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肌の刺さらない翼  作者: もーまっと
■本編
17/45

翼が十七羽

 ──翌日・朝の憩いの一時ひととき


 俺は阿久津に話があると、教室の外に呼び出した。

「翼、…………って、居るじゃん?」

「ああ、いるな」

 なんだそのニヤつき顔は! 口の両端引っ張って、学級文庫って言わせてやろうか?

「そいつがな、引越しとか…………、するんだったら、俺、手伝いに”行ってやっても”良いんだけど」

「そうしてくれるか、助かるんじゃないか? 翼も」

 またご冗談を~……阿久津!

「引越しの話をしてんだ! 翼の!」

 思わず声を荒げてしまった────が、そこへ、絶妙のタイミングの悪さで翼が通りかかった。本当にタイミングの悪さだけは外さない奴だ。

「なにか言った? あの人」

 翼はわざと俺の方を向かずに、阿久津にだけ話しかけた。しかも、こんな近くを通ったのに「この人」じゃなく「あの人」って言い方だ! それじゃあ、まるで遠くに居る人、もしくは過去の人(過去の男?)みたいな呼び方だ。

「ああッ! そうかよっ!」

 ムカッとした。本当だぜ。でも、横目で気づかれないように半目流して見たが、俺が教室に入るのを二人してニコニコした顔で見送りやがった。阿久津までもが落ちたか。あいつら結託したな。いいよ。もうお前らとは喋ってやんねー。

 俺が席についてイライラしていると、そのイライラを増幅させるかのように、隣のツンケン女、如月が俺の方を見てた。さすがの俺でも今はレディーファーストは無理だ。

「んだよーっ!」

「……べつ、に」

 まだ見てやがる。そんなにさっきのがおかしかったか? くそっ。

「だから! なんだよッ!」

「ごめん……」

 俺の怒りが功を成したのか、それっきり如月は喋りかけて来なかった。いつもそれだけ大人しくしてれば、俺も、もっと優しくしてやるのに。ふん!


 教室にヘンなオバザさんが入ってきて、サーッ、コツコツ、サーッ、コツ。

 黒板に色んな文字を書き始めた。もう授業スタートだ。


 翼の引越しのこと、みんな知ってるのかな? 俺だけ聞かされてない? どうするか、誰に聞こうか? 次の休み時間だな。えーっと……。そうだ! 困った時の八木頼みだ。八木さんに聞こう。


 ──休み時間──


 俺は即効で八木さんの所まで行った。いつも座ってる八木さんの右隣の奴が今日は座ってる。

「なぁ、俺んちに昔の硬券とか、下敷きとか、模型とか、リアル車両玩具とかあるから、好きなの一個やるから、ここ良いだろ?」

 小学生の時のツレに、親父さんが、なんちゃら車両株式会社とかいう電車の会社に勤めてる奴がいた。そいつに昔貰った代物だが、テッチャンとかいう電車好きの奴にはたまらないらしい。

「いーよ。いつ持って来てくれる? 持ってきてくれるんだよね? 佐々良君の家に行くの? 僕んちに来るの? 家知ってる? 知らない? どうする?」

 やたらと疑問文が多い奴だ。俺はお前の、その必死さに疑問文だっ!

「明日持ってきてやるから、好きなの選べよ~」

「本当だね。絶対だよ。一個? 二個? 今言った中で、どれをくれるの? それにもよるけど」

「ぜーんぶ持ってきてやるよ」

 最初に一個って言ったじゃねーか……。欲深い男だ。

「でも、模型がいいなー」

「じゃ、それやるよ」

「よし、約束だからな佐々良~。だって約束だもの。あははは」

 やっと椅子を譲ってくれた。金のかかる、いや物のかかる奴だ。良く考えたら俺、他人の席は昼食以外なら大丈夫になっていた。


「八木さん、突然なんだけど、聞きたいことがあるんだ。でもここじゃ……ちょっと。ほら、スパイがいるから」

 そう言って俺は、阿久津の方をアゴで指した。

「ぇ」

 暫くは沈黙だ。八木さんは思慮深いレディだから、馬鹿な女みたいに話半分を聞いただけで勝手に理解したつもりで返答するような、生半可な女じゃない。じっくりとその判断を待とう。

 暫くは黙っていたから。やっぱり八木さんも女だ(やっぱりという言い方は失礼だったな、ごめん八木さん)女はみんな押しの強い男に弱いものだ。押してみよう。

「なぁ~八木さ~ん、ちょっとで良いんだ。なっ? なっ? 行こうぜ~。 八木さんの席に誰も座らないように、見えるとこでも良いから。俺も見張っててやるから」

 少しふっと八木さんが笑った。彼女はあまり笑わないクールなビューティーだが、たまに笑うと、撫子笑いだ。”ふっ”だ。慎ましい。

 俺がそれでもあれこれ言ってると、ついに八木さんが席を立とうとした。もし今が戦国時代なら『八木が動いた!』って言う所だ。不動の八木がついに動いた!

 でも、ちょこんと立って、一秒半で、またちょこんと座った。


 だめか~……。


「じゃあさ、放課後は? デートとかないよな? 彼氏とか居たっけ」

 黙ってる八木さん。ええ~? いるの。絶対彼氏優先だよな。だって女だもの。

「えっ、彼氏とデートなの? 今日無理か?」

 俺のこの言葉に慎ましくも厳然げんぜんな面持ちで黙って首を横に振った。

「あ~良かった~。 んじゃさ……」

 そうだな、八木さんにはいつもお世話になってるし、マックくらいはご馳走してやらないと、俺の誠意だ。正式名称はマクモステリアキッチンキングドムで、通称マクモ……略してマックだ。

「放課後に、学校前の国道Aを左に行くと、十字路越えたとこを更に真っ直ぐ行った道沿いに左手にマクモがあるだろ? そこでどう?」

 黙ってる……。国道Aと国道Bから説明しなきゃならなかったか? もしかして! 国道Cなんてのもあったのか? 俺は逆方面にはうとい。

「裏。裏にあるよ」

「ふぬぅ? 裏? え! もしかして、この学校の裏手にもあるの? マクモが」

 俺もあまりの驚きに、ふぬぅ、とか訳の分からないマヌケな声が漏れてしまった。

「うん」

 おおー。さすがは八木さんだ。事情通だ! 俺は知らなくてずっとあそこ行ってた。そんな近くの帰り道にあったのか。これは本当に、ここ一年で一番の驚きだ!(まだ一学期だけど)翼にも教えてやって事情通なところを見せてやりたいが、残念ながら今は冷戦中だ……。


 ──とっとと放課後。


 なんだか今日はやけに時間が過ぎるのが早い感じはするが、とりあえず放課後だ。

 俺と八木さんは歩きでマクモに向かった。俺はチャリを手押しで歩いた。八木さんはチャリ無しだ(家に忘れて来たのか?)

 実を言うと、引越しの話を聞くだけなら、放課後、改まって時間を作るほどでもない。しかし、口が堅くて、動じない、聡明な奴、これはもう八木さんしか居ないだろう~。だから俺と翼の話も”ツレの話”として相談することを計画していたのだ。

 もう半分は(いやもっとかな……)翼と仲直りする気にはなっている。そこで聡明な八木さんの意見も取り入れてから、という具合だ。

 特に口の堅さだけは八木さんの右に出る者はいない! 断言しよう! もし他の誰かに口の堅い奴はいねぇか? と聞かれたら、俺の全財産を賭けてもいい。八木さんを紹介しよう!


 まあその話は置いといて。

 俺たちはその学校裏のマクモに入った。おお本当にあった! こんな所に都会のオゥエィ~サスがッ!(そこまで都会でもないが)ふむ、店舗ナンバーも新しい。


「いらっしゃいませ、こんにちわ! お持ち帰りですか? 店内でお召し上がりですか? 期間限定のビッグ・ガッツ・マック・モック・ロック・ナッツ・バーガーもございますが、ビッグ・ガッツ・マック・モック・ロック・ナッツ・イェップ・バーガーはいかがですか~? ポッテ~ぃト~ゥはいかがですか~? 今なら特別に──ほにゃらほんにゃらはれほれくえ」


 本当によく喋る口だ。早口言葉大会に出たら、ここのファストフード店からはベスト五くらいは全部占めそうだ(バーガー名、途中で変わってたけど……)

 俺は男らしく、斜め上のラージまでしかないコーラーの写真を右手で指差し、裏メニューJの型を左指で作り、店員の女の目をひたと見据え言ってやった。

「ディス・ワン!  ────プリーズ」

 店員にも分かるように手の甲を見せてJの型を作ってるため、左手は限界ギリギリを超えぷるぷるとしたが、それをなんとか踏ん張って耐え、そして尚も付け加えた。

「ぇあ~んどぅ、スマイル・ツー! サンキュー」

 八木さんの分もだ! もちろん目をカッチ・カッチさせてサンキューハザードを表現してやるのも忘れてない。

 既にカウンターとキッチンが言うセリフを二つも先に言ってやった。びびってるな? きっとこいつはまだヨチヨチ歩きのカウンタークルーだ(まぁ店員の殆どがクルーだと思うが)と思ったら無言のテレパシーで今はオーダーが通るらしい。

 俺としてはそのあと、”アイ”・ファイン・サンキュー・ツーまで考えてたが、八木さんをほったらかしでは紳士がすたる!

「八木さん、好きなの選んでいいからね~」

 すると八木さんもクールにジュースだけをオーダーした。なんて~慎ましいんだ! 如月にも見習わせてやりたいくらいだ(今度、奴にもここの隠れ家を教えてやろう)

「八木さん。俺が貧乏ったれだからって遠慮することないんだぜ?」

 言っててすぐに、しまったと思った。あぁ、馬鹿なことを俺は……。俺が貧乏って言ったら、八木さんが頼みにくくなるじゃないか~? 俺はハンバーガーも推してやった。

「じゃあ、ハンバーガー類とかも頼んだら?」


 それを聞きながら、このカウンタークルーはまるで『テメェ! ドリンクしか頼まネェ、貧乏ったれが、いつまでもカウンター独占してんじゃネェーョ。この貧民トロ夫、マジでイライラする! 超気分ワリィ。キモカス野郎ッ! か~っ、ペッ!』ってな顔で見ているのは、さっきから俺も気づいている(い~やッ! 気のせいなんかじゃない)

 イラッとしてる時の見分け方は簡単だ。不機嫌なやつは目で笑いコメカミで汗をかいている。

 そうしたら八木さんが、さっさとハンバーガーを頼んでた。チーズ抜きだった。俺はさっき八木さんがジュースを頼んだから、それとハンバーガーを足したら、セットの方がお得! ということに、いち早く気づいたんで、アドバイスをしてやった。もちろん右手で尻ぽっけの財布を手探りで確認は怠らない。うん、足りる!

「八木さん。これセットにした方がお得だぜ?」

 そう言って俺はセットにするようにシェフに言え! と、このカウンタークルーに言ってやった。あとはお金を払って、ドア前の席で待つ。奥に入ったらまたこっちに来なければならないので二度手間だ。持ってきて貰うのも面倒だ。


 待ってる間、俺の注文を受けたカウンタークルーは、他の客にも同じような態度だったので、俺の貧乏ったれを見透かして、見下して、見くびってたんじゃないことが分かって、少しだけホッと、ひと安心した(ドリンクはアイスだけど)

 あ~あ、隣の優しそうなポニテのお姉さんの列に並べば良かった……。この店の大スターっぽいし──。

 こう言ったらなんだが……ノンクレーマーな俺はオーダーミスにも寛容で、今ではバーガー券とか、ドリンク券は結構貰ってるんだぜ? 賞味期限は確認してないが(八木さんの前だから今日は出してないけどな)

 まぁ、ずっとスマイル維持だから顔の筋肉が固まってたんだろうよ。長時間スマイルは笑い癖がつき、ほうれい線の元だぜ? お嬢さん。あとで、せめてアヒル口でほうれい予防することをアドバイスしてやることにした(さすがに業務中のリフィティングマッサージは無理がある)


 暫くして(いや即効で)さっきのカウンタークルーが番号で呼びやがった(俺ら囚人じゃねぇ~)

 ほどなくして適当な席に座った。

「ところで、早急なんだけど、引越しの話な。……えぇ~っと、つば、いや肌野君のことなんだけど、彼、なんか聞いたことある? 例えば家がちょっくら変わるとか。あっ、家が変わるって言っても、リフォームのことじゃなくて」

 と言い淀んでいたら八木さんがボソリと確信をついた。

「引越しのこと?」

「おー! それそれ。なんだ知ってんじゃーん! で? どう聞いたの?」

 言いにくそうな感じの八木さんを、努めて冷静に促してやったら、

「朝。教室の外で言ってたから……」

 あぁ~下手こいた~。そうだな、確かに言ってたわ俺。でかい声で。

「あっそれはそうだ、うんうん。えーっと、八木さんは聞いてない?」

「引越しのこと?」

「うん。翼、じゃなかった肌野君のこと」

 翼とは今は喧嘩中なので、人には翼じゃなく、肌野君と苗字で呼んで他人行儀にしてやることにしてた。

「ごめん。知らない」

「そっか……」


 どうやら翼の引越しを知ってるのは、阿久津くらいか。いやクラス全員に聞いたわけじゃないから分からないけど、なんとなくそういう気がする。休憩時間の時にテッチャンにも聞いとけば良かった(本名まだ知らないけど)


 八木さんに、翼との一連の話もした。

 もちろんまたA君B君C君みたいな言い方でだ(架空の話だ)やはり八木さんも翼(B君)は、俺、じゃなかったA君を騙すつもりじゃないし、友達としてもっと仲良くなりたかった(但し女子だったら)

 俺のいえ……、いやA君の家であったことも、小学校の時のことを忘れられて悲しかった(但し女子として)と言う。大体お姉ちゃんが言ったことと同じだった。

 八木さんは初心うぶなので、男同士というのがピンと来ないように見えたから、女子と男子というのに置き換えて話してるみたいだった。

 あとホテルの話はしなかった。さすがに八木さんには刺激が強いと思ったからだ。これは大人の世界の話だからな。


 そろそろ、イケメンで気さくなA君が、可愛いくて優しいけど、素直じゃない、ちょっと頑固者で、でもそこも可愛い、けど、意地っ張りな友人Bと喧嘩して、性格が大人なA君から折れて仲直りしてやろうと思ってるみたいなんだが、どういう感じで仲直りするのがポピュラーだろうねぇ~? みたいに聞こうと思っていた……その矢先


 ……少し離れた席から同じ高校生の声が聞こえた。

「八木~。彼氏~?」

 チラッと見たら制服が違うので他校のようだ。数人のグループの中で、一人だけ思いっきり両手を椅子のふちに広げて、足をデーンと大の字に投げ出し、ニヘラ・ニヘラ笑ってやがる奴がいる。そいつの声のようだ。多分、八木さんと同中おなちゅうの奴か? わざわざウチに学校の近くのマクモに来るなよ~。

 そう思って、周りを見渡すと、結構他校の制服の奴らも店内に居た。同じ学校の制服がいるグループもあったので、ここで待ち合わせかなにかしたんだな。でもそのグループは一人もウチの学校の奴は居なかった。

「八木~。無視すんなよ~」

 八木さんを呼び捨てにしやがって! あっ……でも俺も他の女を呼び捨てにしてるし、人のことは言えねぇかぁ。

「なあ~八木~。聞こえてんだろ? こっち向けよ~」

 なにをー! 八木さんに対してエラッソウな口聞きやがって! あっ……でも俺も学校ではこんなもんか。お互いさまだね。

「やーぎ! やーぎ! やーぎ!」

 そう言って、他の奴らも変な掛け声を上げだした。おのれー! これは明らかに俺たちを馬鹿にした態度だな~!

 俺は今度こそ怒る理由としては正当だと確信が持てたので、そいつの席に近づいて行って言ってやった。

「なんだとー? お前ら俺たちのお喋りの邪魔すんじゃねぇーよ! うっせんだよ」

 俺がそう言ったら、一番エラッソウにしてる奴が、すくっと立ち上がった。

「なんだぁテメー! 俺は八木と喋ってんだ。お前は関係ねーだろ!」

 他の金魚のウンチどもも一緒になってはやし立てた。

同中おなちゅう同士の再会に、お前の方が邪魔なんだよ~!」

「お喋り~? だってぇ~。ぎゃーはははは」

 そうなのか? ふいっと八木さんを見たけど、そんな感じじゃない。こいつら俺らをおちょくって楽しんでるだけだな~。大義名分はもう完全に出来き上がったんだからな~。

「なんとか言えよ~。ほ~ら」

「ぎゃはははは。何コイツ」

「びびっちゃってカワイソウじゃ~ん」

「拓っくん。こいつ、やっちまわなーい? ひゃっひゃっひゃ~」


 その時、一番エラッソウにしてた奴じゃなく、ずっとニヤニヤしてた拓っくんとか呼ばれてるリーダー的な感じの奴が、ふわっと立ち上げり、胸と胸が密着するぐらい近づいて俺のことを至近距離でジロジロと見た。

 俺が黙っていると、手を上に勢い良く挙げて──頭をかいてみたり。

 足をぶつけた振りをして、痛くも無いのに「イテっ!」とか言って──隣の空席のテーブルを蹴って威嚇したり。

 俺の反応を、他の奴らに見せて、ゲラゲラ笑っていた。


「俺って、もしかして、いじめてる? 違うよな~。俺、トイレ行きたいだけだもん」

 嘘こけよ~。じゃあ、なんでここで止まってるんだよ。

「あ~あ、泣き出しちゃうんじゃない? この子、一年生じゃ~ん」

 なんだ、この女? 阿呆か、八木さん知ってるなら、てめえらも一年生じゃねーか。

「拓っ、怖ぇ~! う~はっはっはは。おい、先謝っとけ。拉致っちゃうぞ」

「ごめんなさ~いは? なっ、おい。ごめんなさ~いしような~。ぬはははは」


 なんなんだ? 俺にはこいつらの言語が翻訳出来ねぇ。別に彼女じゃないけど、女の八木さんと居るんだから、喧嘩ふっかけてんじゃねーよ。そっちも女連れだろ? よく女連れててこんなこと出来るなぁ? こいつら頭いかれてんのかぁ……?

 他の客も近くのテーブルの人間は、このやり取りに気づいてようだけど、チラチラ見るくらいで、見えてない振りをしていた。そりゃまぁ……関わりたくないんだろうな。

 俺も周りの”雰囲気”もあったし、なるべく穏便に済ませたかったので、普段どおりの言葉で説得を始めることに決めた。


「別にうるさいのは良いけど。俺たちには構わないでくれよ」

 一応紳士的にそう言って、戻ろうとしたら──。


 ドン!


 何かが尻にぶつかって俺は前のめりになった。振り向いた。明らかにさっきまで足があがってたのが分かった。俺のケツを蹴りやがったなー!

「おおっるるぅぅああ~!」

 なんか訳の分からない声が出しながら、俺は、そいつの鼻っ柱を思いっきり殴りつけてやった。いきなりだったので俺も手にあんまり力が入ってなかったのか? 思ったよりも全然効いてない。

 そいつは一瞬体勢が崩れたけど、すぐに立て直して殴りかかろうとしてきたので、俺はそのまま体当たりみたいに頭をぶつけた。俺自身殴られたのかは分からないけど気にならないなら、殴られてても、そうじゃなくても一緒だ。関係ない。

 そいつは鼻血をドバーっと出しながら、ゴミ箱の上に置いてあるトレイを、ガシャガシャ~と派手に倒してる鼻を押さえて、ガラスの仕切りにしがみついている。

 俺は更に近づいて行って、そいつの髪を掴んでガラス製の仕切りの上部分にデコを何度も叩き付けた(横からだとガラスが割れるからだ)当たり前だが、額は簡単に割れるわりには怪我もしにくいし、大量に血が出るので知らない奴は思わずビビッてしまう。案の定、拓っくんは血だらけになっていた。

 でも俺がお姉ちゃんに血だるまにされる時は、こんな生易しいもんじゃねぇ! 俺は佐々良家のやり方でぶちのめしてやった。

 久しぶりの男同士の本気の喧嘩だった。俺は自分の行為に興奮してしまってた(こんな時に馬鹿みたいに自分に酔ってた)


 と、その時!


「佐々良ッ!」


 その声でふぃっと我に帰った。


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