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87話 新しい武器たち

 何だかんだとありつつも、二週間以内に《木兵動像》で作られた炭を、持ち運べるだけ大量に入手したテグスたち。


「コキト兵相手なら、一対一に持ち込めば直ぐに終わるね」

「からんでくる人もいなくて、楽だったです」

「大盾や長剣とか~、クテガンさんに良い御土産なの~」

「収入もあります、魔石も得たので」


 そんな事を言いつつ《大迷宮》の中にある《中町》にある、テガンの店の前へとやってきた。


「クテガンのおっちゃーん、《木兵動像》の炭を持ってきたよー」

「おーおー、遅かったじゃねーか。だが炭を沢山持って来たから、許してやろう」

「なんでそんなに胸を張っているんだか……炭はもう少ししたら出回るようになるって、炭焼き屋がいってたよ」

「おー、そうかそうか。なら看板とかを戻しておかねえとな」


 偉そうにそう言うクテガンに、テグスとティッカリは苦笑いを浮かべ、ハウリナは少しだけ苛立った表情を浮かべる。

 一方で、アンヘイラは目を爛々とさせていた。


「タダで作ってもらえますね、これで武器を」

「おいおい。ボロ剣を集めてくれなけりゃあ――」

「大きな武器があります、ここに入る前に手に入れた」

「本当は、錆かけの方が嬉しいんだがね……」


 クテガンの言葉を聞くや否や、アンヘイラはティッカリの背を押して前に歩かせ、彼女が持っているコキト兵の武器を見せる。

 そんな必死な様子を見て、今度はクテガンが苦笑いを浮かべる番だった。


「分かったよ。それで作るのは、短剣が一つに、矢の鏃と投剣だったよな」

「この際だから、ハウリナとティッカリの短剣も新調しない?」


 日頃あまり使わないから忘れがちだが、二人の後ろ腰に備えた鞘の中には、テグスが以前に渡していたなまくらな短剣が収まっている。

 恐らく《大迷宮》の十一層からは、その短剣では補助武器としてすら力不足でしかない筈なので、新調するには良い機会ではある。


「テグスも新しく作るです?」

「もう片刃剣と二本の小剣があるし。更に投剣が加わるんだから、装備過多じゃないかな」

「どうせだから~、仲間で同じ短剣を持つのも良いと思うの~」

「そうした方がお得ですね、タダですし」


 そう言われたテグスは、アンヘイラとその人狩り仲間たちは同じ意匠の短剣を持っていた、と思い出した。

 なので共通の物を持つのは、仲間としては普通の事なのだろうだと思ったテグスは、すんなりとティッカリの提案を取り入れた。


「という事なので。短剣四本と、投剣と鏃を出来るだけお願いします」

「遠慮ねえなあ。だがまあ、作ってやるよ。出来上がるのは、どう頑張っても二日、余裕持ってなら一週間はかかるだろうから。その間にボロ剣でも集めてこい」

「では一週間後に出来上がるように作ってください」

「おそろいなの、楽しみです!」

「折らないように大事にしないといけないの~」

「武器は価値があるものですよ、きちんと使用してこそ」


 炭を全て置いて身軽になった四人は、クテガンの助言の通りに《大迷宮》九層に出る、テグスが武装コキトと呼ぶ《魔物》を狩りに行くのだった。



 武装コキトとコキト兵の武装を集めてはクテガンへと卸し、得た魔石を《探訪者ギルド》本部にて換金したり、《依頼》を受けたりして過ごした。

 そうして一週間後、テグスたちはクテガンの店へとやってきて。出来上がっていた装備を受け取った。


「なんだか色々とおまけも付いているけど……」

「四人のお陰で、店先に看板を掲げられるからな。せめてもの礼だ」


 と言われて受け取ったのは、事前に言ってあった短剣四本と大量の投剣と鏃以外では。

 ハウリナ用に、片腕程度の長さの鋼鉄製で、両端に六角形状の錘が付いた短棒が二本。

 ティッカリ用に、突撃盾の先に付けるのであろう、牛の角のような鋼鉄の短い棘が三本で一組になった武器が二組。

 アンヘイラ用に、捩じれて螺旋を描いていたり、毒物を付けやすくする溝が付いていたり、液体を入れられる素焼の小壺だったりな、変わり種の鏃が幾つも。

 それらを手に取ってみた、彼女たちの感想はというと。


「あまりしっくりとこないです」

「壊しちゃっても、怒らないで欲しいかな~」

「処分に困ったのを押しつけられた感じですね、取り敢えずの思いつきで作ってしまった物の」


 一応、ハウリナは昔の手習いの経験で棍を使っているだけで短棒の経験はないのだろうし、ティッカリはその有り余る膂力で武器を壊し続けて《破壊者デトランタ》なんて陰口を言われた過去があったり、アンヘイラのは見るからに色物だからと、それぞれの理由はある。

 それにしてもタダで入手した割には、手ひどい物言いだった。

 その事にクテガンは気を悪くすると思いきや、どちらかというと秘密を見抜かれ時のような、少しバツの悪そうな表情を浮かべていた。


「短剣や投剣と鏃と同じ製法で、キチンと実用に耐える物に仕上げてはあるが、確かにそれらは試作品だ。実際に使ってみた人からの感想が欲しくてな」


 新しい製法を身に付けた鍛冶屋らしい理由を聞いて、テグスは頼みもしてない物を作ってくれた訳に納得が行った。

 

「そう言う事らしいから、ちょっと《大迷宮》に戻ってみて、新しい武器を使ってみる?」

「殴りやすい相手がいいです」

「うう~、壊さないか不安なの~」

「時間がかかりそうですね、一通り試すなら」


 新しい装備の手ごたえと、気に入ったらその熟練も兼ねて、テグスたちは《大迷宮》の《魔物》へと挑みに向かった。





 先ずは素早いだけで手頃な《角突き兎》を相手に、テグスとアンヘイラが投剣の、ハウリナが短棒の調子を確かめる事にした。


「品質が一定だから、投げやすいね」

「なまくらな短剣を投げてましたからね、テグスは無理矢理に。でも満足な仕上がりですね、この投剣の出来は」


 テグスは身体強化の魔術無しでもあっさりと刺ささる、投げやすい投剣に嬉しくなり。アンヘイラも扱うもに不満はなさそうだ。


「一発が弱くて不足です」


 逆にハウリナは黒棍なら一撃の相手に、短棒だと二撃目三撃目が必要になる事が不満そうだ。

 終いには、その苛立ちが限界を超えたのか、短棒を《角突き兎》へ投げつけて、跳んで避けた先に先回りして黒棍でたたき落とすなんて真似をした。


「これを使うぐらいなら、手足で戦った方がマシです!」

「ハウリナは獣人だから、下手な武器を持つより、手足で戦った方が楽なんだろうけど」


 ハウリナから手渡してもらった短棒を、テグスは試しに振ってみたが、あまり悪い気はしなかった。

 恐らく軽量の鈍器を扱う者なら、持ち帰る人も出る程度には短棒は優秀なように、テグスには感じられた。

 倒した《角突き兎》たちは、《中町》の食堂で料理して貰う為に背負子の中へと入れた後で、四人は層を下って行く。

 テグスが投剣と小剣二本での立ち回りの熟練にの為に戦闘の大部分を引き受け、アンヘイラは新しい鏃に変えた矢で補助をする。

 そうして九層まで下り、ティッカリは三本棘を突撃盾に装着し、アンヘイラは変わり種の鏃を矢に着け変える

 通路の先にある曲がり角から出てきた、四匹の武装コキト相手に、二人は武器を構える。


「使用感は変わりませんね、螺旋のは。溝や形で軌道が変わりますね、他の二つは」


 先ず各種一本ずつアンヘイラが射ったあとで、そんな感想を横に居るテグスへとこぼす。

 だが初めて使うと言うのに、螺旋の矢で武装コキトの弓持ちを射止め、水を入れた素焼小壺の矢で槍持ちの動きを止め、その間に溝が付いた鏃の矢で仕留めてしまうのは、流石だった。

 そうして残る短剣持ち二匹へ、ティッカリが突撃盾を構えたまま突っ込んでいく。

 挟撃するためか、二匹は左右に分かれて短剣を握り、ティッカリを迎え撃つ構えをとっている。

 念のためにテグスは、扱いに慣れつつある投剣を二本抜いて、ティッカリが危なくなったら投げつけられるようにして置いた。


「と~~やあ~~~」


 相変わらずな掛け声とともに、ティッカリが右の棘を装着した突撃盾を、右に居た一匹へと繰り出した。


「グゲァ――」


 無謀にも短剣と両腕でそれを押しとどめようとしたようだったが、体の中心にティッカリの突撃盾が刺さった。

 そして殴り飛ばされて、壁面へと叩きつけられたその身体には、見事に三つの穴が開いていた。


「グガガェーー!」

「て~~や~~~」


 やられた仲間が作った隙を生かそうと、跳びかかってきた残りの一匹に向かって、ティッカリは左腕を横へと振り回す。

 先ず突撃盾の側面に当たったその短剣持ちは、横回転で錐揉みしながら地面へと落ちて転がった。

 しかもどうやらティッカリが腕を振りぬいた時に、鉄棘に当たっていたのか、その体には熊に引っ掻かれたような傷が斜めに走っている。


「ギャギャイーーー!」

「止めなの~」


 そこから黒い血を流して呻く武装コキトへ、ティッカリは無慈悲に右の突撃盾を顔に向かって振り下ろした。

 そして腕を引き上げると、押しつぶされて飛散した肉の下にある床には、三つの穴がぽっかりと開いていた。


「あう~、棘の先が潰れちゃったの~」


 しかしティッカリが、思わずやってしまったと言いたげな、悲しそうな悲鳴を上げた。

 見ると、確かにティッカリの右の突撃盾に付けられた棘は、元から円筒形だったかのような平らな状態になって、更には皹が入ってしまっていた。

 しかも突撃盾に着けるための接続具が曲がってしまったのか、ひとりでに外れて地面に落ちてしまう。




「棘の方は兎も角。この武器は、接続具を無くした一体型を作った方がいいのかもね」

「兎も角って酷いの~」


 そんな感じに新しい武器の評価は固まったので、四人はクテガンの店へと向かって歩いて行くのだった。



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