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85話 《木兵動像》の木片集め

 唐突に決まった炭とボロ剣集めに、ハウリナは不満を露わにしながら、黒棍を一体の《木兵動像》へと叩きつけていた。


「あおおおおおおん!」


 その一撃を受け損ねて、左の二の腕部分を折られた《木兵動像》を援護するように、他の四体の《木兵動像》がハウリナへと近づいて行く。

 しかしそれはさせじと、ティッカリがその間に入って、右の突撃盾を横へと振り回す。


「とあ~~~~~」


 唸りを上げて迫る突撃盾に、《木兵動像》たちが、その風圧に押されたかのように一歩距離を開ける中。運悪く身体の中心を当てられた一体が、真ん中から二つに折れて地面へと転がる。

 その間にハウリナは素早く移動して、先ほど腕を折った一体の後ろへと回り込み。先ず黒棍で後ろ首を叩き折り。次に脛当てをしている右足で左腿を踏み折り。最後にその場で回転しての、黒棍でのもう一撃で背中を打ち、体全体にひび割れを発生させる。

 そうして二体が倒れたが、無生物系の《魔物》らしく、残りは気にした様子も無く二人へと攻撃をしようと手を振り上げる。


「遅いです!」

「粉砕なの~」


 しかしその滑らかとは言い難い動きが終わる前に、ハウリナとティッカリの攻撃が残りの《木兵動像》へと当たるのが早かった。

 一体はその脳天にハウリナからの黒棍を食らい、頭から胸元までに皹を入れて停止し。残りの二体は、ティッカリの左右一発ずつの突撃盾の攻撃で、胴体部全体に皹が入って停止する。

 そうして数秒後、急に操る糸が切れたかのように、その三体の《木兵動像》はその場に落ちるようにして倒れた。


「さあ、集めるです! さあ、背負うです!」

「は~い~。どんどん積んじゃうの~」


 ハウリナは黒棍を地面へと押し当てて音を立てつつ、そんな事を訓練兵を怒鳴る熟練兵のような口調で言い放つ。

 ティッカリはそれに合わせてか、倒した《木兵動像》一体分の木を拾って抱えて。戦闘に参加していなかった、テグスとアンヘイラの方へと近づいて行く。


「はいはい。おおせのままにします」


 テグスは素直に背負子をティッカリに向けて、その中に《木兵動像》の木片を入れやすくする。

 そしてどさっと音を立てて中に入れられると、その重みでテグスの肩にかかっている背負子の紐が、ギリっと肩に食い込む音がした。

 アンヘイラが背負う、《木兵動像》の手足の部分と縄で作った、簡易ながらも大きな背負子にも、ティッカリは遠慮なく木片を乗せる。

 テグスの背負子とは違い、あり合わせの材料で作られたそれは、よりアンヘイラの肩に食い込む嫌な音がする。


「手伝ってくれませんか、多少は持つとか」

「喋らないで、さっさと背負うです!」

「自分から言い出したからには、ちゃんと責任を果たすの~。は~い、まだまだあるかな~」


 少しそんな当たり前の意見を言っただけで、アンヘイラの方のみに木片が追加されてしまう。

 そして五体分の《木兵動像》の大半を、アンヘイラの方へと積み上げ。荷崩れを起こさないようにと、縄で無理矢理に一まとめにされてしまう。


「さあ、次に行くです!」

「炭の材料集めは大変かな~」

「二人とも、そんなに急がなくても……」

「なにか言ったです?」「なにか言ったかな~?」

「……いいえ。次に行こう」


 ずんずんと前へと進み始めたハウリナとティッカリに、テグスが思わずそんなことを口走るや否や、二人から責めているような視線を向けられてしまう。

 この炭集めを始める原因の一端があるとは自覚していたので、テグスは前言を撤回して大人しく従う事にした。

 だがこのテグスの言葉に、不満がさらに高まったのか。ハウリナは黒棍を小刻みに振って音を出し、付近にいるであろう《木兵動像》へ存在を知らせておびき寄せようとしている。

 そしてその思惑は当たったのか、通路の先から四体の《木兵動像》が現れ。テグスたちを見つけると、ゆっくりとした足取りで、木製の武器を構えて近づいてくる。


「のろい、です!」


 近づいてくるのを待てないとばかりに、ハウリナは飛び出していく。

 そしてあっという間に《木兵動像》たちへと近づくと、先頭の一体を黒棍で殴りつけた。

 だがその一撃は、その《木兵動像》が持っていた木の盾で防がれてしまう。

 木の盾が黒棍の一撃で多少のひび割れが起きていたが、そんな事は関係ないとばかりに、木剣がハウリナへと振るわれる。

 歩みの遅さとは違い、繰り出される一撃はそれなりに早い。

 それをハウリナは冷静に避け。右足で脛当てを当てるようにして、《木兵動像》の左腿の部分へと蹴り下ろす。

 防御反応が間に合わずに蹴りを食らった場所が割れ、横へと《木兵動像》の体勢が崩れる。

 そこでハウリナが黒棍での一撃を加えようとする前に、その後ろから木の矢が彼女の顔へと目掛けて飛んできた。

 頭を横に振って、間一髪でその矢を避ける。だがもしも直撃すれば、鏃も木で出来てはいるとはいえ、痛いだけでは済まない速さだった。

 そうして攻撃の手と移動の足を止められてしまったハウリナに、残りの近接武器持ちの二体が近づいてくる。


「あまり先に行っちゃったら、追い掛けるのが大変なの~」


 だがハウリナが囲まれて殴られる前に、ティッカリが追いつくのが先だった。

 そしてティッカリが突撃盾を振り回し始めると、先ほどの時と同じくあっという間に《木兵動像》は倒されてしまった。

 その後で、背に大量の木片を背負っている、テグスとアンヘイラがやってくる。


「さあ、集めるです! さあ、背負うです!」

「そう言って、一人で危ない目にあったのを誤魔化さない!」

「うぅ……ごめんなさいです」


 何事も無かったかのように、ハウリナが同じ台詞を吐いたので。テグスは注意する意味を込めて、少しだけ強めの語気でハウリナを叱る。

 するとしょんぼりと項垂れつつ、その尻尾も力なく垂れ下がってしまう。


「は~い~。どんどん積んじゃうの~」

「積むのでしたら、テグスの方にも」


 その二人の横で、ティッカリがアンヘイラの背負子に《木兵動像》の木片を積んでいた。

 先ほどのと合わせて小山ほどの量になっているので、アンヘイラは控えめにその重さを訴えている。

 しかしそれを聞き入れる積りは無いのか、ティッカリは全ての木片を積み上げた後で、縄でぐるぐる巻きにして落とさないように仕上げてしまう。


「ハウリナが炭集めに不満なのは分かってたけど。でもだからって、勢い任せ――ぐっ!? って、行き成り積まないでよ、ティッカリ……」

「アンヘイラはもう持てないから、残りはテグスに積むしかないの~」


 ハウリナへの小言を中断して、テグスが思わず文句を言ったが、ティッカリは問答無用とばかりに残りを彼の背負子の中へと積んでいく。

 そうしてテグスが見えない場所で、ティッカリはハウリナへと軽く目配せするのを見ると。どうやらテグスの小言を止めさせたのは、ティッカリの思惑の内だったようだ。

 ハウリナもそれは分かったようで、小さく感謝するようにティッカリへ頭を下げている。


「まあいいか。それで、次に行くんでしょ?」

「もちろんです。まだまだ集めるです!」


 小言を続ける気が失せたので、テグスがそうハウリナに話を振ると、何時もの調子に立ち直って先に進み始める。

 しかし先ほどまでの内心の不満による歩みとは打って変わり、《迷宮》を歩くに相応しい慎重なものに変わっていた。

 ティッカリはそんなハウリナの後ろで、こやかに吐き従って歩きはじめる。

 テグスも重たい荷物を肩に食い込ませて歩き始める。

 するとテグスにそっと寄り添うかのように近づいたアンヘイラが、顔を寄せてくる。


「一体どうしてなのでしょうか、彼女たちが不満げなのは?」


 そう前を歩く二人に聞こえないようなささやき声で、そんな事を尋ねてきた。

 テグスはチラリとハウリナの方を見ると、彼女の獣耳が動いてテグスたちの方へと向けられているのが分かった。

 どうやら聞こえているらしいと分かっていながら、テグスはアンヘイラの疑問に答えてあげる事にした。


「きっとハウリナは、僕がアンヘイラが勝手に決めた事に従っているのが、気に入らないんだと思う。そんなハウリナの側に、ハウリナは立っているだけだと思うよ」


 頷きの代わりかのように、ハウリナの獣耳がぴくぴくと動いている事から、彼女の事に関してだけは的外れな考えではないらしいと、テグスは安心した。

 しかしそれを聞いたアンヘイラは、理由に少し納得がいってなさそうに小首をかしげている。


「統率役なのでしょう、テグスはこの集団の?」

「成り行きでね。本当なら一番年上のティッカリが、そうなるのが普通なんだろうけど。この立ち位置が何時の間にか、当たり前になっちゃってたから」

「ならば統率役として叱責する事も必要でしょう、彼女たちのあの態度に対して」

「そんな事をして何になるんだか。まあ不満なら不満だと、キッチリ言ってくれた方がいいかなとは思うけど」


 ハウリナもティッカリもテグスには過去の事で恩を感じているらしく、今まで彼の意見を尊重して従っている節が多々あった。

 そんな中で、今回の事に関してだけは、こうして不満を態度で表している。

 その事が二人の遠慮が薄れてきた証の様な気がして、テグスは密かに嬉しかったりするのだった。

 しかしアンヘイラが今まで培ってきた、理想の集団像とは違うのか、少し納得しがたい様子で眉根を寄せている。


「《探訪者》の集まりだなんて、気分次第で出たり入ったりが当たり前だから。一人の意見を押し通していたら、きっと誰も残らないよ」

「では気にしないのですね、私が去ったとしても」


 言葉の一片を抜き取ってのアンヘイラの意見に、テグスは驚いた様子も無く言葉を続け始める。


「別に構わないけど。遠距離攻撃だけのアンヘイラが、一人で《大迷宮》や《中迷宮》で稼ぐのは難しいと思うけど」

「……では抜けてもいいということですよね、目標金額が貯まったのなら」

「いいんじゃないかな。人狩りに戻りたいっていうのならそれでも」


 それはアンヘイラが決める事だと、テグスは気にする積りも無く、あっけらかんと言い放つ。

 テグスからの引き留めてくれる言葉を多少は欲していたのか、アンヘイラは自身は気づいてなさそうだが、不満そうに少しだけ唇を尖らせている。

 その姿を横目で見て苦笑いしながら、テグスが次に視線を前を歩くハウリナとティッカリへと向けてみると、二人も何か言いたそうにしていた。

 テグスは二人に気にしないようにと身ぶりをすると、二人は安心したかのように前を向き、新しく現れた《木兵動像》の集団へと駆けて行った。




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[一言] >「きっとハウリナは、僕がアンヘイラが勝手に決めた事に従っているのが、気に入らないんだと思う。そんなハウリナの側に、ハウリナは立っているだけだと思うよ」 最後のところ、ハウリナ→ティッカリで…
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