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猫族の国


「お姉ちゃん、前から敵が来たよ!」

その声と共に視界に銀色に光る粘液の塊が飛び込んできた。。

足を止め、相手の方を観察する。


《Lv.82 シルバースライム》


私よりもかなりレベルが高い…。

「……こちらはダメですね。引き返しましょう。」

私は隣にいる少年の手を握ると、今まで走ってきた道を引き返そうと振り返った。

しかし、

「お姉ちゃん後ろからも敵が来てる…。」

少年の声で再び足を止める。


くっ、挟まれた。

向こう側からこちらにむかって走って来る鎧を着た骸骨の姿が見える。


ここは猫族の国の首都の一角にある細い路地が幾多にも走る住宅街だ。

今、私がいる場所はその中でも特に細い路地で、周りは家々の塀に囲まれていて、とても逃げられる場所などない。


こんなことなら細い道になんて逃げ込むんじゃなかった…。

湧き上がる微かな後悔を胸の奥に押しやり、目の前に迫った敵の姿を睨む。


《Lv.92 スケルトンソルジャー》


身長2メートルはあるであろう骨の鎧騎士。


ダメだ。とても私の敵う相手じゃない。

こうなったら、せめてこの子だけでも守らないと…。

私の手を必死で握り返してくる男の子を見る。


まだ、10歳にも満たない少年だ。

魔王軍の侵攻により酷い混乱に陥った街中で母親とはぐれてしまったらしい。

街中をさまよっていた所を発見し、一人にしておいては危険だと思いここまで連れてきたのだが結局危険にさらすことになってしまった。


少年を背に隠し、道の端に少しずつ後退する。

左手には骸骨の騎士、右手には銀色のスライム。

両側からじりじりと距離を詰めてきている。


くっ、このままでは二人まとめてやられてしまう。

こうなったら、どちらかの注意を私が惹きつけている間にこの子には逃げてもらおう。

そう思い、腰のさやから剣を抜き放つ。

それと同時に、モンスター2体の警戒レベルが一気に跳ね上がるのが分かる。


切りかかるなら、右か…?左か?


私とモンスター2体との間に沈黙が落ち、一触即発の空気が漂う。


…そんな時だった。

「ソレ」は何の前触れもなく突如、上空から降ってきた。




「うぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」



極度の緊張感と静けさを保っていた細い路地に突然、大きな声が響き渡る。


上から?

私が上空に視線を向けると、落下してくる黒い影が見えた。


ズドンッ。


「ソレ」はそのまま私の目の前に墜落する。

そして、

「あたたたたー。いや、痛くないか…。」

のそりと影が起き上がった。


なんだか見覚えのある後ろ姿だ。

もしかして…。


「シオンさんですか?」

私が声を掛ける。

すると、

その男、シオンが振り返って、私の方を見る。

そのまま、しばらくこちらの様子を眺めた後、シオンが私の名を呼んだ。


「やあ、アナ。久しぶりだね。元気にしてたかい?」




*****************


いやー、酷い目に合った。


魔王軍がとっくに猫族の国に攻め込んだという話を聞いた僕たちは、カムイを伴い猫族の国まで飛んできた(カムイはセイギが抱えていた)のだが首都に入った瞬間、トンボのようなモンスターの大群に襲われ、地上に叩き落とされてしまった。


セイギとカムイは無事だろうか?

カムイを抱えていたセイギはまともに動くことができず、僕よりもかなり早い段階で地上へと消えていった。


まあ、カムイは相当強いらしいし二人一緒なら大丈夫だろう。

それよりも、僕は結界水晶のある詳しい場所をしらないのだが…。これからどこに向かえばいいんだ?


僕が考え事をしながらゆっくりと立ち上がり、視線をあげると、


《Lv.92 スケルトンソルジャー》

《Lv.82 シルバースライム》


目の前に二体の強力なモンスターがいた。


ふむ。

最近は自分よりも遥かにレベルの高いモンスターを見るのにも慣れてきたな。

フェニックスクラスならまだしも、この程度のやつらなら驚きもしない。

まあ、ここまで落ち着いていられるのは僕が戦闘に対して何一つリスクを負う必要がないからなんだけど…。

というか、さっきから目の前のモンスターから物凄い敵意を感じるんだけど。

僕なんかした?


僕が首を傾げていると、



「シオンさんですか?」

突然うしろから声が掛けられる。



ん?聞いたことがある声だな。

この声はもしかして…。


僕が振り返ると、そこには予想通りの人物がいた。

濃青の耳と髪を持つ猫族の少女、アナだ。

剣を構えている。


もしかして、戦闘中だった?

モンスター達がやたらと殺気立っていたのはそのせいか。


「やあ、アナ。久しぶりだね。元気にしてたかい?」

僕が勝手に納得にしていると、口が動いた。


「シオンさん。のんびりと話している場合じゃないんです。この子だけでも逃がさないと…。」

そう言うアナの背中には幼い少年がモンスターにおびえるようにして隠れていた。


NPCか?

とりあえず、この子を先に逃がした方がよさそうだな。いくらこの大陸の人々が強いと言っても、これだけ幼い状態でLv.80以上を相手にするのは厳しいだろう。

アナの方も様子を見ている限り、あまり余裕がなさそうだし、この場は僕が引き受けて二人まとめて逃げてもらうか。


「よし。今から俺がモンスター2体の気を惹く。その間にアナはその子を連れて逃げてくれ。」

「でも、それだとシオンさんが…。」

「おっと、それ以上は言うな。なに、心配することはない。少しばかり戯れてやるだけさ。」


そう言うと僕はアナに反論の時間を与えず、背を向けた。

そして、アイテムボックスから黒い革手袋を取り出して装着する。


今の僕にはまともな攻撃手段が存在しない。

故に、最初から倒すことは考えず、時間を稼ぐことだけを念頭に置いて戦う。


まずは、相手の注意を惹くぞ!


「【絶対零度】!!!」


僕の口から冷気を乗せた怒号が放たれる。

気が付くと僕の視界に移る景色は一変し、辺り一面が凍り付いていた。


とりあえず、第一目標達成かな?

格上であるモンスター達に【絶対零度】が作用した様子は全くないが、注意を惹くことくらいは出来たらしい。

骸骨の騎士も銀色のスライムも完全にこちらに注意を向けている。


さて、あとは僕への注意をできるだけ長く持続させるだけだ。


「隙が出来たら二人で逃げてくれ!」

背後のアナに向かって叫ぶと同時に僕は腰を落とし、一気に加速した。

最初に向かったのは骸骨の騎士の方向だ。

僕の動きに合わせて骸骨の騎士もこちらにむかって突進してくる。

それと同時に、背後でスライムも動き出すのが気配で分かる。

最初に僕の間合いに入ってきたのは当然、骸骨の騎士だった。


骸骨の騎士が右手に持った剣を振り上げ、叩きつけてくる。


ふむ。動きが捉えられないほどの速さではないな。これくらいのスピードなら何とかなる。


僕は相手の攻撃を僅かに体の位置をずらすことで避ける。

そして、右の拳を強く握ると相手の顎に叩きつけた。


ズゴッ!

鈍い音が響く。

僕の放った右アッパーは完全に相手の顎にきまっていた。

しかし、当然の如く相手にダメージが入った様子は全くない。


まあ、想定内。ダメージが入らないのは最初から分かっていたことだ。

例え効かなくても攻撃を繰り返すことに意味がある。

そうすることで、相手が僕を無視することができなくなるからね。

精々、時間稼ぎをしてやろうじゃないか。


その後、遅れて僕の元へ到達したスライムも巻き込み、誰一人としてダメージを負わない殴り合いをひたすら続けた。








「シオンさん、助けてくれてありがとうございました。シオンさんが来てくれなければ危ない所でした。」

「なに、礼には及ばないさ。あのタイミングで俺があの場に舞い降りたのは君の幸運のおかげさ。」

「舞い降りた、ですか?どう考えても墜落していた気がするのですが…。」


モンスター2体の追跡を振り切った僕とアナ達は住宅街を抜け、街の中央通りで再び合流していた。


「落ちていたか、降りていたかなど気の持ちようさ。そんなことより、アナに尋ねたいことがあるんだ。」

「尋ねたいことですか?」

「ああ。俺は結界水晶を目指しているのだが、どこにあるのか知ってるか?」

「はい。それならこの道を真っすぐ行った先にある白い神殿の中に安置されていますよ。でも、あそこは今多くのモンスターで溢れかえっていてとても危険ですから、近づくなら十分注意した方がいいですよ。」

「ああ、そうしよう。それでは、俺はそろそろ行くぞ。少し急いでいるのでな。」

「はい。また会いましょう。」

「ああ。」

僕はアナ達と別れ、中央通りを神殿があるという方向に歩き出した。アナは少年を連れて一旦首都を離れるらしい。

まあ、首都内にいるといつまたモンスターと遭遇するか分からんからな。一度ここを離れるというのは懸命な判断といえるだろう。

しかし、アナと出会えたのはかなり都合がよかったな。結界水晶の位置を簡単に知ることができた。



アナ達と別れてしばらくするとモンスターの数が徐々に増えていき、やがて進むのも困難になってくる。

ムム…。これ以上の地上での移動は不可能だな。空を飛ぶしかなさそうだ。


そう判断した僕は、


【七色の羽根】【七色の髪飾り】


二つのスキルを使い、空に舞い上がった。

しかし、高度は低く維持する。

あまり高く飛びすぎるとトンボのようなモンスターに見つかって撃墜されてしまうことは既に経験済みだからね。敢えて同じ過ちを二度繰り返すこともないだろう。


空中を飛行し始めてから少し経った頃、遂に白い神殿を視界に納めることができた。

神殿の周囲では激しい戦闘が繰り広げられている。


ん?何だか様子がおかしいぞ?

人々が戦っている様子に違和感を覚え、空中で静止する。


人とモンスターが戦っているのは分かるが、人と人で戦っている奴らがいるぞ…。

どういうことだ?

よくわからんが、上から見ていても埒が明かない。

取り敢えず、降りるか。


僕は視界の隅でモンスターに囲まれてやられそうになっている男を見つけ、その真横に舞い降りた。

「大丈夫か?助太刀するぞ。」

「ああ。頼む。」


男の返事を聞き、円状に取り囲んでいるモンスター達を睨む。


《Lv.75 ラビビット》


計7体。全て同じモンスターでウサギのような見た目に鋭い牙と爪をもっている。

引っ掛かれたらかなり痛そうだ。

まあ。僕には関係ないが。

取り敢えず。戦闘を開始しよう。


「ハッ!」

最も間近にいた一体に刀で切りつける。

グニッ。

刀は相手の体を確かに捉えたのだが敵にダメージを与えることができず肉体の表面で弾かれる。

ムム。これは辛い。

今回は逃げるわけにもいかない上に、あまり時間を掛けるわけにもいかない。

これはスキルを使わざるをえないな。本当はできるだけ温存しておきたかったが、そうも言っていられない。


「【漆黒の炎】。」

全身に漆黒の炎を纏う。

前回の使用から一定の時間が経っているため、一応スキルを使うことは出来たが、前回の使用時ほど黒い果実を摂取していないため、威力はそれほど期待できないだろう。


「ハッ!」

今度は刀ではなく炎を纏った拳で殴りつける。


ギェエエエッ!

僕の拳を喰らった敵の口から悲鳴が上がる。


今度はしっかり効いたようだな。

HPバーも1/3ほど削れている。

よし、このまま押し切ろう。


僕は先ほど攻撃した敵にさらに二発の拳を叩き込みHPを全損させると、その隣にいた敵にも3発の拳を叩き込んだ。

僅か数秒の合間に二体の敵が消滅する。


ふむ。やはり【漆黒の炎】の威力は半端じゃないな。僅かな摂取量で格上の相手にこれだけのダメージを食らわせられるとは。使用制限があるとはいえ、破格の性能と言っていいだろう。我ながらいいスキルを得たものだ。

敵のスピードも幸い大したことないし、残りもさっさと倒してしまおう。


そう決意した僕は残った敵にも順番に拳を叩き込んでいき、あっという間にウサギの群れを全滅させてしまった。


ふう。案外、呆気なかったな。

しかし、これだけ長く【漆黒の炎】を使ったのは初めてだ。

今までは何となく一撃必殺のイメージが強かったが、本来は今回の戦闘のように身に纏い持続的に使う技なのだろう。【不死の炎】とは違ったタイプの切り札になるな。

僕が戦闘を終え、人心地ついていると、


「君、助けてくれありがとう。本当に危ないところだったよ。」

背後から声を掛けられる。


「ああ。礼には及ばない。困っている人を助けるのは当たり前だからな。フフッ。」

僕がカッコつけつつ後ろを振り返ると、


「あっ。」

僕の口から思わず声が漏れた。

こちらを見て、相手も固まっている。

そこにいたのは眼鏡を掛けた長髪の男だった。猫族特有の耳を生やしている。

なんだか見覚えのある顔だ。

こいつは確か…アナと狐女が所属しているパーティで副隊長をしていた男、セーヤだ。

僕は記憶を辿り、何とか相手の名前を思い出す。

戦闘中はお互いのことをよく見ている暇がなくて気がつかなかった。


反応からしてどうやら相手も僕に気がついたらしいな。

ううむ。この男とのファーストコンタクトは最悪だったからな。

なんだか気まずい…。

僕の方から声を掛けあぐねていると、


「君は確かシオン君だね。僕のことを覚えているかい?」

セーヤの方から話しかけてくる。


ふーむ。セーヤが前回のやり取りを気にしている様子は特になさそうだ。それならこちらも気楽に話して問題はないのかな?


「ああ、覚えているさ。アナとレナと同じパーティに属しているセーヤだったな。お前のような超イケメンを忘れるわけがないだろう。」


んん?何故か僕の口が露骨に「よいしょ」しだしたぞ。

こいつ、前回のことを反省していたのか?

しかし、相手を持ち上げて機嫌を取るのはかまわんが、幾ら何でもこれは露骨すぎだろ…。

僕が内心呆れつつ、セーヤの反応を伺っていると、


「ふ、ふふふ。僕がイケメン?そうか、そうか。君は中々見る目があるようだな。腕もかなり立つようだし、これからも仲良くしようじゃないか。」

満更でもない様子で、セーヤが手を差し出してきた。


…。

うわー。この男ちょろいわー。

さっきの言葉はどう考えてもお世辞だろ。僕の口も大概だが、こいつも相当だな。


僕は何とも言えない気持ちでセーヤの手を握りかえす。



「おっと、しまった。こんなところでゆっくりと話している暇はないのだった。早く神殿の入り口を守りにいかねば。」

突然セーヤが慌て出す。


ふむ。僕の目的も結界水晶を守ることだし、こんなところでゆっくりとしている場合ではないのは僕も同じだな。神殿は既に視界に入っているとはいえ、ここにいては結界水晶への攻撃を直接防ぐことはできない。神殿の入口付近まで移動しておくべきだろう。

僕もセーヤの言葉に賛同し、神殿の方へ向かおうとすると、


「急いでいるところを悪いが、一つ質問をしてもいいか?」

僕の口が突然、セーヤに言葉を投げかけた。


「ああ、構わんよ。だが、手短にな。」

セーヤがそれに応じる。


「俺が先ほど上空からこの場所に来た時、一部で人と人が戦っているのが見えた。あれはどうしてだ?」


ふむ。それは僕も気になっていたことだ。

実にいい質問だ。



「ああ、あれか。もしかして、君は魔王軍との戦闘に参加するのは始めてかい?」


「まあ、そうだな。」


「そうか。それならもしかして君は、このステージはモンスター対プレイヤーだと思っているんじゃないか?」

「ん?違うのか?」

「ああ。僕たちも最初はそう思っていたんだがね。実は違ったんだ。このステージはいわゆる、GvGなんだよ。」

「GvG?」

「ああ。プレイヤーを二分化した、集団対集団の戦いだ。我々がそれぞれ、自分と同じ種族の元に転移させられ、連合軍側に味方しているように、魔族圏に転移させられ、魔王軍側の味方についているプレイヤーもいるということだよ。」


ふむ。なるほどな。確かに転移門がくぐった者をその者と同じ種族が住んでいる場所に転移させるというなら、魔族系の種族が転移門をくぐった場合、間違いなく魔族圏に飛ばされるだろう。そのまま魔王軍側についたとしてもなんの不思議もない。


つまりは、運営承認のGvGということか?

どう考えても経験値全損者が多発するんだが、運営はいったい何を考えているんだ?


…いや、何も考えてないだろうな。難易度の設定もめちゃくちゃだし、好き放題作っているという感じだろう。

運営についてこれ以上考えいても埒が明かんな。今はやめておこう。


因みに、セーヤが言っていた連合軍というのは魔王軍に対抗するすべての種族の総称のようなものだろう。


「なるほどな。お前のお陰で大分状況が…。」

僕が続く言葉を発しようとしたその時だった。


ズドドドドオオオオオオオオォォォォ!!!!!


突如、もの凄い轟音と共に視界が真っ白な光で覆われ何も見えなくなる。


ぐっ、なんだ!?

何が起きた?


数秒後、ゆっくりと視界に色が戻ってくる。

それと同時に、

「し、神殿が…。」

隣のセーヤが呟く。


ん?神殿がどうかしたのか?


僕がセーヤの視線を追い、目にした先には…、


「うっ、嘘だろ。神殿が…なくなった?」

思わず声が漏れる。


そう。かつて神殿があった場所には既に何の影もなく、ただただ更地だけが広がっていた。



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