翼が十二羽
「もう! 触んないで!」
「もう! 触んないで!」
「もう! 触んないで!」
今さっき翼が叫んだ言葉が、耳にこだまする。触んないで? 女に言われたみたいな言葉だ。俺は触らないでと言われた瞬間、無意識に翼の手を離していたようだ。そして翼が玄関の方へ歩いて行ってる姿を、今、俺は呆然と見ている。
こんな本気で怒った翼の声は初めて聞いた。ついビビッてしまった。でも──俺は別に悪いことなんてしてないだろ?
丁度そこへ、お風呂からあがったお姉ちゃんが裸で、パチーン、パチーンと股間を締めて(乾かして)歩いてくるところだった。
一部始終をどうやら目にしてたみたいだ。
一瞬お姉ちゃんの方をチラッと見た翼だったが、本当に一瞬だけだった。あとはまた、気にも留めずにそのままドアを開けて、本当に帰って行ってしまった。
「あの子……」
お姉ちゃんは出て行く翼を見ながら言った。
「早く、彼女、追っかけないの?」
今度は俺の顔を見て、そう言うお姉ちゃん。
「彼女じゃねーよ」
だってあいつは男だから。
「彼氏。追っかけないの?」
「彼氏でもねーよ!」
お姉ちゃんは、俺がどうするのか様子を見ている感じだ。
別に『追っかけなさい』と勧めてるのでもなく『どうするの?』と深く聞き入ってる風でもなく、不思議な態度なお姉ちゃん。こういう時は追っかけるものよ。なんてことを言われるのかと思ったけど、ただ「どうするの?」ってだけの態度だ。
でも、俺はやっぱり気になったので結局追っかけた。お姉ちゃんは俺がそうするのを知ってるような様子だった。
家を出ようと靴の中に足をもぞもぞ入れてたら、お姉ちゃんの声がした。
「あの子、ちょっとは大きくなったけど……」
何を訳の分からないことを言ってるんだ? こいつ。頭がやられたか?
「シャイなところは全然変わってないのね?」
「あん? なんだってー?」
つーか、お前は初対面だろ。アホかッ。
確かに翼の様子は変だった──。
今まであんな怒った声をあげたことはない。それどころか、声だけでなく、翼が本当に怒った姿なんか一度も見たことがない。いつもおとなしくて、謙虚で、恥ずかしがりやで……。理由は分からないが、あの怒り方は普通じゃなかったことぐらいは、俺でも分かる。
玄関を出ると家の前の道には、自転車はまだ見えない。
右に行ったら数十メートルの大きな曲線になっているから、そこを通る間は見えている。でも、左に回る道を選んだら、直ぐに裏手に曲線を描く道なので、きっともう見えない。翼は右の道を通るんじゃないかと思ってたから、少しばかりの余裕はあった。来たのは右の道だ、それに翼は俺んちに初めて来た。まだそこを通ってる姿がないってことは、自転車置き場でグズグズしてる筈だ。
しかし、翼の姿は無かった──。
自転車が無かったので、帰ったのは確かだ。ということは左の道から帰ったのか? 俺に見つからないように?
俺は、ひたすら通学路を走った。普段の通学じゃなくて、今日帰ってきた道のりを、そのままの道順で走った。
暫くして、翼といつも別れる十字路に差し掛かった所で気づいた。俺は翼の家を知らない……。そういえば今日、翼んちの方角程度の話すら聞きそびれていた。こんなことなら聞いておけば良かった。翼が本当は女じゃないのか? と胸をジロジロ見てたことが、今はこっ恥ずかしい……。そんなことしてる場合じゃなかった。でもその時はこんなことになるとは思ってもみなかった。
俺はもう一度、自宅方面へと自転車を走らせた。
今度はボーリング場、その駐車場、スーパー、その駐車場と、建物と駐車場をセットで見て回った。カラオケボックス、ファミレス、建物の影、空き地──どこにも居ない……。
あああ! バカバカだ! バカバカバカだ! バカだ! バカバカバカバカだ! バカだ……。
電話~! 電話~! なんで電話~!
馬鹿な俺は今更ながら翼に電話をした。
………………出ない。
…………出ない……出ない。……出ない。出ない。出ない。出ない。翼!
ハァ……着拒されてないだけマシか
外は、もう暗くなっている──。
もしかすると? 一応、学校にも行った。
いつも見てる学校が、今は暗くシーンと静まり返っていて、校舎からまるで「誰も居ないよー。馬鹿な人」と言ってくるように感じた。ここで明日もまたいつもと同じように授業を受けていることを想像して、なんとか嫌な気分を振り払おうとしたけど、ダメだ……。全く集中できない。
校舎の中に入ろうと思ったけど、あの臆病な翼の性格上まさか中まで入るとは思えなかったから、可能性の低いこんな所で時間を食うよりも、今度はフェンスに囲われた校庭沿いの茂みを捜した。どこかにぽつんと座ってないか?
校庭の一番奥まで行って、また返ってきた。
よく考えたら分かりそうなものだ。
十字路から家に帰れるのに、わざわざ学校まで来るわけがない。なんとなく俺に見つけて貰いたくて思い当たる場所に隠れてるんじゃないかと、俺も随分と厚かましい考えが浮かんだもんだ……。
けれども、俺はその自惚れを恥ずかしいとは思わず、更に捜した。
もし翼が俺のことなんか気にかけてなければ、いや普通は怒ったんだから、まっしぐらに家に帰るだけだろう。それでも捜した理由は、引っかかっていることがあるからだ。
仮に、そのまま帰っただけだったら、それはそれでいい。
「バッカでぇ。うぃひひひひひひ~!」
「もう触んないで!」
「バッカでぇ。うぃひひひひひひ~!」
「もう! 触んないで!」
さっきから、俺が馬鹿笑いした言葉と、翼が最後に言った言葉とが、頭の中で何度も何度も、交互に繰り返されている。客観的に聞こえてくる頭の中のその言葉は、まるで俺は翼をイジメている酷い人間のような聞こえた。
分かっている。なんとなく雰囲気が違った。
俺を冷やかしたように口ぶりを変えたけど、それは、本当は俺が馬鹿笑いしたからだろ? 俺はなんであんなに笑ったんだろう? 翼に冷やかされてると思ったから?
涼のことは翼と関係ない。なのに俺はそれを思い出して警戒して必要以上に馬鹿笑いした。最後に「触らないで!」と言ったあの怒り方は普通じゃなかった。自惚れてるだけならそれでも良い。でも、さっきから俺は、今でも翼がどこかで俺に見つけて欲しくて、泣きながら待っている。なんて馬鹿みたいな想像が思い浮かんでる。
もし実際にそんなことになったら、俺は胸が張り裂けそうにツライ──。
明日になって「自惚れてんなー。あのまま帰っただけだよ」とでも言って、からかってくれた方がずっとマシだ。
だって、電話に出ないんだよっ!
もしも! あぁ……。もしも、とかは無いだろう! 何を馬鹿な妄想に取り付かれているんだ。
──どれだけ捜し回っただろうか。平穏に流れてる周囲を行きかう人たちの中で、俺だけが汗だくになって走り回ってる。自転車を飛ばし、今度は手で押しながら物影を見やったり、その繰り返しで、何度もすれ違った人からは怪訝な目で見られてた。
俺は、自分を過信し過ぎていた──。
残念なことに、俺は、方向が、人より、少しばかり、音痴だ。
こんな時になんだけど、俺は自分の家の方角に狙いを定め捜し回ったあげく、自分がどこにいるのか? 迷子になってしまった。
家から十字路まで、十字路から俺の家の方面まで、また十字路を通り学校へ、そこからどこを捜したのか忘れてしまった。完全に迷子になってしまった……。
もう外は真っ暗だ。学校から帰って直ぐに腕時計を外してテーブルに置き、そのまま色々あって、あんなことになり、翼を追っかけてきたので、腕時計を付け忘れて来た。だから時間さえも分からない。
俺はトボトボ、トボトボと自転車を押して歩いた。今日、ここまでに起きた色んな出来事を思い出しながら、あの時にあーすれば良かった、こう言ってれば良かった。もし、もし、もし、って感じだ。
学校が終わって、田んぼのヘリで馬鹿話した、自転車で追っかけてきたのに気づかずビックリした、お隣さんの遠野が女だと勘違いして驚いていた、俺が翼にスカートを穿かせようと躍起になった、ズボンを穿かずにスカート姿になった翼を見てドキッとした、お姉ちゃんが帰ってきてクローゼットに隠れた、翼と密室の中でソワソワした、お姉ちゃんに見つかり殴られた……。
あの漫画を見つけ手にとっても良い? と聞いた翼。妖しい雰囲気になってドキドキした俺。そのあとは…………。
でも──。落ち着いてくると笑ってしまった。
なんで俺はこんなに必死に捜してたんだろう? 馬鹿みたいな阿呆だ。
翼が怒って帰ってしまった。それが? 友達と喧嘩して帰ってしまったって、よくある話だろ。阿久津ともよく喧嘩して俺が帰ったり、あいつが帰ったり、昔はよくあったもんだ。その時にこんな必死で捜したか? まさか。本当に笑ってしまうな。むしろプンプン次の日まで怒りが収まらなかったくらいだ。
それがなんで、翼が怒って帰って、あいつが泣いてる? 俺が捜すのを待ってる? 見つけて欲しくて隠れてる? 超恥ずかしい奴!
馬鹿で、自惚れで、妄想野郎だな。あー馬鹿らしい、馬鹿らしい。
電話もカバンの奥にでもしまってるんだろ? なにかドラマチックな展開でも想像してたんだろうな。考えたら恥ずかしくなった。ははは……。
そんなことを考えてたら、元同中の京香と、いつも下校でよく会う場所で、しかも、その京香本人とバッタリ会った。
「よー京っ! 今何時~?
……──まだ花壇に水やってんのかぁ?」
京香は女友達とこんな夜更けまで遊び歩いてた。俺は時間が一番気になったので即聞いた。挨拶はあとだ。
俺に気づいた京香は照れ隠しに、挨拶代わりの嫌な顔を見せて、そっけなく答えた。
「七時四十八分だよ! 外で、喋りかけんな! ウザキモ! 早く去れ!
……──やってるよバーカ!」
ちゃんと時間を教えてくれる辺りが京香の律儀な所だ。
でも、ここでまた俺のマヌケすぎる所に、今更ながら自分自身で気がついた。なんでスマホーで時間を見なかったんだろう? 腕時計のことばかりに俺は気を取られていた。どんな場面でも俺はマヌケくさい奴だと、情けなくなる……
。
あれ、あいつ……。見たことないな。多分、他中出身の京香のクラスメイトなんだろう。そいつが俺と目が合うと、京香に質問を投げかけた。
「誰~? 彼氏~? かわいそうだよ。あんな言い方」
京香はまたまた照れ隠しに、心にも無いことを言った。
「あ~ナイナイ。彼氏気取りの勘違い男なだけェ。マジキモ」
「この前デートしただろ。それよりもお前なんでまだここ居るの? 下校途中?」
よく俺の下校と重なる同じ場所だったので、一応まだ下校途中か聞いた。もちろん私服姿だから違うのは分かってたけど、一度頭に浮かんだら話さすにおれないたちなのだ。
「下校なわけねーだろ! それに下校とか言い方も止めろ! いたい! あと、自転車パンクしたのを、勝手にお前が横について回っただけだろッ! 寄ってくんなッ」
久しぶりに会えたのが嬉しいのか、物凄い機関銃トークぶりだ。
ご友人たちはどういう顔をしていいのか、どういう関係なのか、いまいち理解出来ないで眉をハの字にして困った顔だ。京香のジャジャ馬ぶりも困ったもんだ。
と、ここで耳慣れた声が飛んできた。
「佐々良~! ひっさぶり~。元気~」
おお、こいつはラッキーだ。京香同様に同中の坂上の顔が見えた。三人の端(奥)で手を振ってる。
「坂上、べっぴんさんになったな~。ええー?」
坂上は即座に返す。
「なに、まだそんなこと言ってるの?」
「んあ? そんなこと?」
一体どんなことだよ?
「べっぴんさんとか、じじくさい言葉」
そう言って坂上はケラケラ笑ってやがる。
「知り合い?」
一人だけ俺の知らない女が口を挟んだ。そうか、繋がりが見えた。三人中一人だけか、知らない女は。
「もう、行こッ!」
京香がそのご友人の腕を引っ張って、行こうとすると坂上が口を挟む。
「ああー冷たい。元カレじゃーん」
「え? やっぱり元カレだったんだァ?」
あぁご友人は知らないのか……。中学の時に三ヶ月だけしか付き合ってないが、一応、俺からみたら元カノという間柄になるらしい。甥や姪のように分かりにくい間柄でもない。
あ、いや! 今はそんな時ではない。翼のことだった。
鼻に抜けるような哀愁に満ちた歌声の、中島みゆきさんが歌ってる、あの名曲じゃないが、俺は今、浮かれ街あたりで名を上げてる場合じゃない。
「名前はまだ知らないけど、京の友達くん。今日、俺は大変な一日だったから、そろそろ俺は行かせて貰うよ、またいつか」
そういって少しばかり駄洒落を交えつつウインクをしたら、京香がまたチャチャをいれてきた。
「一生知るな! またいつかもない! なーにが大変な一日だよ。ビチ○ソ野郎! 小さな男の子とチャリンコ競争して」
名残惜しそうな元カノ?(だっけ?)の京香との挨拶もそこそこに、俺は自転車に飛び乗りお別れを次げた。
「バイバーイ!」
坂上だけが元気良く俺に手を振ってくれたので、俺もサービスして投げキッスを送った。
翼ね~……。さっき七時四十八分と言ってたし、今は八時と仮定しよう。
さすがに俺の家を出てから……二時間以上だろ?(多分)もう帰っただろう。俺もうっかりさんだからな。翼も、もしかして俺からの電話を待ってたのかもしれないし。明日またよろしくやることに決めた。
俺のどこを怒ったのか確信が持ててる訳じゃないけど、思い当たる節もある。それに、翼が怒ったくらいだ。俺が悪いのは間違いないんだろう。
馬鹿笑いしたのは確実に俺が悪かった。
商店街を入って一回目に横切る道があり、そこの角にコンクリート壁のパーキングがある。何の気なしにトボトボと自転車を押して歩いてると、そこに人影が見えた。もちろん暗がりで誰なのかなんて分からない。
一応、自転車を静かに止めて近づいていった。知らない奴だと恥ずかしいから静かにゆっくりとだ。というか、その可能性の方が高い。パーキングの壁際で座っている人影が段々と形だって見える。
──ん? うそだろ。
そこに翼が居た!
バカ! こんな所で、こんな長い時間、なにやってたんだよ!
まだ俺の存在には気づいていない。今すぐ近づいて行って「わッ」と驚かせてやろうか?
暗がりで横顔がチラッと見えた。頬にポロポロ・ポロポロと涙、泣いている。
あれから何時間経ってると思ってんだ! バカ翼。もう外は真っ暗だよ。
なぁ? 翼……、ずっと泣いてたんだろ? 俺がここへ来る前から泣いていたのは俺にだって分かる。だって俺のことに気づいてないもん。こんなに長い間ずっと涙とか流れるもんなんだ? だってあれからずっとだろ? 今も涙がまだポロポロ流れてるもんな? 翼──。
俺が捜さなかったら? 途中で諦めて帰ってたら? 馬鹿じゃないのか。俺の家を出てから、泣いてたんだろ。俺に見つけて欲しかったんだよな。自惚れんなって言われても、本当のことだろう。
俺も息苦しくなった。こんな時にだけど、胸がキュンとなった。俺も辛いよ……なぁ翼。俺が馬鹿だったよ。
”なっ? 帰ろう? 途中まで送っていくし”
と、色んな思いが交差し、声をかけようと思った、その時。
俺は、ぴたっと足が止まった。動けないでいた。時間がふぅと止まった──。また時間が動いた。えっ? この感じ……俺は今、泣いている翼の横顔をじっと見てるが、この感じ、どこかで……。
そうだ。この感じ。こいつは、涼だ?
いや、そんな訳が無い。でも……今日、たまたま俺んちの方角に用があって、たまたまこんな時間まで用があって、たまたま泣くようなことがあって……? 嘘だろ?
俺はもう、あの一件は怒ってない。忘れていたくらいだ──だからもう良いんだ。でも、今は涼になんか会いたくない。
なんでこういう時に出てきたんだ? そうなのか?
ああ──……。なんでなんだよ!あのホテルでのこと、あそこに居たのは……。
翼だったんだ?
今、分かった。暗がりで見た翼の顔は、紛れもなく、あの時ホテルにいた涼と、同じ奴だ。涼なんか最初から居なかったんだ。でも──それじゃあ、体育館で見た翼そっくりな奴は?
ああ、もう、何でもいい、翼は翼だ。こいつは、俺が捜してくれると、二時間も信じて待ってた。それもずっと、泣きながら。
──その時、ようやく翼が、俺に気づいた──
俺に”何か言ってくれよぉ……”と訴えてるような顔で、オデコから見える眉は今まで見たこともないようなハの字眉だ。思わず俺も笑ってしまった。
すると、一瞬でパッ! と、これまで見たどの翼よりも明るい表情で、本当に、本当に、嬉しそうに「来てくれたんだぁ?」とでも言ってるような満面の笑みを見せ、俺の方へ走り出していた。
「佐々良ぁぁぁ~!」
馬鹿みたいに泣きじゃくりながら走り寄って来る翼──その距離が近くなる度に、徐々に表情が崩れていき、涙が溢れ出て、ポロポロ・ポロポロ・ポロポロ・ポロポロ……翼の頬をぽろりぽろりと涙が流れ続けてる。
本当にバカな奴だ。高校生にもなって、自分で帰れるのに、俺が捜しに来るのを待っているなんて物好きにも程がある。子供がお母さんに見つけて貰ったような顔で泣きながら走っている。まるで子供だ。
「翼ぁッ!」
俺にその妙ちくりんな泣き顔を見られたくないのか?
目の前まで来たら、思いっきり! 俺に飛び込んで、抱きついてきた。
「ささ……ら、うぇっ……ささら……へっぐん……えぐ、へっく……うわぁ~ん!」
翼は精一杯の力で俺に抱きついて泣いている、でも全然強くない。華奢な翼は腕が震えるくらい力強く抱きついているけど、笑ってしまうくらい、俺には全然強く感じない。
耳元で翼の、か細い声が聞こえる。えっぐ、えっぐと、嗚咽をしゃくり上げながら、泣きながら喋ってる。
「ささ……、らー。えっぐ……。ささら……ふっぐ……ささ……ら……ささら」
翼の足が震えてる。小刻みに足を震わせ俺にしがみついている。俺も翼が──。
「うん。うん翼っ。帰ろうな」
俺もおもいっきり翼を、ギュウ! と、抱きしめてた。腰が女みたいに細い。なんて軽い体なんだ。ああ……翼……。
──何秒、そうしていただろうか?
暫くして、俺は翼の両肩を掴み、ゆっくりと離して、こう言っていた。
「この嘘つき野郎」