終わりの街へ
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ある昼下がりの喫茶店
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男:1 アースドラゴン討伐されたのかよ。
男:2 しかも『正義の剣』だぞ。
男:1 やっぱり、強かったんだな。どんな戦い方してるんだろう?
男:2 4人編成だということ以外は全く知らんな。
男:3 おい、お前たち『悪魔の舌』も忘れるなよ。
男:1 あっ、完全に忘れてた。
男:2 そっちはさらに謎だよな。氷山と山を攻略したこと以外さっぱりわからん。
男:1 山ばっかり攻略してるな。リアルでは登山家かなにかかな?
男:3 それはたまたまじゃないか…?
男:2 話は変わるが、昨日の運営の発表みたか?
男:1 ああ、見た見た。
男:2 確か、この島のどこかに出現した3体のゲートボスを倒すと別の大陸への転移門が開くだっけ?
男:3 そうそう。この島のボスの7割が討伐されたからゲートボスを出現させるとか。もう7割も討伐したとか、攻略組怖すぎだろ。
男:1 というか、ここ島だったのかよ!ここには街しかないけど、大陸に行ったら国とかありそうだな。
男:2 他には何があったけ?
男:3 サーバー拡大による第二陣受け入れと、それに伴うアップデート。
男:2 PvPシステムの導入は熱いよな。両者同意の上ならプレイヤー同士でデスペナルティなしで戦えるとか。
男:1 それな。トーナメントとか開催されそうだな。今、一番強いのって誰だろう?
男:3 犯罪者プレイヤーを除けば、間違いなく『光の守護者』のカムイだろ。
男:2 そうか?俺は単騎だったら未だに『赤の女帝』のリーダーが一番強いと思うぜ。
男:3 そういえば、最近『赤の女帝』の名前を聞かないな。
男:2 そうだな。もう解散しちゃったかもな。少人数パーティはかなり厳しいからな。
男:2 アップデートは三日後だろ?
男:1 そう。第二陣の受け入れはもう少し先。
男:3 何はともあれ、面白くなりそうだな。
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「おめでとうございます。これであなたは《D》ランク冒険者となりました。」
「よっしゃああああああああああああああ!!」
僕はギルドの受付で歓声を上げていた。
やめろ、恥ずかしだろ!
まあ、気持ちは分からないでもないが。
なにせ僕はここ数日、冒険者ランクを上げるために薬草採集や街近隣のモンスター退治という地味な作業をひたすらこなしていたからね。
精神的にかなりきつかった。
しかし、これでようやく護衛の仕事が受けられるな。
運営からのゲートボスの発表もあったことだし、早めに攻略の最前線に戻らないとならない。
安らぎの街には少し長く滞在しすぎたからな。
僕がこの街にいる間にさらに4つの街が発見されていた。
ゲートボスの出現場所は分からないが、攻略の最前線付近が怪しいと僕は睨んでいる。
ということで、護衛の依頼を受けつつさっさと他の街に移動しよう。
ううむ。どれにしようか…。
掲示板を眺める。
《「終わりの街」までの護衛。
明日。あと2パーティ募集。》
ふむ、これにしよう。
「終わりの街」はゲートボス出現候補の筆頭だからね。
ということで次の日。
僕は集合場所である安らぎの街の西門のところに来ていた。
あ、先客がいる。
門のところに人影がみえる。一緒に護衛の依頼をする人だろうか?
近づいていくと、相手が顔をあげてこちらをむいた。
あっ、この人は…。
相手の顔が見えた瞬間、少し覚えのある顔に冷や汗が流れる。
はじまりの街で初めて冒険者ギルドを利用したときに会った人だ。
筋肉もりもりの男たちにオタサーの姫のように扱われていた人。
そして、僕がめちゃくちゃ上から目線の暴言を吐いてしまった人。
や、やばい。まさか覚えてないよな?
相手の顔を恐る恐る伺っていると、相手が話しかけてきた。
「あなたは今日一緒に護衛の依頼を受ける人かしら?」
「あ、ああ。」
「そう。私の名前はヒルダよ。気軽にヒルダって呼んでくれていいわ。よろしく。」
「俺はシオンだ。俺のこともシオンって呼んでいいぜ。よろしくな。」
ふむ、覚えていないらしいな。助かった。
まあ、出会ったのはかなり初期のころだしね。
しかし、あのとき従えていた男たちの姿が見えないな……。
改めてオタサーの姫、ヒルダの方を観察する。
以前とかわらず真っ赤な長い髪をポニーテールにしており、スレンダーな体つき。
そして、睨みつけるかのような橙色の目。
いやあ、それにしても目つきが悪いな。顔は非常に整っているのに目つきが悪いせいで台無しだ。
三白眼というやつだな。威圧されているみたいで怖いんだけど…。
そして何より異常なのはその格好だ。
赤い無地のTシャツ一枚にところどころ破れた青のジーンズを着ている。
……何この格好?
世界観ぶち壊しなんだけど!何で現代風ファッションなんだよ!
「あなたのパーティもひとりなの?」
「ま、まあな。」
ふむ。あなたも、ということはヒルダも一人ということか。
募集はパーティ単位だったから彼女も《一匹狼》の称号を持ってるってことかな?
「私は道中あまり戦えないからあなた任せになってしまうけどいいかしら?」
「あ、ああ。かまわんよ。」
道中戦えない?どういうことだろう?見た感じ人族なんだが、実は違うのか?
「そう、それは助かるわ。勝手で悪いんだけど理由は聞かないでちょうだい。あまり人に知られたくないの。」
「安心してくれ。俺は女性の秘密を聞くほど野暮じゃあない。」
「あら、優しいのね。」
クスクスとヒルダが笑う。
意外と物腰は柔らかいんだな。もっとつんけんした性格だと思ったがそうでもないらしい。
僕の口も調子が戻ってきた。出会った瞬間は明らかにビビッてたからな。
「それじゃあ、あなたは今日からしばらく私の手足として使わせてもらうわね。」
……。
前言撤回。性格は最悪でした。
「いやあ、待たせてすまんね。」
しばらくして頭の毛が少し薄くなり始めている中年の男がやってきた。
今回の依頼主、護衛対象だ。
「二人ともそろっているようだし早速出発しようか。」
「はい。」
「ああ。」
僕たちは門をくぐった。
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「ねえ、なんであなたブラックラビットをずっと持っているの?」
「ああ、これか。」
隣を歩いていたヒルダが話し掛けてきた。
僕は両手で抱えた真黒なウサギを見る。
門を出て一番最初に遭遇したモンスターだ。
「俺はウサギさんが好きなんだ……。」
「そう。さっきからあなたの手にだいぶ強く噛みついているようだけど?」
むむ、細かいところまで見ているな。
とりあえず、ここでなんて言うかが非常に重要だ。
自然な言い訳をしないと。
頼んだぞ、僕の口!
「そ、それも含めて好きなのさ。ウサギさんのー、甘噛み!なんちって!」
てへっ。
「……。」
「……。」
「……きもっ。」
ノーンッ!!!
息が、息が苦しいよ……。心が砕けたよ……。
変なこと言ったせいで早速ドン引きされてしまった。
僕たちが旅に出てから、まだそれほど時間はたっていない。
ちなみに今僕たちがいるフィールドは草原だ。
見渡す限り緑の草が生えている。
しかし、旅の最初からこれは流石にきついよな……。
早速、変態認定されそうだ。
だが、まだ諦めるには早い。
まだまだ旅ははじまったばかりだ。ここから何とかイメージアップをはかろう!
僕は折れそうな心を必死で立て直す。
よし、そうと決まればイメージアップ作戦即実行だ!
僕が強くて頼りになるってところを見せようじゃないか。
すると、調度いいタイミングで僕たちの前にモンスターが現れた。
《Lv.13 ブラックタイガー》
ううん。
このフィールド、最初にあったブラックラビットもそうだったがいまいちレベルが高くないんだよな。
高原のボスが同じLv.13だったから難易度としては妥当なんだろうけど、アースドラゴンとかと比べるとどうも低く見えてしまう。
まあ、実際に低いんだけど。
【絶対零度】!
敵が一瞬で砕け散る。
振り返ってヒルダの方を自慢気に見てみると、
「今何をしたの?全く分からなかったわ。」
かなり驚いた様子だった。
まあ、分からなくて当然だよな。触ったとほぼ同時に砕けたんだから。
「ふふ、分からなくてもしょうがないさっ。なんせ俺様はこの世界最強の戦士だからね。」
キラーンッ。
「……。」
あれ?面白くなさそうな顔をしている。
僕が何をしたのか分からなかったのが気に食わなかったのかな?。
戦闘に関してはかなり自信あるっぽいし……。
変にプライドを刺激してしまったみたいだ。
ふむ。イメージアップ作戦完全に失敗だな。
その後も僕は何とかイメージアップを試みたが、全く相手にされなかった。
拗ねたのかな?
そして、特に何事もなくボスの元にたどり着く。
ここまでの道中なんと、6時間!
いやー、長かった。本当に長かった。
後半はただひたすら無言で歩いていたからね。
ヒルダも依頼主も全くしゃべる気なさそうだったし。
因みに道中の敵は全て僕が倒した。
《Lv.40 ブラックエンペラー》
そこにいたのは巨人だった。
身長6メートルほどの黒い鎧を身にまとった爺さんである。
いやあ、それにしてもレベル高いな。
道中の敵と差がありすぎだろ……。
僕の後ろにいる依頼者が完全にビビッていた。
そして、巨人が口を開く。
《無言になってどうした?もしや臆したのではあるまいな?》
ふむ。まあ、普通のプレイヤーだったら確かに驚くかもな。
僕的には大した敵ではないが。
後ろのヒルダを振り返り尋ねる。
「どっちが戦う?」
「……あなたが戦って。」
そういったヒルダに別段目の前の敵を恐れている様子はない。
ほう。このレベルを単騎で倒せる自信があるってことか。
それはすごいな。
ちょっと戦ってるところを見てみたい気がする。
まあ、最初に会った時に言ってた感じだとなんか制約とかありそうだったし、ここは僕が受け持つが。
というか、これがこの旅最後の戦いなんだけど。結局、僕しか戦ってない気がする……。
「臆してる?この俺が?はは、寝言は寝て言え。なんせ、今からすぐに
眠ることになるんだからな!」
そう言うと、僕は一気に加速する。
相手が気付いた時には既に足元に到達していた。
「はっ。」
そのまま垂直に飛び上がり、顔の目の前までくる。
「吹き飛べ!」
空中で体をひねって一回転させると、その勢いを乗せて相手の頬に右足を叩きこむ。
《ぐぎゃああああ。》
巨体が地面に対して水平に吹き飛び、
ズドーーーンッ。
大きな音を立てて墜落した。
うむ。思ったより飛ばなかったな
《くそう。どうなっているんだ…。》
巨人が立ち上がろうとしている。
させるかっ。
僕は一瞬でその横まで移動し、頭を右手でつかむと、
「おらっ!」
ドン!
ドン!
ドン!
三連発で地面に叩きつけた。
《ふぐあああああああああ!やめんか小僧!!!》
巨人が僕の手を振り払ってたちあがる。
《き、貴様。このワシを怒らせたなあああああ!》
そういうと、右手を後ろに引く。
うん?なんだ?
その手が2倍、3倍にも巨大化していく。
……。
いや、でかくなりすぎだろ!
気が付けばその手の大きさは元の大きさの5倍ほどに膨れ上がっていた。
《くらえ!ワシの渾身の一撃ジャイアントパンチ!!》
ゆっくりと巨大な拳がせまってくる。
ふむ。流石に力比べでは歩が悪いな。依頼主もいるし避けるわけにもいかない…。
どうしようか?と僕が悩んでいると、
「私にまかせなさい。」
ヒルダが前に出てきた。
そのまま、僕の横を通り巨大な拳の方にゆっくりと歩いていく。
そして、
んん?
気が付くといつの間にかヒルダの肌の色が灰色になっている。
拳の前まで近づいたヒルダが右手を後ろに引き、
「はっ!」
一声と共にものすごい速さで拳を振りぬく。
巨人の巨大な拳とヒルダの拳が激突する。
グギグギ。ボキボキ。
……。
……。
《ぐぎゃあああああああああああああ!》
悲鳴を上げた巨人の右腕はあらぬ方向に曲がり、ひしゃげていた。
何が起こったんだ!?
僕が驚いていると、ヒルダはいつの間にか巨人の顔の前に飛び上がっていた。
空中で一回転して勢いをつける。
あの動きは!
その勢いを乗せたヒルダの足が相手の右頬にめり込む。
あっ。
次の瞬間にはなんと、巨人の頭は胴体から離れ吹き飛んでいた。
ぶしゃああああ。
血の雨が降る。
うげえ。むごい倒し方をするなあ。
僕が思わず顔をしかめていると、ヒルダが戻ってきた。
ふむ、さっきは気が付かなかったが目の色も変わっている。
もともと橙色だった瞳が今は薄緑色になっている。
そして、
「今私が何をしたか分かったかしら?」
ニヤニヤしながら聞いてくる。
「いや、よく分からなかったが……。」
僕が答えると、
「ふふ、分からなくてもしょうがないわ。なんせ私はこの世界最強の戦士なんだから。」
実に満足気に言い放ったのだった。
……。
うわっ。この女めんどくさ!
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「二人ともここまでお疲れ様。機会があればまた頼むよ。」
そういうと、依頼主は門をくぐり街の中に去っていく。
勿論、終わりの街である。
「これからあなたはどうするの?」
横にいるヒルダがきいてくる。
因みに、見た目は最初にあった時の姿に戻っている。
「俺はこの街の周辺でゲートボスを探すぜ。」
「そう。私はゲートボスには興味はないからこの街でゆっくりとしているわ。機会があればまた会いましょう。」
「ああ、またな。」
しかし、結局ヒルダの技はなんだったんだろう?
間違いなく種族固有のスキルだろうが……。
まあ、考えて分かるものでもないか。
次会った時に見破ってやろう。
僕はそう思い、門の向こうに消えていくヒルダの背中を見送った。




