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肌の刺さらない翼  作者: もーまっと
■本編
23/45

翼が二十三羽


 少しだけ沈黙の間が空いてしまった──。


「俺は、誰にも喋らない……。 ──て言っても信用ないと、思うけど」

「そうだね……」

 如月は、やけに素っ気無い口調で返した。もう泣いたのを俺に見られてしまって、俺なんかとの関係はどうでも良くなったのかな? 弱気な如月を見てしまって、悪いことをしたと、本気で思ってる……。

「人に…………、聞いたりしたのは、俺が悪かったよ。でも、誰にも喋ってないのは本当だけど」

 自分で言ってて、何を当たり前のことを言ってるんだろうと思った。喋るも何も、実際のところを知らないから、こんなことに発展してしまったのに。

「うん……」

「うん。……って、いうのは?」

 返事は無い。やっぱり信用ならないんだろうな……。自分でも言ってて空々しく感じた。それに、何に対しての「うん」なのかも俺には分からない。


「俺が、心配だから──。まだ帰らないんだろ? その……、確約が、取れないから……」

 もちろん俺のことが心配という意味では無い。俺が喋るか心配だからという意味だ。如月もそのニュアンスは分かってる。

 そんなの、如月はもうどうでも良くなってるのか? それとも諦めたのか? 態度がさっきから素っ気無い。そうだろうな当然だ。

 如月は黙ったままで、何を考えてるのか分からない間を置いた。

「さっきの、お姉ちゃんの話。俺は想像だけど、如月は現実……」

 現実という所で、如月の反応が怖かったので少しはぐらかす言い方になった。

 いつもは「お前」と言うけど、負い目があるのか「如月」という呼び方になってしまった。


 その時、予鈴が鳴った。


 お互いに気まずいまま、どちらともなく、教室に向かった。その間は会話も無い。というより一緒に歩いたのは階段があるドアまでで、そのあとは如月の方が早足に階段を下りていった。俺は鍵はどうするんだろう? なんて考えてたけど、ここは屋上だ。それに俺には方向音痴の癖がある。こんな時でさえ、俺はそういうことも気にしなければならない。

 如月は嫌だろうけど、俺は如月が見える距離で、出来るだけ近づかないように、後を追って教室に戻った。それが方向音痴の惨めなところだ。送り迎え付きという条件だったのに……。

 教室では何事もなかったような雰囲気だった。翼と阿久津は心配げに見ていた。如月の友人たちも同じような顔で見てたけど、誰も話しかけることはしなかった。その方が俺も(多分如月も? それは分からないけど)助かる……。


 ◇◇


 ずっとモヤモヤしている。

 俺はもう「その話」は無理に聞こうとも思わないし(お姉ちゃんにも)誰にも喋るつもりも無いし、そのままにしとくのが無難なのも分かってる。

 如月はどう思ってるんだろう? 中途半端に切り上げた形だし、まだ俺が誰かに喋るんじゃないかと確約を心配してるんだろうか? それとも、もうこれで終わったということで良いんだろうか? 如月はもう俺とは話はしたくないだろうし。

 また俺はやってしまった。八木さんの時と同じだな。これから一年も気まずいままかぁ(如月さん、さようなら~)

 俺の中では「如月」が「如月さん」になった。


 喋ってくれないのだと思っていた時に、教室なので周りを気にして小さな声だったけど、急にボソッと如月は言った。


「学校に、一時期行ってなかった」

 短く簡潔な言葉だけど、それだけ言うのが今は精一杯な言葉だった。


「行ってなかった?」

「うん…………」

「お兄さんと関係してるの?」

「うん」


 その後は、変なオッサンが教室に入ってきて、立って、礼して、座って、午後の授業というのが始まるようだ。

 もう授業中に、年齢あてクイズも提案できなくなった。


 ”学校に一時期行ってなかった”


 別に如月だから、そんなことを聞いても、特にどうってこともない。そういうタイプにも見えるし。


 ◇◇◇


 ──放課後・帰宅部活動準備


 翼とは喧嘩中なので帰りは一人だ。一人部活中。帰宅活動中だ!(翼とは喧嘩活動中で、今は帰宅活動中という訳だ)


 いつものように階段を下りて下足室に向かった。お姉ちゃんの話では上履き、上靴、ズック? など地域によって名前が違うらしい。俺はどうせスリッパだから全国共通だ。委員長に言われたけど、まだ持ってきてない。

 下足室は定番のイナバーな物置っぽい造りの奴だ。木製のトコもあるらしいが、そういうのは小学校に多いらしい。俺も幼稚園の時は木製だったような記憶がある(動物の絵が刻印されたやつな)


 ほら、一人だって何か考えながら帰れば楽しいだろ。ケッ! どうせ阿久津は翼とセットだから……な?


 ……あれ? そういや阿久津は部活活動中だよな? 翼は帰宅部だろ? はっはーん。あいつも一人で帰宅活動してんじゃん! 馬っ鹿じゃないか? 一緒に帰ればいいのに(あいつ副部長だしな)ひねくれ坊主め。俺によく「佐々良。一人ぼっちは寂しいねぇ、へへへ」とか言ってるけど、帰宅部中は、お前もじゃないか。また阿呆なことを(可愛いやつだが?)


 因みに、俺は毎日二回、ドキドキしながら下足を開けるのが日課だ。一日二回の楽しい一時ひとときを過ごせるるのに馬鹿だなぁ~。妄想力もうそうちからの無い奴は既に負け組み(人生九割損してる)

 今日も、スリッパから、正式な靴(正装)に履き替える時に、一回閉めてからもう一回、二度確認することも怠らない。


 いつか可愛い封筒に「佐々良くんへ」と描かれた女の字の手紙らぶめーるが入ってて(点々付きの、へ、だ!)屋上……は、あそこは床が汚かったし雰囲気でねぇーしなぁ……。そうだっ。体育倉庫の裏あたりに呼び出されるとしよう。

 そんで、俺が近づいて行くと後ろ姿が見え、振り向くと物っ凄い美人なの。もうね、学校中のマドンナ(そんな呼び名実際には聞いた事ないけど)


 そして、俺お得意の妄想ゲームだ!(お得意だけどコレで得したことは、無い!)


 ここからは俺の空想だ! 心してかかれッ。


 ♂♀♂♀♂♀♂♀♂♀♂♀


『佐々良くん、来てくれたんだぁ~。私てっきり……、来ないんじゃないかなぁ、なんって予感はしてた、半分諦めてたんだぁ』

 なんてことを、俺にアッチッチーな、この超美形美少女ナイスボディな生徒会長が言うんだ(あっ、因みに一年生だけど、何故か女だてらに生徒の会長をしてる)


『なんで来ないと思ったの』

 キリリ、キリリ眉で、俺が聞くわけ~。いや分かってるよ、理由はよ~く。


『だって……。佐々良くん。ほら、モテるから……』

 いたいけなんだ、この女子は、生徒会長でバリバリ言わせてる割にはな。


『そっかー。でも、俺の好きな人は一人だけなんだけど……なぁ』

 ここで物思いにふける俺。それを聞いて驚く女。ちょっとだけ自分じゃないか? って期待を持たせることも忘れない。


『その佐々良くんが好きだって女の子……羨ましいなぁ』

 もしかしたら私? って思う訳よ。つか俺も思わせぶりなんだよ。


『なんで?』

 とか、俺も、まーたとぼけるんだよなぁ。そんなもん靴箱にラブレター入ってたら分かりそうなもんだべ? 青春ものの王道じゃーん。気づかないって普通に考えたら阿呆なんだけど、女の子漫画の主人公はへっちゃらで気づかないんだコレがまた。どーゆー頭してんだろうねぇ~? するとだ。


『なんでって、そりゃ……。私が……佐々良くんのことが好きだからッ』

 女は昨日の晩から考えてた何個かのパターンの中で、一番練習したパターンだったから、そりゃースラスラよ。点々が言葉の間に入るけど、それも計算。俺はここらへんで「えっ?」ってな顔で女子漫画定番の、今初めて気づいたって顔をする。でも俺の表情が少し曇り。


『ごめん……。その気持ちはありがたいけど、俺には心に決めた翼が居るんだ』

 いや、ちがっ、心に決めた人、だ。


『佐々良クンの馬鹿~ッ! それなら期待っ持たせないでよ~っ』(反響音)ばかー、ばかー、ばー……

 泣きながら走って行くけど、またよせばいいのに追いかける。それで俺が腕つかんで、


『泣いてるのか?』

 見りゃ分かるだろっ、このド近眼!(デニム眼鏡なら一万ありゃ二本買えるっ)

 で、振った女に気遣いなんか見せちゃってッ、優しくもなんともねーつーのな。


『あ~あ、ヤケちゃうなぁ~……。その、翼さんって人。────でも、好きでもないのに、追いかけて来たりして……。ダメだぞッ────。キミは、優しすぎんのよッ』

 なんて言いやがんの! マジ言うの(一応、翼は女って設定)

 おい女よ~。そりゃ「優し過ぎる」んじゃなくて「やらしすぎる」の間違えだ。

 だから本来こう言うべきだ「本命ストックしといて私も残そうとか、ダメだぞッ──。やらしすぎんのよッ」なわけだ。ここテストに出るから~(範囲狭いぞぉ)


 そんでもって、私、諦めないから。なーんて、男の都合の良い展開に何の違和感もなく入っていく。既に出来上がってるカップルの彼氏の方を「待つ」なんて有り得ない二号さん(愛人)気質の、展開。

 普通なら、こっちも、どっちも「ぅわぃ。りょうほー、食べちゃぇ~」って、上手いことイタダキマスされるだけなのに、なぜかそのイケメン君は、女に振り向かない!


 これは実際あるがな、かっこつけマンだ。あとで随分と後悔するハメになるのは千パーセントだ! 絶対にするなよ!(約束だ)


 で最後は、この噂ほかの女子にも流してね~って下心を隠して、言う!

『今の俺には翼 ”アイツ” しか考えられない』

 つって女の大好物一途な面見せて格好つける。


 大抵は二学期あたりに、あんだけ言ってた女子が、校庭とかの隅で早速他の男子と一緒にちちくりあって下校とかしてるけどな。女の心は移ろいやすいっちゃーそれまでだが(だからカッコマンはするなよ!)


 でもな(まだ続くぞ)、その主人公の女ってのがな(俺が主人公じゃなくなってるけど)

 本命の女は全然パッとしなくて(いや翼はパッとするけど)、顔もそこそこ(ようはブスではないけど可愛くは決してない)

 なのに出会うイケメン、出会うイケメン、み~んなその主人公の並女を好きになっちゃう! しかも! 都合の良~ように、イケメン1ダースみ~んな並女に奉仕的なのなっ! あ~馬鹿馬鹿しい。彼女でもないのに、そんな優しくする男なんか、体目当て以外ねぇっつの! でも並女の周りはイケメンで、うはうは逆ハーレム。たまにキスしようとした奴がビンタされてる。こんだけ周りの男を振り回すだけ振り回しといて「しようとしただけ」でビンタだぜ? 考えられるか~。

 んでもって、親友の女以外はみんな適当に一巻で捨てキャラだったのが、サブキャラくらいに昇格されてて、サブ同士がくっつく!(変な意味じゃないぞ)

 他の並女を好きな奇特なお兄さん方も、未練たらたらだけど、みんなお祝いモード。振った女のことなんか三日もすれば大抵忘れてるっつーのな。ばっかじゃーん。


 終いには最終回はお約束で、イケメン彼氏が、なんか(ここは適当に作る)才能が開花して、随分急にアメリカに飛び立って行くんだとよ。

 アメリカで第一線っていや~子供の頃からそればっかして青春犠牲にした生活してたくらいなのに、女とちちくりあってても海外の一流処からスカウトされる。しかも作中は全然そんな練習してないのに。これぞ大天才だ!


 そんでもって別冊とかでその後、結婚っ!


 帰ってきたの十年とか、早くても五年とかとかだぜ? 向こうの女の方が積極的だし、才能があると見るや、体と体がくっつき合うくらいの距離で「はーあーゆー」「わずわー」ってなもんで他人ひとの目なんか気にせず手の平返す人種だぜ? しかも身体つきから骨格に至るまで、同じ人間? ってくらい凄いしよ。ボインボインのプリンプリンのキュッ! だぜ? 日本でモデルやってるレベルなんか平気で街中うろうろ居るし。


 ありえなくない? ありえないっしょ? 五年でも我慢できないっての。絶対ない・ない。日本に残してきた「パッとしない」女なんか、とうに忘れてる。でもハッピーエンド! 十代だぜ? それが何年も、そんなもん両方とも一回くらいは誰かと熱~い夜の一夜や二夜は過ごしてるっっ、つーの!


 ♂♀♂♀♂♀♂♀♂♀♂♀



 な~んて、いつものように楽しい楽しい妄想を膨らませて、脳の活性化を促してやってたら、下足から出たとこにあるコンクリの柱に(校舎はみんなコンクリだけど)の角にスカートの裾がチラッと見えた。

 おいおい、でも、漫画やアニメの定番では、こういうことを考えてる時に限って、そういうシーンがあるんだよなぁ~? それにスカートの向きが心なしか尻側の感じじゃなく、こっちを向いてる感じだ。普通は、あっち向いてたらスカート、もし物陰でこっち向いてたらストーカーだけど、この際よしとしよう。俺はただ単に女子同士が帰りを待ち合わせてるだけ、なんて考えは1パーセントも頭にないもんだから、ソワソワとして近づいていった。


 すると向こうから声をかけてきた。

「下足入れ見てニヤニヤして、気持ち悪ぅ」

 このスカートが言ったんだよな?(いやスカートは言わないけど)俺の姿を事前に一度確認してないと分かるわけがない。


 そして、柱から体を出した女は、如月だった!(ここは都合良すぎぃ。とか無しなぁ~)

 こいつ……やっぱ今日、俺に告白するつもりだったのか? 好きなのか?


「偶然だな~、如月も今帰り?」

「見れば分からない?」

 くぅ~ッ。ホントに口の減らない野郎だ。これだから、如月はっ! 本当に嫌味な奴なんだ。

「お前、そんなエラッソウ言うと、ほおって行くぞッ! ほら、伝えたいことがあるんだろ」

 なんでこくられる方が、こんな扱いが下なんだよ。

「どこで話す? こっちは用件だけだし」

 そりゃ用件はあるだろう。でも俺がそれに良い返事をするとは、限らないんだぜ?

「そこの田んぼで良いだろ、俺もよく翼と……いや、前にな──……」

 俺が翼との帰宅活動中の甘い想い出を教えてやろうとしたのに、勝手にスタスタ駐輪場に歩いて行きやがった。

 ハッ! このチャリは……。聞こうかなぁ? どうしようかな~。

「お前、そのチャリ……。青いな」

「あんたにも青に見えたらね。きっと青なんじゃない?」

 違うだろ。いちいち揚げ足を取る奴だ。俺もチャリの鍵を開けた。最近はチェーンは止めて、座る支柱んとこにカチって止まるスタイルに変えたんだ。

「そのチャリ。俺のと交換とかしたら、面白いよ……な?」

「ハァ?」

「いや、違う。だから、そのチャリ、どこで手に入れたんだ」

 やっと本題に入れた。

「自転車屋」

 段々イライラしてきた。けど、それは顔に出さないで至って紳士的かつ友好的に聞いてみた。

「どこの自転車屋さんだ? 俺、そのタイプの青はあんま見た事無くって、なかなかシブいの乗ってんじゃん?」


 まだ俺の話が終わらない内に、とっとと国道Aの前まで先にズイズイとチャリを手押しで進む如月。俺が慌てて追いつこうとしたところで、既に国道Aを渡り始めてた。丁度車が数メートル先から来てたので、同時に渡るのはムリそうだ。

 案の定、俺より先に渡りきって、俺はあとから到着というかっこ悪い感じになってしまった。


「約束して。あんた知りたくて嗅ぎまわってたみたいだから、私が話すから……って言っても佐々良のお姉さんは知ってるから聞けば分かると思うけど……。その代わりもうほっといてね。それと誰にも言わないって約束して」


 ハッ! と気づいた。思い出した。今日昼休みにその話をしてたんだ。俺の記憶力……本当に大丈夫だろうか? こうも頻繁に記憶が喪失してると、さすがの俺も心配になってきたもの。


 如月はまだ、そのことを気にしてたみたいで、簡単なあらまし程度を話すから、代わりにあんたも”確約”しなさいという交換条件だ(昔、レズの女子のクラスメイトの秘密を知ってしまった時と同じだ。”確約を結ぶ”しかもこれはオーリーの実話だっ!)いやあ、現代舞台で自分エピソードゼロじゃ連載なんかむりっしょ? みんな同じだと思う。違うって言うのは相当才能ある人か、もしくは……(嘘つき)



「俺、まだ聞いても良いのか?」

「だって、もう知ってんじゃん」

 別に怒ってる表情は、もう如月の声にも、顔にも無かった。でも、やっぱり内心では気分の良いものではないんだろうな……。

「気になるけど、聞かれたくない? ……んだよね」

 だよな。と普段は言ってるのに如月に対しては初めて「○○だよね」という言い方になった。まだ負い目があるからだろうか……。



 そして如月は”その話”のあらましを話した──。

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