変わりゆく街にて
「ほら、これだ。」
「ああ。」
ギルバートから武器を受け取る。
全長30センチほどの諸刃の短剣。
柄から刃の先まで真黒だ。
これはデスデーモンの素材を使ったからだろう。
デスデーモンといえば、奴を倒したときに新たなスキルを得た。
ここで久しぶりに僕のステータスを確認しておこう。
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Lv.63 振り分けPt 0
HP : -
MP : 0《固定》(+0)
ATK:1《固定》
DEF:1《固定》
AGI :142
DEX:200
スキル:【吸収】【不死の炎】【再臨】【絶対零度】【七色の髪飾り】
【漆黒の炎】
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【漆黒の炎】 24時間に一度使用可能。最長5分間、漆黒の炎を体に纏うことが可能。スキル発動中、徐々に使用者のHPを奪う。炎の威力は前回、このスキル使用してから今までに捕食してきた敵の数に依存する。
ふむ。デスデーモンが炎を手元に集めて打ち出したのは長い時間炎を纏っているとHPが削られ過ぎるから、連続で使ってこなかったのは時間による使用制限があったからだな。
炎の威力は使ってみないと分からないが、デスデーモンが使った時の威力を考えるとかなりのものだろう。
しかし、捕食ってなんだよ!もしかして口から食べるのか?モンスターを食べるとか勘弁して欲しいんだが……。
「いい出来だ。お代は?」
ギルバートの方に意識を戻す。
「お代は要らない。代わりに頼みがある。」
「頼み?」
「ああ。転移門まで俺も連れていってくれ。」
ふむ。この申し出は僕としては大歓迎だな。
転移門があるのは始まりの街だ。一度通ったことのある道を一人で引き返すのは、退屈だと思っていたところだ。
道中の連れができて武器代もタダになるというなら断る理由がないな。
「OK。その申し出受けさせてもらおう。」
僕は二つ返事で了承した。
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「ほう。これが転移門か。」
僕の口から感嘆の溜息が漏れる。
僕たちは今、始まりの街の中央にある広場に来ている。
高鳴りの街からここまでの道中、特に問題はなかった。
広場の中心、かつて噴水があった場所にいつの間にか七色に輝く光の柱が出現している。
「この先に大陸があるのか?全く実感が湧かんな。」
隣にいるギルバートが呟く。
「そうだな。ここで留まっていても仕方がない。早速行くか?」
「ああ。早く行こう。」
ギルバートの言葉を受け、僕たちは光の柱の中に足を踏み入れた。
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「ここはどこだ?」
視界に色が戻ると、僕は見知らぬ場所に立っていた。
かなり高い場所らしく雲が近くに見える。
ここが大陸なのか?ギルバートはいないみたいだな。
それにしても…こいつはなんだ?
気が付くと、僕の目の前に巨大な生物がいた。
七色の羽根をもつ鳥。
大きさはアースドラゴンほどもある怪鳥だ。
でけえ……。
僕があまりの大きさに言葉を失っていると、
《なんだお主?どこから現れた?》
怪鳥が頭をこちらに向けて来る。
《Lv.720 フェニックス》
……。
何こいつ?やばくね?
レベル高すぎだろ!
僕が黙ったままでいると、
《ん?もしかしてお主、同族か?生まれてこの方ワシ以外の不死鳥族を見たのは初めてだぞ。》
何だかキラキラとした目で見てくる。
ふむ。見た感じ敵意はなさそうだな。どちらかと言えば好意を抱かれているような気がする。
それほど警戒する必要はないのかな?
「すまないが、ここがどこか教えてくれないか?」
僕の口が動く。
《ん?ここか?ここは鳥族の国の外れにある峰の頂上じゃよ。お主の意志でここに来たのではないのか?》
「俺の意志で来たのではない。気が付いたらここにいた。ここは大陸だよな?俺はこの大陸の情勢について詳しくないのだが、できる範囲で教えてくれないか?」
結構図々しいな、僕の口。
まあ、実際戦うことになっても負けることはないのだし、対等な立場で話しても問題はないのかな?
《ふむ。お主はこの大陸の出身ではないのか?まあ、ワシとしてはそなたが何者でもよい。せっかく会えた同族だ、ワシの知っている範囲でよいならこの大陸について話そう。》
そう言うと、怪鳥はこの大陸について話してくれた。
どうやらこの大陸には多くの国があり、国はそれぞれ種族単位で構成されているらしい。
最も大きいのは人族の国で大陸の北に位置するとか。
東は妖精圏と呼ばれエルフやドワーフの国があり、
西は獣圏と呼ばれ犬族や猫族の国があるらしい。
因みにここは獣圏だ。
そして、
《南は魔圏じゃ。》
「魔圏?」
《ああ。魔圏は魔王が統べる土地で多くのモンスターが存在する。》
「魔王?この大陸には魔王がいるのか?」
《そうじゃ。数年前に突如現れ、強力なモンスター達を指揮して人族の国、妖精圏、獣圏に攻め入った。戦いは今でも続いており、どの種族も戦力的にかなり消耗してきている。魔王軍に征服されるのは時間の問題じゃろう。》
ふむ。この大陸で何をしなければならないか何となく分かってきた。
間違いなく魔王は倒さなければならないだろう。多分、「はじまりの島」のゲートボスにあたる存在だ。次のステージに進むためのカギとなるモンスターだな。
「なるほど。詳しく教えてくれて助かったよ。とりあえず、俺は鳥族の国の中心地に行ってみる。」
《そうか。ワシも同族と話せて嬉しかったぞ。選別に一ついいものをやろう。》
怪鳥がそう言うと、
ポーン。
《新たなスキルを獲得しました。》
頭の中に通知が流れる。
ん?なんかスキルが増えたぞ。
怪鳥がくれたのか?
とりあえず、新しいスキルの効果を確認してみよう。
【七色の翼】 翼を使い飛行できる。
ふむ。シンプルなスキルだな。
《お主に翼を授けてやったぞ。普通は鳥族なら翼をもっていて当然なのだがお主はもっていないようだったのでな。そもそも、翼がなければここから降りられないしな。》
まさか、こんなところで翼が手に入るとは驚きだな……。
確かに僕には鳥族にあるべき翼がなかった。
ここで一つ説明しておくと犬族、猫族、鳥族などと人族、エルフ族、ドワーフ族などとでは微妙にくくりが違う。
人族というのは「人」という一種類の種族をさし、これ以上に細かい区分けはない。
これはエルフ族やドワーフ族などにも言える。
しかし、鳥族などは違う。
鳥族と言った場合、「烏」「鳩」「鶴」「白鳥」「孔雀」などの多くの種族をまとめてさす。
これは犬族や猫族も同じであり、犬族なら「ブルドッグ」「ダックスフンド」「トイ・プードル」、猫族なら「黒猫」「白猫」「トラネコ」などの種類に分けられる。
ここで、僕の種族は「不死鳥」だ。
どう考えても鳥族の一種なのだが、僕には鳥族の特徴ともいえる翼による飛行スキルがなかった。
まあ、レア種族だから例外なのだろうと思い今日までさほど気にしてこなかったのだが。
手に入るとやはり嬉しいもんだな。
せっかくのVRMMOなのだから空くらいは飛んでみたいしね。
では、早速使ってみるか。
「【七色の羽根】!」
スキルを使った瞬間背中に違和感を覚える。
ゆっくりと背中の方を見てみると、いつの間にか肩甲骨の辺りから左右に3枚ずつ翼が生えていた。
七色の羽根で、目の前にいる怪鳥とまったく同じデザインだ。
ふむ。悪くないな。翼が3対あるのはかなりポイントが高い。
僕がその見た目に満足していると、
《ふふ。その様子だと大分気に入ったらしいな。その翼があればここから下まで安全に降りられるじゃろう。》
怪鳥が言ってくる。
「何から何まで世話になって悪いな。本当に感謝する。」
《なに、大したことではない。困っている同族を助けるのは当然のことじゃ。また何か分からないことがあったら来い。》
「ああ。じゃあ、俺は行くぜ。」
そう言うと、僕は怪鳥に背を向け歩き出す。
怪鳥と別れてしばらくすると、峰の端にたどり着いた。
「これは、峰というより崖だな。」
僕の足元には底が全く見えない、深い谷があった。
確かに、翼なしでここから降りるのは厳しそうだな。
怪鳥の言葉に納得する。
しかし、今の僕には翼がある。恐れる理由はないな。
助走をつけ、一気に空中に身を踊らせる。
「フライ・ハーイ!!」
雄たけびを上げつつ、僕は空にむかって翼を動かし…。
……。
あれ?
翼が上手く動かない。
もしかして、コツとか必要なのか?
「ちょ、そんなこと聞いてないぞ!このままでは落ちる!こうなったら……俺の中に眠る真の力よ!今こそ覚醒のときだあああああああああああ!!!」
僕はそのまま谷の底に墜落した。
バサリ。
翼をはためかせ、地面に着陸する。
結局あの後、まともに飛べるようになり谷底を抜け出すまで3時間近くかかった。
戦闘時はその場に適した動きが最初から出来たのに飛ぶときは出来ないなんて変な話だ。
少しは練習してから飛び降りるべきだったな。
ここは、鳥族の国のかなり端の方だ。
この先に小さな街があるのは上空から確認した。
ホントはそこまで飛んで行きたいところだが、七色の羽根は鳥族の中でも珍しいだろうし、無駄に注目を集めたくないので手前で降りることにしたのだ。
さて、街まで歩きますか。
僕は翼を消して歩き出した。
おっ、門だ。
しばらくすると、街の門が見えて来る。
ここまでの道中、モンスターとの遭遇は一度もなかった。
やはり、魔王に統率されているからだろうか?
まあ、今はモンスターと戦うよりも早く街に着きたいので好都合だが。
などと思っていた矢先、真横の茂みから影が飛び出してくる。
目の前に現れたのは水色の粘液の塊だった。
《Lv.52 スライム》
ふむ。
見た目とレベルに違和感がある。
見た目は今までに出会ってきたスライムと全く変わらないのだが、レベルだけ極端に高いな。
僕が姿を観察していると、スライムがこちらにむかって突進してくる。
ふむ。確かに早いな。
「遅すぎだぜー!」
その突進を僅かに横にずれることで躱し、すれ違いざまにダガーナイフで切り付ける。
ぶにょッ。
ダガーナイフはスライムの体の表面に当たりあっさりと弾かれる。
そう言えば、今の僕の攻撃力は1だった。
これじゃあ、試し切りにならんな。
仕方がない。【絶対零度】で倒すか。
スライムが方向をかえ、再び僕に向かって突進してくる。
その方向に、
「【絶対零度】。」
僕が片手を突き出すと、スライムは粉々に砕け散った。
レベルが上がるとただのスライムでもここまで強くなるのか。
僕が感心していると、
「はあ。スライムはどこまで行ってもスライムだぜ。」
口が気障っぽく呟いた。
さっきから思考と口調のずれが激しいな……。
「先ほどは大丈夫だったか?」
門の下までいくと門番のおじさんに話しかけられた。
僕とスライムとの戦闘を見ていたらしい。
「まあな。高々スライムに遅れはとらんよ。」
「ハハッ、そりゃそうだ。だが、最近は妙に弱い奴らが増えてきていてよ。スライムにやられることも珍しくないんだ。どうも、この大陸の外から来た奴ららしいが…。」
「へえ。そんな奴らがいるのか。」
「ああ。しかも、戦闘に無駄に自信があるから目も当てられん。お前さんも見かけたら助けてやってくれ。」
「分かった。そうしよう。」
そう言い、門をくぐる。
門番が言っていたのは間違いなくプレイヤーたちのことだろう。しかも、言い方からしてこの大陸でもスライムは雑魚扱いされているらしい。
Lv.50以上を雑魚扱って、この大陸の人々どんだけ強いんだよ…。
あっ、冒険者ギルドだ!
しばらく歩いていると、街中に見慣れたデザインの建物を発見する。
大陸にも冒険者ギルドはあるんだな。
この街は西部劇さながらの街並で、かなり活気がある。
すれ違う人々のほとんどが鳥族であり、耳に鳥の羽根のイヤリングをしている。
これは鳥族の特徴で、猫族の猫耳みたいなものだ。
僕の髪飾りは鳥族としてはかなり特別な部類だろう。
しかし、浮いてるなあ。
何で冒険者ギルドだけ西欧風の建物なんだよ!
ギルドの入口をくぐる。
中の造りも今までとあまり変わらない。
僕は真っすぐクエスト掲示板に向かった。
この街の周辺状況を知るにはクエスト掲示板を見るのが手っ取り早いだろうからね。
ふむ。どれどれ。
掲示板の依頼書を順番に眺めていく。
オーガ討伐
対魔王軍・救援求む(沈みゆく街)
対魔王軍・救援求む(黄昏の街)
対魔王軍・救援求む(最高の街)
対魔王軍・志願兵募集(変わりゆく街)
ふうむ。
やはり、魔王軍関係の依頼が多いな。
この街は「変わりゆく街」だ。
この街は今のところ戦禍には巻き込まれていないようだが、志願兵を募集しているところを見るといつ戦いが始まってもおかしくはないな。
まあ、とりあえずは大陸のモンスターの強さを知るためにもオーガ討伐の依頼でも受けるか。
僕は掲示板から依頼書をはぎ取ると、受付カウンターへと向かった。
はい。
ということで、オーガ討伐に向かうため東門に来た。
どうやらオーガは東門を出た先にある森にいるらしい。
早速森に行ってみよう。
東門を出てしばらくすると、森の入り口が見えて来る。
背の高い木がうっそうと生い茂り、森の中まで日の光があまり届かなそうだ。
《Lv.65 ゴブリン》
僕が暗い森に踏み込んだ瞬間、門を出てから初めての敵に遭遇する。
緑色の肌をした醜い小人だ。
ふうむ。
レベルが高い。
ゴブリンがアースドラゴンよりレベルが上とか、違和感しかないね。
ゴブリンは姿勢を低くし、物凄い勢いで突っ込んできた。
ふむ。確かに速い。
しかし、スピード面では僕の方が上だな。
相手と入れ替わるようにして突進をやり過ごす。
そして、
「ハッ!」
がら空きになった相手の後頭部に拳を叩きつける。
ぐぬぬ。やはり効かないか…。
振り返ったゴブリンに攻撃が効いた様子は全くない。
面倒くさい戦いになりそうだ。
ゴブリンは再び姿勢を低くすると、僕にめがけて突進してきた。
……。
……。
ボンッ。
音を立ててゴブリンが消滅する。
【吸収】のスキルでHPがゼロになったのだ。
戦闘開始から一時間が経過していた。
「長すぎる……。」
僕の口が呟く。
確かにゴブリン一体に時間かけ過ぎだよな。
まあ、相手のレベルが一気に上がって【絶対零度】が使えなくなったから仕方がないのだが。
ゴブリン一体との戦いがあまりに長く、若干ウンザリする。
愚痴を言っていても始まらない、さっさと進むか。
気持ちを切り替えて僕は歩き出そうとするが、
ん?
なんだこれ?
ゴブリンが消滅した場所に見慣れないものを見つけ、足を止める。
地面に真っ黒なリンゴが一つ落ちていた。
ゴブリンの素材ではないよな?
こんなものがドロップするなんて聞いたことがないぞ。
僕が訝しんでいると、
「【漆黒の炎】の効果だな。戦闘後にモンスターは消滅してしまうのにどうやって捕食するのか疑問に思っていたのだが、まさかこういう形になるとはな。」
僕の口が動いた。
なるほど。スキルの効果か。そこまでは考えが及ばなかったな。
そういうことなら、食べても問題はないだろう。
僕は地面に落ちているリンゴを拾い上げると、口に運んだ。
むしゃむしゃ。
むしゃむしゃ。
……。
「……。不味っ!」
なんだこの味!
まるで腐った蒸しキャベツだな……。妙に甘ったるい。
これからこんなものを食べ続けなければいけないとは、嫌になるよ……。
僕は黒リンゴを無理やり飲み込んだ。
「これ、絶対体に悪いだろ!」
口が吐き捨てる。
同感だな。既に胃の辺りがムカムカするよ……。
味覚設定をOFFにすればよいのだと僕が気が付いたのはそれからしばらく経ってからだった。
僕が森に入ってから10時間が経過しようかというころ、遂に僕の目の前に目当てのモンスターが現れた。
こちらに背を向けている。
《Lv.82 オーガキング》
そいつは真っ赤な肌をした鬼だった。身長は3メートル程で、常時白目を剥いている。
オーガキング?僕の目的は普通の《オーガ》なんだけど……。
まあ、強い分には問題ないか。
勝手にそう決めつけると、地面を強く蹴り、一気に相手との距離を詰める。
背中を見せていたオーガキングは僕の接近に遅れて気付き、慌てて振り返る。
しかし、
「遅い!【漆黒の炎】!」
僕は黒い炎を纏った拳を相手の腹部に叩きつけた。
ドバンッ!
風船がはぜたような音があたり一面に響く。
僕の拳はオーガキングの腹に巨大な風穴を作っていた。
マジかよ……。
「ダメなものはダメなのです。」
「こんなに頼んでいるのにダメなのかい?」
「はい。どんなに頼んでもダメなものはダメです。」
「ムム……。」
オーガキングを倒した僕は冒険者ギルドの受付に来ていた。
依頼達成の報告をしに来たのだが、どうやらオーガキングでは駄目だったらしい。依頼書には《オーガ》と書かれていたからね。
しかし、再び森に行く気にもなれずこうして受付のお姉さんの説得を試みているわけである。僕の口が。
「そうか。それならば提案がある。」
口が動く。
「提案ですか?」
「ああ。もし君が依頼達成を認めてくれたら……俺の黒いバナナを食べさせてあげよう。」
「……。」
「……。」
「……。この人をつまみだしてください。」
お姉さんがカウンターの奥に声を掛けると、黒いスーツを着た屈強な男たちがぞろぞろと出てきた。
……。
な、なぜだ?
オーガキングからドロップした黒いバナナをあげると言っただけなのに。
もしや、黒いフルーツが不味いというのは常識なのか?
そうなのか?そうなんだな?
「すまん。さっきのは無しだ。手持ちが他になかっただけで別にまずいものをおおおおおお、やっやめろーー!まだ話し中だあああああああああああああー!」
スーツの男たちにズルズルとギルドの入口まで引きずられると、
ポイッ。
扉の外に放り出される。
くるくると宙を舞った僕は、その勢いのまま顔面から地面に突っ込んだ。
「ギャフンっ☆彡」




