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肌の刺さらない翼  作者: もーまっと
■本編
14/45

翼が十四羽

 ──昼食──


 いつものように俺、阿久津、翼だったけど、翼が俺が居ることを嫌がってる感じは分かる。


「阿久津君、ボク、あんな人とご飯食べるの嫌だ」

 翼はわざわざ一回俺を見といてからプイっ顔を背ける。阿久津は困った表情をしていた。

「まぁ、仲良くしよう、なっ? 何があったのかは知らないけど」

 いつもの翼なら、阿久津の言うことだったら大抵聞くのに、珍しく譲らない。

「ボク、ヤだよ。向こう行こう──。阿久津君が、あいつが良いなら、ボクは他行くから、二人で食べたら? あいつとの方が長いもんね」

 阿久津は翼の顔を見て、俺を見て、交互に見てどうしようか迷ってる。席を立ち、どこかへ行こうとした翼に、阿久津も一瞬席を立つ。俺の方を見て「どうする?」って顔をした。

 俺は言葉は出さすに、行けよ、と目線で合図した。阿久津もお前が良いならと、渋々翼と席を離れようとしたから、俺が先に席を立った。

「いや、俺も今日は一人で食べようと思ってたんだ」

「どこ行くんだよ?」

 阿久津の言葉に、俺は咄嗟に半分おちゃらけながら、適用なことを言った。

「いつも昼飯後に黄昏れてるように、校舎の外で可愛い先輩女子にでも声かけられないか期待しながら、食ってくるよ。あぁ~やっぱり女は良いよな~。女は良い、うん。年上とか最高だもんな~」


 よく昼食後に格好をつけて黄昏てるのは本当だ。上級生のお姉さんにでも「キミ、どうしたの?」なんて声でもかけられないかなぁ? と思いながら格好つけて黄昏てるのも事実だ。悪いか? 誰にも迷惑はかけてないつもりだが。

 漫画やアニメのように、実際にキミなんていう生徒がいるかどうかは、また別の話だが、妄想ぐらいは自由にさせろ。因みに今のところ成果はゼロだ。悪いか?

 学校の半分は女子なんだぜ? 何百人居ると思ってるんだ。確率は社会人よりも高いし出会いの場も多いと思ってるが、まだ社会人じゃないから実際のところは知らない。大学を卒業して働き出した近所の野郎の話では、高校は夢と希望の王国だと言っていた。甘っちょろい世界だってのが、その内分かる時が来るだとか抜かしてた。そのアドバイスが本当なら、まだ三年もあるんだ、どっぷり浸かってやろうぜ?


 などと、超ポジティブな考え事をして現実逃避をしていたら、俺が飯は校庭の側のベンチで食べると言った言葉に対して、翼がこう言った。

「あいつは自分の席に座られるのがヤだから、いつもここ使ってるけど、あいつが一人で他で食べるんだったら、阿久津君の席で食べようよ」

 わざとらしい言い回しだ。翼にしては、俺以外ならズシリと来るような、かなりキツイことを言っている。もしかしたらせめて俺が外に行かなくてもいいように気を遣ったのかな? とも考えたけど、正直なところは分からない。


 正直、俺は少しだけ救われる思いだった。

 泣きながら、あんな所でポツンと待っていた翼だったけど、俺と再会した時に物凄く嬉しそうな顔をしてくれてた。そこで、せっかく打ち解けるチャンスだったのに俺はあんな酷いことを言った……。

 あの後、俺は泣いてる翼を、そのままにして帰ってきた。酷い野郎だ。そのあと翼がどうしたのかは知らない。

 今日、翼は酷い落ち込みようだろうと、思っていた。それを考えたらどうにもこうにもならなかった。でも、今日の翼は、俺に「あんな人」「あいつ」と言って嫌う素振りを見せる元気はあるようだ。元気があって俺は少しはホッとした。分かってる。罪悪感が少しでも軽くなる自分かわいさの自己満足だ。


 俺の席の右隣でいつも女友達と四人で食べている如月が、今日はやたらと俺の方ばかりチラチラ見ている。またニヤリとして嫌味な顔をしてるんだろうと思うと、今日は喧嘩する気も起きないから無視した。

 俺は自分の席で一人で食べている。翼が阿久津の席で一緒に弁当を食べてるからだ。自分の席が空いてるから、態々(わざわざ)外食(意味は違うが)する必要も無い。

 斜め前の席では阿久津と翼が、右では如月グループが。ホント、弁当食うってだけで、学校とはエラく大袈裟なもんだよ、馬鹿らしい。入学当初から一人で食ってれば良かった。


 視線を感じてるのは分かってる。如月だ。あまり無視するのもしゃくなので一応、チラッとだけ目線をやったら、信じられないことに如月が、こっちへ来る?(入る?)なんて目線を送ってた。俺が翼たちと喧嘩してるの知っててこんなことやってる。本当に嫌味な女だ。きっと俺を笑い者にする気なんだろう。俺は一人で食う方が俺の性に合ってるし(多分)昨日のことを考えたいのでそのまま無視した。如月の奴、頭がいかれてやがる。


 ──今日の放課後はちょっと変わったことがあった。


 翼は俺と帰るのが嫌なようで、先にさっさと帰ってしまった。

 だから一人で駐輪でチャリの鍵チェーンを外して帰ろうとしてた矢先に、翼にバッタリと会った。目の前に立っていた。やっぱり俺を待ってたのかな? と思ったけど、翼ではなかった。

 こいつは翼の双子の兄貴、涼だ。片方の髪が若干長く、三角形に何個か飛び出てる髪型だ。どうやら散髪の失敗ではなかったようだ。そういう髪型なんだろう(モテるんなら俺も真似しよう)

 俺とは一回だけ顔は合わせたことがあった、喋ったことは一度も無い。いや、あのホテルのことがあるから違うかもしれないが、今ではあれが涼だったのか、翼だったのかも分からなくなってしまった。それに、そんなことが気にならないくらいに、今日はもう他人なんかどうでもよくなっていた。


「随分勝手なんだね」

 涼が唐突に声をかてきた。なんで喋りかけてくんだよ、くそ。

 俺がどう勝手なんだろう?

「時間ある?」

 喧嘩でもおっぱじめる気か? 自慢じゃないがお前では無理だ。

「時間あるって、聞いてんだけどー」

 なんで俺がこんな奴にそんな態度を取られなきゃなんないんだ。

「俺がお前と話す理由なんかないだろ? 俺もお前とは話したくない。それにもう学校で話しかけてくんなって前に言ってあるだろ」

 こいつがホテルの奴だったら、分かるはずだ。どういう返事が来るか見ものだ。俺も様子を見ることにした。

「弟の事で話があるって言っても、帰るの? それなら構わないけど」

 暫く沈黙だ。こんな奴振り切るのはわけない。でも知りたいことも沢山ある。こいつは俺がそう思ってることを知ってて言ってるんだ。翼と違いしたたかな奴だ。やっぱホテルの奴とは別人だな? だって、あんな泣いてたもんな……。


 俺は考えたあげく、どうもこの涼って奴が信用できないように思えたので、無視してそのままチャリを押して先に出て行った。

「ふーん。そういうことなんだー?」

「どういうことだよ?」

 こいつは駆け引きみたいなのが上手い。俺がつい疑問を投げかけるようなことをほのめかしておいて、俺を喋らせている。上手い。

「どういうことって、翼のことが聞きたくないの? なんで怒ったのかとか──、”クラスLINE”のこととか」

「クラスLINE? なんでお前が知ってるんだよ」

「だって俺があのホテルに居た奴だからじゃないの? 違う?」

 正直、昨日の件は何か証拠を掴んでるわけじゃない。俺の主観で見た感想だ。だから実際は確信までは持ててない。けど、こいつはさっきから「俺」って言い方をしてる、ホテルの奴が翼なのか、涼なのかは知らないけど、翼も、ホテルの奴も「ボク」って言っていた。そして二人とも泣き虫だ。それだけで十分だ。

「お前はホテルの奴じゃないだろ」

「よく分かったね。佐々良君もただの馬鹿じゃないんだー」

「ホテルの奴は翼。お前は涼。クラスLINEがなぜ涼なのか知らないけどな」

 そう言ったら、涼は何を言ってるんだか? という呆れ顔だ。

「俺の名前を使ってるに決まってるだろ。名前なんかどうでも良いんだから、クラスメイトで好きにしたら良いんだし」

 もう言わなくても分かった。翼が涼という名前を使ってただけだ。

「俺と喋りたくないみたいだから、いっそ阿久津君にでも聞いたら~」

 何言ってるんだ、こいつ? 阿久津も何か関係あるのか? それとも口から出任せか?

「一つけ言っといてあげるけど──あんた小六の時に、何かの漫画を翼にあげたでしょ? 女の子だと思ってたみたいだけど」

 ふっと笑って、涼はそのまま立ち去った。


 なにか、嫌な野郎だ。


 こんな時に、そんな考えが浮かぶなんて馬鹿げたことだとは思う。だが、人というものは時として、リアルに人間臭さという一面を、時と、場所と、場合に関係なく、ひょんなことで顔を出すものだ。それが今だ。俺は素朴な疑問が頭をもたげていた……そう。

 あんなカッコつけな奴でも、放屁ほうひ、そう、つまり、屁とかすんのかなぁ……(もし漏らしたら爆笑してやるのに)まあいい。


 翼の身内だけど、翼の兄貴に対してこう言うのも何だけど、嫌な感じの男だ。

 とはいえ、俺が長々と考えなければ分からない話を、こうもいとも簡単に、たった数分の話で俺に理解出来るよう言い表せた。物凄く頭の切れる奴だ。どうも気に食わない奴だ。なんでもお見通しって面も気に入らない。


「おっ。放課後に顔合わせるのは久しぶりだなぁ、佐々良。今日はクラブが中止になってな……。というのも──」


 つまり、小六の時、イジメられて泣いてた子に俺は漫画をあげた。その子は、翼だったってわけか。それも本当は女子ではなくて男子だった。なるほど、だからイジメられてたんだろうな。女の子みたいだって言われて……。


「おい佐々良~、どうした~? 聞いてますか~。そりゃ今は表向きは喧嘩中ってことに──」


 あいつは(翼)は、俺がまだ、そのことを覚えてるんじゃないかと思ったんだな。だから、あの漫画の状態が良いのを見て確かめたくなったんだろう。俺が翼にあの漫画をあげたあと、新たに購入したのを察したから。


「なぁ、いつまでも喧嘩してるんだよ~。見てるこっちが疲れるよ~。最初から仲良いんだから、お前ら。六年の時もよく遊んでたよな? 家にも呼んでたし。俺も一目ひとめでは分からなかったけど……俺とお前では立場が違うからな。翼は覚えていたぞ、お前のこと。なのにお前ときたら──」


 ふむ。漫画の話から、小六ん時の話に上手く繋げるのは決して不自然な流れじゃない。話のついでとして、俺が覚えてるかどうか確かめても話の流れとしては自然だ。

 でも、俺の勘違いから、翼に担がれてるんじゃないかと思いはじめた。また同じ過ちを犯してしまった……。ざまあないな。俺も焼きが回っちまったぜ。


「──でな。あいつも、まだ喧嘩初日だというに、いつもお前が居ない所ではな……あっ、これは秘密だぞ。キョロ、キョロとな、お前の姿を追ってたりするんだよ。だから──」


 だから、俺は、からかわれてると思ってたから、そんな昔のことってな感じで、忘れたことにして俺は腹を抱えて、いつまでもゲラゲラ笑い転げた。

 忘れてただけでも、翼は残念だったと思うよ? だから、あえて翼も同じように冗談だと笑い飛ばした。


「別に俺は偏見とかないから、お前の恋愛に口を挟むつもりはないんだ。あっ! それはそうと佐々良の姉さん、元気か? 同じ学校で聞くのも変だけど、あまり鉢合わせたりもしないからな──」


 そのまま笑い話で済ませれば良かったものを、俺はからかわれてるんじゃないかと、照れ隠しで、必要以上にゲラゲラ笑った。腹を抱えていつまでもゲラゲラ笑ってる俺に、子供の頃から高一まで四年間も覚えていてくれてたくらいだ、そりゃショックだったと思うよ……。


「まだ、やるのか。その、つまり喧嘩。いい加減お前の方から折れてやれよ──。じゃあな~」


 翼からすれば、まるでその思い出を、当の本人から俺から馬鹿にされたように「い~っひひひと」笑われ、まるで、あざけり、ないがしろにされた思いで……。

 だからあんなに怒ったんだ!

 ああ、分かってる。悪いことをしたな……。俺は馬鹿だ。


「ああ! もう! うるさい! 阿久津!」


 あっ? えっ? なに、阿久津? あれ。阿久津いたの? そだ、涼が言ってたな、阿久津も知ってるようなことを。どこだ、阿久津。


「お~い! 阿久津~? でっておっいで~! 阿久津~! 阿久津坊主~! あっくちゃ~ん! おーい!」


 くそっ……。失敗したな。


「またこんな所で一人遊びしてんの?」

 と、運悪く如月が通りかかり、怪訝そうな顔で、また俺を馬鹿にするようにそう言った。こいつとは駐輪でよく会うな……。

「ああ、邪魔だったらどくよ」

 今は如月と言い合ってる元気なんか無い。阿久津を取り逃したのも失敗だったが、それよりも今は自己嫌悪中だ。だから俺はそそくさと横に避けて道を開けた。

「気味悪ぅ~……。不気味ー」

「はは……」

 今だとお前でも俺をコテンパンに出きるぞ。やりかえさないから。

 どうでもいいんだ……。

「さっさと仲直りすれば良いのに」

「えっ?」

「嫌いあってるわけでもないのに」


 そう言って如月は、自転車に跨り、そのまま去っていきかけて……、校門の近くで一度振り返って、三秒ほどこっちを向いて──。


「良いじゃん? 好きあってるんだし。みんな知ってるんだから」


 え? どゆこと?

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