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肌の刺さらない翼  作者: もーまっと
■本編
29/45

翼が二十九羽

 俺はまだ昨日から今朝方までの時空狭間パトロール(夢)の後遺症もそこそこに通学してきた。今日はまたいつもの体調(?)に戻って、今、丁度下足を出て、そこから一階から二階へ上げるところで、階段の踊り場で涼の後ろ姿が見えた。


 俺の姿に気づくと、途中で待ってくれてるみたいだ。


「昨日はどうしたんだ? どこか体調が悪そうに見えたけど」

「俺と会ったっけ?」

「なーに言ってるんだよ。俺が途中まで送ってやったんだよ。佐々良くん。お礼は要らないから」

 昨日の誰かに喋りかけられた記憶には無かったけど? はて、いつだったんだろう。相変わらず嫌味な喋り方するよな。

「いつ? クラスが違うから、もしかして教室移動の時かな? それとも他にフラフラしてたのか……」

 昨日の記憶がないけど、教室で話しかけられたのはだけは、どうにか覚えているらしい。

「さぁ? 廊下でフラフラしてたから、方向音痴なのは聞いてたから、とりあえず真面目そうなクラスメイトらしい子に渡しといた」

 俺は物かよッ! こつぅ。

「どんな奴?」

「ニコニコ顔の感じの良い女の子」

 あぁ委員長しかいないな。初対面でニコニコって印象を強烈に植えつけるとは侮りがたし、委員長。

「なるほどね。委員長のことかー」

 俺がそう言うと涼は少しだけ、なんだこいつって顔を見せて言った。

「そ、それだけで分かるんだぁ。お前の記憶力……、どっか変わってるな」


 そういえば何を暢気に喋ってるんだ。今日はそんな日じゃないだろ~が。どうも緊張感の無い会話だ。月曜日の翼の強烈な言葉、阿久津とのちょっとした喧嘩腰(それは俺の方だけど)な空気。

 お前も…………。


 あぁ、そうか。この違和感が何かを考えたら、すぐに答えは出た。翼と涼は別居状態だから(またこう言うと語弊があるけど)涼は関係ないんだ。引越しには。でも、それなら何で前に職員室であんな話をしてたんだろう? まっ、こいつは出しゃばりだからな。ははは。

 どっちにしても教室までの肩慣らしには丁度いい。教室に入ったら……。


「そうだな。涼は転校しないんだなぁ、別居中だから」

 俺のその言葉に涼はニヤニヤして答えた。

「転校? 引越しのことか。俺は転校しないよ。どーうりで昨日は。ははは、そんなにショックだったのか」

 やっぱ涼ってちょっと意地悪な所があるなッ。これは生まれつきだったんだぁ~。

「お前の方が引っ越せば良かったのにっ! 顔は似てるけど翼の方が百倍可愛いッ!」

 そう言っても、昨日の俺の失態(?)を見てるので涼は余裕の顔だ。

「酷い顔してたからな~。あっ、これ、顔の良し悪しの話じゃないけど」

「当たり前だッ! 因みに、これも夢とかじゃないよなぁ……?」

 涼は怪訝な顔をして聞き返す。

「はぁー? お前、大丈夫か? ただでさえ普段からおかしいのに。おまえ」

 どういう意味だよッ! ほんっと、こいつは口の減らない奴だ。

「いや、昨日はちょっとな。時空の狭間をちょいとパトロールしてたもんで……」


 ”イタイ奴だ”


 涼がをうボソリと言ったのを、俺は逃してなかった。

「高校生にもなって、まだ戦隊モノの遊びでもるのか? いい年してそれをするのはオタクだけだ」

「ふん! 時空のパトロールはそんなんじゃない。俺くらいいつでもトランス状態に入れる極致を極めた俺だけだ」

 お前には百年経っても無理めだけどなっ!


「……──お~そうだ。お前だから良いか」

「ん?」

「ちょっと良いか?」

 身内だけじゃ贔屓目ひいきめになるから、丁度良い。こいつなら。


 ”むにゅーん。ぽいん・ぽいん”


「なっ、何すんだよー!」


 バチーン!


「イテっ。また目がチカチカしてるだろぉ。うん。夢じゃ無さそうだ。うん」

 こいつ、相変わらずだが、手が早いな。また今回もグーで殴りやがった。

「お前、俺は翼の身代わりかっ! 昨日はあんなに情けなく凹んでたくせに。懲りない奴だ」

 懲りない奴だってのは俺の口癖だ。最近、俺の口癖をパクる奴が多いなぁ。嘆かわしいことだ。ま、俺の恙無つつがないスマートの口調を真似したいのは分かるけどぉ。

「いや、身代わりは無理だ。だって翼の方が百倍可愛いから。お前じゃ無理だ」

「それなら、そんなことするなよ。──お・ま・え」

 やっぱ人を不快にさせる喋り方は健在だ。はいはい。用は済んだから。涼君。

「うん。よし、もう下がっていいぞ。じゃあな。もーいーぞ行っても」

 とりあえず大したこと無いのは分かってるけど、一応は痛かったから、これが夢じゃないって分かったし、もう涼なんかに用は無い。

「身勝手なのは変わってないな。もう! 普通だったらこんなことしたらタダじゃすまないぞ。お前は犯罪者か。冗談でも、もう二度とそんなことするんじゃないぞっ!」

 こいつは身勝手というのが口癖なんだろうか? 今まで話した中では毎回出てくるな。

「あ、ああ、うん。じゃあな、行っていいよ。」

 引っ越さないなら、こいつなんか、いつでもそこらじゅうで見かけるだろうーよ。


 怪訝な顔つきで涼は、サッサと階段を上がってどここかへ去った(ま、教室だろうが)チビだから階段上るのが遅い。こいつは絶対に三段抜かしは出来ないな。ザマーモロ。


 はぁ……こうやって我に帰ると。


 翼の引越しがいよいよ現実味が帯びてきたな~。あのまま現実感の無いままでも良かったナァ。


 いや、それはダメだ! 最後のお別れだしな。あぁもう、なんか涙が零れ落ちそう……。


 寂しさを後押しするかのように階段の上の方の窓が開いていて、そこからピューピュー風が吹いてらぁ~。はははは。

 風が……風が……かぜ……開けっ放しの窓から吹く風が女性とのスカートが……上がり……上がり……上がらない……いや、上がり……(なんか入学当初によく似たことがあったような……)

 ……その女子に変態を見るかのような目で睨まれた。

 ケッ! お前のスカートの中なんかうんこ野郎~だ。バーカ。風で上がりそうになってるのまで俺のせいにするな。お前がマヌケなだけだ。

 それならスカート姿の翼の方がはるかに……LOVEらぶっ


 教室の前で、今日は翼はどんな顔をして居るんだろうかと、ふと気になった。月曜日にあんな別れかたをしてから、火曜日は意識ぼうろうだし、それで今日だ。もしテンションがあのままの機嫌の悪さだったら、どうしよう。

 あれだけ俺が謝ったのに、それでも振り切って去って行ったからな。あんな翼は初めてだし。


 ──考えててもしょうがないので、教室のドアを開けた。


 まだ翼も阿久津も気づいていないみたいだ。俺の席の左が翼だけど、喧嘩してからはずっとHRが始まるまでずっと隣には戻ってこない。いつものことだ。


 俺は翼と会ったこれまでのことを思い出していた。


 ∽∝∽∝∽∝∽∝∽∝∽∝∽∝∽


 初めて翼と会ったのは、阿久津に連れられて弁当箱抱えて少し不安そうに立っていた。 俺はからかいつつも、権田藁岡先生の漫画の話で盛り上がった。

 あの時は、まさか翼が俺が小六の時に漫画をあげた女子(と思い込んでた)とは気づいてなかった。最初は茶坊主なんて呼んでたっけ~。

 それを翼が怒ったと思ったら

「ボクの名前は、肌野翼はだのつばさ! クラスメイトの名前くらい覚えててよね!」

 怒るポイントそこかよ~って、な。ははは。

 あれは、小六の時のことがあったから、俺が完璧に名前を覚えてなかったってのも、あったんだろーなー。


(いや、別に良いんだ。俺が翼のことを思い出してニヤニヤしてるのクラスの奴らに見られても、もうどうでもいいや)


「怖い人だと思ってて……」って言ってたな。四年間も空白があったし、俺も粗暴なとこあるし、高校に上がって俺がどう変わってたか心配もあったのかな。

 すぐ打ち解けて、権田藁岡先生の漫画の話で盛り上がったな。阿久津を置き去り(トーク)にして。

 あん時に気づいてやれば良かったな……。


 小六で隣のクラスの男子に漫画貰ってファンになったって話も、今考えれば分かりそうなものだ。それ俺じゃん。その年齢でまだマイナー時代の権田藁岡先生の作品知ってる奴なんか居るわけないだろうが、もう

 恋人か? ガールフレンドか? ステディか? と詰め寄ったら、ポッなんて赤くなってやがって。ふふふ。可愛い奴め。


 双子の兄貴がいるって言ってたけど、涼の名前まではまだ知らなかった。男のフリをして、この学校に入学したのか? なっ? と俺が聞いたら、額に汗をにじませ苦笑していた。あれ実際に涼が女だから本気で焦ってたんだな。

 阿久津から、権田藁岡ワールドの世界観をそろそろ引っ込めるように注意されたけど、阿久津はどこまで知ってたんだろう?


 そのあと迷子になって体育館に迷い込んだ。髪形の違う翼見て、最初は翼だと思ったけど、涼だった。

バスケ……。下手だったんだな(プッ)

 双子の兄だと気づいて。でも、まさか女だと思わなかったけどな。その時は。七三と一緒に居た。涼はあんな奴に女取り合って負けたんだな(プッ)笑える。

 後に涼の名前を借りた翼に呼び出されたわけだけど、既にその時に計画は出来上がってたのかな?


 ∽∝∽∝∽∝∽∝∽∝∽∝∽∝∽


「ねぇ。良いの? 今日で翼君引っ越すんでしょ」

 如月が声おかけてきた。なんでそれを知ってるんだろう。俺が言ったのかな?

「良いのって、引っ越すのは、もう決まってるだろ。どうしょうもない」

「ふーん……」


 そうだ、ダメ元で聞いてみようか? 頼んでみようか? 俺は明暗が浮かんできた。

 最後の日だ、俺は生まれて始めて女に頭を下げた。俺の席に近いし、翼と一個飛び出し、性能の良さげなのを持ってそうなので、如月にスマホーで、可能な限り翼の雄姿を写真と動画を要領いっぱいいっぱいまで撮ってくれ、と頼んだ。まるで隠し撮りみたいだから、どうせ断られると思ったけど、本来ならこんな大金をやったりしないんだけど、二千円を上げてお願いしたら。あの金の亡者が、なんと! 普通ならそんなはした金だけど、今日は特別だからと無料でやってくれると快諾してくれた!


 如月さいこー! お前は良い奴さッ。


 充電とか容量とか大丈夫か? と聞いたら、なんでも既に充電してる充電器があるようだ。俺にはその言葉の意味は分からないけど。


 だって翼の写真とか画像とかひとつも持ってないんだもん。俺の口から言ったらどうせ意固地になって断られるだけだもんな。


 あともう六回しか翼とは一緒に授業を受けれないんなんで、なんで今まで、翼との時間をこんなに無駄にしてきたのか。後悔した。


 翼が戻って来た。ちょっと様子も違う。月曜日の時みたいに、完全に俺を嫌って全く取り付く島もない、って感じには見えない。


 今日の予定はギッシリだ。机に左向きにうっ伏して、ずっと翼の顔を見ることに決めている。真っ直ぐに座って堂々とジロジロ見とれてて、見るな! とか拒否られたら、目に焼け付けておくことが出来ない。


 別に嫌われても、もう良い。ジロジロ見て、この目に焼き付けてやる。


 ──HRってのが終わったようだ。


 翼も俺の作戦を見抜いているようで、ちょっと緊張捨てるみたいで、コメカミに汗をかいてお行儀良く座っている。


 今は俺はうつ伏せを少し顔だけ横に向けて、机にダラーンとしてる。翼はこっちを見てくれないけど。



 ∽∝∽∝∽∝∽∝∽∝∽∝∽∝∽


 確か少しして、クラスLINEとか言うのに勧誘されて、阿久津にお前だけ無料だから他人ひとには言うなよ、特別待遇だからなつ。て騙された(あの野郎~!)

 なんか引っ切り無しに画面に出てて、俺てっきりクラスの人気者になったと勘違いした。ばかだねぇ。

 お姉ちゃんにも言われたけど、あれクラスLINEじゃなかったんだなぁ。

 涼って名前で、いっぱい何やら来てた。本当は、実際は一対一だったのかな?


 それで待ち合わせだ。


 放課後、教室に残ってニッタらしてたら翼が声をかけてきた。

 あの時点で既に涼の名前を使った翼と俺はやり取りしてたのに、自慢げに人気者アピって超ハズい奴!(あの時はじめて俺の右側に立ったよな翼)知らなかったんだからしょうがない。


 まだ、翼も俺のこと「クン」付けで呼んでた。

 涼って野郎と今から遊びに行くけど、お前も連れてってやろうかとか言ってカッコつけてたけど超恥ずかしい~、俺。それは翼本人だってのに。


 だから「ボクは誘われてないし。呼ばれてないのに行くのも。まあ楽しんできてよ」なーんて言って誤魔化したんだな。ははは。

 お姉ちゃんのこと知ってるみたいなこと言ってた。そりゃそうだ、知ってるわな。会ってんだもん、過去に。


 最後に俺が先に教室出て帰る時に「────悪く思うなよ~」と言ったら、


「またあとで~」

俺が「おーぅ! また明日な~」


”またあとで~”、ってあの時、言ってたよな…………? よな?


 ∽∝∽∝∽∝∽∝∽∝∽∝∽∝∽


 ──これから一時間目ってのが始まるんだそうだ。


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