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肌の刺さらない翼  作者: もーまっと
■本編
31/45

翼が三十一羽

 休み時間も、今日は珍しく翼は自分の席に座っていた。


 額に少し汗をかいて、若干緊張気味な面持ちも見て取れたので、俺の勝手な想像だが、もしかしたら最後の時間を満喫したがっている俺に気を利かせて、俺がじっくりと翼に見とれていられるように、今日は隣の席にじっと座ってるのかもしれない。


 いつもなら俺と喧嘩中は阿久津の席に行ってるけど、今日はその阿久津も他の野郎たちと居るし、こっちにも寄って来ない。ナイスアシストだ! 阿久津!(俺の想像が正しければ、の話だが)


「ぉぃ……。ほら……」

 相変わらず今でも男言葉を使う如月だが、いつもの女子グループと話をしながらも、たまに目を放した隙に、それと分からないように俺をつついてる。でも、ちょっと距離があるので、女子友達の目を気にしてか、何回かに一回は手でつつかないで、俺の机の脚を蹴ってる。

 如月の言いたいことは分かってる。こいつは翼と最後なんだから、早くなにか喋りなさいよ~。と言いたいんだろう。段々イライラしてるように「ほんっとグズなんだからぁ」という顔にも見える。


 そうこうしてる内にチャイムが鳴った。


 授業中は喋るチャンスはあまりない。と言うのも、もしも翼がまだ怒ってるなら、授業中にまた喧嘩みたいなことになったら、そのままになってしまうような気がする。出来れば休み時間にお話をしちゃいたい。


 二時間目が始まっても、俺は一時間目同様に、うっ伏して左を向いて翼を眺めてる。一度、先生から体調が悪いんですか? と聞かれたから「そうだ!」と言ってやった。そしたら納得したのか、いや納得してない顔でツンっとした顔で無視して、そのまま授業を進めた。


 それを見て如月がクスクス横で笑ってる。なにが可笑しいのかは不明だ。きっと今度は不思議ちゃんキャラで売り出そうとでも考えてるんだろう。

 そう言えば俺が翼の転校の話をした時も「転校? 転学?」とか不思議そうな顔をしてた。きっとこいつは引越しと言っても、そこまで大袈裟に考えてないんだろう。頭が平和な奴は悩みが無さそうで楽で良いな……。


 そう言や、翼とのホテルの一件の翌日の時なんか、如月の態度ときたら酷いものだった。よくこの短期間でキャラ変したものだ。

「B君が好きなんじゃーん?」とかズバリ当てらたけども。

 ホモじゃなくて、翼(B君)が好きだって。俺はまだその時は気づいてなかったけどな(いや気づかないようにしてたのか……な)


 そのあと……そのあと……。そうだ。

 お昼休みの後、俺がまた迷子になってたら翼が迎えに来たんだ。この時点では俺はホテルの涼って奴が翼だって気づいてなくて……。


 そうか!


 俺がハッ! として動いたもんだから翼もピクンと反応した。翼の方に顔を向けながらだったから、なんとも不気味な奴だな俺は……。


 あの時の「あのボク……、喋っても良いの?」は、そういうことだったんだな?

 ホテルで「学校でも、俺に話しかけてくるなよな」って俺が言ったから……。それに対して、言葉の最後にそれとなくサインを出してたのか? それとも俺の考え過ぎか?

 ”お、怒って、ない?” ってのも、本当は?

「ありがとう……。教室まで送るよ」その、ありがとう。ってのも……?


 翼の様子をじっくりと見た。


 二時間目にもなると、額の横に汗を滲ませ、たまーにだがチラ、チラっと見てた。けど、視線は依然として合わせてくれない。

 なんか、美術でモデルしてる役のような感じだ。俺が見てるのを、じっとして体を固定して座ってる。俺を完全に拒絶してない証拠だ。俺がちゃんと翼の姿を目に焼き付けたいのを分かってるように、じっとしてくれてる。優しいな翼は~(俺の想像が正しければ、の話だが)


 と、暫くはそんな可愛いが、ちょっとぎこちない翼に見惚れていたけど、気づいたら俺はまた、俺は回想トラベラーになっていた(そろそろ最終回も近いのか?)

 つーか、翼のことを、もっとジックリ見ろよ! ……でも、思い出すんだよ。翼を改めて見てたら、今までのことが走馬灯のようにな(そろそろ死ぬのか? 超バッドエンディング?)


 ∽∝∽∝∽∝∽∝∽∝∽∝∽∝∽


 ホテルの一件から数日後、俺はあれ以来(まだ涼が別人だと思ってた頃だ)どうも翼は実は女なじゃ? と思うようになっていた。


 田んぼでヘリで青春の王道、帰宅部の主の行事「道草」にいそしんだ時も、

エッヘン! と胸を張る翼を、こいつ本当はおっぱいあるんじんないか? とジロジロと、そりゃあジロジロと、しかも少しHな目で見たなぁ。コイツが女だったらなぁ~って思いながら。


 俺の一族の血の呪いの話を打ち明けたのもこの時だ。


 いつも十字路の分かれ道で俺を見送るから、翼は何か重大な秘密とか悩みとかあるのか探りを入れたら、三階建ての一軒家で、自室が二十畳、リビングが四十畳とか言ってた。

 お姉ちゃんと六畳をガムテで仕切って共同のLIVING IN A CUBICLEな俺は思わず「翼ぼっちゃま!」なーんて、平民の俺との身分の違いにビビッてしまったけど、きっとおおうちの事情を知られたくなくて、あんなことを言ったんだろう。後に涼に聞かなかったら気づかなかった。そう、俺についた可愛い嘘。うへへ。


 俺は翼と別れて一人で帰宅。と思ってたら、家の近くまで来て爽やかな汗で付いて来てたのには驚いた。そのあと振り切ろうとしても付いてくんだもん。でも、ちっと痩せ我慢して無理してたんだろ? 可愛い奴だ。


 あの時はもう、そりゃあ、家に入ってからが凄かった!


 同クラの奴らはみんな翼の制服姿に見慣れてるから、他校の遠野みたいに驚かないんだって、強引の理由つけて、翼になんとかスカート穿かせたがった。


 でも、ズボンの上からって約束だったのに、生脚ミニスカだもんなー!


 翼は小さいからミニスカになってた(あれ、ブリーフだったのかな?)スネ毛が全然ないツルツルの翼の脚。

 いや、今だから言うけど、特に太もものムッチリ感は半端なかった。細いのに女みたいな太もも! ドキドキしたもんなー。今でもあいつは女の身体か、それに近いんじゃないかと期待してる(もう、遅いけど……)


 そしたら突然お姉ちゃんのご帰還に、俺は翼を引っ張って瞬時にクローゼットに隠れた。良い匂いがした。身体も柔らかかった(特にお尻)

 ンパ、ンパして、思わずこのまま抱きついて押し倒しちゃおうかと思ったくらい、華奢なのに柔らかい身体で悶々してた。

 翼が焦って「どうするぅ。佐々良……」って言ったから、ついつい俺も興奮した。


 どうするも、こうするも────どうして欲しい? 翼は?


 その後はクソゴリラの邪魔が入って、俺と翼のメイク・ラブも終わりを告げたっけ。そんで俺はメスゴリラにフルボッコ。翼も止めに入ってくれたけど(やけに遅かった)


 で、俺と翼の美形コンビと、ゴリ一匹を交えてお喋り。


 翼は、小六の時にやった権田藁岡先生に漫画を見つけて興奮して、俺があの時のことを覚えてるのか試してた。


 俺の「それは、そもそもが阿久津が翼のこと弁当に誘ったからだろ」という言葉に翼は「本当にそう思う?」なんて意味深なことを言ったから、実際に連れて来たの阿久津だしと俺が言ってるのに、翼は、俺の言葉を無視してジーッと観察するように「六年生の女の子の時みたいに?」「誰にでも、優しくしてたんじゃない?」なんて言われたもんだから、俺も有頂天まっしぐら。


 しかも「ねぇ?」なんて、女みたいな口をきくし「その子は、その後どうなったの?」なんて色っぽい目の翼。お互いの唇同士が近すぎて、翼が喋ると息がふぅーっと、優しい感じにかかって、ぞくぞく、ぞくぞく。

 でも、まだこの時はホテルの奴が翼だと知らなかったから、涼って奴に騙されたのが脳裏にぎった。実際は涼は関係ないし、翼だったのに。


「さーなぁ。もう忘れた」また涼との一件を思い出して、翼も俺をからかってるのか? 疑心暗鬼ってやつだ。それなのに翼はまだ「ほんとに……?」と可愛く食い下がる。

 ヘタレな俺は、嫌な記憶の方がまさって、俺が忘れたことにしたら翼も笑い話にスリ変えてしまった。

「佐々良、途中まで、その女の子がボクじゃないかって勘違いしたんでしょ」

「ホント、まぬけ面~。もぉ、単純だな~。そんな訳ないじゃん。俺は男だぞ」


 ホテルの時のことを思い出してしまい、俺も笑い話の冗談に仕立て上げた。


「まーそんなもんだろ? 小学? その後のことなんか知らねぇ。中学もな。高校なんか、もっと知らないよ」

「バッカでぇ。うぃひひひひひひ~!」

「うぃひひひひひひ~! ひ~。ひ~……。お前もなかなか腕を上げたな、なっ?」

 すると翼の態度が少し変わり「そうだねー」って冷めた口調になった。その時は俺も鈍感で気づきもしなかった。


「ふーん」呆れた顔をしてたのかもしれない。なにが、ふーん、だよ。俺だけ恥ずかしい思いはさせんなよな──と、そう思った時、翼は突然言い放った。


「帰る」


 翼がいつまでも拗ねてるから「んだよっ! お前から始めたんだろう? 怒るのはお門違いだぞ。俺だって途中まではちょろっとだけ本気にしそうになっいたんだから、おあいこだろ?」俺も少しばかりカチンと来てたのは事実だ。


 俺の自虐ネタのフォローにも翼にしては珍しく「方向音痴は、お前だけだろっ!」と強い言葉。そして、俺が後ろから手首を掴んだら……。


「もう! 触んないで!」


 強く振りほどいて、そのまま家を出て行った。


 ∽∝∽∝∽∝∽∝∽∝∽∝∽∝∽


 ヤバイ……。


 何もかも事情を知った今は、ちょっと翼が可哀想すぎて涙が出そうだ。俺ってば本当に酷いやつだな……。んん? ん? あれ?


 ”今!”


 一瞬、翼と視線が合ったような気がしたけど……?


 これが以心伝心って奴か? それとも、また直ぐに表情に出やすい俺が、ヘンチクリンな顔をしてたんだろうか?(それはちょっとヤだなぁ~……)


 お姉ちゃんは翼と喧嘩して、俺んちを出てった時に「あの子、ちょっとは大きくなったけど……」とか「シャイなところは全然変わってないのね?」なんて言ったけど、その後は翼も結構タフになったぞ?


 だからこそ今も、俺は翼と最後の学校なのに、話しかけることも出来なくて、こんなイジイジとしてるんだ。



 ∽∝∽∝∽∝∽∝∽∝∽∝∽∝∽


 知らないはずの道を帰っていった翼。そうだよな子供の頃に遊びに来てたんだもん。道もちゃんと覚えてた翼。だから追いつかなかった。


 俺は駈けずり回った。

 ボーリング場、その駐車場、スーパー、その駐車場と、建物と駐車場をセットで見て回った。カラオケボックス、ファミレス、建物の影、空き地──どこにも居ない……。


 電話があること忘れてた。電話にも出ない。その時もう翼はあのパーキングに居たのかな? それともまだどこか歩いてたのか?


「バッカでぇ。うぃひひひひひひ~!」

「もう! 触んないで!」


 家から十字路まで、十字路から俺の家の方面まで、また十字路を通り学校へ、そこからどこを捜したのか忘れてしまった。完全に迷子になってしまった……。


 そのあと京香たちとバッタリ会って、別れて


 パーキングの壁際で座っている人影が段々と形だって見える。

 ──ん? うそだろ。


 そこに翼が居た!


 あれから何時間経ってると思ってんだ! バカ翼。もう外は真っ暗だよ

 俺も二時間以上探し回ったが、翼なんて二時間以上も泣き続けてたんだぜ。考えられるか? そんな長い時間、涙が流れ続けることって、信じられないよな。俺に見つけて欲しかったんだよな……。


 暗がりで見えた翼の頬に、ポロポロ・ポロポロと涙だ。泣いている。


 俺が、捜さなかったら? 途中で諦めて帰ってたら? 馬鹿じゃないのかって思った。「なっ? 帰ろう? 途中まで送っていくし」喉元まで出かかった。

 色んな思いが交差し、声をかけようと思った、その時。


 え? この感じ……。そうだ、この感じ。こいつは、涼だ!

 その時はじめて、あの時ホテルにいたのが翼だったんだんだと、気づいた。


 俺に気づいた翼が、一瞬驚いて「なぁ、何か言ってくれよぉ……」と訴えてるような顔で、今まで見たこともないマヌケなハの字眉をしてて、思わず俺も(可愛いくて、愛しくて)思わず笑ってしまった。

 すると、一瞬で表情がパッと明るくなり、それまで見たどの翼よりも明るい表情で、本当に、本当に、嬉しそうに「来てくれたんだぁ?」と満面の笑みを見せ、俺の方へ走り出していた。それまでも、これまでも……、今でも、この時の翼の顔が一番明るい笑顔だった。


「佐々良ぁぁぁ~!」と声を上げながら、馬鹿みたいに泣きじゃくって走って来る翼の顔が、徐々に表情が崩れていき、涙が溢れ出て、ポロポロ・ポロポロ・ポロポロ・ポロポロ……。


 本当にバカな奴だ。高校生にもなって、自分で帰れるのに、俺が捜しに来るのを待っている。まるで子供が、お母さんに見つけて貰ったような顔で泣きながら走っている。俺も思わず「翼ぁッ!」って声が出ていた。


 泣き顔を見られないよう、近くまで来たら思いっきり! 俺に飛び込んで、抱きついてきた翼は、子供みたいに泣いていた。


「ささ……ら、うぇっ……ささら……へっぐん……えぐ、へっく……うわぁ~ん!」


 華奢な翼は腕が震えるくらい力いっぱい抱きついているけど、笑ってしまうくらい、俺には全然強く感じなかった。翼は耳元でえっぐ、えっぐと、嗚咽をしゃくり上げながら、泣きながら喋ってるけど、言ってることはただ、佐々ささらを繰り返してるだけだった。


「ささ……、らー。えっぐ……。ささら……ふっぐ……ささ……ら……ささら」


 翼は足を小刻みに震わせ俺にしがみつき、俺も翼が──。

「うん。うん翼っ。帰ろうな」

 初めてこんなに、おもいっきり翼を、ギュウ! と、抱きしめた。腰が女みたいに細い。なんて軽い体なんだ。ああ……翼……。

 でも、俺の口から思わず出た言葉は…………。


「この嘘つき野郎」


 ∽∝∽∝∽∝∽∝∽∝∽∝∽∝∽



 きっと今の俺のこの状況は、あの時の、


 ばちが当たったんだ…………。


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