黄金の花畑
結界水晶を破壊された事により、獣属圏の領土のほぼ全てを失うこととなった魔王軍との一戦。
それによって引き起こされた難民の受け入れ問題や食糧問題。
それらの問題が解決に向かい大陸が一応の落ち着きを取り戻そうとする最中、ついにプレイヤー第二陣が「ドッグランオンライン」の世界に投入されたのだった。
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第二陣投入から3日後。エルフの国のとある喫茶店の会話風景。
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男1:遂に第二陣キタ━!そして、第二陣の「魔法剣士」ってなんだよ?流石に強すぎだろ!
女:そうか?確か第二陣から選択出来るようになった新職業だよな?私的には剣も魔法も中途半端で器用貧乏なイメージだが。
男2:まあ、ソロでは大したことないよな。どちらかといえば、今までの職業より少し劣るくらいだ。
男1:ああ。だが、魔法剣士の強さが発揮されるのは集団戦闘の時だ。
女2:集団戦闘ですか?
男1:ああ。普通、剣士や魔導師は前衛か後衛どちらかしか務められない。だが、魔法剣士は一人で前衛も後衛もこなすことが出来るんだ。
男2:つまり、魔法剣士のみでパーティを組んだ場合、前半戦と後半戦とで前衛後衛を入れ替えることができるんだ。
男1:そう。これによりパーティが撤退を強いられる主な理由、前衛の体力消耗を防ぐことが出来るというわけだ。
女1:なるほど。前衛のプレイヤーの体力が少なくなったら後衛のプレイヤーと入れ替えれば戦いを続行出来るということか。
女2:へえ、それは凄いですね。それならば同じ人数のパーティでも魔法剣士だけで組んだ場合とそれ以外の職業で組んだ場合とではかなり戦力差が出てしまいますね。
男1:そこなんだよなー。魔法剣士は魔法剣士同士で組まなければ意味ないから必然的に第二陣は第二陣で固まる。それで結構な戦果を上げているもんだから第一陣でそれを面白く思わない奴らとの間で小さな諍いが起きてるって話だ。
女1:ふーん。まあ、確かに第一陣で苦労してレベリングしてきた私たちにとってはチート級の強さを持った新人達がいきなり大陸に現れたのは面白くないよね。
女2:そうですか?私としては人数が増えて賑やかになったのでいいとおもいますが……。
男1:まぁ、どう感じるかは人それぞれだな。だが、この大陸ステージ攻略にはプレイヤー間の協力は必要不可欠だ。
男2:そうだな。これからいったいどうなることやら……。
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ちょうど獣族圏と妖精圏との境界線上にある国。
その国の端にある舗装されていないデコボコな平原を私は歩いていた。
ここから人族の国まではまだだいぶ歩かないとダメね。
とりあえず、次の街まで早く行かないと。
私がそのまま歩みを進めようとすると、
「お姉ちゃん、疲れたよー。少し休もうよー。」
後ろから声を掛けられる。
私が足を止めて背後を振り向く。するとその先にいたのは、私の連れである小さな女の子、リルだった。
「次の街までもう少しなのよ。我慢しなさい。」
「嫌だー!もう一歩も動けない〜!」
リルはそう言うとその場に座り込んでしまう。
はー。まったく困ったものね。この子はこうなるとテコでも動かないのだから。
これは日頃何度も繰り返すやり取りで、既にリルを説得することはできないと分かっている私は仕方がなく自分もリルの横に腰を下ろす。
「仕方がないわね。少しだけ休んであげるわ。でも、少ししたらまた歩くわよ。」
「うん!シンお姉ちゃん大好きー!」
そう言ってリルが私の胸に飛び込んで来る。
はあ、まったく。この子といると調子狂うわ。仲間たちとの約束もあるし、出来るだけ早く人族の国にたどり着きたいのに。
しかし、あの男。いざという時はメール機能を使って連絡しろとか言ってた癖に全然連絡つかないじゃない!どうなってるのよ⁉
今はこの場にいないただ一人のパーティメンバーである男に私が胸中で怒りを募らせていると、
「あ、あれは……シオンお兄ちゃんだ!」
リルがそう叫び、私の元から離れていく。
シオンですって?
丁度、考えていた人物の名前が出てきたことに驚き、私がリルの向かった先を見ると、
「やぁリトルガール、リル。久しぶりだねぇ。元気にしてたかい?」
やたらと気障ったらしい振る舞いをする男がいた。
その姿を見た瞬間、
ブチリッ!
私の中で何かが切れたような音がした。
私も立ち上がり、その男の元に歩いていく。
「やあ、シンも久しぶりだね。元気そうでなによりだよ。」
私の接近に気づいた男が笑顔で言ってくる。
しかし、私はその言葉を無視してズンズンとその男に近づく。
「ん?どうしたんだい?無口で。もしかして唐辛子でも食べてお口が腫れて喋べれないとか?なーんてね。そんな訳ないか。冗談だよ。冗談。ハハッ。」
ヘラヘラと笑いながら私が知っている限りで最もつまらない冗談を言う男。
その言葉を無視して、私は右の拳を静かに後ろに引くと、
「メールボックスのチェックくらいしっかりしなさいよ‼」
男の顔面に渾身の右ストレートを叩き込んだ。
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な、何しやがった……。
妖精圏にあるシルフ族の国。その端に位置する平原を歩いていた僕は久しぶりにパーティメンバーとの喜ばしい再会を果たした筈だった。
しかし、何故か今僕は直径30メートルほどクレーターの中に倒れている。
シンが拳を後ろに引いたところまでは見えた。しかし、その先は何が起こったのか全く分からない。
気がつくと僕の体は宙を舞っていた。そして、僕が地面に墜落した衝撃は地面を抉り、平らだったはずの場所に巨大な穴を穿った。
おいおい。危ないな。
僕じゃなかったら間違いなく経験値全損してたぞ。
なんちゅう威力の技を出しやがる。スキルか?
僕がヨロヨロと立ち上がると、
「あら、まだ生きてたの。しぶといわね。」
クレーターの端からシンが声を掛けてきた。まだ怒っているようだ。
ええっと。メールボックスだったっけ?そういえば一度もチェックした事がなかったな。
僕がメールボックスを開くと、
新着メール +100件
全てシンからのメールだった……。
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「どうも、スンマセンでした。許して下さい。」
シンの足元で土下座する。
僕たちは今、先程の平原から最も近くにある港町、「訝しみの街」の喫茶店に会話の場所を移していた。
「許してくれってどの口が言ってんのよ。」
ぐりぐりと頭を踏まれる。
ひえー。助けてー。
僕はシンの隣にいるリルの方を向くと、何度も目配せして助けを求めた。すると、
「お兄ちゃんが何度もウインクしてる。お姉ちゃんに踏まれて嬉しいみたい。」
きゃっきゃっと笑いながらリルが言う。
「……。」
「……。」
長い沈黙の後、シンが僕の頭から足をどけてくれる。お陰で、僕はなんとかテーブルにつくことが出来た。
「さ、作戦通り……。」
……。
どこがじゃー‼
絶対に変態だと思われただろうがー‼
「そ、それで俺に何か用があって連絡したんだろ?」
気をとり直して目の前の席に座るシンに話し掛ける。
「ええ、そうよ。私はこの大陸で戦争に参加しているから、最近この子の面倒をあまり見れないの。だから、しばらくこの子を預かって欲しいのよ。」
「ん?もしかしてシンも猫族の国での戦いに参戦していたのか?」
驚いて僕が尋ねると、
「いいえ。参戦出来なかったわ。この子を連れていて早く移動できなかったから、猫族の国に到着する直前で結界水晶は破壊されてしまったわ。」
ううむ。成る程な。
確かにリルを連れて戦争に参戦するのは色々と無理があるだろう。
敵のレベルも高くなってきて自分の身を守るので精一杯だろうしな。
いや…。さっき僕を吹き飛ばしたほどの威力の技があるんだ。案外、余裕で守れるという可能性もあるのでは?
「ううむ。そう言われてもな。実は俺も戦争に参戦しているのだ。」
「は?それじゃあこの子はどうするのよ?」
「……。今まで通りシンが預かってくれ。」
「……。」
「……。」
「そうね。元々私が中心に面倒みるという約束だったし。そういうことなら仕方がないわ。」
ふぅ。
シンの言葉に思わず安堵の息を漏らす。
また、怒りの一撃が来ないかヒヤヒヤしていたが、どうやら大丈夫だったらしい。
僕が人心地ついていると、
「でも、このままだとなんかムカつくわね。あんた、今から私のクエストを手伝いなさい。」
シンが理不尽な事を言い出した。
そして、
「はい。この依頼書の敵を倒しにいくわよ。」
一枚の紙を手渡される。
《グランドバタフライ100体の討伐
1パーティ募集。》
ふむ。確かに僕たちは同じパーティだから僕が依頼に協力しても問題はないだろう。
「よし、任せろ。俺がサクッと片付けてやる。」
僕の口が言う。
まあ、二人でリルの面倒を見ようと僕から言っておいて結局、シンに任せきりになってしまっているからな。
これくらいは言うことを聞いてやるか。
僕達はグランドバタフライがいるという平原に戻るため、喫茶店をあとにした。
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平原の端の端の端。
そこに討伐目標であるグランドバタフライはいた。
黄金の光を纏った蝶が100匹以上飛び回る花畑。
それはまるで夢の国に迷い込んだかのような幻想的な光景だった。
《Lv.268 グランドバタフライ》
……。
……。
待て。待て。待て!
こいつら一体一体のレベルが高すぎやしないか?
こんな高レベルな奴を100体も倒せるのか?
僕が花畑の縁で足を止めていると、
「そんなに心配する必要ないわよ?こいつらはどれだけ危害を加えられても攻撃して来ないから。」
隣に並び立ち、シンが言ってくる。
「ほう。そうなのか。それなら恐るるに足らんな。」
そう思った僕は花畑に足を踏み入れると、一番近くにいた黄金の蝶に刀で斬りつけた。
「せいっ!」
その瞬間、
ピカッ。
ズドン!
僕の斬りつけた蝶が爆発した。
そして、その爆発に巻き込まれてその周辺の蝶が爆発する。
ピカッ。ピカッ。
ズド、ズドン!
そしてその爆発に巻き込まれてそのまた周辺の蝶も爆発する。
ピカッ。ピカッ。ピカッ。
ズド、ズド、ズドドーン!
爆発の連鎖は留まる事を知らず、花畑全体を巻き込んだ大大大大大爆発となった。
ズドズドズドン!
ズドドドドドドドドズドーン!
ズドドドドドドドドドーーーンンンンンンンン‼ズドズド‼
ズドドドドドドドドーーーーーーーーンンンンンン‼!
ズドズドズドドドドドドドド‼ーーーーーーーーンンンンンン‼
そして、その渦に巻き込まれた僕は…
「ぐぼぼぼぼぼおおおおおおおー!!
うげうげうげうげげげーー!!
グビラグビラグビラグビラララリヒヒヒヒニヒーーーーー‼‼
ぐぼぼぼぼぼー。
うげうげうげうげげげーーーーーーーー‼
ぐひぐひぐひひひひひひひひーーー‼‼
止めてーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!
…。」
爆発が収まった時、花畑だった場所は黄金の蝶が撒き散らした鱗粉により黄金の大地へと変化していた。
その真ん中に爆発により吹き飛ばされ、ボロ雑巾のようになった僕が横たわっている。
そんな僕に、
「ほら、立ちなさい。私の一番の目的はクエストの達成ではなく、黄金の鱗粉集めなのよ。さっさと集めないと。風で舞っていってしまうわ。」
シンが顔を覗き込みながら、言ってくる。
こ、こいつは人を殺す気か?
ここまで来たら鬼だな。
とんでもない奴とパーティを組んでしまったものだ……。
僕がゆっくりと起き上がると、
「はい。この袋一杯にここら辺一帯の鱗粉を詰めといて。」
シンが一つの麻袋を渡してくる。
「ああ。」
僕が袋を受け取ると、
「私も鱗粉集め手伝うー!」
「はいはい。リルはこっちで私を手伝って頂戴。」
シンとリルは共に僕の元を離れていった。
はあ、まったく。
これだからパーティは組みたくなかったんだ。
人付き合いというのは疲れることこの上ないね。
けど…、たまにはこういうのも悪くないかもな。
僕はその場にしゃがみ込むと、せっせと鱗粉を袋に詰め始めた。
***********
「それじゃあ、私達は行くわね。」
「ああ、それで結局その鱗粉は何に使うんだ?」
「これ?それは当然爆薬よ。あなたもこの鱗粉の威力を見たでしょう?」
「ああ。もしかして、戦争で使うつもりか?」
「そういう事。戦争と言えば兵器でしょ?次の開戦の時までに出来るだけ多くの武器を用意しとかないと。
そういう事で、私には時間がないからこれでお別れよ。」
「ああ。あんまり無茶するなよ。」
「あなたもね。」
……。
あなたもって、お前が一番無茶させてるんだろうが!ムキーッ!
僕は去っていくシンとリルの背中を無言で見送ったのだった。




