表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
肌の刺さらない翼  作者: もーまっと
■本編
16/45

翼が十六羽

 今日は体育館で何かをやるらしい。


 俺は今、翼と阿久津とは冷戦中なので、一人で移動しなければならない。でも大勢で同じ方角を歩いてるのでコソコソついていけば良いだけだから楽勝だ。

 男女が一緒に体育館に向かってるし、制服のままだから、もしかしたら面白いことでも上映してくれるのだろうか? 催し? イベント? バザール? 露店?


 俺は体育館に大勢が集まる時に、必ず思い出す苦い思い出がある。入学式でも、卒業式でも、思い出す。大勢で体育館に集まる時も、いつもそうだ。


 それは、小学校に入学した時に、お姉ちゃんが「智也、今から映画をやるから、おとなしく待ってるんだよ」と言ったので、体育館の舞台に幕があったから(どこでもそうだが)俺はそれを本気にして、行儀良く安っぽいパイプ椅子に座ってワクワクして待っていた。という苦い思い出だ……。

 結局、映画なんてやらなかったし、ハゲちょびんのオッサンがペラペラと意味の理解出来ない言語で長々と朗読してただけだ。あとは忘れた。

 もちろん今となっては、それが嘘だというのも分かったのだが、きっとお行儀の悪い幼稚園児だった俺を、入学式中おとなしくさせようと、そんな口から出任せを言ったんだろう。その証拠に中学の入学式でも、お姉ちゃんから同じことを言われた。もちろん二度目は騙されなかったが。


 校舎から続く廊下みたいな(下はコンクリだが)部分を歩いて体育館に行く。どうやら学年で何かあるらしい。だって見かけない奴らも見かけるんだもの。全校生徒にしては少なすぎるし。俺が勘が合ってれば学年行事みたいなもんなんだろう。


「おかしいなぁ。入学式は前に済んでるだろ? 行儀が悪かったからって理由で『もう一度やりなおします』なんて、もったいつけたことは言わなねぇだろうし……。だって高校だもの」

 ついつい俺の病が出てポロリと考え事が口からこぼれていた。非常に稀なケースだが、時々俺は自分で気づくこともある。


「やあ、きみ、佐々良君だよね」

 突然、ちょっとポッテリした見かけない男が俺に声をかけて来た。誰だろう? 知らないクラスの奴と話すのは久しぶりだ。

「よう! 久しぶりだな~。ヨロシクやってたか? あん?」

「昨日も会ってるけど? それよりも、君もMITSUOフリークなんでしょ? 同じクラスにMITSUOフリークが居たなんて最初はビックリしたよ」

 同じクラス? こんな奴いたっけ? 俺はこの顔に見覚えがないけど、本人がそう言うんだ、きっとそうなんだろう。それより何の話だ? みつおフリーク?

「だって、佐々良だもの。だって早田だもの。あはははは」

 何を言ってるのかはよく分からないが、なんとなく、おちょくられてるみたいなのでカチンと来たから、こいつの腹の肉をつまんでおいてべチンと引っ張って離した。

「いたたたた。何するんだよ~! 僕をただの鉄道ファンだと思ったら、痛い目みるよ~。これでも中学時代は柔道部だったんだからね」

「俺の姉ちゃんは赤帯だ! 黒が混じってるけど赤い帯締めてんだぞ。この鉄道オタクめ」

 もちろん嘘っぱちだ。この鉄道オタクを黙らせるための口から出任せだったが、こいつの反応は違った。

「へ、へぇ~。ず、随分、年の離れたお姉さんなんだね? 日本全国でも数人しかいないのに」

 何のことだか分からないが、驚いている。これで、ちっとは静かになるだろう。と思ったら、

「でもね、僕は”鉄道オタク”じゃなく『鉄道ファン』だよ。そこを勘違いして貰っちゃ困るなー。鉄ちゃんなら呼んでくれても、いいけどぉ~」

 懲りん奴だ。次はないぞ? 鉄男!

「その鉄道オタクがなんの用だよ」

「君がMITSUOフリークだと思って声をかけたんだけど、迷惑だった? …………あと僕は鉄道ファンね」

「そんなフリーク知らないし。俺はそういうんじゃない。なに言ってるんだ、この鉄道オタクは? …………あと俺は迷惑だけどな」

 そう言ってからも、こいつはペラペラと一人で喋ってる。本当に懲りない奴だ。あまりしつこいもんだから、俺は今度はこいつの腹の肉をちぎれるくらい引っ張ってやった。

「イテテテ……。何するんだよ~。さっきも言ったけど僕は空手四段だからね!」

 さっきと言ってること違ってるじゃねぇかよ。

 また俺はこいつの腹の肉を摘んで引っ張ったり、掴み回したりしたのに……こいつ、全然こたえてない。困ったな……こういう奴が一番危ないんだ。俺、こういう奴苦手。どうしょう。

「本当にぃ? 本当? ──だもの? なんてね。はははは。人間? だ? ハイ! あれぇ~? ノリ悪くない?」

 

 ぜ、全然懲りてねぇ~。本当に意味が分からない奴だ。

 きっとこいつは懲りない類の種族だ。何度も言うが、こういう奴が一番厄介だ。どうしたものかな……。とキョロってたら、俺とオタクがゆっくり歩いてる中で、いかにも真面目そうな女が、同じ列を通りかかったので(俺とタクは全体から遅れて歩いてる)


「あれ? おいおい待ってたのに、なんで先、行っちゃったんだよ? 昌子。一緒に移動するって約束してたのによぉ。忘れてたとか言うなよ」

 やっぱダメか……? これも、漫画やアニメでは定番のシーンなんだが。こいつは八木さん的な慎ましい同じ匂いがしたんだが……。

「佐々良君、いつもサボってるよね。今日こそ出席して貰うからね」

 おお~! 話あわせてくれた! なんて~良い奴だ。名前は知らないけど。

「昌子で合ってたのか。凄い偶然だな」

 思わずポツリとそう言ったら、へ? という顔をしてたけど、昌子は、なんちゃら委員という話をでっちあげて口裏を合わせてくれた。

 俺が昌子と喋ってるのを見て、重要な話だと気づいたのか、鉄郎はどっかへ居なくなってくれた。正直助かった。

「ずっと言おうと思ってて、そのままにした私も悪かったんだけど、放課後待ってるからね」

 なんだ、なんだ。デートのお誘いか? この勢いならきっと告白されんな。だって目が違う、分かるもの。今日きっと告白されるんだよ。なんて返事しようかなぁ。俺が女と付き合ったら、翼、悲しそう~な顔するんんだろう~なぁ~。へへへ。


 ──体育館では。

 なんか禿げたオッサンが白い服を着て、俺らは口の中を見せて、オッサンが数字だがアルファベッドを言うというヘンチクリンなゲームがもよおされてただけだった。

 つまんねー遊び。俺ら高校生だぜ?


 ──放課後──


 俺が愛の告白を教室で待っていたら。昌子が来た。

「ごめんね~、呼んどいて遅れてしまって。他にも用事があったから……」

 急いで駆けつけたって様相だ。そんなに待ちきれなかったのか、俺への告白。

「でもまだOKしたって決まった訳じゃないぜ?」

「OKに決まってるでしょ」

 凄い自信だな、昌子。俺の愛を独り占め出できる気満々じゃないか。とくとお手並みを拝見させてもらいましょう。


 と、というのが、つい数十分前の話だ……。


 俺は立候補した訳でも無いのに、強い要望でもあったのか? なんちゃら委員という役職に就いているらしい。任期がいつまでなのか? どういう組織なのか? 不明だ。

 もう一人の相棒は優等生の真鍋という女だ(苗字はさっき知った)つまり昌子だ。

 こいつは、いつも俺が欠席してることを寂しく思っているらしく、眉をハの字にして今日は返さないからね! と懇願してきた。いやあモテる男は辛いね~。な~阿久津よ~。


「──勝手に帰って、先生だって知ってるし怒ってるんだよ!」

 そんな悲しい顔するなよ……。まさ……いや違った、真鍋ぇ。

「で、どこ行くの」

「言ったら別の方角に逃げるでしょ」

 なんかよく分からんが、袖口を引っ張られて、俺も引っ張りだこだ。俺がトイレに寄ると言っても行かせてくれないくらいんだもの。

 本当に行きたいのによ……。これじゃあ逃亡犯を連行する刑事だ。

 俺がトイレに行きたいと言ったあとは、今度は袖口じゃなくて、腕をぎゅっと掴まれた。しかもちょっと眼力が込められてる。まぁ、ちょこっとおっぱいの弾力を感じるからよしとするか。サービス満点だな~、おい。これなら毎日でも出席してやるよ。

 階を何個か降りて、トコトコ歩いて、初めてみた小さい教室? みたいなとこに入った。誰もまだ来てないみたいだ。


「あれ~? 他の役員はまだぁ?」

 えっ? って顔して、さっさと席に座る真鍋。

「二人だけに決まってるでしょ?」

「なにそれ? 真鍋、手下いないの~? 二人だけでどう議論するんだよ」

 変なプリント一枚しかよこさない。優等生にしてはケチな女だ。

「議論? ここと、ここと、ここ、どうするか決めるだけ」

「ああ、ここね~」

 正直、興味ねぇ~。びんぼったらしい薄茶色の、消しゴムで二、三回擦ったら破けそうな紙切れを大事そうに持ちやがって、この優等生めっ。

「またぁ~、適当なことを」

 しょうがないから、適当に相槌を打ってやりすごしてやった。


 真鍋のいう言葉をおうむ返しにして、あとは「ここ」とか「こうだ」とか言えばいい。真鍋が議題とかいうのを答えあわせをしてて先に決めてるらしく、俺は選択するだけでいいらしい。なんだマークシートみたいじゃん?(マークもシートも無いけども)真鍋が言うには特別だぞッ。もぉ佐々チャン。という感じだ(そんな雰囲気?)


 ついでだから、前から気になっていたことを聞いた。こいつなら信用できそうだ。と言っても八木さんが嘘を教えたとは思ってない。だって授業の終わりのも、みんなホームルームって言ってるもの。

「質問良いかな? ホームルームってあんじゃん?」

「ホームルーム?」

 なんか知ってる顔だな? そんな顔だ。詳しそうな顔してるもの。

「あれって授業の最後にやるだろ。で中学の時には毎日授業の終わりにやってたから、高校でも同じなのかなって思ってたんだよなー」

「うん。うん」

「それを、あるY木さんって、あっ、これ匿名な。イニシャルトーク。に前に聞いたら、そうだって言ってたんだけど。朝もやってねぇ? ホームルームって言ってるように聞こえるんだけど」

 そう言うと、思いも寄らない言葉が返ってきた。

「学校によっても違うと思うし、中学でも、高校でも違うと思うけど、ホームルームって毎日二回やってるよ。佐々良君も出席してるんだけど」

 何を言ってるんだろう? 俺も参加してた? いつ?

「俺、出席してるんだぁー? いつ? いつ?」

「ああ。出席と言うか、授業以外の申し送り……。んー……。と言うか、授業以外で、教室で話したり、決めたりしてるがホームルームって思ったら、うん。大体合ってると思う。八木さんもそういう意味で言ったんじゃないかなー」

 顔を見れば分かる。言い回しでも分かる。きっと俺が理解出来ないと思って、授業以外って言い方してるんだ。まあいい。

「席に座ってたら勝手に出席したことになるんだよな? ならいいわ」

「そうそう。うん。そういう感じ」

 ニコニコ顔は変わらないけど、俺の言いたいことは分かってくれたようだ。どのみち気にする程でもないってことだな。これで謎は完全に溶けた!


 俺のやることは、もう無いようで、あとはプリントにいそいそと何かを書いている真鍋(真面目だなぁ~)

 そして、俺と真鍋の放課後デートが終盤を迎えた頃、唐突に意味の分からないことを俺に言った。


「先生に言っとこうか? 佐々良君、好きでやってるんじゃ本当になさそうだし」

 なんでも、この組織の上部組織は、生徒会とかいう組織とも繋がってるらしい。

「俺、知らなかったなぁ~。二年じゃないし、まだ一学期だけど、生徒会とか言う組織の下部組織に所属してたんだな~。委員会役員つーんだろ? スゲェな俺」

「生徒会? 委員会役員? 佐々良君って冗談言ってるのか、本気で言ってるのか、時々分からない時があるよねぇ」

 なんの話だろ? それに俺こいつと喋ったことあったんだぁ。へぇ~……。忘れてるし。

 ま、いいや。それにしても、この教室ちっちぇーっ。

「──聞いてる? あーっ! もう、そこ、触らないで」

 俺がパソコンを起動させようとしたら焦ってた。さては……、優等生でもエロ動画とか見てんのか?

「ま、まあ、秘密にしといてやるよ。俺もお姉ちゃんので時々、な。なっ? 分かるだろ。観てるから」

「はい! 終わりです。お疲れさまです」

「もう終わりかよ~。んじゃこれから二次会行っちゃう~?」

「二次会?」

「そ、デート」

 ニコニコと微笑みながら簡潔に俺の言葉を素通りさせて、旅立つ真壁。

 なんだ、面白みの無い奴め。


 と、俺は見慣れない階に来たのを思い出し、真鍋に助けを求めに小走りに追いかけた。

「おいっ、真鍋。そのプリントどこへ持ってく気だ?」

「職員室だけど~?」

「そうか、委員会は、職員室までが委員会だ。俺がエスコートしてやろう」

「委員会? えっ……と」

 まただ。なにか可笑しなことでも言ったのか? さっき委員がどうとか言ってただろ? 体育館でも? こいつもたまに記憶が喪失する癖でもなるんだろうか? ま、いいや。

 真鍋が俺を、ふーっという目で見て、うん。と言ったから、俺も安全にその職員室とやらまで行けそうだ。

「ところで職員室は、俺らの組と同じ階?」

 俺がそう聞いたら、はっと思い出したような顔をした。そして暫く歩いて、その職員室とかいう辛気臭い部屋の前に来た(ようだ)

「ドアの前で待っててね」

 真鍋は職員室とやらに一礼して入って言って、先生とペチャクチャと話をして、時々俺の方に指を指し、二人まとめて俺を一瞬二瞬見て、また顔を向き合わせペチャリクチャリと喋ってた。

 一礼とか、軍隊みたいだな~……。

 暇つぶしにドアのレールにたまったゴミをスリッパで集めて固めて蹴ったりして遊んでたら、帰ってきた。

「お待たせ、佐々良君。じゃあ教室行こうか~」

 何個か教室を通り抜けて、今度は階段を登る。俺が得意の三段抜かしをして、真鍋がどれだけの実力があるか聞いてやった。

「俺は三段までなら抜かせる。何段いける? ちょっと見せてみ?」

「やんないよー」

 スカートだもんとか言いくさった。どうせ下にハーパン穿いてるんだろ? 詰まらん奴だ。まあ拒絶するくらいだから三段は出来ないのは分かった。

「せめて二段は出きるようになろうなー」

「スリッパ」

 あー、はいはい。そーくるね。

「一回洗濯して、そのまんま。スリッパ借りて今に至る」

 優等生相手だ。時には俺も簡潔に説明出きるところも見せておかないとな。

「ちゃんと今度持ってくるんだよ~──? はい。教室に着いたよ」

「おーサンキュウな──。真鍋さん」

「さん? ふふふ」

 こいつの笑い方はいつも「ふふふ」だ。漫画やアニメじゃないが、本当にこんな笑い方をする。きっとこいつ以外ならおかしさ満点だが、こいつはリアルでこの笑いかただ。不思議に違和感は無い。俺も今度練習してみようか?

 一応、俺は礼儀がある奴、お行儀良い奴、親切な奴には、丁寧語で「さん」をつける。これが俺のポリシーだ。

「もう帰れるよね?」

「もう?」

 なんだそれ? 帰れるよね?

「じゃあね。バイバイ。また明日」

「おぅ。委員長もな~!」

「えっ? 私、委員長じゃないけど?」

 委員長はクスクス笑いながら帰っていった。なんだそれ?(変な勧誘にサインしたんじゃなければ良いが……)


 しかし………………。


 ひとつ気になったことが、ある。

 それは、さっき職員室に、涼が居たからだ。


 もうさすがの俺でも見分けがつく。片方だけ少し長くて何個か三角形の形に飛び出している。最近はちょっと伸びて、前髪の片方までゲゲゲの前髪になってきた。男は黙ってウルフ! そう決めてる俺には理解出来ない髪形だ。

 因みに俺が行き着いた最終形態をウルフに極めたのは、もちろん「ウルフ」という孤高の呼び名が気に入ったからだ! 夏は汗疹あせもを気にして天花粉は必需品だ。昔のウルフはもっと後ろ髪が長かったらしく、今の時代はまだマシらしい。


 聞き耳を立てるつもりは──…………あったんだが、その話では、どうも、引越しをするらしい。いや、引越しと決まった訳ではないが住所がどうたら、名簿? がどうたら、翼の名前も出ていた。涼は引越すのか? ってことは翼も? 当然だよな双子だし当たり前だよな……。

 まさかな~。高校入学してまだどんくらい経ったと思うんだ。まだ一学期だぜ? もし引っ越すなら元からここに入学して無いだろう? 馬鹿も休み休み言えってなもんだ。本当に。


 別に、心配なんか、して──────る(ちょっとだけ)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ