高鳴りの街で
チリン。
《ゲートボス、「デスタイガー」が討伐されました。討伐パーティは『黒炎』、『小指姫』、『聖女の弓』、『虎穴』です。討伐パーティは先行してゲートを使用する権利を得ます。残るゲートボスはあと1体です。》
ふむ。遂に二対目も討伐されたか。
僕は「高鳴りの街」を目指す道中で2体目のゲートボスが倒されたことを知った。
しかし、1体目の討伐は1パーティなのに2体目は5パーティ合同で戦ったのか。
2体目の方が強かったのかな?
名前的には明らかに一体目の方が強そうなんだが…。
まあ、『光の守護者』が規格外に強いから、1パーティで十分だったという可能性もかなりある。なにせ、現段階で最強パーティと呼ばれているらしいからね。
さて、突然だが僕はいま旅の途中である。理由は、終わりの街周辺を3日掛けて捜索したが、ゲートボスのいる気配が全くなかったからだ。
そのまま街にとどまっていても何の成果もあげられなさそうだったので、終わりの街から比較的近くに位置するという港町、「高鳴りの街」に移動することにしたのだ。
ということで、歩き始めて4時間ほど経過したころ、
おっ、あれは門だ。
僕の目に高鳴りの街の門が見えてきた。
しかし、
ん?何だか様子が変だぞ。
門の中から多くの人々が慌てたように出て来る。
何かあったのかな?
ただならぬ雰囲気に足を速める。
さらに門に近づくと、人々が何かから逃げようとしていることがわかった。
「殺される」とか「あんなのに勝てるわけがない」などと多くの人々が口走っていたからだ。
街の中にモンスターが出たのか?
しかし、そんなことゲーム上あり得るのだろうか?今までの経験上、プレイヤーが意図的に連れ込まないかぎりモンスターが街の中に入ってくることはなかった。
つまり、今までの常識が通じない相手ということだな。ゲートボスの確率が高い。
僕が急いで門の近くまで行くと、
「おい、シオン。」
突然、野太い声が掛けられる。
「この声は……」と思い僕が振り向くと案の定そこには筋肉ムキムキのドワーフがいた。
鍛冶屋の店主、ギルバートである。
「お前この街に来てたのか?」
「いや、今来たところだ。この騒ぎの原因が分からないんだが、なんか知ってるか?」
「ああ。街中にゲートボスが現れたんだ。」
ふむ、やはりか。僕の予想が当たったな。
自分の考えが正しかったことを知る。
「今、街の中央広場にいる。何人かのプレイヤーが食い止めているが長くはもたないだろう。助けに行ってやってくれないか?」
「分かった。ボスの対処は俺に任せろ。」
そう言うと、僕はギルバートと別れ街の中央に向かって人ごみの中を逆走した。
「【変身】!」
街の中央の広場に到着した僕は姿を変え、マスクを装着した。
広場の中央では、50人あまりのプレイヤーが一体のモンスターと戦っていた。
《Lv.80 デスデーモン》
やばい。
今まであってきたモンスターで圧倒的にレベルが高い。
見た目はほとんどフロストデーモンと一緒だな。肌の色が黒いが。
まさに悪魔といった感じだ。
さて、とりあえずこれ以上被害を出さないために他のプレイヤーを避難させるか。
目の前の光景は戦闘というよりは、一方的にデスデーモンがプレイヤーたちを嬲っているように見える。
このままだと多くのプレイヤーがデスペナルティを負うことになるな。
そう思った僕は一気に戦闘中のプレイヤ―たちとデスデーモンとの間に躍り出た。
突然現れた乱入者に両者の戦闘が止まり、僕の方に注目が集まる。
僕はプレイヤー側の先頭に立って戦っていた男に話しかける。
「この戦闘は今から私が引き継ぐ。他のプレイヤーを連れて早く逃げろ。」
それを聞いた男が驚いたような顔をする。
「何を言っているんだ!あんな奴と一人で戦えるわけないだろ!」
「大丈夫だ。私は強いからな。」
「強いだと?」
「ああ。私は……」
僕が続く言葉を発しようとすると、
ゴオッ!
会話をしている僕たちのもとにデスデーモンが物凄い速さで突進してきた。
こいつ、はやい!
僕は目の前の男を突き飛ばし、振るわれた拳を紙一重でかわす。
お返しだ!
体勢を崩したデスデーモンの体に拳を叩きこむ。
ゴッ。
鈍い音を立てて、僕の拳が弾かれた。
か、硬い。
これは素手では無理だな。
そう判断した僕は後ろに飛びのき、一旦距離を取る。
そして、
ジャキッ。
腰に差した刀を抜き放った。
フロストドラゴンの素材から作った刀だ。
今、僕は【再臨】によるステータス上昇がほぼない状態だ。
もともとある程度の土台があるスピード面では僕の方が僅かにデスデーモンを上回っているようだが、攻撃力はとてもじゃないが足りない。
先ほどの感触からして刀を持った程度で何とかなるとは思えないが素手よりはマシだろう。
体の前に刀を構えて、改めてデスデーモンと向きなおる。
「ふん。まさかこの私にこの刀を抜かせるものがいるとは。精々、試し切りに使ってやろう。」
口が動く。
さて、準備も整ったし戦闘再開といこうか。
「行くぞ!はっ!」
声をあげて相手に切りかかる。
《ギガアアアアアアアア!》
デスデーモンも怒号を上げ拳で応戦してくる。
ドゴッ!
バコッ!
ギシッ!
ガコッ!
刀と拳が激しく何度も交差する。
僕の方がスピードが速いため基本的に僕が一方的に刀で切りつけているが、相手の防御力が高く全く刃が通らない。たまに相手の拳が僕に当たるが、それも僕にはHPという概念 がないので関係ない。
僕とデスデーモンとの戦いはお互いにダメージを与えることができず戦いが始まって早々、完全に硬直状態に陥っていた。
これは、長い戦いになりそうだな…。
先に周りにいる他のプレイヤーを避難させたほうがいいな。
僕が後ろを振り返ると、先ほどの男と目があった。
男が口を開く。
「俺達も手を貸そう。」
「しかし……危険だ。」
「遠距離攻撃で援護する。お前は今まで通り戦ってくれればいい。」
周りのプレイヤーたちの様子を見回してみる。皆戦う気でいるようだ。
ううむ。どうも逃げるように説得するのは難しそうだな。僕としても決め手を欠いているし、協力してもらってもいいのかな?
少し迷ったが、
「了解した。手を貸してもらおう。」
「おお、任せろ。」
「だが、あまり近づきすぎるなよ。」
「分かっているさ。」
男が周りの仲間に指示を出し始める。
ふむ、僕が敵の注意を惹きつけていれば問題はないだろう。
男の申し出を了承した。
そして、デスデーモンと三度向き合う。
「またせたな。行くぞっ!」
一気に体を加速させ、刀で切りかかる。
それをデスデーモンは避けようともせず、拳を振るって応戦してくる。
ドゴッ!
バコッ!
ギシッ!
ガコッ!
再び僕とデスデーモンとの刀と拳による応酬が始まった。
「【炎の球】!」
「【水の刃】!」
「【風の鞭】!」
「【光の銃】!」
「【闇の炎】!」
僕とデスデーモンとの戦闘の合間を縫って多くの魔法が立て続けに放たれ、デスデーモンの体に着弾する。
グルルル。
多くの魔法を喰らったデスデーモンが低い唸り声を上げる。
ダメージはあるようだな。案外悪くない作戦かもしれない。
このまま攻め続けよう。
その後、僕たちはひたすら同じことを繰り返した。
ドゴッ!
バコッ!
ギシッ!
ガコッ!
「【炎の球】!」
「【水の刃】!」
「【風の鞭】!」
「【光の銃】!」
「【闇の炎】!」
ドゴッ!
バコッ!
ギシッ!
ガコッ!
「【炎の球】!」
「【水の刃】!」
「【風の鞭】!」
「【光の銃】!」
「【闇の炎】!」
ドゴッ!
バコッ!
ギシッ!
ガコッ!
「【炎の球】!」
「【水の刃】!」
「【風の鞭】!」
「【光の銃】!」
「【闇の炎】!」
ドゴッ!
バコッ!
ギシッ!
ガコッ!
「【炎の球】!」
「【水の刃】!」
「【風の鞭】!」
「【光の銃】!」
「【闇の炎】!」
……。
……。
……。
……。
……。
……。
《グガアアアアアアアアアアアアアア‼‼》
戦闘開始から3時間が経過したころ
突然、デスデーモン発狂した。
声と共に放たれた衝撃波に僕を含め、周囲にいたプレイヤーたちが一気に吹き飛ばされる。
ぐ、何事だ。僕は慌ててデスデーモンの方を見る。
デスデーモンの体には切り傷や火傷などの跡が無数に残っており、確実に弱ってきているのが分かる。
その体をいつの間にか黒い炎が覆っていた。
その炎が少しずつ手元に集まっていく。
何かくるな。かなりヤバそうだ。
そう思った僕は己の手に七色の炎を顕現させる。
僕はアースドラゴン戦以来、一度も【不死の炎】を使っていない。今から放つ一撃はこのゲームを初めてから今までに僕が放った技で最も威力の高い一撃だろう。
気が付くと、デスデーモンの手元の炎はかなりの大きさになっていた。
そして、遂には体に纏っていた炎が全て手元に収束する。
来るか?
《キエエエエええええええええええええええ‼》
絶叫と共にデスデーモンの両手から漆黒の炎が解き放たれる。
「喰らえ!【不死の炎】!」
僕の手元から七色の炎が噴き出る。
荒れ狂う二つの炎は両者の間で激突し、大爆発を引き起こした。
風が唸り、土煙が舞い上がる。
ぐうう。どうなったんだ?
風が治まったところで僕が前方を確認すると、煙の中に黒い影が見えた。
まさか……。
完全に煙が晴れた時、そこには先ほどと変わらぬ姿のデスデーモンがいた。
僕の渾身の【不死の炎】を相殺するとはなんて危険な技を隠しもってやがるんだ。
僕は奥歯を強く噛みしめていた。
ザンッ!
ビシッ!
バシッ!
グシャッ!
「ほんとにしぶといな。だが、もう終わりだ!」
僕が刀でデスデーモンの腕に切りつける。
ギギイイイイイイ。
デスデーモンが苦しそうにのけ反る。
既に戦闘開始から6時間が経過しようとしていた。
ここにきて、僕の攻撃力は遂に敵の防御力を上回り始めていた。
ガアッ!
相手が右こぶしを振り回して攻撃してくる。
ひらり。
ダンスでもするかのように華麗なステップで相手の攻撃を次々と躱す。
「それで本気でやってるのか?まるで止まっているみたいだぞ!」
防御から攻撃に転じた僕は、相手に瞬きする間も与えず一気に攻めたてる。
「右肩!」
「左もも!」
「左ひじ!」
「腹!」
スピード面では既に絶対的なまでの差がついており、僕が突き出した刀は相手の体の格部位を確実に捉えズタズタに切り裂く。
なぜか、あれ以来黒い炎を使ってこなかったデスデーモンは既に瀕死の状態だ。
僕の連続攻撃に耐えられなくなったデスデーモンがたまらず体の前で両腕をクロスし、ガード体勢にはいる。
「もらった!!」
そこに僕が渾身の力を込めて刀を叩きつけた。
その一刀が相手の両腕を骨ごと切断する。
《グギイイイイ。》
攻撃手段、防御手段を同時に失ったデスデーモンがバランスを崩しながら一歩後退する。
「終わりだ!」
その隙をのがさず、僕は全体重を乗せ、最速の突きを繰り出した。
身を引こうとしたデスデーモンに刃が突き刺さる。
ズドッ。
鈍い音を残し、辺りが静まりかえる。
僕が放った突きはデスデーモンの目から脳までを貫通していた。
チリン。
《ゲートボス、「デスデーモン」が討伐されました。討伐パーティは『太陽の元』、『悪魔の舌』です。全てのゲートボスが討伐されたため全プレイヤーの転移門の利用が可能となりました。》




