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作戦会議

「よう、久しぶりだなシオン。」


僕とセーヤが少し前まで神殿があった更地に向かっていると、突然後ろから声を掛けられた。


「ん?誰だ?」

僕が走りながら声の聞こえた方向に顔を向けると、そこには一人の男がいた。


あっ、こいつは……。

見知ったその姿に思わず足を止める。

そいつは小麦色の肌にエルフ特有の長い耳を持っていた。

僕の知り合いにこんな奴は一人しかいない。

『正義の剣』の隊長、ラルフだ。


「ふむ。久しぶりだなラルフ。お前もこの戦闘に参加してたのか?」

僕の口が問いかけると、


「まあな。さっきの俺の一撃を見ていただろ?」

ラルフが言ってくる。


ん?さっきの一撃?何のことだ?

僕がラルフがこの場にいると知ったのは今なんだぞ。その前に技だけ目にしていたということか?

僕がラルフの言葉に首を捻っていると、


「なんだ、俺の仕業だと気づいてなかったのかよ。ど派手な光で神殿を破壊してやっただろうが。アースドラゴン戦でも同じスキルを使ったぜ?」

ラルフが軽い感じで言ってくる。


……。

ん?

こいつ今なんて言った?神殿を破壊した?

ということはつまりアレか。

こいつは…魔王軍側なのか?


「もしかしてお前、魔王軍側か?」

僕の口がラルフに尋ねる。

「まあな。ほら、紋章もしっかりあるぜ。俺の証は腕にあるんだ。」

そう言ってラルフが腕をまくる。

そこには黒い墨のようなもので描かれた紋章があった。

円の中に十字が入っているだけの簡単なデザインの紋章だ。


これは魔王軍側の証みたいなものだろうか?ラルフの言い方的に皆が同じ場所にあるわけではないのだろう。これだけ小さな印だと見つけるのも一苦労だな。


僕とラルフが二人で話していると、

「おい、ラルフ。早く撤退するぞ。せっかく結界水晶を破壊したというのに囲まれて逃げられなくなったんじゃあ敵わん。」

ラルフの仲間らしき男が声を掛けてくる。


青い外套に仮面をつけており、素顔が殆ど伺えない。

女装してる時の僕の格好と似ているな。

僕が男の姿を観察していると、


「おい貴様らこのまま逃げられると思うなよ。」

セーヤが腰から剣を抜き放ちながら魔王軍の二人に迫る。



まあ、敵なんだから当然の対応だよな。

ラルフの技は脅威だ。このまま逃がすと後々面倒くさくなるだろ う。

見た感じラルフは今、かなり体力を消耗しているようだし倒すには絶好のチャンスだ。僕も参戦するか。


「その通りだ。このまま逃がしはしない。今は敵同士。悪く思うなよラルフ。」

そう言うと、僕も腰から刀を抜き放つ。


「くく、互いに経験値全損を懸けての戦い。こういう展開は熱いよなぁシオン。俺もお前とは一度戦ってみたいと思っていたところだ。だが、今回は流石に分が悪い。逃げさせてもらうぜ。アオッ!」

ラルフが隣の男に呼びかける。


すると、アオと呼ばれた青い外套の男が空に手をかざし言葉を発した。


「【召喚】。」


ぐにゃり。

男の声と共に僕らの頭上の空間が歪む。


なんだこいつは……?


歪みは段々と拡がってゆき、やがてその中から一体の巨大なモンスターが現れた。


《Lv.356 ブルードラゴン》

全身を青い鱗に覆われた巨大なドラゴン。

その姿を見て、僕もセーヤも思わず言葉を失う。


レベルたけー。

なんでこんな化け物が出てくるんだよ!おかしいだろ!


【召喚】のスキルは別段珍しいものではない。ソロで討伐したモンスターを一体好きなときに呼び出せるようになるスキルだ。

つまり、この青外套の男はソロでこの化け物を討伐したということになる。信じられない強さだな……。


「じゃあな、シオン。今度会った時はしっかり叩きのめしてやるから覚悟しとけよ。」

僕とセーヤが固まっている間にラルフと青い外套の男はさっさとドラゴンの背に跨がっていた。


「待て!」

「行かせるか!」

僕とセーヤがようやく我に返り、ドラゴンの離陸を阻止しようと走り出す。

しかし、


グガアアアァァァ‼‼

ドラゴンの口元から僕らに向かって青白い光線が吐き出された。

物凄い熱量だ。


ぐぅ、風圧がヤバい。

僕は大丈夫だがこのままではセーヤがやられるてしまう!どうすればいい⁉

思考がまとまらず、何もできないでいる僕とセーヤの元にあっという間に光線が迫る。

そして、まさに直撃しようかとしたその瞬間、


「【闘気結界】!!!」

僕たちの目の前に一つの人影が躍り出た。その体から一声と共に爆発的な光が放たれる。


ドガガガガーンッ!!

人影を中心に拡がった紅い光の結界と青白い光線とが激しく衝突し、爆音と共に辺りの砂が巻き上がった。


くっ、どうなったんだ……?


視界が開けたとき、そこには既にドラゴンの姿はなかった。上空に小さな黒い影が見える。先ほどの爆発に紛れて逃げたのだろう。

そして、代わりに一人の男の姿があった。


「ふう。なんとか間に合ったな。間一髪ってところか?」

こちらを振り返り、話し掛けてくる犬族の爽やかなイケメン。

そこにいたのは、『光の守護者』副隊長のカムイだった。


*************


「僕は大規模パーティ『小指姫』で副長を務めているセーヤだ。」

「俺は大規模パーティ『光の守護者』の副隊長、カムイだ。」

「僕は小規模パーティ『黒炎』の隊長、セイギと言います。」




ここは猫族の国にあるとある喫茶店。

そこで僕、セーヤ、カムイ、セイギの四人は一つのテーブルを囲み、顔を突き合わせていた。



セーヤ:「ほう、五強星の《光の使徒》だったか。先ほどは助けてくれてありがとう。」


カムイ:「なに、礼には及ばない。それよりも一度魔王軍が引いたとはいえ、結界が消えた今、再び攻めてくるのは時間の問題だろう。早く今後の事について話し合おう。」


セーヤ:「それもそうだな。猫族の大半の人々はこの国を放棄し、近くの国に亡命するつもりらしい。とはいえ、結界がない以上、獣族圏のどこに逃げても最早安全とは言えないだろうな。」


カムイ:「今回は完全に我々の完敗だな。」


セーヤ:「ああ。だが、今回の敗北からは多くの事を学んだ。それを生かすためにはここにいる四人がそれぞれに役割を果たしてもらわねばならない。」


セーヤとカムイの間で話がどんどん進んでいく。


「あの、それぞれの役割って何ですか?」

そこにセイギが口を挟む。


「そうだな。まず、この大陸でやらなくてはならない事は大きく分けて三つ。魔王の討伐、人族の国の結界水晶の守護、妖精圏の結界水晶の守護だ。

だが、今回の敗北で分かったように俺たちプレイヤーは個人では大した戦力にはならない。だから、各々には魔王軍との決戦の時までにこの大陸中を巡って出来る限りの戦力を集めてほしい。幸い、他の戦線は今は硬直状態らしいからな。」


「なるほど。僕たちプレイヤーが直接戦うのではなく、大陸の人々の協力を仰ぐということですか。確かにその方が無茶なレベリングをするよりは現実的ですね。」

セイギがセーヤの言葉に納得したように頷く。


「ああ、それで誰がどの役割をこなすかなんだが…。」


「俺は妖精族圏を受け持とう。あそこには《光の守護者》の仲間が多くいるからな。」

カムイが言う。


「え、カムイさんが魔王を倒してくれるんじゃないんですか?」

セイギが驚いたように言う。


「はは。魔王の相手なら俺よりもシオンの方が適切さ。他の人の目は誤魔化せても俺の目は誤魔化せない。シオンはとてつもなく強い。彼に任せれば問題ないだろう。」

何故かカムイが突然、僕の名前を出してきた。



おいおい。こいつ、最初から僕に魔王を押し付ける気だったろ……。

そもそも僕の方が適切って、何を根拠に言ってるんだ?

魔王がどんな奴かまだ分からんだろう。

そして、僕のことを買被りすぎだ。僕はそれほど万能ではない。


まあ、攻略実績を残したい僕としては願ってもない展開なのだが。



「分かった。魔王はこの俺が倒してやろう。俺にとっては魔王だろうがマロンだろうが敵ではない。」

僕の口が堂々と言い、

「いや〜、シオンさんのそういうところには憧れます!何事も恐れず大口を叩くなんて並大抵の人には出来ませんよ!」

それに猛烈な勢いでセイギが反応してくる。


これ褒められてるのか?バカにされてるのか?

まあ、セイギの事だ。言葉どおり褒めているのだろう。

しかし、マロンだぞ。マロン。

いちいち言う必要あるか?

なんで栗が出てくるのか僕にはさっぱり分からんね。


「そうか。なら僕とセイギ君で残りの人族の国を受け持とう。」

セーヤが言う。


「これで役割分担の話は終わりか?」

「まあ、一応そうなるね。他には話す事もないし。」

僕の質問にセーヤが答える。


「そうかそれなら後はそれぞれがしっかりと自分の役割をこなすだけだな。」

「ふふ、そうだな。例え他のプレイヤーが何も成さなくても僕たち四人がいる限り連合軍側に敗北はない!」

僕の言葉にセーヤが頷く。


「いや〜。シオンさんもセーヤさんも熱いですね。でも僕もそういうの嫌いじゃないですよ。」

それにセイギが反応する。

「ふふ、それではお互いの武運を祈って乾杯といこう。」

カムイの提案でそれぞれが自分の前に置かれたカップを持ち上げ、お互いに打ち合わせた。


チン。


「「「「乾杯‼」」」」



……。




苦ッ!


僕は冷めたコーヒーの入ったカップをテーブルに叩きつけた。



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