそう思った瞬間、
『残念。不正解だ。』
機械的な甲高い声が響き、ゴーレムの目から放たれたビームが視界を真っ白に染めあげた。




