表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/323

88話 《中町》の先へ行く前に

 クテガンに新しい武器を貰い、その使い心地を試したテグスたちは、早速《大迷宮》の十一層より先に進もうと、《中町》の端にある下への階段へとやってきた。

 だがその階段を守っている守衛に、四人は止められてしまう。


「君たち四人で、この先に進むつもりだったり?」


 その人は見た目は二十代半ばな感じの薄茶髪、ティッカリよりもやや小さいくらいの高い背丈の細身の男で。《魔物》の革で作られていると思わしき革鎧を身に着け。手には彼自身の背丈と同じ長さの槍を握っている。

 だがその言葉遣いと同じく、浮かべている表情も柔らかい物なので、守衛なのに突予想と言うよりも、人の良さそうだという印象の方が強い。

 もし武器と鎧に首の《白銀証》がなければ、大店で育った苦労知らずの若旦那、と言われても納得出来る風貌だった。

 そんな人に、《仮証》時代と同じく引き留められるとは思ってなかったテグスは、少しだけ驚いた顔をしてその守衛に顔を向けた。


「そうですが。何か拙いんですか?」

「拙いというよりも、大丈夫かな、っていう心配だよね」

「……ちゃんとこの面々で《中町》に来たんですけど?」

「そうです。ここまで四人できたです!」


 番犬が見知らぬ人に吠えるかのように、ハウリナが鼻息も荒く言葉を放つ。

 それにテグスは、ハウリナを落ち着かせるようにその頭を撫で。守衛は困ったような表情を浮かべてハウリナを見る。


「それは分かっているんだけどね。あ、ちょっと横に寄って」


 手で移動するように素振りをされたので、テグスたち四人は素直に階段の前から退いた。

 すると七人の屈強な男の《探訪者》たちが、我が物顔で横を通り過ぎて、テグスたちに顔を向けることなく階段を下って行ってしまった。


「彼らみたいな強そうな人たちだって、七人一組でここから先に当たるんだよね。君たちみたいに、子供だけでこの先に行くのは、まだ早いんじゃないかなって、老婆心ながらね」

「一応、これでも成人しているんですが。それに《迷宮》を行くのは、自己責任ですよね」

「それはそうなんだけどね。君たちの装備を見ると、準備不足なんじゃないかなって思えてしまうんだよね」

「準備出来ているです!」

「なにかおかしい部分があるの~?」

「ご教授願います、問題があるのならば」

「えーっと、どう言ったら伝わるかなー……」


 そんな風に階段の出入り口の横で問答を続けていると、また他の《探訪者》たちがやってきて、階段を下りようとする。

 その人たちの中に居た一人の男が、気まぐれのようにテグスたちの方へと視線を向けて、驚いたように一瞬身動きを止めた。

 そして彼の後ろのに居た女性に何やらを語りかけ、仲間にその場で待たせる指示のような仕草をしてから、テグスたちの近くへと二人で近づいてきて間に入ってきた。


「よー、坊主。ここ最近見かけなかったから、どうしたかと思ってたんだぜ」

「そうよ、ボク。マッガズったら《中町》で聞き込みまでしてたんだから」

「おいおい、ミィファ。そういう恥ずかしい事は言わないでくれよ」


 黒髪を短く刈り込んだ男は筋骨逞しく、傍目だと粗暴そうに見える。

 その横を歩く髪を後頭部で丸い形に結った女性も、その自信が溢れている表情も合わさって、どこか勝気な印象を与える。

 その二人だけでなくその仲間たちも、身体に革の上から金属の薄板を打ちつけたような鎧を付けている。


「――あッ、本当にお久しぶりです。お二人ともお元気そうですね」


 最初は誰が近づいてきたんだという目で振り返ったテグスだったが、その二人を目にして懐かしい気持ちが表情にまで現れてしまった。

 その普段とは違う表情を見せるテグスに、ハウリナは横から彼の袖を引っ張って注意を向けさせる。


「テグス、誰です?」

「《仮証》時代に一度会った事がある、マッガズさんとミィファさんだよ。お二人とそのお仲間さんたちは《下町》まで行く事が出来る、強い《探訪者》なんだって」

「おいおい、強いだなんて褒められたら、照れるじゃねーか」

「むさ苦しい男が照れても、不気味なだけよね」


 なんだとと凄みを利かせた笑みでミィファを見るマッガズは、何処の盗賊の頭だと勘違いするほどの迫力があった。

 そのマッガズの見た目とにじみ出た迫力の所為で、ハウリナの尾っぽは下がって先が丸まり、ティッカリは大丈夫なのかと問いかける視線をテグスに向け、アンヘイラは逃げ道を確認するかのように視線を左右に動かしている。


「そんで、テグスの坊主は、何でこんな場所で守衛相手に言い合いしてんだよ?」

「何故だかこの人に、心配だからって止められちゃいまして」

「ちょ、ちょっと、その言い方は語弊がね。ただ若いし、人数が少ないし、装備も整ってなさそうだからで」

「んー、まあそこの守衛の兄ちゃんの言う事も尤もだな」


 あたふたとした守衛の説明を聞いたマッガズは、納得がいったと言わんばかりに頷いて見せた。


「どんな点が悪いんですか?」

「悪いっていうよりか、準備がもっと出来る部分が残っているっていう事だな」


 一度言葉を切ると、マッガズはテグスの片手小剣と投剣を身に付けた場所を指差す。


「それらは恐らく新調したばっかりだろう。上手く装備とかみ合っていないのが見て分かる。坊主だけじゃなく、仲間のお嬢さんたちにも、似たような部分があるな」

「この先は、少しの準備の緩みで命を落とす事に繋がるのよ。だから守衛の人だって止めたんだと思うわ」


 二人の言葉を聞いて、守衛は思っていた事を代弁してくれたとばかりに、嬉しそうな表情を浮かべている。

 そう言われて、テグスが自分の装備を確認すると。確かに小剣と投剣を収める剣帯は、間に合わせで購入した既製品なので、他の装備と当たる部分が無いわけではない。

 しかしそれは今までなら、何ともない程度の事なので。テグスとしては納得しきることが出来ない感じを抱いていた。

 それは他の三人も同じなのだろう。ハウリナとティッカリは、背負子の中に突っ込んだ新しい武器を肩越しに見て。アンヘイラは筒の中の矢と投剣の位置を指で動かしながら、首を傾げている。

 そんな風なテグスたちを見て、マッガズがいい事を考えたとばかりに、悪だくみを思い立ったような笑みを浮かべる。


「納得いかねえって思ってそうだから、ちょっとだけこの先を見学してみるか?」

「見学って、まさかマッガズはこの子たちを連れていく積りなの!?」

「おうよ。なに、行っても二十層の《階層主》までだ。そこから先へは連れてかねーよ」


 返ってきた答えに、ミィファは呆れたとばかりに肩をすくめる。

 遠間から効いている彼の仲間たちも、苦笑いをそれぞれ浮かべている。


「そうしていただけると、この子たちも人数や実力が足りるか足りないか分かるでしょうね」


 マッガズの考えに賛同する言葉が、意外にも守衛の口から飛び出て来た。

 それに気を良くしたマッガズが、テグスに問いかけるような視線を寄こしてきた。

 テグスがどうするべきかと仲間の三人に視線で問いかけると、彼女たちはテグスに任せるという表情をしていた。

 なのでテグスは軽く考えを巡らせる。

 利点は、この先に行ける事と、出てくる《魔物》の種類と、《大迷宮》の中層以下を行き慣れた《探訪者》の実力を見れる事。

 欠点は、マッガズたちの指示に従う必要がある事と、彼らの目的の邪魔を少なからずするであろう事。

 そんな欠点も言えない欠点しか思い浮かべず、利点だらけの提案に、少しだけテグスは罠かと疑う考えが浮かぶ。

 しかしマッガズが罠を張るような性格な気がしなかったテグスは、数秒の考えた時間の後で提案を受け入れる事にした。


「マッガズさん、ご迷惑をおかけすると思いますが、よろしくお願いします」

「おいおい、そんな馬鹿丁寧に言わなたっていいんだよ。よろしく、任せた、って二言だけでよ」

「このおバカ。そんな口が誰にでも利けるのは、マッガズぐらいなものよ」

「そうか? 大体こんなんでどうにかなるもんだぜ。テグスの坊主とお嬢さんたち、仲間に紹介するからついてこいよ」


 そうして奇妙な縁と突発的な提案で、テグスたちは熟練《探訪者》のマッガズ一行に同行する事になったのだった。

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ