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肌の刺さらない翼  作者: もーまっと
■本編
34/45

翼が三十四羽

 こうして俺と翼の最後の一日の幕が下りた。


 ──確かことのあとHRいうのがあった。LHRというのがあるのを最近気づいたが今日のはラージじゃないからデッカかくはなかった。普通サイズだ(もちろん、うん○の話じゃないぞ?)


 放課後はてっきり翼がお引越しするから、お別れ会とかが催されかもという期待もあったんだけど……ないらしい。なんて冷たい学校だ……。一番の親友代表としてスピーチがあるかも、と思ってたから、そこで俺の思いの丈をぶちかませるはずだったのに……。


 俺の隣の席では翼の周りには、阿久津、如月、委員長が居た。委員長は職員室に今日はこのあと用事があるらしい。如月は冷たい奴なのですぐに帰るんだとよ。阿久津は部活動が休みらしい。


 俺はというと、クラスの奴らが思い思いに帰りだしたのに乗じて、どさくさに紛れていた。盗み聞きをするつもりは──────────あったんだが。

 帰りは涼も落ち合うとか言っている。翼、阿久津、涼の三人で最後の下校をするんだろうな。俺も入りたかったな……。


 すると、どこからともなく俺を呼ぶ阿久津の声がする。聞き間違えでなければ、なんだか翼も「佐々良」と呼んでいるような声もするが、人の声がそこら中で聞こえるので、そう思いたかったから、誰かの声を聞き間違えてるのかもしれない。

 俺は既にあいつらと距離を置いた所で、図体のでかい奴と重なり合って歩き、教室のドアまで歩いていた。

 こういう時に限って誰にも見つからずに教室を出てしまってた。俺のことを捜すんじゃないか? 半分は見つけてくれても良かったのに~という気持ちがあったけど……。一度教室から出てしまったので、今更戻るに戻れない。忘れ物をしたと帰るにも、忘れ物らしきものは何もない。


 そのまま下足室にまっしぐら。駐輪場でチャリに跨り、直ぐに帰宅。


 というのが目的のはずなのに、俺はなぜか屋上だと思った。分かってる。俺はバツが悪いから逃げるように帰ったけど、実際には見つけて欲しんだよ、俺。だから、どうせこんな時間に開放されてない屋上に身を隠した。いや、身を隠すも何も、そのまま帰れば済むことだ。でも、屋上に行ったら鍵がかかってて、仕方無しに帰ろうとして階段を降りてきたら、廊下でバッタリと翼たちに会った。また迷子になってどこかの階で見つかってしまった。そういう期待もしてたのも、情けないけど、自分でもそれは分かってる。


 でも、こんな時に限って、迷子にもならなかったし、屋上の鍵も開いていた。

 最初からこういう運命になってたんだよ。と思い込ませ、仕方が無いから俺は屋上に出た。


 あ~……。馬鹿だな。

 最後くらい見栄を張らずに謝って、一緒にお別れを言えば良かったのに。


 情けないけど、俺は、屋上から門の周辺を通らないか、上から見ていた。もしかしたらその姿に誰か一人くらいは気づいてくれ。という淡い期待も持っていた。実際はそんな、何でもかんでも俺の思い通りに都合よくなんて毎回いかない……。


 そう……。自分の思い通りにいかないことの方が世の中多いんだ……。


 俺は小学校の夏休みのことを思い出していた。


 夏休みに、お姉ちゃんと喧嘩したことを──。


 ──昔、夏休みの午前中は、小学生向けのアニメがテレビで放送されていた。

 幾つものアニメが続けて放送される豪華なもので、夏休みアニメ祭りと題して放送されていた。俺はいつも、それが終わったら夏休みの宿題に取り掛かると言っていた(もちろん、やるわけはないが)

 何年生の時かは忘れたけど、途中からその夏休みのアニメ祭りが他のチャンネルでもやるようになった。二局でやってたんだ。でも俺が観たいアニメは決まっていた。


 俺とお姉ちゃんは一番見たいアニメが違った。そう違うチャンネルだったんだ。けど放送される時間帯が同じだったので、最終的にジャンケンで決めることになった。

 俺は負けてしまった……。

「嘘、嘘、三回勝負だからな~!」と言っても、お姉ちゃんには「智っ、それはズルだよ?」と言って聞き入れて貰えなかった。それで俺は畳みの上で寝転がり地団駄を踏んで怒り散らしていた。あまりにいつまでもねて怒っている俺を見て、お姉ちゃんは途中から俺の見たかったチャンネルに変えてくれた。でも俺が見たかったのは前半に終わってしまってたので「今頃、変えても、もう遅い!」と言って、また手足をバタつかせて畳の上で地団駄を踏んだ。お姉ちゃんは「智っ! なんでいつもそうなの~?」と怒ったけど、俺はずっと拗ねてテレビから顔を背けて寝転がって、まだ地団駄を踏んでいた。

 俺はそのアニメチャンネルが全部終わっても、まだ拗ねていた。拗ねてしまったので、残りのアニメまで見れなかった。俺は自分が本当に損な性格をしていると思った。ちょっとだけ泣いてたかもしれない──。お姉ちゃんと目があった。性格最悪女だコイツ。


 お母さんが(まだ両親が家に居た頃の話だ)朝に用意してくれたお昼ご飯を食べた。もちろん、お姉ちゃんとは逆の方向を向いて、一緒に食べてなんかやらなかった!


 お昼過ぎに突然、お姉ちゃんは俺に「智、プールに連れてってあげる」と言った。俺は泳ぎがあんまり上手くないから、お姉ちゃん付き添いじゃないとプールへ行く許可が下りない。でもプールは大大大好きだった。

 最初は俺も透明に戦隊モノの絵柄が描かれたプールカバンに、水着、水泳帽、バスタオル、浮き輪(実際は使えないが)などをギュウギュウに詰め込んでたけど……、そこでふと思い出した。

 俺は、お姉ちゃんのせいで一番好きな番組を見れなかった。なのに、プール連れてってやるからと言われてホイホイ付いていくのが、男のくせにカッコ悪いと思ったんだ。本当はそっちの方が男らしくないし、カッコ悪いんだけど……。


 お姉ちゃんは「それじゃあ、お姉ちゃん一人で行くからね」と言って怒って俺を置いて行ってしまった。俺はプールに行く気分がもう出来上がってたから、行きたくて行きたくてしょうがなかった。でも今更行けるか! と思ってた。どっち道、お姉ちゃんはもう行ってしまってるし……。俺はそこで更に、自分を置いて行ったお姉ちゃんを恨んだ。


「くそっ~! あの意地悪女! ムカつくなぁ」

 はらわたが煮えくり返っていた。俺がプール大大大好きなのを知ってるくせに! そんな簡単にあっけなく置いて行きやがってぇ!

「くそっ! 本当に行きやがった! 誰が行くか!」

 玄関をそろりと見たけど、お姉ちゃんは居なかった。本当に行ってしまってた。

 もしかしたら玄関で待ってて、俺に謝るのかなと思ってたけど、お姉ちゃんがそんなおしとやかで優しい姉なんかじゃない。もっと優しいお姉ちゃんが欲しかった!


 まだ走れば間に合う? 追いつく? ケッ! あんな奴、溺れて救急車で運ばれえれば良いんだ! ザマーミロ! ってスッとするのに。

 そんなことを考えながら、お姉ちゃんの机を何度も蹴っていた。腹いせだ。


 ──お姉ちゃんが出て行ってから何分くらい?

 やっぱ、行こうかな……。走ったらまだ間に合う?

 いーや、そんな阿呆なことするか! 一人で寂しく遊んでやがれ! バーカ。くーそ。意地悪馬鹿女!


 でも──、とうとう俺は誘惑に負けて、あとから追っかけるという情けないことをしてしまった。


 俺はどうせ間に合わないと思ったけど、もしかしたらプールの前で、まだ入場しないで待っててくれるかも? と甘い考えを起こして全速力で走った。家からプールまでは、それ程遠くない。それにお姉ちゃんがプールに連れてってくれる時には、必ずアイスを買ってくれるお店があった。だからいつもは歩きで行っていた。まだ全力で走れば、お姉ちゃんに追いつけるかもしれない。と甘い考えもあった。


 俺がプールを目指して走っていると、いつもお姉ちゃんがアイスを買ってくれるお店の前に、お姉ちゃんが立っていた。アイスは持ってなかった。

 最初は、まだアイスを手に持ってなかったから、きっとお姉ちゃんは一人でアイスを食べながら行くんだと思い、お店に入るのを影から見てた。けど、いつまで経ってもお店に入らない。段々とイライラしてきた。


 ふと、お姉ちゃんの顔を見た。


 すると、なぜか? お姉ちゃんは、本当に、本当に、寂しそうな顔でただ立っているだけだった。そんな顔は俺は見たことがなかった。

 俺は、それを見たら、よく分からないんだけど、声をかけずに家に帰ってしまった。走って帰ってしまってた。


 家に帰ってから、俺は、特に好きでは無いけど、聞いたこともないような映画の再放送を見ていた。他のチャンネルでは高校野球とか、時代劇とかやってるので、まだ映画の方がマシだ。ちょっとエッチなシーンとか出てこないかなぁ~とか思って観てた。

 CMの間に、またムカつくことを思い出した。もしかしたら俺がお姉ちゃんを見た時には、既にアイスを食べた後だったんだ。その後にプールに行ったんだと、ようやく俺は気づいた。俺は無性にお姉ちゃんがムカついてムカついて、冷蔵庫のアイスを三時になる前に食べた。もちろん、お姉ちゃんの分も腹いせに食べてやった。ザマーミロだ!


 何時間かして、お姉ちゃんがマヌケな声で「ただいまー」と言って帰って来た。

 アイスも買って貰えなかったし、プールもお姉ちゃん一人で楽しんで来て、俺だけこんな面白くもないテレビを見るハメになって。俺がどれだけプールが好きなのか知ってるくせに! そもそも、お姉ちゃんのせいで一番好きなアニメを見逃した! お姉ちゃんは俺を怒る代わりに、俺が嫌がることをやった。お姉ちゃんの方がそういうのは巧みだ。本当に性格が悪い! 最悪の姉だ! 死んでしまえ! バーカ。


 俺はまだ気がおさまってなかったから、家に帰ってきて直ぐにお姉ちゃんがトイレに行ったので、その隙に、プールカバンの中にゴミを集めて入れてやろうとした。


 でも……お姉ちゃんの水着は、濡れてなかった。バスタオルも。



 それは小学生の頃の夏休みの話だ。


 今では高校生になって、でも、その時の俺と、今の俺はどう違う……?


 ジャンケンで負けたのは俺だ。お姉ちゃんには何の責任も無い。なのに俺はお姉ちゃんに怒って、地団駄を踏んで、プールに連れてってやる。という折角の好意を素直になれずふいにした。


 翼の心を踏みにじったのは俺だ。あの時の翼には何の責任も無い。なのに俺は翼に怒って、未だに素直になれず、こんな屋上なんかに居て、お別れも言わないで、翼との最後の日をふいにした。


 お姉ちゃんは、もしかしたら、俺のことが気になってるので、追いかけたら、まだ俺を待ってるかも?

 翼は、もしかしたら、俺のことが気になってるので、ウロウロしてたら、バッタリと会うかも?


 お姉ちゃんは、俺が悪いにも関わらず『俺が追いかけて来るのを分かっていて』結局は何時間も待っていた。

 翼は、俺が悪いにも関わらず『俺が追っかけて来ると信じて』泣きながら何時間も待っていた。


 追いかけた末に、お姉ちゃんの姿を発見した時『本当に、本当に、寂しそうな顔をしていた』

 探し回った末に、翼を発見した時『本当に、本当に、嬉しそうな顔をしていた』


 そんな、お姉ちゃんに対して、俺は『最悪の姉だ! 死んでしまえ!』と思い、結果的に黙って置き去りにした。

 そんな、翼に対して、俺は『この嘘つき野郎』と言ってそのまま置き去りにした。



 分かってる。今更こんな所に居ても、もうとっくに帰っている。なのに俺は、屋上から、翼たちが見えないかと未だに、ここから見ている。似てるグループを見つけては、違う生徒だと気づき……。


 と、その時、ドアの方で音がした。


(折角の一人反省会なのに! くそっ!)


 ……いや、違うな。ここは俺の所有物でもなんでもない。なにを無関係な人間に、自分勝手に腹を立ててるんだろう。

 俺はこんな所で一人で屋上から探して欲しそうに上から下校する生徒を眺めて……。

 もし、こんなところで告白とかで、誰かが来たんだとしたら、俺はこれほど惨めな気分はないな……。

 まあ、そん時は、俺もここ(屋上)を明け渡すよ。お前らは上手くやれよ。へへへ。バーカ。


 翼か? 俺が屋上に居ることを知ってるかも! と思い、今日こそは都合の良い自分流の解釈を引っ込めた。なんで俺が屋上にいるなんて考えるんだよ。俺自身が思いつきで来ただけだ。俺は屋上なんて一度も来たことないだろ。


 本当に俺は自分に都合の良い妄想ばかりしてる……。


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